4ヶ月の   作:めもちょう

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九話

「俺たちはまず、着実に(ポイント)を稼ぐ為に、逃げつつ他の人たちの“個性”を観察……で、いいんだよな? 心操(シンソー)くん」

「ああ。俺たちは一位を取るんじゃない。勝ちを取るんだ」

「……カッコいー」

 

 顔は見えずとも、俺の前騎馬はそのヴィラン顔にあくどい笑みを浮かべているんだろう。本人に言ったら嫌がるんだろうけど。

 

「頼りにしてるよ、俺らの騎手様」

 

 俺も頼りにしてるさ、この場唯一のクラスメイトであり、相棒。それから、ヒーロー科のお二人さんもね。

 

 

 奪われたとしても、ハチマキは最後に()()ばいい。とはいえ、簡単に取られるのも癪なんだよね。295Pの騎馬はなるべく戦わずに済むように、目を付けられないようにとりあえず動き回ることにした。

 

「やっぱり皆、緑谷くんのところに行ってるね」

「1位のPは魅力的だけど、難易度も上がる。俺たちは最後に中堅を攻めるぞ」

「了解!」

 

 この物分かりのいい男は、クラスメイトの吐移 正。なかなか壮絶な過去を持ちながら、特別救助隊などの夢の為に資格取得を目指している男だ。夢に違いはあれど、本気で勝ちを目指す者同士、手を組んだ。

 

「いいね。ヒーロー科の“個性”。やっぱり華がある人が多いよ」

「お前の個性も、華はなくとも強力だろ」

「華がなくていいなら、シンソー君の個性も超強力じゃん。俺のことも操ってくれたら俺もっと楽なのに」

「ちょっとそこでケガしてくれ」

「やだやだやだやだ!」

 

 お前が初めてだよ。「俺を操ってくれ」なんて言った奴は。

 

 他チームの個性を見ているうちにB組の拳藤チームに絡まれ、ハチマキは取られてしまった。早めの段階で取られてしまったのも、まぁ想定内だ。

 

「これでゆっくり、品定めができるね」

 

 さっきまで焦っていたくせに。どうやら俺の相棒は演技派らしい。

 

 遠くから“個性”のぶつかり合いを見つつ、試合終了のカウントダウンが始まると同時に見繕っていた組を洗脳して、ハチマキを貰った。そんなギリギリだったのは、俺の“個性”をバラさない為と、バレたとしても奪い返されないようにだったから。

 結果は三位。はい、ヒーロー科のお二人さん、ご苦労様。最終種目でもがんばろう、な?

 

 

 一時間の昼休憩を挟んでから、午後の部とのこと。一緒に騎馬戦を勝ち抜いた吐移が入学時よりはマシになった下手な笑顔で俺の名を呼んだ。

 

「シンソー君、お昼食べよ!」

「いいよ。……今日は弁当じゃないんだ?」

「どこに置いていいか分からなかったから。だから今日は奮発します!」

 

 吐移の右手には五百円玉が一枚。それで済んでしまう学食はとてもリーズナブルなうえに量もある。俺は牛丼を、吐移はカツ丼を注文する。

 

「一人暮らしだと揚げ物なかなか作んないんだよねー。量作んないのに、油が勿体無くて」

 

 普通の一人暮らしでもある話だろうが、吐移が言うと、なぜか悲しくなってくる。すぐ後に「スーパーでバイトしててめっちゃ割安でお惣菜買えるから、食べてない訳じゃないけどさ」と告げられて、少しだけ羨ましくなった。

 

「俺もバイトしようかな……」

「いけるいける! 人相悪い俺でも出来るから!」

「ありがとう。めちゃめちゃ自信ついた」

「あれ、なんかムカついた」

 

 自分で言ったくせに。

 端の方に席を見つけて座った俺たちは、受け取った学食に手を付け始めた。

 

「くだらない話をするのもいいけどさ」

 

 割り箸を割るのに失敗しながら、吐移が言い出した。

 

「君、次からどうするの」

「……というと?」

「君が確実に勝ち上がれるのは一回戦だけ。そこで個性を見せたら次から対策される。どうすんの」

 

 なるほど。心配してくれてたのか。自分だって同じなくせに。戦闘能力がないのはお互い様だ。

 

「大丈夫だろ。その一回で、強烈に印象を残せば」

「負ければ見てもらえるのは一回だけ。本当に大丈夫?」

「負け方にも良い悪いがあるんだよ。それに、この体育祭で優勝しなくても、ヒーローになれる。ここまで勝ち上がった普通科ってだけで、俺たち二人とも注目されるはずだ。それに」

「それに?」

「お前によれば、俺の個性は“めちゃくちゃヒーロー向き”、なんだろ?」

 

 笑って言ってやれば、吐移は照れたようにはにかんで、「まぁ、勝手に自慢に思ってるくらいには、ヒーロー向きだと思ってるけどさ」なんて答えた。

 なんで知り合って1ヶ月の人間を、そうも持ち上げられるのか。小・中学校をあの環境で過ごして、よくこんな気持ちのいい人柄になれるのか。気になるところだよ。

 

「俺の心配をするのもいいけど、自分の心配はいいのか。肉弾戦じゃなきゃ一瞬で負けるでしょ。特にあの轟ってやつ。遠距離から攻撃されれば、いくらお前でも近づけない」

「いやいや! 痛覚殺せば相手の懐まで行けるでしょ! あの轟くんの氷、予選で最初食らったけど、足裏の皮犠牲にしたら越えられたよ」

「……靴は?」

「実は最初から裸足でした!! 頭洗いに行ったときについでに履いたんだよね」

「…………」

「あ、最終種目でもそうするか。ちょっとグロいことになりそうだけど!」

「……危ない戦い方はヒーローから好まれないよ」

「緑谷くんじゃないんだから。というか、怪我しないけど強いワケじゃない俺が勝ち上がるには、狂人の皮を被るしかなくない?」

「剥がれやすいよう何枚も被んないとね」

「在庫はいくらでもありまーす!」

 

 ああ、無頓着。こちらの心配を無視して笑う吐移は、すっかり狂人な気がしてくる。

 なあ、吐移。水洗いしたかもしんないけどさ。怪我は治ったのかもしれないけどさ。まだ体操服に血はついてるよ。お前は、怪我をしないんじゃないんだよ。

 

「お互い、身体は大切にしよう」

「……そうだね!」

 

 間を作るなよ。不安だ。

 

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