ゾンビハンターはゾンビ妻に溺愛しているそうです   作:荒北龍

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お帰りと言われただけで嬉死するゾンビハンターどう思う?

 

 

 

 

「またお前か!いい加減にしろ!!お前と言うやつはなんでいつも──!!」

 

僕の名前は蔵節(くらふし) 長門(ながと)。職業ゾンビハンターで、好きな物は僕の妻。今日もウザイ上司になぜあの時ゾンビをもっと殺さなかったのかとか、なぜ取り逃したのだと説教されてます。

もう100年近く前に、ゾンビが突然発生。

発生原因は誰にもわかっていないし、ゾンビ映画みたいに異常なほど沢山のゾンビが現れる訳でもない。たまに街中や路地裏、または家の中でゾンビが現れて人を襲う程度。

そのゾンビを僕みたいなゾンビハンターが殺すのだ。

 

「聞いているのか貴様!!!」

「··········るっせぇな」

 

今日は僕がゾンビを1匹逃がしちゃったんだ。だからあんまり文句は言えない。

 

「そもそもなぜあの時ゾンビを取り逃した!」

「俺の最愛の妻が初めて電話してくれたから嬉しくて長電話しちゃいました」

「それで逃がしたならただの馬鹿だな!?!?」

「てへぺろ(ノ≧ڡ≦)☆」

「殺すぞてめぇ」

 

と、上司のキレのあるツッコミをする。僕は相変わらずそっぽを向いて、「彼女(・・)は元気かなぁ··········」と上司の説教も右から左だ。

 

「長門さんまた怒られてますね」

「腕は確かなんだがなぁ···············」

 

 

 

 

§

 

 

 

 

「ただいまあぁぁぁ」

 

俺は玄関の扉を開けると、そのまま床にゆっくりと倒れてうつ伏せになる。

すると、奥から腐った血肉の匂いと、呻き声と共に、ひたり、ひたりと素足でゆっくりと何かが近づいてくる足音。そして長門が起き上がり、部屋の奥に視線を向けた時、足音の正体は顔を出す。

 

「う"アァあぁー〜··········」

 

腐って変色した血肉に、所々に目立つ縫い合わされている体に、この世のものとは思えない呻き声。服は普通で、その上にハートマークが描かれたエプロンを付けて服装は普通の新婚生活を始めたばかりの、気合いの入った妻がするよな服装だが、それはどう見ても女性のゾンビである。

 

「ただいま、千陽(ちはる)

 

長門は千陽と呼ぶこのゾンビに恐怖したり、警戒する様子はなく、また千陽と呼ばれるゾンビも長門の前でピタリと止まり、なにかする訳でもなく、「あ"〜〜ー··········」っと呻くばかりで、長門を襲うようすはない。

それもそのはず。何せこの二人は、形だけとは言え、"夫婦"なのだから。

 

「あがぁ〜ー··········」

「やっぱりお帰りはまだ言えないかぁ··········」

 

長門はそう言うと、どこかガッカリした様子で千陽の腹部に顔をうずくめる。

そもそもゾンビが喋れないのは、脳にウイルスが侵食し、その脳内の仕組みをめちゃくちゃにするため、ゾンビは言語が分からず、ただ意味もなく呻き声を上げているだけ。人を襲うのもそれが原因と言われているが、人を襲うのは言わば本能的なものと言う説も上がっている。

 

「あ"ーー?」

 

そんな夫の様子を見て、千陽は首を傾げる。

 

「あのクソ上司マジでウザくてさぁ。小一時間も説教されて耳にたこができるかとおもったよ。ねぇ、慰めてくれない?」

 

そう冗談半分に笑いながら、再び妻の懐に顔をグリグリと押し付ける。

そもそもこの二人は夫婦と言っても、長門がこのゾンビを好きなだけで、このゾンビが長門を好きだとは限らない。彼女はたまたまこの男を襲わないだけで、結婚もほとんど長門の強引なもの。未だ言葉を理解しているとは思えないし、自分を襲うか分からないと言うのに、この男はそれを重々承知した上でソンビと結婚して、同棲している。

 

それでも長門は、自分の好意や言葉は彼女に伝わっていないと何度も心の中で思う時がある。

そうやって今もそんなことを思いながら、少しがっかりした気持ちでいると、自分の頭に冷たい土塊のような何かが乗っかっているような気がした。

そして不意に妻の千陽の顔を見上げると

 

「おが·····え゛······り゛、きょう゛も゛、がんば、つだね···············」

「え」

 

それは、自分の頭を優しく撫でながら、とてもぎこちない笑顔で笑っている妻だった。

そうして千陽はすぐに回れ右をして、ゆっくりと台所に向かっていった。その足取りはも、動きも、普通のゾンビその物だが、見間違えか、ほんのり耳が紅くなっているように見えた

 

たまに、本当にたまにだけど、彼女がこんなふうに思わせぶりな態度を取っている。

だから自分はゾンビハンターでありながら、ゾンビの妻、千陽に溺愛してしまう。

 

 

 

※この後長門は嬉死(うれし)した。


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