4ヶ月の   作:めもちょう

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三十二話

 合宿二日目、夜。俺は寝ていたはずだ。

 

「おおー、出来ちゃったわ、バクゴー君の夢に干渉」

「……何、しやがる」

「いや~、どうしても伝えたいことがあってさ! 夢枕に立っちゃいました!」

「お化けかオメーは」

 

 ヘアバンが夢に出てきた。夢と認識出来る夢って、確か名前があったよな……。

 

「いいじゃん。夢なんて、現実世界じゃほんの少しの時間じゃん。ゆっくり話そ?」

 

 辺りを見渡せば、ここは、俺たちが最初二人だけで発声練習をしていた公園だ。

 誰も居ない。車も通らない。俺たち二人だけしか居ない世界。夢なら、まあ、何でもありか。

 

 スポーツドリンクを飲んでいた、あのベンチに腰掛ける。

 

「へへっ」

「……何笑ってんだ」

「また会えたのが、嬉しくって」

「夏休みが明けりゃ、また会えんだろ。わざわざ夢にまで出てくんじゃねえ」

「あっはは! そりゃ、そう、なんだけど、さ!」

 

 これは俺の夢のはずだ。俺の思い通りになるはずだ。なのになんで、こいつ、泣きそうなんだ。俺は、お前の汚ェ泣き顔を見たいとは思ってねえんだよ。

 沈黙が流れる。スポドリを飲んでいたあの時と、同じ風が吹いていた。

 

「バクゴー君」

「んだよ」

「あの、さ。俺、成長したかな?」

 

 成長。成長か。今になって、“個性”を伸ばす訓練をしている俺に対して、こいつはその前から“個性”の新しい一面を見つけたり、常時回復で“個性”を鍛え続けてきただろう。成長していないとは言えない。……いや、違う。こいつが聞きたいのは、そんなことじゃねェ。

 

 左隣にいるヘアバンを見る。奴は景色を見ていたが、俺の視線に気付いて、俺の方に向く。フッと笑ったこいつは、心底幸せそうで。見ている俺があったかくなる笑顔で。ああ、点数なんて、付けられねぇ。

 

「期末テスト、クラス二位になったり、“個性”も進化したり、声だって大きくなったと思うし、無理せず人と目を合わせられてると思うんだけど……」

 

 笑顔の話じゃないのか。考えすぎかよ。

 ……そういえば、無意識でも、笑顔でいたいって、前に言っていた。

 

「?」

 

 こいつの頬に、人差し指の背で触れる。今まで知らなかった。思ってたより、デコボコしてねーんだな。

 

「どうしたの? くすぐったいよ」

 

 くすくす笑うこいつの笑顔に、無理するの無の字もない。最初と比べりゃ、急成長って言ったって構わないだろう。

 あえて。付けてやる。

 

「100点だ」

「え?」

「“笑顔満点計画”。てめェが言い出したことだろ。満点だっつってんだ」

「……」

 

 笑顔が消えた。いや、目を丸くしたっつーのが、正しい表現か。言葉も出ないほど驚いたのか。目指してたことのくせに。

 

「……うれしい」

 

 思っていたよりさらりとした頬に、雫が伝う。こいつの鋭く大きい目から落ちるそれは、光を受けて、輝いていた。

 

「泣くほどかよ」

「だって、君が、言ってくれるって、思わなかった……」

 

 鼻をすすりながら泣き笑うヘアバン。こいつの中の俺、どんだけ酷ぇやつなんだ。デクほど酷い扱いはしていないはず。……あいつのこと思い出すんじゃなかった。イラッとした。

 

「俺、さ。君に助けられて、変わったんだ。死にかけの中、全く知らない君に助けられて、こんなに優しい人がいるなんてって。俺の世界は救われたんだよ。この世界も捨てたもんじゃないって。法律しか心の拠り所のない俺に、“ヒーロー”っていう新しい心の拠り所が出来た。それだけで復讐心が薄れた。

 君と友達になれて、雄英の皆と出会えて。顔色を伺わなくていい友達が出来て、俺、人生が楽しくなった! 心の底から、“生まれてきてよかった”って思えた! 母さんに“産んでくれてありがとう”って言えた! バクゴー君! 俺と出会ってくれて、ありがとう! 俺は、君に救われた! 君は、俺の、ヒーローだ!!」

 

 左手を握られながら告げられる、感謝の言葉。そこまで感謝されるようなことはしていない。そう思っていたのが顔に出てたのか、ヘアバンは続けて、「無意識に心救っちゃうなんて、君はオールマイトかっ!」と、喜色満面の笑顔で言われて、俺は、もう、「そうかよ」としか言葉が出なかった。

 

「あれ? あれれ~? バクゴー君も照れる事ってあるんだね~!」

「うるせぇ」

「へへ……でも、俺も、“個性”事故関係なしに、本心だよ」

 

 逸らしていた目を、また奴に向ける。未だ俺の手を握り続ける奴は、俺に向かってずっと笑みを浮かべていたんだろうか。微笑ましいものを見るような、それから、信頼を求める力強い笑顔を。

 

「やっぱ、満点だ」

 

 今のこいつを見て、誰がこいつがほんの数ヶ月前まで下手くそな笑顔をしていたと信じられるのか。

 

「も~、自分が照れたからって、こっちまで照れさせないでよ」

 

 頬に赤みがさした。ひきつりまくっていた、あの、クソ固かった表情筋に。

 

 

 

 不意に、ヘアバンが俺の手を離した。笑顔も消えた。代わりに現れたのは、真剣な表情。

 

「なんだよ」

「バクゴー君、俺、最初に言ったじゃん? どうしても伝えたいことがあるって」

 

 そういえば言ってた気がする。夢にまで出てきて、何を伝えたい。

 

「バクゴー君」

 

 思わず、唾を飲み込んだ。

 

「俺、ヴィランに捕まった。次の奴らの狙いは君だ。バクゴー君」

 

 こいつは、今、なんて?

 

「皆から絶対に離れないで。補習組と一緒に居て! 俺からの、お願いだ」

 

 ヴィランに、捕まった……?

 

 

 

 目覚まし時計が鳴る。もっと、夢を見ていたかった気がする。

 

「ハヨー、ばくごー……あれ? どした?」

「なにがだよ……」

 

 あくびが出る。早く支度しねぇと。

 

「いや、あくびか。なんか、泣いてた気がしたから、よ」

「はあ?」

 

 確かに涙は出ている。でも、これは欠伸による生理現象でしかない。

 

「……」

 

 そのはずだ。

 

 夢にあいつが出てきた気がする。気になることを言ってた気がする。離れるな、とも。

 

「……」

 

 あいつは今、何してる? なんか、すげぇ、気になる。

 

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