鉄血のオルフェンズ 二度と咲かない鉄の華   作:抹茶ほうじ

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そういえば、と男は思い出す

「ほう、オルガ・イツカが。まあいい」

 

 鉄華団の団員3名を目撃、故あって銃撃戦の末に団長オルガ・イツカを射殺に至る──通信で事の顛末を告げたノブリス同様、アリアンロッド艦隊司令ラスタル・エリオンも鉄華団団長の死そのものには興味を示さなかった。

 彼が欲するのは2年前のエドモントンで世界秩序を乱した悪魔の武装組織・鉄華団をアリアンロッド艦隊が完膚なきまで叩き潰したという事実だ。例外を除いて個々の案件に関心は薄い。

 

 エドモントンの攻防戦で鉄華団の勝利は彼らを充分に富ませたが、世界的に観測すれば何ひとつ良い目を出さなかった。

 秩序の担い手たるギャラルホルンの権威を落とし、反抗勢力を活気付かせ、宇宙海賊や反社勢力による民間船の襲撃とヒューマンデブリや少年兵育成を目的とした拉致誘拐が横行、地球圏でも各経済圏に独自武装の道を歩ませかねない事態を招き、コロニーの独立運動機運を高め、圏外圏では独自勢力によるMS製造開発の需要まで生んだ。

 これらの引き金となったのが鉄華団──と全ての責任を負わせるのは酷かもしれないが、随行した『革命の乙女』と共に彼らの活動を英雄譚のように各種メディアが取り上げた影響は大きい。

 ラスタルが彼らを“悪魔”と呼ばしめるのは何も悪魔の名を冠したガンダムフレームを所持しているからだけではない。彼らの無軌道な行動とそれを影ながら支援したマクギリス・ファリドの起こした騒乱は地球圏の枠を超えて連鎖した結果、世界の秩序を著しく乱したのだ。

 その所業、世を乱すこと悪魔の如く。

 

「だからこそ……」

 

 アリアンロッド艦隊の武威を以って世に警告する、実戦から離れて久しい地上部隊にまぐれ勝ちした武装組織など敵ではない──文字通り彼らを見せしめにすることで反社勢力や圏外圏に釘を刺す。

 これこそが鉄華団掃討作戦の真意である。ゆえに団長個人、ピース一片の命など歯牙にも掛からないのだが、団長直々にアジトを離れ別行動をしていたというのなら内容を全く無視も出来ない。

 

「ミスター・ゴルドン、鉄華団がアドモス商会で何をしていたか分かるか?」

『ええ、詳細までは不明ですが、何やらアーブラウのマカナイと連絡を取っていたと聞き及んでおります』

「……ほう」

 

 ノブリスがククビータから伝え聞いた彼らの行動に、ラスタルは今度こそ関心を抱いた様子で相槌を打った。

 マカナイ、蒔苗東護ノ介。

 経済圏のひとつアーブラウの代表。2年前のエドモントンで亡命までに至った贈収賄の疑惑を一切晴らすことなく謎の復権を果たした老獪なる政治家。

 鉄華団の本拠地があるクリュセ自治区はアーブラウが管轄する区域である。であればギャラルホルンの作戦行動に横槍のひとつも入れることは可能と考えたのかもしれない。それこそクーデリアが地球圏で名を知られるきっかけとなったあの一件、2年前のドルトコロニーでアフリカユニオンがそうしたように。

 しかし。

 

(そうではないな)

 

 ドルトコロニーの一件はいわば茶番だ。

 労働者たちと話し合いを持たずに暴徒の域まで成長させたのはコロニーの所有者、つまりはアフリカユニオン自身であり、組織化し武装まで始めた不穏分子の武力鎮圧をギャラルホルンに依頼したのがそもそもユニオンだったのだ。

 予定通りであれば最低限の暴力で最大限の効果を出す、不穏分子を一掃し身の程知らずのコロニー市民を躾けることが出来たはずなのだが、報道統制を潜り抜け現地の様子をメディアに流されたユニオンの有力者が風聞悪しと画策を棚上げ、制止したのがドルト事件の真実。

 しかし今回はクーデター、ギャラルホルン内部の問題であり経済圏に介入の権限は付託されるものではない。

 その上、マカナイは防衛隊設立の件で失態を演じ、その影響力が著しく後退していると聞く。当然だ、マカナイ本人は爆弾テロで意識不明だったとて、派閥の議員達はSAUとの国境沿いで生じた諍いすら抑えられず軍拡で揃えた防衛隊同士が激しく激突したのだ。

 市街地にこそ被害は皆無だったものの、国境付近の戦闘で多くの隊員が犠牲になったあの事件はマカナイ閥の政治家生命を大きく損ねたといってもよく。

 軍事的信用を失った彼らがギャラルホルンの正当な作戦に注文をつけるなどまずは不可能。

 そんな状況で遠く離れた老議員に接触する、さてどのような理由が隠されているのかと思案を巡らせ。

 

「……成る程、そういえば」

『何か心当たりでも?』

「ミスター・ゴルドン、火星の名士である君にひとつ頼み事がある」

『はい、何なりと』

「こちらでも確認するが、鉄華団が火星に逃げ込んで以降、テイワズの息がかかった武装商船や輸送船が火星に入港していないかを調べてもらいたい」

 

 ラスタルは思い出した。

 鉄華団が火星の本拠地に立てこもった数日後、彼の元に鉄華団団長オルガ・イツカが通信を繋げて来たことがあったのだ。

 無論、一介の民間軍事会社のトップに過ぎない男がセブンスターズの一翼に軽々と連絡できるなど有り得ない、有力者の橋渡し無くして。

 それを可能にしたのはあの男──木星圏の大企業テイワズのトップ、マクマード・バリストン。

 鉄華団は組織の掟に逆らいテイワズとの関係を絶ったと聞いていたのだが、その後の手厚いフォロー、賊徒に成り下がった彼らとラスタルとの仲介を引き受けた行為は両者の関係が本当の意味で切れていないことを示していた。

 ──であれば、今もなお。

 

「テイワズの艦船でツテを頼みに地球へと逃亡する……成る程、オルガ・イツカは本当に骨のある男ではなかったのだな」

 

 その代わりになりふり構わぬ生き汚い男だった。時と場合によっては長所足りえるが、今では悪手だった言わざるを得ない。彼の軽挙がなければ鉄華団とマカナイ、マクマード3者の癒着に気付くのはもう少し後だったかもしれないのだ。

 そして気付いたのなら──彼の冷徹さは軽挙を利用できると発想を転換する。

 鉄華団は檻に閉じ込めたまま見せしめに討ち滅ぼす、しかしアリアンロッドに個々の討ち漏らしまで深く追及するつもりはなかったのだが。

 

『それでエリオン公、該当する船があれば追い出せばよろしいので?』

「いや、そのまま知らぬふりをしてもらいたい。地球まで泳がせるのでな」

 

 ラスタルはノブリスの提示したオルガ・イツカ射殺時の報告データを再び見やった。しかし彼の視点はオルガより、銃弾を肩に受けて倒れた護衛の男に向けられていた。

 あの顔には見覚えがあるのだ。亡き親友が就いた最後の任務、当時のレポートや地球情勢を伝える報道内で幾度となく。

 

 ラスタルが目を付けた男の名はチャド・チャダーン。

 鉄華団が零落を辿る象徴、アーブラウの軍事顧問を務めた地球支部の代表。

 そして防衛隊設立時、度々メディアに顔を晒した人物でもあった。

 この男は既に鉄華団の本拠地を離れクリュセ自治区に潜伏している。ならば鉄華団掃討戦の結果、本拠地の団員全てが息絶えたとしても。

 彼だけは確実に生き残り、地球へと辿り着けるだろう。

 そうなれば。

 

「この顔はさぞかしメディアを騒がすであろうよ」

 

 生贄の羊は首元で音鳴らす鐘鈴に気付くことなくのしのし歩き。

 親友の置き土産はラスタルに閃きを与え、腐敗したアーブラウの妖怪とテイワズの大狸の双方を掣肘するのに役立つこととなる。

 




次の話は前後編になる予定です。
しばしお待ちを。
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