今日の投下は3000字ですわ!   作:くまたろうさん

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予告なくぶん殴られるとオタクは死ぬ。


俺より強い奴に会いに行く

 

「ぅぼぉぉぉぅぇえええええぇ……ぅうぅ……」

 

 本日の講義を終え、部室の扉を開いた僕を待っていたのはこれでもかという程の絶望に満ち満ちた物書きお嬢様だった。

 

「お、お疲れ様……燦然寺さん」

「うぅう………ぁあぁぁぁあああ……」

「フ〇ムゲーの中ボスみたいになってるけど大丈夫?」

 

 彼女が今にも体ごと同化しそうな勢いで突っ伏しているものだから部室に置かれているちゃぶ台にはその綺麗な髪が放射状に美しく広がっていた。

 

「誰が獅子猿ですか」

「誰もSEKIR〇の話はしてないよ」

「そこを伏せてもあまり意味は無いですわよ」

「というか燦然寺さんもあのゲームやってたんだね……」

 

 ちょっと意外。ああいうゲームはあまりやらない人だと思っていた。

 

「作中の雰囲気といいカッコいい敵といい本当に素敵なリズムゲーでしたわ」

「いや、まぁタイミングよくボタンを入力するゲームではあったけどさ!」

 

 で、今日の本題は別に去年やった名作ゲームの話という訳ではないだろう。こうなった時の女性はとかくめんどくさいということをさんざっぱら痛感させられている僕の勘が、この状況を放っておくと後々面倒になるぞということを告げている。

 まぁ、そのめんどくささを痛感させられた場面というのがたいがい花園先輩絡みだということは察していただけると幸いだ。

 

「で、今日はどうしたのさ一体。美人が台無しだよ」

「……そんな言葉で元通りになるようなヤワな女ではないですわよ?」

 

 ぷぅと頬を膨らませながらこちらにジト目を飛ばしてくる燦然寺さん。なるほど、これはなかなか……。

 

「そういう路線もありだと思うよ!」

「なにがですのっ!?」

「ってのは半分冗談で……」

 

 部室の扉を開けてからというもの目の前の光景にすっかり座るタイミングを見失っていた僕は、ようやくそこで燦然寺さんの向かい側へと腰を下ろす。

 

「残りの半分は聞かないであげますわ……」

「それで、結局どうしたってのさ」

 

 僕の問いかけに彼女は一瞬息を呑むといじらしくその白く透き通った指先で机の上を不規則になぞる。

 

「強すぎますのよ……」

 

 ぽつり、悔しそうにも、悲しそうにも、恥ずかしそうにも……そんな上手く言い表せないマイナスの感情が見え隠れする声色が耳に届く。

 

「それだけだと状況が上手く呑み込めないんだけど」

「失礼いたしましたわ、私ということが……」

「別にそんなに気にするようなことでもっ」

 

 すくりと今度は姿勢を正すと燦然寺さんは先ほどまでの人前にはとてもお出しすることが出来ない光景をどこかへと仕舞い、思わず魅入ってしまいそうになるほどの佇まいを僕へと向ける。

 

「強すぎるんですのよぉおお!!!!」

 

 五秒。その姿勢が保ったのはわずかそれだけ。時が止まったかのような一瞬が過ぎたかと思うと、そのまま再び机の上へと突っ伏してしまった。

 

「……合同誌にお誘いいただきましたの」

 

 先ほどは不規則に動いていた指先は今度は一定の規則性を保って机の上をうろついている。

 丸い輪郭にとがった耳が二つ、そしてひげが左右に三本。これあれだ猫だ。美人が不貞腐れて目の前でエア猫描いてる。どんな光景だよ。

 

「って合同誌!?すごいじゃんか!」

「まぁ……残念ながらまだ告知前なので詳細はお話は出来ないのですけど……」

「それはしょうがないよ。どこの世界もそんなもんさ。それで、その合同誌が燦然寺さんの獅子猿化にどう繋がるのさ」

「今も昔も人ですわよ」

 

 流石に古い木製の机に顔を付けたままというのはいただけなかったのか、部室の棚からボロボロのクッションを取り出すとそれを顔と机の間に敷きながら彼女は話を続けた。

 

「お声をかけて頂いたことは大変光栄ですわ!同じジャンルを愛する者として、主催の方はとても尊敬しているお方ですので。そんな方に私を選んでいただいたというのは大変名誉に思っておりますの」

「だったら……」

「話はこれからですわ」

 

 合同誌かぁ……あんまりその辺の事情はよく知らないけれど、なんだろう人間関係の悩みとかジャンルの地雷とかの話なのかな。

 

「そう言えば、強すぎるって言ってたよね。いったい何が強いのさ」

「それは……。ほら、我々オタクってすぐに何か優れているものを”強い”なんて例えるでしょう?」

 

 なるほど、その言葉でもう大概のことが理解できた。

 

「要するに、燦然寺さんは自信を無くしている訳だ。自分なんかがこんな沢山の優れた作家陣の中に紛れていいのか、と」

「…………松野君はエスパーかなんかですの!?」

「何年の付き合いになると思ってるのさ」

 

 ふと、二人の間に沈黙が訪れる。

 だけど、そんな沈黙が苦にならないのは僕等の間にそれだけの月日の流れがあるという証明だろう。

 

「一年と……ちょっと?」

「台無しだよっ!確かにそんなに大したことないけどさっ!!ちょっとそれっぽいこと思っちゃったじゃんっ!」

「それっぽいこと?」

「それはもう忘れて!」

 

 彼女の方へと視線を戻すと、吸い込まれそうなほど綺麗な瞳と目が合った。

 

「と、とにかく……。好きなことを好きなように書けばいいんじゃないかな。僕は燦然寺さんが書くお話が好きだからさ」

「えっ、あっ……はいですわ!」

 

 この話はおしまい、と言わんばかりに燦然寺さんは努めて明るく声を上げた。僕なんかの言葉が彼女の支えになればいいんだけれど。

 

「ところでさ」

 

 そんなこんなで何とか場が収まったところで、僕は先ほどの会話の中で引っかかったことを尋ねてみることにする。

 

「どうしたのですか?」

「いや、作品の”強さ”って一体何なんだろうねって思って」

「……ふむ、確かに、漠然としたイメージや先入観でそう思ってしまっているところは私もあったかもしれませんわね。やっぱり沢山の方に見て貰えてることでしょうか……」

「でも、殆どのサイトにはお気に入り機能やブックマーク機能があるでしょ?あれと閲覧数はまた別だよね?」

「言われてみれば……そうなると、『ブクマ数÷閲覧数』なんて数字も必要かもしれませんわ」

「あー、読んだけどあまりハマらなかったなんて作品もあったりするもんね」

「逆にあまり読まれてはいませんが読んだ方が軒並みその作品のことを気に入るなんてこともあるはずですわ」

 

 確かに、所謂埋もれた名作なんて作品も多いものだ。なんでこいつ伸びてねぇんだ、なんて作品に出合ったことも一度や二度じゃない。なんで同じアカウントだと一度しか評価を付けられないんだ。

 

「でも、創作物の評価ってそういう誰にでも目に見える数字だけでは……」

「測っちゃいけないよなぁ」

 

 誰にでも目に見える指標というのは確かに必要かもしれない。でも、創作の醍醐味、創作物に触れることの魅力というのはそんな客観的な数字の枠には収まらない。

 

「自分の感性をこんなに震わせるものがあったのかという出会いだったり、自分とこんなに似た気持ちを抱いている人が存在しているのかという共感。そういうものを全部含めて、自分が一番気に入ったものが、所謂”強い”作品なのかもしれませんわね。……ありがとう松野君」

 

 燦然寺さんはさっきまでの落ち込み様など嘘だったかのように楽しそうに笑った。

 

「そんな、僕は大したことは……」

 

 ああそうか、彼女はそんな楽しいに包まれたくて今日も今日とて言葉を並べているんだろう。

 それならば、僕が彼女にかけるべき言葉は――

 

「楽しみにしてるよ」

「ええ、逆に私の作品で他の方をぶん殴ってやりますわ!」

 

 う~ん、どうして毎度毎度こうも締まらないのか。

 

 




ファイティングスタイルは人それぞれ
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