鉄血のオルフェンズ 二度と咲かない鉄の華   作:抹茶ほうじ

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三度目は無い、彼はそう思ったのだ

「マクギリス・ファリド、お前の死はこれからの歴史において大きな意味を持つだろう。力に固執した人間の愚かな末路として」

 

 後に『マクギリス・ファリド事件』と語られるギャラルホルンの一部青年将校によるクーデター未遂は一時期ギャラルホルン本部の占拠を許すも、アリアンロッド艦隊の活躍により即座に鎮圧。

 首魁マクギリスの死亡を経て内紛劇にも至らない『事件』扱いで終局する。

 残るは火星に逃亡せしめた武装集団、逆賊マクギリスに与して世間を騒がせた悪魔の組織『鉄華団』の始末。

 アリアンロッド艦隊にとっては掃討戦、既に勝負を決した後の瑣末事に過ぎない。

 

 しかし。

 火星に生きる『彼』にとっては未だ己が先行きを左右する重要事であった。

 

****** 

 

 火星に進軍するアリアンロッド艦隊の静けさに対し、ギャラルホルン火星支部の内外は喧騒と怒号、熱気と殺気に溢れかえっていた。

 その大きな一因となっていたのが

 

「いいか、決して手を緩めるな! 包囲の穴を作るな、誰も逃がすな!」

 

 新江・プロト。

 ギャラルホルン火星支部の実質トップ、つまりは支部長不在の状態で本部長を務める男である。普段は沈着かつ温厚さで知られ、人前で怒鳴り声を上げるような人物だと思われていなかった。

 そんな男が今、『マクギリス・ファリド事件』の後始末を前に金切り声で部下たちを叱責、自らが陣頭に立って掃討作戦の準備を指示していたのだ。大半の隊員は上司の豹変ぶりに驚きを隠せず、同時にある程度の納得も示していた。

 これより彼らが行う作戦、立ち向かう相手はギャラルホルンと、何より火星支部と因縁浅からぬ組織。

 鉄華団。

 かつてCGS、クリュセ・ガード・セキュリティという民間軍事会社が乗っ取られ、違法紛いに設立されたにもかかわらず“何故か”火星支部の取り締まりも受けずMSの所持運用を黙認されていた組織。

 今ではその理由も判明している。

 マクギリス・ファリド元准将、彼の権限により鉄華団が犯した数々の違法行為は見過ごされ、揉み消されていた事実が明るみとなったのだ。

 新江が本部長代行に就任後もその関係は維持され、アリウム・ギョウジャン氏のNGO団体テラ・リベリオニスを強制捜査する際に“何故か”氏が死亡していた件も殺人事件として立件されることなく、何も無かったことにされた上に彼が代理から正式な本部長に昇進したのは記憶に新しい。

 そう、火星支部の隊員なら誰もが知っている。

 新江・プロトはマクギリス・ファリドの推挙で栄達の道を歩き始め、以降も良き関係を維持していたことを。だからこそ同様にマクギリスから贔屓され、何かと目をかけられていた鉄華団の掃討に力を入れ、己の潔白を証明しようとしているのだと。

 

「だから本部長殿は鉄華団の掃討作戦に必死なんだろうよ」

「これで支部長の椅子が見えてくるかもしれない立場だしな」

「ま、やる気があるのはいいんじゃねえか」

 

 そんな理解で納得する隊員たちも一介の軍事会社、それもNGO団体摘発の際に接した隊員のほとんどが道理を弁えないガキどもの増長に少なからず腹を据えかねた経緯もある。上司の発起に呼応し、それなりの士気で作戦準備に取り掛かっていた。

 

 ただし真相を知る一握りの高官、新江・プロトの幕僚を務める高級士官たちの心境はもう少し複雑だった。

 上官の傍に仕え、時に意見を問われ、己の知見を披露する立場の彼らは。

 アリアンロッド艦隊との地球圏決戦に大敗、火星に落ち延びたマクギリス・ファリドと彼らの上官の会話を間近で聞いていたのだ。

 

「貴方のギャラルホルンにおけるあらゆる地位は剥奪されました。マクギリス・ファリド、元准将?」

 

 MSバエルを強奪し、ギャラルホルンの王を気取るマクギリスに現状を突きつけて身の程を知らせた新江だが、この時の彼は己の職分を全うしなかった。

 逃亡する逆賊を捕らえるどころか本部長代理へと推挙された過去を恩と主張、マクギリスと鉄華団の火星降下を黙認したのだ。ただし理由は建前の恩などではなく、

 

「あれには運がある。この逆境を跳ね返すことがあれば──」

 

 つまるところ大敗したマクギリスの逆転にチップを積んだ。彼が勝つことあれば相応の見返りを得ることが出来る、そんな欲に囚われて見過ごしたのだが。

 これが新江・プロトの失策だった。

 一度目は警戒を抜かれて発見が遅れた、そう言い訳が出来たかもしれない。しかしマクギリスは独自のルートで地表から火星の重力圏を抜け、アリアンロッド艦隊に再度戦いを仕掛けたのだ。MS1機で、勝ち目など無い戦いを。

 結果は言うまでもない、猪武者の蛮行が正しく鎮圧されたに過ぎない。だが新江・プロトの抱えた問題はそこではない。

 

(二度も逆賊を見過ごしたなど、エリオン公に申し開きできるか……ッ)

 

 一度目は故意に、二度目は不本意にマクギリスの行動を看過し、火星支部の果たすべき役割を果たさなかった。この打算、この怠慢を今やセブンスターズ随一の実力者となったラスタル・エリオンが許すかどうか。

 豪放磊落で知られるエリオン公だが浮ついた青年将校のクーデター直後、綱紀を検め引き締めるとなれば彼の所業が厳しく追及されるのは必至。

 

「いいか、ネズミ一匹逃がさないつもりで人員を、戦力を配置せよ!」

 

 新江・プロトが声を張り上げるのはそういった事情だ。作戦開始はアリアンロッド艦隊の先遣部隊が到着後。それまでに己の欲がもたらした失点を少しでも埋めるべく、失点を残党に押し付けるがために、鉄華団を包囲網に閉じ込める。

 今度こそ完全に、完璧に、逃走を許さぬように。

 

「本部長、少し気になるデータがあるのですが」

「何だ!?」

「鉄華団の前身、CGS時代の設備建造記録を当たっていたのですが」

 

 部下の操作するデバイスに表示されたのは網の目状の地下経路。CGS設立時、施設の基礎工事を行っていた頃に発見された地下道の存在だった。

 テロリストのアジトに攻撃を仕掛けるなら一網打尽にすべく事前調査、判明している限りは建物の構造から周囲の地形データまで把握するのは当然のことだが、これら地下道の発見が遅れたのは理由があった。

 

「相当古く、おそらく厄祭戦時代のものだと思われます。既に機能していない、埋もれて使えない地下道かと」

「ただちに調べろ」

「は、はい? ですが、未だ現役のものだと思えませんが──」

「調べろ! 言っただろう、ネズミ一匹逃がさないつもりでやれと! 奴らは宇宙ネズミだ、生き汚くどんな隙間から逃げ出すとも限らん!!」

「りょ、了解しました!!」

 

 上司の剣幕を受け、部下は関係各位に指示を出す。地下道の続く先と経路、その出口を徹底的に調査するよう隊員たちを振り分けていく。

 既に二度もマクギリスを取り逃がした態の彼にとっては万が一にも残党兵、鉄華団を逃がすわけにはいかなかったのだ。

 

 ──新江・プロト三佐。

 マクギリスに見出されマクギリスの賽の目に賭けたことで失脚の危機にある彼は、己の進退かかる執念により、少年達が縋る希望の芽を摘み取ったことに自身も気付いていなかった。

 

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