本物のヘアバンはどこだ。そもそも、ここに居るのか。
居ないなら、俺がすることはただ一つ。この場から逃げる。それが一番難しいんだけどな!!
助けに来たはずのヘアバンは敵で、あっちの戦力が増えた。と言ってもヘアバンは何もしてこない。何しに来たんだこの偽物。
他のやつらの攻撃を爆破でかわす。逃げようにも回り込まれて、なかなか脱出出来ねぇ。ここから脱出出来たとして、俺は安全圏に逃げられるか? いや、まずは逃げろ! 安全かどうかはその後考えろ!!
その時だった。この場の誰のものでもない力で壁がぶち破られ、氷結の坂道が突然現れた。
あの氷結。あのエンジン音。あの緑の光。
「来い!!」
あの声は。
『行って!!』
背中を押される。
爆破で奴らをぶっ飛ばしながら飛び上がる。俺に伸ばされた手を。
「……バカかよ」
しっかりと、掴む。
俺がこの場にいるからオールマイトが戦い辛ぇ。だから、この手を取るんだ。
「爆豪くん、俺の合図に合わせ爆風で……」
「てめェが俺に合わせろや!」
「張り合うなこんな時にィ!!」
俺を救出したのは切島、デク、委員長。あの氷結は半分野郎か。
下からバリィィッと音がして振り返ると、巨大化したMt.レディが頭に何か打ち付け、倒れた。ヴィランの攻撃を防いでくれたんか!!
振り向いた時に見えた。下のヘアバンの偽物が、自分の頭に手を添えているのを。 白い、輝いてすらいるモヤが、俺を押し出した手の形のままでいるのを。白いモヤの中から、ヘアバンがこちらへ笑顔を向けているのを。遠いのが、本当に嫌だ。
「全力で逃げっぞ!!」
着地した俺達はそのまま“個性”を使って逃げる。それが最善だからだ。
「あれっ!? 爆豪! 吐移は!? 居ただろ!」
「あいつはニセモンだ!」
「マジかよ!」
「それなら、逃げることに集中しよう!」
逃げ続けた俺達は、駅前まで来た。息を整えていると、デクの携帯が反応した。電源を入れてすぐだった。
「──うん! 轟くんの方は!? 逃げ切れた!? ……よかった!」
電話の相手は半分野郎か。
「僕らは駅前にいるよ! あの衝撃波も圏外っぽい! 奪還は成功だよ!」
「いいか! 俺ァ助けられたわけじゃねぇ。一番いい脱出経路がてめェらだっただけだ!」
「ナイス判断!」
「オールマイトの足引っ張んのは、嫌だったからな」
「しっかし、よくあの数を捌ききったな。やっぱオメーすげーわ!」
「ったりめーだ!」
俺はただ捕まった雑魚じゃねぇ。助けに行ったんだ。それだけの自信があってあたりめーなんだわ。
息を整えていた委員長がこちらを向いた。
「あの場にいた彼が偽物だったとして……吐移くんは今、どこにいるんだろうか……」
「知るか。また助けに行くだけだ」
「……今度は確かな情報で、ヒーローに任せてな」
分かってる。俺が不用意に捕まったから、オールマイトの足を引っ張ったんだ。俺達の位置をすぐに突き詰めた警察の捜査力を、ヒーローの力を信用して、ヘアバンはそっちに任せた方がいい。なるべく早く。
駅前の大きなモニターには宙に浮くオールマイトが映っていた。全力を出せる環境なのに、それでも……。
あの時は必死で気にしてられなかったが、オールマイトが戦ってる場所は、建物が崩れさり、荒野のようになっていた。ヘリの近くまで吹き飛ばされていたオールマイトは、飛ん出来たジジイに受け止められて、無事に着地した。
『悪夢のような光景! 突如として神野区が半壊滅状態となってしまいました! 現在オールマイト氏が元凶と思われるヴィランと交戦中です! 信じられません! ヴィランはたった一人! 街を壊し! 平和の象徴と互角以上に渡り合って──……』
あれから、オールマイトと顔無し男に動きは無い。中継はヘリから行われている。二人の間には会話……心理戦、煽り合いが行われているかもしれない。
俺達と同じものを見ているモブ達は、オールマイトがあんなにボロボロでも、“何とかしてくれる”なんて、気楽にオールマイトコールまでしている。知らないからだ。奴がどんだけヤベェやつなのかが。平和ボケしすぎだ。すぐ近くがこんなことになってんのに。
「他のヒーローは何してんだよ」
「たるんでるぜ、まったく」
「やっぱりオールマイトだな!」
確かに、他のヒーローじゃどうにも出来ないかもしれない。それだけの相手であることを、どうして分からねぇ! ヒーローへの信頼を失くす前に、考えやがれ。オールマイトに頼りきりな今を、考え直せ。
顔無し男の左腕が、突然膨らむ。戦いが再開する!! ジジイが飛ぶ。それだけデケェ攻撃が来るって事だ! だけどオールマイトは避けない。なんでだ!?
顔無し男のよく分からない、噴射か? のデケェ攻撃がオールマイトに向かって放たれる。
どうして逃げなかった、オールマイト 。その後ろに、逃げ遅れた人間が居たのか? ああ、十分すぎるほど考えられる。 ヒーローは、守るために存在する。
煙が晴れていく。地面が削れ、オールマイトがいた所より後ろが守られている。
オールマイトは。
オールマイトが立っていたところには、オールマイトと同じ格好をした、ガイコツがいた。
絶句。
同じものを見ていたモブ達も、何が起こったか分かっていない。
『えっと……何が、え……? 皆さん、見えますでしょうか? オールマイトが……しぼんでしまっています……』
中継の言葉で、そいつが、オールマイトだと知った。