燦然寺さんは人気者だ。
容姿端麗、学業優秀のまさに歩く才色兼備は嫌でもこんないち中堅大学のキャンパス内では目立ってしまう。歩くだけでも大勢の視線を集めてしまうらしい。
そんな環境だと、当然ながらキャンパス内で彼女が息を抜けるような場所なんて言うのは限られており―
「ここがやっぱり一番ですわ」
こうしておなじみの部室に自然と足を運ぶことになるのだとか。
「お疲れ様」
「全くですわ」
部室棟の入り口でばったりと出会った時、彼女は何となくいつものキラキラとした表情を忘れ、どこかやつれたような顔を浮かべていた。
聞けばここに来る直前の授業でまさかのグループディスカッションが行われ、彼女と一緒の班になりたい男共が班決めで揉めに揉めたらしい。
「専門科目でもそんな感じなんだね……」
記憶に蘇るのは2日前の教養科目。この授業は唯一1週間のカリキュラムの中で僕と燦然寺さんが一緒になる科目だ。その最初の授業の時のこと。親しい友人と時間割の関係で別々になった彼女の姿が先に教場についていた僕には目に入った。
一人の彼女がいったいどの場所に座るのか。その空間に居合わせた全ての学生が彼女の一挙手一投足に注目した瞬間だった。
「そうです、人文地理は松野君がいてくれて本当に良かったですわ」
どこか不安そうな表情でキョロキョロと周りを数秒ほど見渡すとすぐに僕の存在に気づく。
嬉しそうな、それでいてどこかほっとしたような表情でこちらへと小さく手を振りながら近づいてくる彼女。それと同時に僕へと襲い来るあまりにも膨大な嫉妬と殺意。
あの時は本当に世界を全部敵に回したかのような気分を味わったものだ。
「あれしか一緒じゃないからね、数少ない手を差し伸べられる機会ぐらいは逃したくないから」
「そ、そうですの」
僕の言葉にどこか不服なところがあったのか、彼女はその答えを聞くと同時にぷいと僕の方から顔を背けた。
「法学部は大変そうだね」
「レポート課題が多くて困りものですわ」
先ほどのやり取りで察した方もいるだろうが、僕と彼女は学部が違う。僕が経済学部なのに対して燦然寺さんは法学部に属している。
初めてそれを聞いたときはそのお堅い雰囲気がなんとなく似合ってて思わず納得してしまったものだ。
今となってはそんなことはないのだけれど。
「……どうしたんですの?」
「いや、法学部は大変そうだなって思って」
「隣の芝生は青く見えるものですわ。経済学部も大変そうですわ」
そう言って彼女は疲れたようにふっと笑った。そういう表情もいちいち綺麗だ。
「隣の芝生は青く見える、と言えば」
ふと、燦然寺さんは何かを思いついたかのような顔を浮かべる。
「二次創作とオリジナルってございますでしょう」
「また突然な話題転換だね」
「突然って程ではありませんわ。私はほら、二次創作しか書きませんので」
「そう言えばそうだね」
燦然寺さんは彼女が口にしたようにアニメやゲームの二次創作しか書かない。「書きたいネタが沢山あるからそんなキャパシティはない」なんて以前は言っていたけれど今はどうなんだろうか。
「投稿サイトの雰囲気もそれによって別れてるところがあったりするよね」
「ですわね。たまにオリジナルを書いている方に憧れたりしますわ」
「そうなの?」
「ええ、だってあまりにも自由ではないですか」
「原作のあるものはあくまでも原作が根っこだからね。世界観とかキャラデザとかには流石に介入できないもん」
「たまに壊れてる作品もありますけどね」
「それはご愛敬ってことで」
僕の言葉が面白かったのか燦然寺さんはふふっ、と小さく声を出して笑った。西日に照らされた彼女の横顔に思わず見惚れているとふとそんな彼女と視線が交わる。
「どうかいたしました?」
柔らかい微笑みに言葉にならないむずがゆさを覚えてしまい思わず視線を逸らしてしまう。
「や、あの、それで、それだけ?」
「いえ、ただちょっとそう感じただけですわ」
「そ、そうなんだ。そう言えば、勝手なイメージだけど閲覧数の多いオリジナル作品ってタイトルが奇抜だったりするよね」
「それは分かりますわ。文章みたいなタイトル多いですわよね」
「あれはなんなんだろうね」
思わず何かを口にしなければという義務感にかられて何とも言えない話題を選んでしまう。
「面白い着眼点かもしれませんわね。二次創作よりもそういうタイトルの付け方が目立つような気がしますわ」
「だよね」
脳裏にはいくつかの小説投稿サイトのホーム画面のレイアウトが頭に浮かんでは消えていく。
『執筆者になるよ』のランキングに並ぶ作品名なんか、特にそういうイメージがあるな。近年では「なるよ系」なんて呼ばれ方をされている作品群もその傾向が強い。
「思うにオリジナルは二次創作以上にタイトルのインパクトが必要なのかもしれませんわ」
「確かに気になるタイトルだったら思わず作品詳細まで飛んじゃうかも」
「ですわよね。どういう意味が込められているのか不明なタイトルから作品詳細まで飛ぶ読者なんて稀有なものですわ。だからこそタイトルに作品の概要をざっくりと書いちゃうのですわ」
「なるほど「最近ツンデレ系幼馴染が―」なんてタイトルだったら何となくヒロインが予想つくもんね」
それで自分の好みに合ってそうな作品名だったらそのまま作品詳細まで飛んでそのまま本編へ……って訳かぁ。確かに沢山の作品の中から好みのものを見つけるための基準としては分かりやすいのかも。
「逆に二次創作だと台詞形式の作品もありますから、それがタイトルにまで流用されることがありますわ」
「例えば?」
燈華「物書き系お嬢様は語りたい」
晋作「メタいメタい。って僕にも感染してる!?」
書式にも介入してくるのかこのお嬢様はっ!規格外にもほどがあるぞ!
「っという具合に誰が主役の二次創作なのか、この形式だとわかりやすいですわね。それに、ジャンルの区分がオリジナルとはまた違いますし」
「というと?」
「松野君はオリジナルのジャンルと言われるとどんなもので区分されているイメージがありますか?」
「えっと、ラブコメとか異世界転生とか、後はSFとかもそうかも」
「二次創作は?」
「原作名やキャラ名……あ、そういうことか」
「そういうことです。オリジナルだと登場キャラをジャンルだけだと絞れません。例えるなら中華料理屋に行ったはいいもののメニューは出てくるまで分からない状態ですわ」
「逆に二次創作はラーメン屋が立ち並ぶ場所に行って、そこから好みのラーメンを選ぶ感じだね」
「そういう事ですわ。という風に例えてみましたが私たちの技量ではこれがめいっぱい。後は読者の脳内保管で補っていただくことにいたしましょう」
どこまでメタに走れば気が済むんだこの人は。
「画竜点睛なんて言葉がございますけど、書き手の一人としてはタイトルを付ける作業って実は一番楽しみな作業ですの」
「そういう話を聞いちゃうと作品のタイトルを見る目も少し変わってくるね!」
思わず手が伸びちゃうようなタイトルかぁ。そういう惹きつけ方もあるものなのか。
「ですので、私たちの日常も誰かに見てもらえるようなタイトルが必要なのですわ!」
「見て貰う必要ある?」
何となくわかってるけど、あまりにもキラキラとした目で燦然寺さんがこちらを見つめているからここは聞いてあげるか。
「じゃあ仮に、この物語に名前を付けるなら?」
「『カンペキ美少女お嬢様と読むネット小説のススメ』」
「うーん傲慢」
ここに後書きを入力。