4ヶ月の   作:めもちょう

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三十三話

 合宿三日目の朝。朝食を済ませた後、相澤センセーにあいつのことを聞いてみた。聞いたっつーか、監視されてるあいつに異変が無いかを尋ねた。まあ、連絡を絶っているからっつー理由で分からなかったが。

 

「なんで気になった」

 

 先生に聞き返された俺は、「夢に出てきた気がしたから」と返した。そしたら見たことない、温かい目を向けられた。いやっ、違っ、緊急性があるって思ったからで。そう言っても、センセーには「はいはい」と流されちまった。他の誰にも見られていなかったのが、せめてもの救いか……。

 

「寝ぼけてんなよ。すぐ訓練始めるからな」

「……ゥス」

 

 それからすぐに、昨日と同じ、“個性”を鍛える訓練を始めた。ドラム缶風呂の中に手突っ込んで、温めて、汗腺広げて、爆破を繰り返す。爆発の規模を大きくする為だ。他のことは考えない。向こうでは補習組とギリギリ組が相澤センセーに何かを言われている。それに巻き込まれて、俺らもダラダラやるなって注意された。ダラダラしてねーっつーの!

 

「何をするにも原点(オリジン)を常に意識しとけ、向上ってのはそういうもんだ。何のために汗かいて、何のためにこうしてグチグチ言われるか、常に頭に置いておけ」

 

 原点(オリジン)……。

 

「ねこねこねこ……それより皆! 今日の晩はねぇ……。クラス対抗肝試しを決行するよ! しっかり訓練した後は、しっかり楽しいことがある! ザ! アメとムチ!」

 

 ピクシーボブの言葉で、やる気の上がる単純な奴ら。肝試し……。何か忘れているのを思い出せそうな気がする。……ダメだ。今は、全力で訓練だ。

 

 夕飯作り。包丁でじゃがいも切ってたら丸顔に「意外に上手い」と言われた。上手い下手とかねえだろ。やってりゃ出来ることだ。今日のメニューは肉じゃがだ。

 

 

「腹も膨れた、皿も洗った! お次は……」

「肝を試す時間だー!」

 

 肝を試す時間になって、なぜだか急に、体が重くなった。寒気すら感じる気がする。

 

「その前に大変心苦しいが、補修連中は……これから俺と補習授業だ」

「ウソだろ!!??」

 

 補習組が相澤センセーの布に捕まった。

 

「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになってたので、()()()を削る」

「うわああ堪忍してくれえ!! 試させてくれえ!!」

 

 泣き叫ぶ、あまりに必死な訴えに、心を痛めるやつらも居た。俺としてはどうでもいい。

 五人を引きずっていくその背に、恥を承知で聞いた。

 

「相澤センセー、俺も、そっちに行っていいっスか」

「えっ!?」

「ばくごー!?」

「なんで!?」

「まさか、俺たちを憐れんで……!?」

「構わねぇ、お前は行けぇ!」

「……どうした。体調不良か」

「そんな感じっす」

 

 騒ぐやつらの言葉を無視して、先生の疑問に答える。本当は違うが、詳しく言わなくてもいいだろう。これは、虫の知らせってやつかもしれない。

 

「そこまで悪いわけでもねーから、後ろで聞いてる」

「分かった。ほら、自主的に補習に取り組むって奴もいるんだ。お前らも文句言うな」

「爆豪は休むだけじゃないっすかぁ!」

「どうしたんだよ爆豪!! お前の肝は小せぇのかぁ!?」

「うるせェ。本調子じゃねぇつってんだ」

 

 肝試しをしないと決めてから、心なしか寒気が治った気がする。……だが、相変わらず、何かを忘れているようでモヤモヤして気色悪ィ。

 

「あぅぅ……私たちも肝試ししたかったぁ」

「アメとムチっつったじゃん。アメは!?」

「サルミアッキでもいい……。飴をください、先生」

「サルミアッキ旨いだろ」

 

 連れられる補習組。先生は一切の躊躇なく、やつらを引っ張る。サルミアッキはゴムだ。

 

「今回の補習では、非常時での立ち回り方を叩き込む。周りから遅れをとったっつー自覚を持たねぇと、どんどん差が開いてくぞ。広義の意味じゃ、これもアメだ。ハッカ味の」

「ハッカ味はうまいですよ……」

 

 鼻づまりの時に食べると、スースーしすぎて、ギャップで返って辛いよな。

 施設に着いた俺たちは講習室に入る。先客が居たようで、中から声が聞こえた。

 

「あれぇ、おかしいなァ!! 優秀なはずのA組から赤点がごっ……六人も!?」

 

 いたのは、体育祭の騎馬戦で舐めた態度を取った挙句、俺たちに負けた、ものまね野郎だ。

 

「B組は一人だけだったのに!? おっかしいなァ!!!」

「どういうメンタルしてんだおまえ!!」

「俺は補習じゃねぇ」

 

 ものまね野郎、目が死んでんな。

 

「先トイレ」

「早く戻ってこいよ」

「うす」

 

 あいつとは大違いだ。──あいつ? あいつって、ああ、ヘアバンか。少しずつ思い出してきた。100点満点の笑顔のあいつがいて、救われたって、俺が、あいつのヒーローだって言われて、それから──

 

『皆!!』

 

 脳内に声が響く。マンダレイの「テレパス」だ。

 

『ヴィラン二名襲来!! 他にも複数いる可能性アリ!』

 

 ──ヴィラン? ああ、そうだ。あいつ、捕まったって。次は俺だって。

 

『動ける者は直ちに施設へ!! 会敵しても、決して交戦せず、撤退を!!』

 

 思い出した。あいつが捕まった。

 

 室内に入る前にトイレに行こうとして丁度良かった。後ろで相澤センセーが施設の外へ走っていくのが見えた。

 

 ヘアバン。俺は、お前の、ヒーローなんだよな?

 

 ヒーローなら、なぁ?

 

 寒気がする。さっきよりも強い。そこにいるのか、ヘアバン。生き霊を飛ばすなんざ、よっぽど元気なんだなァ!

 

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