今日の投下は3000字ですわ!   作:くまたろうさん

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今回も対戦よろしくお願いします


エッチなことはお好き?

 画面に映し出される『ブックマークに登録』のボタンを確認すると作品の心地よい読後感をそれに込めるかのようにその表示へと指先を伸ばす。

 面白かった作品には敬意と感謝を込めて。これが作者への応援に少しでもなってくれるなら嬉しかったり。

 

「いやぁ面白かったなぁ!せっかくだし感想も書いちゃおうかな」

 

 平日の午後、授業もなく後は自宅への家路につくだけとなった僕は、半ば日課ともなっている時間を旧棟の一室で過ごしていた。日本でのシリーズ売り上げが5本の指に入ろうかというとある長寿RPGの大ファンである僕は授業中にそのシリーズの中編二次小説を偶然見つけてしまいこうして家に帰ることもなく部室で黙々と読みふけっていたのだった。

 

「そう言えば先輩」

「ん、どうした?」

 

 ふと思い至ったことがあった僕はスマホの画面を消すとともに部室の一角で黙々とノートパソコンに向き合っている人物へと声をかける。

 整った顔立ちと如何にも大学生らしい髪型。とあるバンドのボーカルだと言われても信じてしまいそうな風貌の彼こそがこの東甲大学非公認サークル現代文化文学研究会の発起人でありサークルリーダーである越智卓先輩である。

 

「作品のブクマって嬉しいものですか?」

 

 普段何気なく自分が行っている行為に思うところがあり、同じ”書き手”である先輩へとその素朴な疑問をぶつけてみる。

 

「嬉しいに決まってるだろ」

「そんなもんですかね?」

「まぁ、具体的に数字で目にすると思うところはあるけどな……」

 

 そう言うと彼は僕の方へとPCの画面を向けてくる。

 

「思うところ?」

「見てみ、俺のマイページ」

 

 そこには先輩が投稿している作品の一覧と各閲覧数、ブックマーク数、感想の数が表示されていた。

 

「先輩、相変わらずすごいですね」

「これでもそこそこ人気だからな」

 

 そういって少し勝ち誇った顔を浮かべる先輩。その自信たっぷりの表情を裏付けるかのようにそこには普段ちょっとやそっとじゃお目にかかれないような数字がいくつか見て取れる。

 越智先輩は”とあるジャンル”で数字を持っている書き手だ。彼が作品を投稿した日には必ずと言っていい程日間ランキングの上位に名を連ね、週間にも当然のように顔を出している。

 

「これとこれな」

 

 そう言って彼は二つの作品を指さした。

 

「一個目が2週間かかった奴、もう一個が5時間ぐらいで書いた奴な」

 

 そこに表示されている数字を見て一発で先輩の言いたいことが分かってしまった。

 

「まぁ、そういうこと。かけた時間と評価は比例しねぇってことだわ。後文字数な。それに関しては難儀な世界だよ全く」

 

 そんな時だった、部屋の扉が開くと同時に一人の少女が姿を現す。

 

「あら、松野君と越智先輩ではありませんか」

「こんにちは」

「おう、お疲れ様」

 

 そこにはやたら大きめの分厚い本を両手に抱えた燦然寺さんが立っていた。

 

「どうしたのそれ」

「この本ですの?実は再来週が期限のレポートで使うことになってまして……」

「なるほどね」

「それで、二人してどうしたんですの?」

 

 そう言いながら彼女はお気に入りのボロボロのクッションをいつもの場所から取り出すとそれへと腰を下ろした。

 

「ブクマがな……」

 

 越智先輩が燦然寺さんへと簡潔に事のあらましを伝える。まぁ、そんなに大した話でもなかったのだけど。彼女はその話に「気持ちは分かりますわ」とだけ小さく答えると先ほどの分厚い本へと意識を移した。

 

「そんなもんなんですねぇ。あ、そう言えば先輩の新作読みましたよ」

 

 ふと、ピクリと燦然寺さんの表情が動いたのが横目で見て取れた。

 

「お、どうだった?」

「最高でした!」

「そうか!具体的には?」

 

 僕が素直に感想を伝えると先輩はキラキラとした表情でこちらに続きを促してくる。

 

「そりゃあもうあのキスから押し倒すところまでの流れですよ!」

「だろうなぁ!エリカに手伝って貰った甲斐があったわ。流石に胸の大きさまでは再現できなかったけどな」

「それ、エリカさんに絶対に言っちゃだめですよ」

 

 僕は先輩の彼女であるエリカさんの姿を思い浮かべ一瞬何とも言えない表情を浮かべてしまう。綺麗な人ではあるけれど、先輩の作品のヒロインと違ってスレンダーだもんな、エリカさん。

 

「しかもそこから胸へ手を伸ばすまでの主人公の葛藤がすごい共感できてですね」

「お前童貞だろうがっ」

「いやぁそう言えばそうでしたぁ~!」

 

 そう、越智先輩の”とあるジャンル”とは所謂R-18のオリジナル作品である。その中でも青少年たちのピュアなラブストーリをメインにしている彼は一部の層から神とも崇められているとか……。

 その後も先輩の作品への感想で盛り上がる僕と先輩。そんな時、ふと「バンッ」というこの場に似つかわしくない大きい音が室内に響いた。

 

「……っですわ」

 

 見ればそこには先ほどまで手に取っていた本をパタリと閉じ、顔を真っ赤にしながらプルプルと震えている燦然寺さんの姿。

 

「じょ、女性の前でエッチですわっ!」

 

 そこで僕は彼女の存在を思い出す。盛り上がりすぎて燦然寺さんがいたことをすっかり忘れてしまっていたのだ。

 

「ま、待って燦然寺さん」

「待ちませんっ」

「でも、考えてみてよ、源氏物語だって内容だけを言えばあの当時のただの官の」

「言わせませんわっ!」

「じゃあ松野、後よろしくな」

「先輩は見捨てないでくださいっ!」

 

 逃げるようにこの場を去ろうとする越智先輩の手をがっちりとホールドにかかる。

 

「はぁ……お前の顔に免じて残ってやるよ」

 

 僕の祈りが通じたのか静かに元の場所へと腰を下ろす先輩。よかった……。ところで僕、そんなに酷い顔してたんですかね。

 

「べ、別にそういうジャンルがあるのは認めてますけど……」

「燈華も書くか?R-18」

「ふぇっ!?」

「えっ!?」

 

 先輩の思わぬ提案に燦然寺さんだけでなく僕まで変な声を上げてしまう。

 

「そ、そんな私は」

「R-18はな……伸びるぞ」

 

 ふと、燦然寺さんの表情が変化したのが分かった。揺らいだな、今。物書きとしての心が揺らいだ。

 

「でも、その、あの、わたくしそういう経験は……」

 

 ……ないんだ、そういう経験。べ、別に嬉しくなんてないんだかんねっ!

 

「別に要らねぇだろ。それを言うなら剣と魔法の世界になんて行ったことある奴なんていねぇんだから」

「まぁ、それはそうですけども」

 

 それでも燦然寺さんは複雑な表情を浮かべていた。

 

「知っている方がそういう事を書いているなんてあまり知りたくありませんわ……」

「まぁな。でも、俺別垢あるぞ?」

 

 越智先輩の衝撃の告白に燦然寺さんはぽかんとした表情を浮かべた。その告白に驚いたのは何も彼女だけではなく……。

 

「先輩、別垢あるんですかっ!?」

 

 僕もご多分に漏れず驚いていたのだった。

 

「まぁ、普段の垢じゃ書けないようなエロエロなことをな」

「それも参考のためにエリカさんにしてるんですかっ!?」

「エリカにはしてねぇよ!」

「には!?にはってなんですか!?エロエロなこと専門な別の女性が」

「いねぇよ!言葉の綾だ!とにかくな……、別にエロとは言わんが、いろんなものが書けるようになっといた方はいいと思うぞ」

 

 「それに」と続けた先輩は最後にとどめを刺すように燦然寺さんへとある言葉を吐く。

 

「R-18はな……伸びるぞ」

「くっ……」

 

 

 後日、燦然寺さんの作品には結構過激なキスシーンが描かれていた。ああ、だからR-15タグが付いてたのか。

 ……如何わしい妄想をしてしまった僕を、誰か殴ってはくれないだろうか。

 

 




そのためのR-15タグ。

みんなブクマと感想欲しいもんな。
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