「人間の姿を守護者達が受け入れてくれるかが問題ですね。」
基本的にナザリックのNPCはアインズ・ウール・ゴウンのメンバーを神聖視して、反対に人間を下等生物と見下している。
正直彼らがどういう対応を取るか分からない。
なので、今は
「ええ。ですがこのまま隠し通せるとも思いません。
先ずはパンドラズ・アクターとソリュシャンに話を聞いてみますか?」
なるほど、NPC達はアインズ・ウール・ゴウンのメンバーの中でも自身を作ったメンバーを第1に考える傾向があるらしい。
つまり、俺の作ったソリュシャン(と一般メイド)、モモンガさんの作ったパンドラズ・アクター彼らが俺達を受け入れない場合、他のNPCも無理という事だ。
モモンがさんは執務室に設置されているベルで外にいるメイドを呼び出す。
「パンドラズ・アクターとソリュシャンに此処へ来るよう通達してくれ。」
「モモォンガ様!! ヘロヘロ様! 宝物殿領域守護者、パンドラズ・アァクタァー↑ ――――御身の前に」
やっぱりパンドラズ・アクター仰々しい振る舞いで挨拶してくる。
たった一言なのに、モモンガさんは2回も精神が沈静化されていたし。
「ヘロヘロ様、モモンガ様。戦闘メイドプレアデスが一人、ソリュシャン・イプシロン、御身の前に。」
「おぉぉ! 麗しきレイディ。お初にお目にかかります、わたくしはパンドラズ・アクターと申します。」
「え、えぇ……。こちらこそよろしくお願いしますわ。」
パンドラズ・アクターの振る舞いや言動にソリュシャンも苦笑いを隠せないようだ。
あ、またモモンガさん沈静化した。
「ゴホン! パンドラズ・アクター、そういうのは後にするように。
まずは、私達の呼びかけに応じてくれてご苦労だった。」
2人は滅相も御座いませんと謙遜する。
ここまではいつも通りだ。
「キミ達2人を呼んだのは、俺達2人の今後を左右する大事な話をするためだ。
難しいことを頼むわけじゃない。俺達の話しを聞いて率直な感想を述べてほしい。」
俺は目線でモモンガさんに合図する。
そして、異形種から人間種へと変化してく。
「俺達は異形種だけでなく人間種でもある。
ナザリックの者達は人間に対してあまりいい感情を持っていないだろう?
俺達の今の姿に対して負の感情はあるか?」
しばし沈黙が流れ、パンドラズ・アクターが口を開く。
「至高の御方々がどう思っての行動かは把握しかねます。
ですが、我々はどのような御姿を取ろうとも、我々は至高の御方々のために存在するという心に微塵の変化も御座いません。」
「そうか、この姿でいることが多くてもか?」
「はい。
御方々の相談相手として我々を選んでくださった事、光栄でこそあれ負の感情は一切御座いません。」
(パンドラズ・アクターって普通に会話することもできるんだ)
ソリュシャンも同じ気持ちのようだ。
「わたくし達プレアデスも人の形を取る事ができるのは、御方々を模して創造されたからだったのですね。
これ程光栄なことは御座いません。」
よかった。俺達の杞憂だったようだ。
「それでは、次はアルベドとデミウルゴスを――――」
「モモンガ様、発言をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ん? いいぞ、パンドラズ・アクター」
「階層守護者の方々には一度に伝えたほうが良いかと存じます。」
「パンドラズ・アクター様! 御方の意に背くなど……!」
パンドラズ・アクターの言葉にソリュシャンが噛み付く。
「ソリュシャン、構わない。
理由を聞いてもいいかな? パンドラズ・アクター。」
「はい。
モモンガ様、ヘロヘロ様。
私達を、ナザリックに属する者達を、
――――もう少し信じてあげてください。」
「ふふふ、ははははっ!
そうだな、パンドラズ・アクター。
そうしよう。では、パンドラズ・アクター、
階層守護者、領域守護者、およびナザリックのNPCを玉座の間に――――
いや、今回は今後の方針の相談もしたい。
階層守護者、セバス、パンドラズ・アクター、プレアデスの面々にしよう。
1時間後に玉座の間に集まるよう手配してくれ。」
「今回はパンドラズ・アクターに一本取られましたね。」
パンドラズ・アクター、ソリュシャンを下がらせた後、俺達は自身の器量が小さかった事を語る。
「ええ、『もう少し信じてほしい』か……
確かに、受け入れられなかったらナザリックを捨てる。そっちの覚悟は出来ていたのに、
分かって貰うまで説得を続ける。そっちの覚悟はなかったなぁ……。」
俺達にとって心を持ったNPCとコミニュケーションを取ったのは数日の間。
でも、NPCにとってナザリックが出来てから、自分たちが作られてからずっと俺達に仕えてきた。
そこに感情の乖離があるのかもしれない。
だが、それは時間で解決できる問題だ。
「それじゃ、今後の大まかな方針と直近の方針を決めてから『玉座の間』に行きましょうか。
今日は長くなるかもしれませんね。」
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「パンドラズ・アクター様。今回は不敬が過ぎませんでしたか?」
自身の持ち場へ戻る道すがら、ソリュシャンはパンドラズ・アクターに質問と批難を投げかける
先ほどの私たちを信じてほしいなど……
気持ちは分からなくも無いが、自分たちは至高の御方々の創造物。
御方々の勅命には私情を挟むことなく遂行する。当然の事だ。
「貴女にはそう見えましたか?」
「はい。」
「ふむ……。では、今回私たち二人が何故呼ばれて、何故私たちにあのような事を仰られたかは分かりますか?」
呼ばれた理由は、私たちがモモンガ様、ヘロヘロ様の創造物だから。
一般メイドにもヘロヘロ様の創造物がいるが、有事の際に戦闘可能故に私たちが選ばれたのだろう。
至高の御方々が人間の姿を取ることがある。
その秘密について二人に最初に打ち明けてくれた理由。
「私たちが御二方の創造物だから、不敬かもしれませんがそう思いたいと。」
「ええ。そうでしょうね。
私達なら何があろうとも受け入れてくれる。そう思って下さった事は至上の幸福と言えましょう。」
「はい。これ程の栄誉は御座いません。」
「ですが裏を返せば、他の者達には言ってよいものかと苦心なされた。そうとも取れます。
恐らくですが、あのお姿になったときは思考や感情が人間寄りになるのかと。
ただ、それと同時に我々の記憶にあるモモンガ様、ヘロヘロ様に近しいとも、そう感じました。」
パンドラズ・アクター、ソリュシャンの記憶にある至高の御方々は、異形種でありながら人間のような行動を取る。
敵対する者は、人間、異形に関わらずそのお力を持って降す。
「御二方は私たちが『人間種』は全て快く思わないかもしれないと、そう思って居られたと。」
確かにナザリックに属さない者を下等と判断する。人間種はその中でも更に下等な存在と思うものは多い。
ソリュシャン、デミウルゴス、シャルティア、ナーベラルはその筆頭だ。
だが、人間種であるアウラやマーレもいる。
ナザリックに属するものは種族に関係なく、同胞といえるのもまた事実。
「ナザリックに属する者達は、至高の御方々がどの様な存在であろうと忠義を捧げるでしょう。
ですが御二方はそうは思っておられなかった。」
「まさか……。それであの様な御言葉を?」
自分たちは記憶にある中で、至高の御方々のお役に立てた記憶が無い。
だからこそ、欠片の役にでも立ちたい。誰もがそう思っている。
だが、今回感じた雰囲気は無力だから信用していない感覚ではなく、
ただ、私たちとの距離感をつかめていない。その様な感覚であった。
「御方々も悩み、苦心する存在であるのでしょう。きっと我々が思い描く至高の御方々とは異なる。」
「しかし、先日までは私達の想像通りの御方でした。」
「それは私達に配慮して下さった演技だったのかもしれません。
ですが、我々には心の内を明かして下さった。
だからこそ、我々がやらなければならない事があります。」
「それが『信じてほしい』ですか?」
「はい。御方々の為になるのでしたら不興を買う覚悟です。
あのまま少数の存在に少しずつ真実を明かしていく。それも悪くありません。
ですが、モモンガ様、ヘロヘロ様は私達をそれほど信じては頂けなかったでしょう。
私達と至高の御方々との認識の乖離が不幸を生む恐れもあります。」
あのままでは、ナザリック内では異形種の御姿を取る事が多かっただろう。
我々が思い描く理想であろうと、心を明かしてはくれないかもしれない。
ナザリックが御二方の枷になってしまうかもしれない。
パンドラズ・アクターはそこに気が付いてしまった。
ならば取るべき行動は決まっている。
我々は御方々の御力になりたい。決して足枷になってはいけないのだ。
「ヘロヘロ様の寵愛を頂きたい貴女にとって、意に背く事を言わなければならないという事は困難なことでしょう。
ですが、御心に寄り添うことが出来たらチャンスはあるかもしれませんよ?」
「そっ、それは!!」
顔を赤くするソリュシャンにパンドラズ・アクターは自身の胸に手を当てお辞儀をする。
「失礼しましたレイディ。それでは私はこちらですので。」
そういってパンドラズ・アクターは自身の守護する宝物殿へと転移していった。
「ヘロヘロ様……」
ソリュシャンは自身の胸に手を当て、身体の中にあるヘロヘロ使用済みのタオルを感じていた。
なんとなくパンドラズ・アクターはナザリック、アインズ・ウール・ゴウンの為というより、モモンガ個人の為に行動しているような気がして。