4ヶ月の   作:めもちょう

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三十六話

 ヴィランの襲撃、爆豪の誘拐が起こってしまった翌日。俺は切島に一本の電話を入れた。

 

『どうした? 尾白』

「切島に、やってほしいことがあって……」

『……時間、かかるか?』

「分からない。あのさ、吐移と連絡出来るか、試して欲しいんだけど……」

『吐移と? 何でまた、尾白がそんなこと?』

「……いいから。すごい忙しいなら、他に吐移の連絡先持ってる奴知ってたら教えてほしい。こっちからお願いするから」

『うーん、A組なら、上鳴と瀬呂だな。吐移に連絡取れたら報告するな!』

「ありがとう」

 

 それから俺は上鳴と瀬呂にも同じことを頼んだ。

 俺個人は吐移とはそこまで、それこそ体育祭の時に心操と共に操ってきたくらいの関係しかない。あの後謝られたけど、その後話したことはあまりない。そんな俺から「吐移と連絡出来ないか」なんて言われたら、確かにおかしいと思うだろう。でも、これは必要なことだって俺の直感が働いたんだ。

 

 俺、昨日の朝、聞いてたんだ。爆豪が相澤先生に、「吐移と連絡取れるか」って聞いてたこと。その時は「そんなに吐移と仲が良いのか、声が聞きたいのか」と思って、すごく微笑ましく思ったんだ。「緊急性が……」とか言ってたのも照れ隠しかと思って、初めて爆豪の可愛いところ発見したって思いで。それは相澤先生もそうだと思う。微笑んでたし。

 

 でも、あの「緊急性」が照れ隠しじゃなく、本当のことなら。

 

 いや、俺だっておかしいと思ってる。だって、自分たちで連絡出来ない合宿中に、どうやって吐移の緊急性について知ったんだ。でも、その後の行動が爆豪らしくないと言うか、普通の人なら絶対しないことをしてたんだ。

 

 まずおかしかったのは、爆豪が肝試しを休んだこと。あの時誰も本気で止めなかったのは、あいつの顔が少し青ざめていたからだ。体調不良なら仕方ないって思ったあの時だけど、タフネスな爆豪が風邪? 夕飯作りの時まで全くそんな感じじゃなかったのに。だからって、オールマイトに立ち向かえる根性を持ってるやつの肝が小さいわけない。寒そうに身震いしていたから、誰も、肝が小さいなんて疑わなかっただろうけれど。

 

 もう一つ。肝試しを止めた爆豪が、どうして森にいたのか。電話した上鳴から聞いたけど、施設には一緒に戻ってきてた。トイレに入ったと思ったら居なくなってしまった。とのことだった。トイレのタイミングはヴィラン襲撃のテレパスが聞こえる、少し前だったらしい。

 どうして出てきたんだ。ヴィランを倒そうとでも考えてたのか。

 

 

 

「吐移は、あの“個性”のせい……おかげで、雄英から守られていた」

 

 本人は監視されていると言っていたらしいけど。本人がそう思うってことは、吐移は何かしらの方法で、雄英に位置情報やヴィランと繋がる何かが無いか、情報を流されてるって事なんじゃないか。本人がネガティブなだけなのかもしれないが、新しい家は雄英が用意した。何か、簡単には見つからない場所に盗聴器でも仕込まれてても不思議じゃない。そんな吐移と連絡が出来ない。爆豪がそれを気にしてた。──そうだ。

 

「あいつ、自分が狙われることを知ってた!」

 

 不自然なのは、施設から出てきたことだけじゃない。

 

『かっちゃかっちゃうるっせぇんだよ頭ん中でぇ……クソデクが何かしたな、オイ。()()()()()()()()()()()()()()

 

 俺と轟グループと合流した後、そうだ、歯のヴィランと交戦中。ヴィランたちの狙いが爆豪だとテレパスを受けた時に言ってた。

 テレパスを受けての発言としては、おかしくないか? どこか、テレパスを受ける前から知ってたような口ぶりだと思うんだけど……。

 

 

 

 夜。もう一度三人に電話した。吐移とは一切連絡がつかなかったらしい。もう一度、明日朝にももう一度連絡してくれるらしい。もしかしたら……。

 

「吐移も、ヴィランに拐われてるのかもしれない」

 

 縁起でもない。口にするんじゃなかったとすぐに後悔する。でも、あの朝の会話。連絡がつかない吐移。狙われていると知っていてわざと森に来ていた爆豪。いろんな前提条件を、難しい話をすっぽかして考える。

 

「ありえなくは、ない」

 

 客観的に見て、吐移が爆豪のこと大好きなのは疑いようがない。一方、爆豪も吐移のこと嫌いじゃない。いや、好きだな。そうじゃなきゃ、個人プレーが好きなあいつが、週3日で一緒に筋トレするわけないもんな。爆豪の行動に納得が出来てきた。

 

 

 

 次の日。俺たちA組15人は、入院している八百万、耳郎、葉隠、そして緑谷のお見舞いに来た。吐移とは、まだ連絡がつかないらしい。

 

 そして、切島によって提案される、“爆豪救出作戦”。脳無に取り付けられた発信機を辿って、その発信機を作った八百万に受信機を作ってもらって、辿って、救出に行く。

 何も出来なかった悔しい気持ちは分かる。最後までじゃなかったけど、俺だって爆豪を守ろうと動いてたんだ。それでもヴィランに奪われてしまって。一緒に施設に戻っていたはずの切島が爆豪を引き止められなかったのは、止められるチャンスがあっただけに悔しかったはずだ。

 

「ここで動けなきゃ、俺ァ、ヒーローでも男でもなくなっちまうんだよ!」

 

 感情で動いていいわけないことも、ヒーローに任せるべき事案であることも、切島は分かっている。分かっていながら、両腕をギブスでガチガチに固められた緑谷に手を差し出す。

 

「まだ手は届くんだよ!」

 

 轟も切島と行くらしい。そんな二人と、クラスメイトに梅雨ちゃんが「ルールを破るというのなら、その行為はヴィランのそれと同じなのよ」と発言する。俺に、そのルールを破る無謀さはない。

 

 入院組へのお見舞いが全て終わる。耳郎、葉隠はまだ意識が戻っていなかった。ロビーに降りてきた俺らは、そこで切島から出発の時間、詳細を伝えられた。それでも俺はヒーローに任せるべきだと考えた。

 麗日が言った。

 

「爆豪くんきっと……みんなに救けられるの、屈辱なんと違うかな……」

 

 切島たちの顔が心に傷がついたように歪む。

 ……違うと思った。麗日が言ったこと。外れてはないと思い直して、それでも、全てじゃないと思った。だから、言おう。

 

「切島……まだ吐移とは連絡つかなかったよな。上鳴、瀬呂も」

「え、あ、ああ」

「それと今の話。何の関係があるんだよ」

「……あくまで予想なんだけど、聞いてくれるか?」

 

 合宿三日目の朝の、爆豪と相澤先生の会話。不自然な爆豪の行動。「狙われてんのは知ってんだよ」発言。そして、守られているはずなのに一切の連絡がつかない吐移。「いろんなことをすっ飛ばしてるけど」と前置きして言った。

 

「吐移も、“個性”を 目的に拐われていて、爆豪はそれを助けに行ったんじゃないか」

 

 当然、皆には受け入れられなかった。でも、もしそうなら、爆豪が捕まったのは半分はわざとだ。だから。

 

「ヒーローに任せておこうよ。二人を少ない人数で助けるより、その方が確実だから」

 

 俺は、止めたぞ。

 

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