鉄血のオルフェンズ 二度と咲かない鉄の華   作:抹茶ほうじ

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情によって滅ぶ(1)

 火星で鉄華団が掃討され、再びギャラルホルンが秩序の担い手としての復権を果たした頃。

 遠く離れた地球では鉄華団の悪名が思わぬところで噴出再燃し、さらなる混乱を巻き起こす火種と化していた。

 

「議員は説明責任を果たせ!」

「2年前の議会選挙、あれは鉄華団の暴力による強制だったのではないか!?」

「亡命政治家が如何なる手段で議長に返り咲いたのか、納得いく説明を!」

 

 経済圏がひとつ、アーブラウの議会場前。

 かつて鉄華団がモビルワーカーで乗り付けた因縁の地では鳴り止まぬ怒声と立ち並ぶプラカード、押し寄せる人の波が周辺道路を埋め尽くす勢いで抗議活動を続けていた。

 彼らが口々に叫ぶのは、アーブラウ代表・蒔苗東護ノ介への疑義。

 元々マカナイの代表就任には不可解な点が多かった。

 2年前、贈収賄疑惑で追及された彼は疑惑を晴らすどころか他の経済圏に亡命。この時点でもはや被参政権の行使が難しそうなものなのだが、議会選挙であることを背景に不問とし、真相を問う市民の声をも無視しての再選を図る。

 対抗馬アンリ・フリュウがギャラルホルン七星家のひとつファリド家の支援を受けていた反発があったにせよ、この一件は与党に対する野党派が投げかける追及の種として未だ議会に力強く芽吹いていた。

 そこに防衛軍の一件が炸裂する。

 もとより経済圏はギャラルホルンを疎ましく思い、独自の軍事力配備の機会を狙っていた。ファリド家の先代当主イズナリオ・ファリドが経済圏の専横を疎んじて息のかかった議員を推したのと同様に。

 ギャラルホルンが犯したエドモントンの失態を口実としてマカナイ派が強引に推し進めたのがアーブラウ防衛軍設立の経緯。

 勇名を馳せた鉄華団を軍事顧問に据えての盤石体制を自認した結果、SAUとの紛争に発展。防衛軍計画は灰燼と化したのだが、当然ながら政策の失敗は追及される。マカナイがギャラルホルンを責めたように。

 

「防衛軍なる軍隊の結成、あれは他経済圏への侵攻目的があったのでは!?」

「鉄華団のようなモラル無き武装組織に顧問を任せたのが無為な衝突の原因だったのではありませんか!」

「ギャラルホルンは地球圏全体を守護する軍隊、しかし経済圏が独自に武力を欲した理由を詳らかに説明せよ!!」

「無謀や野心、無為な衝突による犠牲者たちの尊い命は戻ってこない!!」

 

 野党、贈収賄疑惑の解明を求める市民団体、そこに防衛隊の遺族会が加わり劣勢を強いられたマカナイ派閥の議員たちにさらなる追及の大波が加わる。

 始まりは、とあるメディアのスクープだった。

 

『こちらの映像をご覧ください。これは某日、マカナイ氏が所有する高級リムジンに2人の男性が乗り込む姿を捉えた映像です』

 

 アーブラウの宇宙港、正式なゲートではなく貨物用の昇降口から降りて来た2人組が見るからに高級車へと乗り移る様子が克明に撮影されていた。映像は停止し2人組のうち片方、背の高い青年をクローズアップする。

 

『この男性、違法にMSを所持、2年前エドモントンで猛威を振るい、アーブラウ防衛軍事件にも関与。ギャラルホルンのクーデター事件でもマクギリス・ファリドに与して地球本部ヴィーンゴールヴを襲撃、多数の死傷者を出した中心的テロ組織・鉄華団の幹部チャド・チャダーンと目されており、当局は──』

 

 マカナイ一派に迫った新たな追及の矛。それは鉄華団の残党を彼らが匿っているのではないか、というテロ幇助の疑いであった。

 この激しいメディア攻勢に至った理由のひとつは、チャド・チャダーンなる人物の情報はアーブラウ防衛軍結成前の軍事顧問を務めていたことから集め易かったことも大きかったと言えよう。

 

「代表、答えてください!」

「マカナイ代表は2年前からテロ組織と同盟関係だったというのは事実なのですか!」

「『マクギリス・ファリド事件』にもアーブラウが関与していたとの関係者発言もありますが」

「マカナイ代表は逃亡犯チャド・チャダーンを庇い立てするつもりですか!!」

 

 スクープがメディア各位に流れる前とは比較にならぬ程の熱。押し寄せる報道陣は我先にとマカナイ派の議員に詰め寄り、真偽の程を確かめようとマイクを差し向けカメラを押し付ける。

 そこには最早自勢力の代表に対する敬意などは一片もない。当然といえば当然だろう、経済圏のトップが治安組織のクーデターに加わったテロ組織と裏で通じ、彼らの逃亡を手助けしていたなど悪い夢でしかない。

 旧時代、自国の利益に沿う場合は他国の軍事組織に経済的援助を行うケースは珍しくなかった。いわゆる代理戦争で多く見られた構図だが、鉄華団団員の保護はこれらの状況にも該当しない。世界の敵、テロリストの残党を匿う合理的理由が全く存在しないのだから当然と言えよう。

 さらに遡ればマカナイ氏は2年前のエドモントン事件を理由にギャラルホルンへの不審を表し、独自の防衛組織拡張を図った政治家でもある。鉄華団の行いでギャラルホルンの権威失墜に繋がったあの事件との関わりすら疑われても仕方ない情勢だったのだ。

 

「代表、何か答えてください!」

「代表! マカナイ代表!!」

 

 果敢に詰め寄るメディアに対し、アーブラウの妖怪とも言われた老獪なる政治家は何ひとつ疑いを晴らすための発言は行わず、ひたすらに沈黙を続けて迎えのリムジンに乗り込んだ。

 彼ほどの人物が沈黙せざるを得ない、弁舌を以って煙に巻くことも出来ない。それほどに此度のスクープはマカナイの急所を突いた。何しろ彼が鉄華団の残党、逃亡犯2名を匿っているのは否定しようもない事実。下手な弁明は十の証拠を伴って彼を刻みかねない。

 時すでに遅し、蒔苗東護ノ介は私邸に向かう車内で今更ながら察した。

 

(ラスタル・エリオンめ、最初から儂らの企みに気付いておったのか) 

 

 でなければあれほど都合よくチャド達を移送する瞬間が捉えられたはずもなく、マカナイ支持のメディアが擁護論を展開する毎に新たな証拠が積み重なる状況に説明がつかない。ずっと前から、おそらくは彼らが火星を脱出する前から地球に逃れる計画を察知し、利用したのだ。

 未だ繋がるアーブラウ代表とテロ武装組織の関係性を詳らかにし、言い逃れできぬタイミングが訪れるように。

 

「万事休す、か」

 

 知らず漏らした弱音にマカナイは頷いた。

 爆弾テロで負った傷が癒えた時、彼は自身の衰えを自覚した。充実していた気力や野心が萎えたのを把握していた。

 そのつもりであったのだが、自身が思った以上に頭は衰えていたらしい。妖怪と恐れられた自分がこうも簡単に奸計に嵌るとは。

 マカナイは経済圏のため、経済圏に生きる人々のため、彼が信じる善き未来のためにあらゆる謀略を行ってきた。その中に自己利益が無かったとは言わない、それでもアーブラウの発展を願い、その信念に従って様々な物を切り捨てて政治の道を邁進してきた。

 捨てたもの、犠牲にしたもの。

 それは真っ当な遵法精神であり、多数を生かす少数の人であり、我が身を守るための誰かの命であり、為すための権力を得るべく他者の尊厳であり──

 

 ──ならば、鉄華団に手を差し伸べたのは、どのような故あっての行為か。

 分かっていたはずだ。己の立場で今更鉄華団に関わる利は無いことを。むしろ彼らとの関わりは致命傷と成りかねない危険な物だったと。

 かつてなら救いを求めた若者たちを切り捨てて己が政治家生命を守ることを選択しただろう。何の躊躇もなかっただろう。それこそ2年前に亡命先を訪ねて来た彼らを復権に利用すべく思案し、脅迫紛いの提案を行い、協力を半ば強要した時のように。

 あの日あの時は態のいい戦力、彼にとって失われても何ら損のない無知な子供たちだった。

 そんな冷酷な視点で犠牲を強いた老政治家が此度子供たちに助勢したのは、今更。

 

「……やはり衰えたのだな、この儂は」

 

 蒔苗東護ノ介は自身の変化に呆れたような苦笑いを浮かべていた。彼は私邸にて身辺整理を行った後、自らの居住まいを正した。

 

******

 

 アーブラウ代表、蒔苗東護ノ介の急逝は様々な憶測を呼んだ。

 疑惑の只中にあった彼の死は追い詰められての自殺説、口封じの他殺説が混在するもアーブラウ報道官の発表はあくまで病死。老骨にかかる追及の日々が心身を蝕んだという一応の納得がいく理由がつけられていた。

 しかし疑惑の渦中にあった張本人が世を会っても世論の風向きは変わらず。

 マカナイの死後、アーブラウで管理していたチャド・チャダーンのIDが変造されていた事実も発覚。単体でも重罪となるID改竄変造が逃亡犯の犯歴洗浄に使われたとして糾弾の勢いは増すばかりであった。

 

 後にアーブラウ議会はマカナイ派追放の流れを経て新たな政権を樹立、マカナイの名はアーブラウの汚点、有り得ざる軍国主義への道を模索し、密かに武装テロ集団と通じていた愚かな政治家として歴史に刻まれることとなる。

 国策に因らぬテロリスト幇助、冷徹を以って知られた彼がこの愚行に手を染めたのは何故であったのか、余人が鑑みることはなかった。

 

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