「てめェ、最初からスパイ目的で……」
「ちょちょ、それはさすがに違うって! 襲撃に遭う前だっただろ、稽古お願いしたのは! だから、最初はほんと純粋に……」
「最初は、な」
俺の疑惑に両手を横に振って否定するヘアバン。だが怪しい言葉を指摘してやれば、その動きは止まり、「へへ……」と、ヘタが故に引きつった笑顔を見せやがった。大体、襲撃は関係ねェ。それがあってもなくても、体育祭はあんだからな。奴は言葉を続けた。
「やっぱり甘くはないな、バクゴー君は。今日も稽古をつけてくれるかもって期待してたんだよ」
「るせぇよあまちゃんが。誰が敵に情報やるんだよ」
「敵……?」
「とぼけんじゃねえよ。本気で来るんだろ、お前も」
ニヤァと口角を上げ、いっそうヴィラン顔に磨きを掛けたヘアバンは、「やっぱ分かっちゃったか」なんてほざきやがった。奴は体勢を直した。
「バクゴー君の言うとおり。俺も真剣に出場するよ。ヒーロー科編入への最大のチャンスだからね。例え、君を蹴落としてでも一位を取るよ、バクゴー君」
「ハンッ!」
だからテメェはあまちゃんなんだよ。立てた親指を地面に向ける。
「蹴落とし
「……上昇志向の塊め!」
一番を目指すなら上を見るべきなんだよ、雑魚が。中途半端な覚悟なら、捨てたほうがマシだ。
「テメェもそうだろが」
「フフッ、ありがとう」
ヘアバンは一回息を吸って、胸を張った。
「言い直すよ。出場選手全員蹴落として、一位になってやるよ!!」
「ハンッ! 一位は俺だ、ヘアバン野郎!」
言いたいことを言い終えたヘアバンは、不敵に笑って踵を返した。
「じゃ、俺、マイク先生のとこ行かなきゃ!」
「あ? ヒーローに稽古つけてもらうのかよ!」
「発声だけ ! これなら卑怯じゃないでしょ?」
じゃあね! と言い捨てて行こうとする背中に、いくつも疑問の言葉をかけたかった。それをぐっと抑えて、俺はこれを選んだ。
「ヘアバン!」
「吐移だよ!」
「あの青髪で死んだ目のやつは、誰だ」
ヘアバンの足が止まる。ポカンと口を開いていて、顔は非常に間抜けだった。
「さあ? あー、多分、クラスメイトだね。あんまり知らないよー」
じゃ! と、ヘアバンは今度こそ立ち去った。
畜生が。
「嘘をつくのが、大の得意かよ」
昼休みのあれを見てなかったら、分からなかったかもしれねぇ。
俺もヘアバンも、他の奴らも、それぞれ訓練をこの二週間続けていた。一位になる為に。一位以外に価値なんてない。
あっという間に時は過ぎ、雄英体育祭本番当日。
控え室で待機してれば、半分野郎がデクに宣戦布告しやがった。No.2ヒーローの息子がNo.1ヒーローのお気に入りらしいを目の敵にするのは分からなくもねェ。だが、それがなんだ。今の実力を考えれば、宣戦布告するべき相手は、クソデクじゃねえだろ。
「皆……他の科の人も、本気でトップを狙ってるんだ。僕だって……遅れを取るわけにはいかないんだ」
実力はどうあれ、気合いは充分ってか。
「僕も本気で獲りに行く!」
気に入らねぇ。
『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る、年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろこいつらだろ!!? ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!! ヒーロー科1年!!! A組だろぉぉ!!?』
俺たちの登場に、観客席から歓声が上がる。
「めっちゃ持ち上げられてんな……なんか緊張すんな……! なァ爆豪」
「しねぇよ。ただただアガるわ」
『B組に続いて普通科C・D・E組……!! サポート科F・G・H組も来たぞー! そして 経営科……』
計11クラスが呼ばれ、グラウンドの中央に集まる。この大勢の観客の中、同級生の中で一番になる。さっき言ったばかりだが、やっぱりアガるな。
「選手宣誓!!」
主審である18禁ヒーロー“ミッドナイト”が台の上で鞭を打ち鳴らした。「18禁なのに高校にいてもいいものか」「いい」なんてざわめきを「静かにしなさい!!」と、また鞭を打ち鳴らして黙らせた。
「選手宣誓!! 1-A 爆豪勝己!!」
入試一位通過の俺が宣誓するようにと、事前に言われていた。その時から決めていた文句を、ここで言ってやろう。
「せんせー」
全員の視線が俺に集まる。息を呑む音まで聞こえてくる。そうだ。もっと俺に注目しろ。
「俺が一位になる」
「絶対やると思った!!」
クソ髪の大声をきっかけに、俺に対するヘイト、ついでにA組に対するヘイトが一気に高まった。A組内からも「何故品位を貶めるようなことをするんだ!!」と批判の声が上がる。まあ、
「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」
立てた親指を首に一文字に引けば、さらにその声は高まる。一部、「かっけぇけどダサいぞバクゴー君!! かっけぇけど!!」と、異色の批判が上がっていたが。正直いらねぇ。自分の限界を超える為には、自分を追い込むのが手っ取り早いからな。
見てろ、この場の全員。半分野郎。そしてデク。俺は、このプレッシャーに打ち勝ち、必ず、一位をもぎ取ってやる。