最近急激な温度差によって喉が痛いです。
それでは、どうぞ。
「えっと………お騒がせしました」
どうも兵藤一瀬です。
忘れていたけどここは多くの人がいるトレーニングルームなので、彼らは一部始終を見ていたのです。
なので、かなり騒いでしまったと思い、頭を下げた。
アザゼルさんも謝ってくれたけど、ヴァーリ君はどこか偉そうにしていた。
なんで?
後から聞いた話だけど、ヴァーリ君は既に強い堕天使よりも強いらしい。
アザゼルさんや他の幹部方達にも引けを取らないという。
凄いんだね。
ちなみに、あの後はアザゼルさんが原因だったらしいので、ヴァーリ君提案の元、アザゼルさんに一回だけ何でも言うことをきかせる権利を貰った。
う~ん、アザゼルさんのせいだとは思えないんだけど…………ヴァーリ君から言いくるめられて、それで今回の件は治まりまることになりました。
それで、これからどうするのかというと……………
「ヴァーリ君に付いていく?」
「おう。そして、少し自分がどういう存在か学んでこい」
「おい、アザゼル」
「問題ないだろ?どうせトレーニングか模擬戦か勉強しかやんないんだから。息抜きついでに色々と教えてやってくれ」
「はぁ………。仕方ないな。分かったよ」
今日だけヴァーリ君は私の教師代わりをやってくれるそうで、最初は不満気味だったけど、アザゼルさんの説得で承諾してくれた。
それから私たちは部屋を出て、アザゼルさんと分かれた後にヴァーリ君が話してくれました。
「まず、一つ聞くが…………何も知らないんだな?」
「はい」
「なら、お前のことから知ってもらおうか」
「私?」
「そうだ。まず、
ーーーーー簡単に纏めると、神器というのは聖書の神ヤハウェが創り出した人間のためだけの兵器のような物で、それぞれが人外に対抗できる手段を持っているが、まだ全容は把握仕切れていないらしい。
未だに新種が見つかることもあるって。
それで、その中でも比べものにならないほどの力を持ったのが、
だけど、その力を極めれば文字通り、神さまを倒せるとのこと。
私が持っている
私のは10秒毎に能力を倍加させるらしく、ヴァーリ君なは10秒毎に相手の能力を半減させるらしい。
ここで思ったのが、まるで正反対だということ。
お互いが戦ったら平行線になるのではないかと考えたけど、正解みたい。
「その通りだ。昔から赤龍帝と白龍皇はその能力故に因果が働き、ほとんどの歴代の者達もお互いに争っては自滅していった」
「じゃあ……………私たちも戦わないといけないの……?」
その答えを聞き、肯定してくれたヴァーリ君に私はそう聞く。
なら、ここで私たちが戦ってもおかしくはない…ということになる。
ヴァーリ君は常にトレーニングをしているのに対して、私は昨日ここに来たばかりで…………最弱と言っても良いかもしれない。
もしそうなったら、何をどうしようと私は死ぬ。
しかし、ヴァーリ君はそんな私の不安を鼻で笑った。
「フン。安心しろ。ここに来たなら戦っても良いだろうが、殺しはしないさ。………そうすると、俺が殺される………」
最後の方になんて言ったか分からなかったけど、彼は私を殺すつもりは無いらしい。
考えてみれば、必ず殺す必要は無いんだ。
だけど、後から聞いた話では彼は戦闘狂という強い者と戦うのが好きなので、弱者である私と戦うことに興味が無かったらしいのと、当時のヴァーリ君はアザゼルに私を殺さないように釘を刺されてたらしい。
それより、それからは色々教えられた。
白龍皇の光翼は半減した能力を吸収できたり、私の赤龍帝の籠手は倍加した能力を他人や物に譲渡できたり、堕天使の構成や他にはどんな神話体系があるかなど。
特に、彼が活き活きしていたのは、他の組織や神話体系の強い人達について語る時だった。
北欧神話の………トール、だったかな…。
その人は世界でもトップ10に入るほど強く、雷を自在に操れるらしい。
他にもいくつかあり、せいてん……なんとかの孫悟空とか、日本神話のスサノオやインド神話のシヴァ、ギリシャ神話のゼウスだったり、色んな強い人を教えて貰った。
何となく察してたけど…………戦うのが好きなんだなーと思う。
私は喧嘩はしたことあるけど、あまり楽しいと思ったことは無い。
どちらかと言えば、私は誰かを護るために必死になっていただけ…。
数人がかりで一人を虐めるのが許せなく、それを追い払う感じでやっていて、あまり記憶はない。
だけど、ヴァーリ君はそれを楽しいと思えるのは、少し羨ましいと思う。
私は女の子で、男の子達より力が弱いからその場にあるものを使ってでしか渡り合えなかった。
さっき、アザゼルさんから戦争をしたって聞いたけど………もしかしたらまた戦争が起こって、彼もいつか戦争に出るのかな…。
私は何故かそれが物凄く不安だった…………。
そうやって…………ヴァーリ君ーーーー時々アルビオン又はドライグーーーーから色々と教えて貰い、1日が終わろうとしてヴァーリ君とは夕飯の時間になって指定された部屋に行こうとした時、彼から一つ質問をされた。
「……お前はどうしたい?」
「えっと………何が……?」
「お前に宿るその力は己に破滅を齎す。このまま生きるというのなら、お前の人生はきっと波乱に満ちるだろう。それでも…………お前は生きたいか?」
私はこの時、あまりこの言葉の意味を理解していなかった。
けれど、私が言ったこの言葉は間違ってなかったと未来永劫思うだろう。
「私は生きたい。大切な人達を守るために。お母さんとお父さんには捨てられたけど…………………それでも大切だと思ってるし、アザゼルさんやヴァーリ君も大切な人だと思ってるよ。だから私は、そんな人達を守りたい」
『ふっ。今代の相棒は随分と優しいもんだ』
ドライグが少し呆れたように言うけど、変なことは言っていない……………と思う、たぶん。
その言葉に、ヴァーリ君はちょっと驚いた顔をしたけど、またぶっきら棒な顔に戻って、「そうか………」と呟いてどこかに行ってしまった。
あれ?
ご飯は食べないの………?
◇◇◇
ヴァーリ………いや、ヴァーリ・ルシファーは
すれ違う堕天使は彼に嫉妬や恐怖といった様々な感情を見せ、足早に去って行く。
しかし、彼はそんな事はどうでもよかった。
慣れたというのも一つの原因だろうが、今はそれよりも頭の中を支配するものがあった。
それは先程まで一緒にいた少女の言葉。
『私は生きたい。大切な人達を守るために。お母さんとお父さんには捨てられたけど…………………それでも大切だと思ってるし、アザゼルさんやヴァーリ君も大切な人だと思ってるよ。だから私は、そんな人達を守りたい』
『大切』…という言葉は彼にとって理解できない物だった。
彼は前魔王ルシファーの曾孫に当たる存在だが、人間と悪魔のハーフだ。
そんな彼はアザゼルに拾って貰うまで、ずっと家族から虐待を受けていた。
何故、自分がこんな目に遭わなければいけないのか分からなかった、。
だが、ある日逃亡を決意し、運良くアザゼルに拾われたのだ。
そのせいか、彼はいつも無意識的に誰に対しても不信感を持っていた。
アザゼルに拾われて数年経ってやっとアザゼルに不信感を持たなくて済むようになったのだ。
だが、それでもヴァーリにとって『大切』とは成り得なかった。
アルビオンですら仲間とは思ってるが『大切』と思えるほどでは無かった。
だからこそ謎だった。
親に捨てられたという、共通の出自を持った彼女が何故家族を憎まないのか。
どうして彼女の言葉がここまで印象に残ったのか。
本来の家族に一度も『大切』にしてもらえなかったヴァーリには分からないし、一度も家族がいなかった相棒であるアルビオンも分からない。
恐らく、ヴァーリと一瀬の違いはそこなのだろう。
一瀬は親に『大切』に育てられてる時に絶望がやって来たのに対し、ヴァーリは最初から絶望を味わっていた。
この違いはあまりにも大きい。
ヴァーリと一瀬が同じ考えになることはないだろう。
だが、思考が違うからといって答えが違うとは限らない。
世の中には答えに辿り着くまでには幾つもの道がある。
彼がそれを理解するのは、そう遠くない。