人質か、“個性”を狙ったか。随分スピリチュアルな話になるが、ヘアバンは生霊飛ばしてまで俺に警告してきた。
一人になるなと、俺はヴィランに狙われているからと、どうやって知った? そう、拐われて、そこで知ったんだ。まだ生きている、助けられるはずだ。
なら、行くしかねえよなあ。
施設からこっそり抜け出した俺は、燃える森ん中を走っていた。多くの生徒はあっちにいる。俺が施設にいたのはイレギュラーな行為だから、奴らは森を探しているはずだ。寒気が強くなる。……いや、これは。
「爆豪! お前何してる!!」
戻れ! と大声で俺に命令すんのは、半分野郎。その隣には尻尾がいやがる。
「お前、体調不良で施設に戻ってたんじゃないの!?」
「うるせぇ。用が出来たんだよ」
「後にしろ。とりあえず、お前も一緒に戻るぞ」
「だから俺に指図すんじゃねえ」
「な、なぁ。なんか、煙たくないか? ただの煙とは違うような……」
「! 吸うな! 毒性があるかもしれねえ」
やめろ、ヘアバン。お前がいくら止めようたって無駄だ。助けに行く。……寒気を与えんの止めろ。目の前のこいつらまで、俺の計画に巻き込んじまうから。
「! あそこ倒れてるのって、B組の!」
「吸っちまったか」
尻尾がB組の奴を背負う。ガスに火事。それ以外にも、どこかで戦闘が起こっているはず。……この状況で、わざわざ拐われるのは、色々と信用なり失う可能性がある。
中止だ。戻ろう。後で生き霊に聞きゃあ良い。ヘアバン。お前は、どこにいる。
「!?」
人……!?
黒い人影……。膝を付いて、拘束具が巻かれている、人影……。
「おい、お前らの前、誰だった……!?」
人影はボソボソ何かを呟いている。「見とれていた」? 何に?
「常闇と……障子……!!」
「きれいな肉面、ああ、もう誘惑するなよ……」
振り向いた奴の顔は、金具で無理やり開けられた口以外、見えていない。
「仕事しなきゃ」
こんな奴から逃げるのに、
「交戦すんな、だぁ……!?」
やらなきゃ、死ぬ。
『A組B組総員──戦闘を許可する!』
ナイスタイミング!! 心置きなく殺れるな! ……逃げる為だ。分かってる。ヘアバン、寒気を送んな。
ヴィランは下の歯を伸ばして自分を浮かせ、支えていた。歯を伸ばせることがコイツの“個性”か! いくつもある歯。その中のいくつかで俺たちを殺そうと迫ってくる。素早いそれを、半分野郎が氷壁で防ぐ。森ん中っつー条件じゃ、爆破が出来ねえ!
『ヴィランの狙いの一つ判明──!! 生徒の「かっちゃん」!! 「かっちゃん」はなるべく戦闘を避けて!! 単独では動かないこと!! わかった!? 「かっちゃん」!!』
マンダレイの「テレパス」が頭の中で響く。ヴィランの攻撃はまた半分野郎の氷壁で塞がれる。
「耐えなきゃ……仕事を……しなきゃあああ、あああーーーーーーーー」
ヴィランはまたブツブツ呟いている。
「不用意に突っ込むんじゃねえ」
「何で出てきちゃったかなぁ。お前、狙われてるってよ!」
「かっちゃかっちゃうるっせぇんだよ頭ん中でぇ……クソデクが何かしたな、オイ。狙われてんのは、知ってんだよ」
確定した。あの夢で言っていたことは。真実だ。俺が狙われている。ヘアバンが捕まっている。助けに行かなきゃいけねェ。だから、戦えっつったり、戦うなっつったりよ~~ああ゛!?
「クッソどうでもいィんだよ!!」
刃のような歯に爆破を喰らわせようとする。変化に気づいて退けば、そのタイミングでその刃から刃が生えた。半分野郎が奴に氷結で攻撃するが、奴は木に歯を突き立てて、自分の体を押し出すようにして避けた。
「地形と“個性”の使い方がうめぇ」
「見るからザコのヒョロガリのくせに、んのヤロウ……!」
相当、場数踏んでやがる。
「肉、見せて」
キメェ。
「ここで爆破使って燃え移りでもすりゃ、火に囲まれて全員死ぬぞ。分かってんな」
「喋んな。わーっとるわ」
「ガス溜まりで退けない。先に行くには、こいつを倒すしか……」
歯を縦横無尽に伸ばす“個性”。伸ばす距離も、速さも、鋭さも、量も半端ない。半分野郎の氷結で奴の攻撃を防ぐことしか出来ていない。ムカつくなぁ!!
「近づけねぇ!! クソ、最大火力でぶっ飛ばすしか……」
「だめだ!」
「木ィ燃えてもソッコー氷で覆え!!!」
「爆発はこっちの視界も塞がれる! 仕留め切れなかったらどうなる!? 手数も距離も、向こうに分があんだぞ!」
歯の数だけ攻撃手段がある。畜生、半分野郎の方が正しい! クソが!
どうすりゃいい!!
「いた! 光が見える、交戦中だ!」
傍から、破壊音と共に声が聞こえる。そちらを見れば腕多めが何か背に抱えながら、木を大量に薙ぎ倒す何かに追いかけられていた!
「轟! 頼む──」
「肉」
ヴィランの攻撃が腕多めに向かう。
「光を!!!」
黒い影が、見たことねえほど巨大なバケモンの影が、半分野郎の氷結をぶっ壊しながら、ヴィランを地面に巨大な手で押し潰した。
「なっ……どうして、かっちゃんが!?」
なんでテメェはボロボロなんだよ、デク。
「障子、緑谷……と」
「あれ、常闇か!?」
「早く“光”を!!! 常闇が暴走した!!!」
見りゃ分かる。あんな巨大で凶暴なもんは見たことねぇが。だから。
「見境なしか。っし、炎を……」
「待てアホ」
ヴィランが歯を伸ばして起き上がる。
「その子達の断面を見るのは僕だぁあ!!! 横取りするなぁあああああ!!!」
黒影を仕留めようと歯を伸ばしたヴィランは、巨大な手に掴まれ、返り討ちに遭っていた。
「
この凶暴な“個性”、どこまで強いのか。
「見てぇ」
ヴィランを掴んだその手は、叩きつけるように木々を薙ぎ倒しながら振り回される。最後はヴィランを木に叩きつけた。あのダメージ。暫くは動けるわけねーわな。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛暴レタリンゾォア゛ア゛ア゛ア゛!!!」
ここまでか。俺が爆破で、半分野郎が炎で、黒い影を弱らせる。急に小さくなった影を内に収めたカラス頭。疲れてんのか、膝を付いた。光で弱る影。あの巨大な影と戦うことが、俺には出来ねえのか。
「テメェと俺の相性が残念だぜ……」
「……? すまん助かった」
にしてもだ。
「俺らが防戦一方だった相手を、一瞬で……」
「暴走だとはいえ、すごいパワーだったな」
「常闇大丈夫か、よく言う通りにしてくれた」
「障子……悪かった……緑谷も……。俺の心が未熟だった」
肝試しでコンビを組んでいた腕多めの複製の腕が、あのヴィランにトバされた結果、ああなったらしい。複製は複製。本体がやられたわけじゃねーから、腕多めへの影響は大きくはないらしい。
話は勝手に進み、いつのまにか、俺を護衛して施設に戻ることになった。
「何だこいつら!!!!」
「おまえ中央を歩け」
「出てきた爆豪が悪い」
「俺を守るんじゃねぇクソ共!!!」
「行くぞ!!」
シカトすんなテメェら!!!!