テレビではまだ、謝罪会見の様子が流されていた。
最悪の事態を避ける為に戦闘許可を出したこと。最悪の事態とは、26名の被害者と1名の拉致のことではなく、生徒が成す術なく殺害されること。
記者は拐われた俺が洗脳されてヴィランになってしまわないかを心配しているかのように発言していた。成るわけねぇだろ!!
テレビの中の相澤先生は、頭を下げていた。俺の行動の粗暴さについて、自分の責任だと謝罪した。俺自身の問題だわ、いや問題でもねぇわ!!
『ただ……体育祭での
記者は感情の話ではなく、具体策はあるのか聞いていると再度質問した。答えたのはまた校長だ。
『我々も手をこまねいているわけではありません。現在警察とともに調査を進めております。我が校の生徒は必ず取り戻します』
「ハッ! 言ってくれるな、雄英も先生も……そういうこったクソカス連合!」
あんだけ大掛かりな襲撃カチ込んで、成果はわざと捕まった俺一人。言質も取れてる! こいつらにとって俺は、「利用価値のある重要人物」。俺の「心」に取り入ろうとする以上、本気で殺しに来るこたねぇ。相手は7人か……こいつらの方針が変わんねぇうちに、2~3人ブッ殺して脱出したる!!!
「言っとくが、俺ァまだ戦闘許可解けてねえぞ!!」
ヴィランどもは俺を「小賢しい」だとか「馬鹿だ、懐柔されたフリでもしときゃいいのに」だとか、好き勝手評価しやがる。
「したくもねーモンは嘘でもしたくねんだよ俺ァ。こんな辛気くせーとこ長居する気もねぇ」
目の前の手の奴は、落ちた手の模型を見つめていやがる。それに何か意味があるのか? 何か危険を察知したらしいワープ野郎が、身を乗り出して手の奴を止めようとする。
睨みつけられた。
ちょっと身震いがしたような、しなかったような。オールマイトに比べりゃ何でもねぇ。
手の奴は模型を拾った。
「手を出すなよ……お前ら、こいつは……大切なコマだ」
なるつもりはねえよ!!
「できれば、少し耳を傾けて欲しかったな……。君とは、分かり合えると思ってた……」
『ヴィランもヒーローも表裏一体……』
ジーニアスの言葉を思い出す。それを鼻で笑い飛ばしてやる。
「ねぇわ」
「……仕方がない。ヒーローたちも調査を進めていると言っていた。悠長に説得してられない。先生。力を貸せ」
パソコンから聞こえてきた声は、ほくそ笑んでいた。
『良い、判断だよ。死柄木弔』
他に仲間が。しかも、こいつの上の存在が。
「先生ぇ……? てめえがボスじゃねえのかよ……白けんな」
目の前の奴らだけがメンバーじゃないなら、とっとと帰った方がいい。いつ、ワープ野郎がそいつを連れてきて、逃げる機会を失うか分からねぇ。
「黒霧、コンプレス。また眠らせてしまっておけ」
「ここまで人の話を聞かねーとは……逆に感心するぜ」
「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」
ここに生身のヘアバンはいねぇ。最大火力でぶっ飛ばしてぇが……ワープ野郎が邪魔すぎる……考えろ……どうにか隙作って後ろのドアから……。
その時、軽いノック音と共に、呑気な声で呼びかけられた。
「どーもォ、ピザーラ神野店ですー」
そのコンマ一秒後、俺から見て左側の壁が、派手にぶち壊された。
「何だぁ!!?」
手の奴はワープ野郎に指示を出そうとする。
「先制必縛、ウルシ鎖牢!!」
それをシンリンカムイがヴィランたちを捕まえて抑える。抑えているものが木であることに気づいたやつが“個性”で燃やそうとする。が、その後頭部に小さいジジイが蹴りを入れた。いつ来たこのジジイ。見えなかった。
「さすが若手実力派だシンリンカムイ!! そして目にも止まらぬ古豪グラントリノ!! もう逃げられんぞ、
いつか、ヘアバンが言っていたことが思い出される。
『ヒーローにとって、声の大きさと笑顔っていうのはすごく大事だろ? オールマイトがその筆頭!』
そうだな。今なら、お前に全面的に同意だ。
『人々の希望になり、ヴィランの絶望となる。ヒーローにとって、声と笑顔は大切なんだよ!』
「我々が、来た!」
見ろよヘアバン。俺達を救けに、オールマイトが来てくれたぜ。
「オールマイト……!? あの会見後にまさか、タイミングを示し合わせて……!」
「攻勢時は守りが疎かになるものだ……」
俺の後ろの扉から声が聞こえた。見れば、何かが扉の隙間を、体を紙のように薄くしてすり抜け侵入してきた。そいつはヒーローエッジショット。
「ピザーラ神野店は、俺たちだけじゃない。外はあのエンデヴァーを始め、手練れのヒーローと警察が包囲してる」
オールマイトがこちらを向いた。
「怖かったろうに……よく耐えた! ごめんな……もう大丈夫だ少年!」
「こ、怖くねぇよ! ヨユーだクソッ!!」
安心したのは認めるが、怖かったわけじゃねぇ! それなのにオールマイトは「分かってる分かってる!」と言いたげに、サムズアップをするだけ。分かってねぇだろ!
灰色のモヤが、そこから伸びる手が、俺の肩を掴んで引いてくる。逃げろって事か。だが、そうだ、その前に聞かなきゃなんねぇ!
「オールマイト! ヘアバンは見つかってねえのか!?」
「ヘアバン?」
「雄英1年C組、吐移 正。雄英教師なら知ってるだろ!?」
「あ、ああ、彼か……彼が、どうした?」
「は……?」
「は、ははは」
オールマイトの声に反応したのは、俺だけじゃなかった。
「爆豪くん……どこでその情報を手に入れたかは知らないが、よく聞いてくれたよ……」
「!」
焦って、聞くタイミングミスったか!
「彼の“個性”も使えるし、爆豪くんと仲が良いからね……ついでに勧誘してたんだ……彼もお呼びしようじゃないか……」
悪い予感がする。寒気が!!
「黒霧! 持ってこれるだけ持ってこい!!!」
この狭い中に、脳無かよ!!
何も、起こらなかった。
「すみません死柄木弔……所定の位置にあるはずの脳無が……ない……!!」
「!?」
助かった……?
「やはり君はまだまだ青二才だ。死柄木!」
「あ?」
オールマイトが俺の方を抱く。灰色のモヤから伸びる手より、一回り以上デカい手だ。
「
少年の魂を。
警察の弛まぬ捜査を。
そして、我々の怒りを!!
おいたが過ぎたな。ここで終わりだ、死柄木弔!!」