君と夢の中で今生の別れを告げた後、俺は自分の体を見つけたんだ。場所は病院のベッドの上。目が覚めて教えてもらった。ワープの奴、黒霧が捨てたのは海の上……のつもりで、実はアメリカ軍の巡視船の上だったんだ。
床より5m上から落とされて、ショックで俺は息を吹き返した。自殺したつもりだったけど、実は仮死状態だったんだ。で、息が出来るって事は、無意識に俺の個性は発動される。瞬く間に傷を回復した俺だけど、血が足りない、仮死状態のダメージがあるとか色々で、巡視船の上ではついに目を覚まさなかった。この、目を覚まさなかった期間が、バクゴー君の夢枕に立っていた、生き霊になっていた期間だね。
不法入国にはなるけど、怪我人だからか病院に入れてもらえたのは運が良かった。さらに、俺がそのままアメリカに亡命したことになったってことも。正確には、証人保護プログラム、でね。
ほら、俺って君と同じで、ヴィランに狙われてたでしょ? 君のような自衛の手段も無い。俺が意識をそっちに飛ばしている間に全てが終わってた。後は、俺自身のサインを待つだけ。
──どうして俺の身元が分かったか?
たまたまいたんだよ。雄英体育祭を見てた病院関係者が。日本政府、警察、雄英に確認して、俺が吐移正だと確証を得たんだ。
あ、そうだ。証人保護プログラムってね、別人になる制度なんだよ。だから今の俺は、アメリカに帰化した、ロシア系日本人。アメリカ国籍のショーン・ブラウンだ。ショーンとか、ブラウンとかって呼んでくれよ。
──え? 別人なのになんで正体を──って? それより気になるところあったと思うけど……まあいいや。
君って頭も察しもいいじゃない? あの“個性事故”の時みたいに勝手に盛大に暴かれるより、こっちから言って秘密に協力してもらう方が賢いと思った。まあ、帰国早々、まさかカフェで出会うなんて思ってもいなかったけどね。運が良かったよ。正体は後、シンソー君と記見さんに、母さんには元から伝えてあるから──ショックで生きることを辞めないで欲しかったから──この3人にだけ、今は打ち明けるつもりだよ。
──何で日本に帰ってきたって? そうだなぁ、もう少し説明させて?
アメリカ人になった俺は、あっちのヒーロー科の学校に通い始めた。俺の個性を見た軍人さん、今の俺の親父なんだけど、が推薦してくれてね。少し周りより年齢上になるけど、1年から学ばせてもらって、色々乗り越えて、ヒーラー系ヒーローになったってわけ。
で、今日のニュース見てる? リカバリーガールの引退。あれの後任に、俺が立候補したんだ。だから帰ってきたんだ。ショーン・ブラウン。アコライトヒーロー・ブレスヒーラーとしてね!
「ダッサ」
「名が体を表してるだろ!」
「ダッサ」
「2回も! くっそ~~!!」
ブラウンは頭を掻いて、悔しがる。ダサいだろ。
別人になる為にか、あの頃から肉体改造が行われたんだろう。髪型もツーブロックになって、ダセェヘアバンドも取って、サングラス着けて……。あの頃の面影はほとんど無い。
「まあ、いいや! センス無いのは元々だし!」
だが、ひとたびそのいかついサングラスを取り、笑顔を浮かべれば、すぐに吐移だと分かる。
「今の笑顔、何点?」
「……ウゼェ」
「はあ!?」
「成人男性が何いってんだゴラァ」
「あー、確かに。ごめんごめん。じゃあ気を取り直して……バクゴー君、これからよろしく!」
「……ああ」
握手を交わす。今改めて触ると、昔握られたときと比べ、何倍も肉厚になって、逞しくなっていた。
吐移……ブラウンと別れ、帰路につく。家について、携帯の連絡先に追加された、「ショーン・ブラウン」の名前を見て、自然と涙が出た。今頃実感し始めたんだ。
俺は、失って、いなかった。
「はあ!? テメェ、知ってたのか!?」
「俺も初耳だ」
「俺もだよ、記見さん」
「当たり前のこと聞かないでよ。私の“個性”、忘れた?」
ブラウンとのエンカウントから数日後、俺の家に心操、記見、そしてブラウンが集まっていた。
最初にブラウンを吐移だと紹介された時。心操は信じられないって顔してたが、一番驚きそうな記見はまったくそんな表情を作るどころか、分かっていた顔して「おかえりなさい」なんて平然と言うもんだから、つい問い詰めた。記見は呆れ顔で答える。
「私の“個性”は生物以外の物質の記憶を見ること。当然、吐移くん……ブラウン君のお母様の手紙の記憶も見たわ。書きながら言っていた。“生きている、正は生きているから、だから……”。聞いた時はビックリしたわよ。その少し前に、ガレキから吐……ブラウン君が自殺した記憶を見たんだから」
「なんで、それを、俺に言わなかった!!」
「そうだ」
「だってあんたたち、『止められたから探さない』って言ったじゃない!」
言葉が詰まる。そうだ、確かにあの時、『良いヒーローになる為の行動をしてくれ』と書かれたから、そうしたんだ。あの時の返事を変えていたら……!
「それがダメなわけじゃないわ。むしろ、お母様の意思を尊重した、良い選択だと思ってる。現に二人は立派にヒーローしてるしね」
「探すって返事をしてたとしても、記見さんには黙ってて欲しかったね。俺の為に、自分の人生を不意にして欲しくないし」
「もちろん、言うつもりは無かったよ」
厳守するべき秘密だって分かってたからねと、記見はブラウンを見て返した。本当にそうか? 言い方からして怪しい。
アラームが鳴る。もう三時だ。そろそろ仕事に戻らないといけなくなっちまった。
「悪いが……」
「分かってる。顔合わせは終わったんだ、解散しよう」
「物足りないけど、仕方ないね」
「7年分がこんなんで埋まるわけないもん。また、会いましょう」
「うん。それじゃあ、改めて挨拶しましょうかね!」
ブラウンがサングラスを着けて立ち上がる。俺たちに向かって胸を張ると、常識の範囲内で、高らかに言った。
「アメリカで生まれ変わりました、アコライトヒーロー・ブレスヒーラーこと、ショーン・ブラウンを、末永く、よろしくな!」
サングラスをかけていたとしても変わらないまぶしい笑顔。お前は、声も、笑顔も手にいれたな。
何がお前の幸せかは分からねぇが、今度は、「4ヶ月の間、幸せでした」なんて言わせねぇ。テメェが“末永く”つったんだ。覚悟しとけよ!
これにて、本作は完結致します!
ここまで読んでくださった方々、本当にありがとうございました!!