モモンガとヘロヘロが退出した玉座の間には、アルベド達階層守護者、セバス達プレアデス、そしてパンドラズアクターが残った。
「モモンガ様、カッコ良かったでありんす。
生者の気配と死者の気配を併せ持つなんて……あんなに芳しい芳香になるとは思わなかったでありんす。
下着がびちょびちょになってしまったでありんす♡
も、もちろんヘロヘロ様もかっこよかったでありんすえ。」
余計な事を言うシャルティアにデミウルゴスはこめかみを押さえ、シャルティアのことだから仕方ないと自分に言い聞かせる。
「まさに種族の差など些細な事。それを認識する事ができた素晴らしき日です。」
「そうねデミウルゴス。種族など些細な事。ぐふふ……」
色ボケするアルベドとシャルティアを置いておいて、デミウルゴスは話を進めようと会話の舵を取る。
「私とアルベドの認識は少し違う気もしますが……まぁ、いいでしょう。
それより皆さん、モモンガ様の御言葉は覚えているね?」
「勿論ダ。モモンガ様ノ御言葉ヲ覚エテオラヌ者等、コノ場ニハ居ナイ。」
フシューと氷の息を吐きコキュートスが応える。
「それは良かった。だが、御言葉の通りに勅命を全うするだけではいけない。
協力して事に当たれ。
つまりモモンガ様、ヘロヘロ様の深遠なるお考えの一端でもご理解し、皆と共有し私達に上げられる最大の成果をご報告する事。
それを御方々は望んでおられる。」
「デミウルゴスさん。モモンガ様から与えられた勅命には複数の目的があるということですか?」
おずおずとマーレが手を上げてデミウルゴスに質問する。
「その通りですマーレ。理解が早くて助かります。
まず、究極目標は至高の御方々の住まわれる世界にモモンガ様、ヘロヘロ様をお連れする事。
そして私達も次元を超えて、至高の御方々に御仕えしに行く事。
ですが、モモンガ様たちですら手立てを模索している程に困難な事ゆえ、これは一旦保留にすべきです。
次に長期目標の武力に寄らないナザリックとこの世界との関わり方です。」
「そこだけどさー、デミウルゴス。アタシ達って戦力として御方々に創られたわけじゃん?
モモンガ様、ヘロヘロ様の御期待に沿えられるかな?」
いつもの口調と変わらないアウラではあったが、経験が無いが故に期待に応えられず失望されないか不安の色を隠せない。
「そこまで身構える必要はないと思うよ、アウラ。
ナザリックに、至高の御方々に忠誠を誓う、崇拝する者達には慈悲を与える。
そのスタンスで問題ないと思います。
人間であれば私やセバス、獣、獣人であればアウラのほうが適任でしょう。
各自得意とする事で協力すれば、不可能ではないと判断します。」
「なるほどね。それだったらアタシにも出来そうだよ。」
「えぇ、頼みますよ。
この武力を用いず属性としては『善』寄りで動く事には、モモンガ様達の御心と私達への慈悲、2つの意図が存在します。」
「どういうことでありんす?」
「まず、以前の世界で私達ナザリックは『悪』として存在していましたね。」
「そうでありんすね。」
「この世界で『善』として活動していた場合、ユグドラシルプレイヤーの目にはどう映ると思いますか?」
「別の組織か、何かを企んでいると思うでありんすか?」
「そうです。そう感じたプレイヤーは秘密裏に探ろうとするか、声高に我々を糾弾するでしょう。」
「ナルホド、プレイヤーヲ炙リダストイウワケカ。」
「はい。調査能力に長けたアウラでも、世界中を調べつくすのは大変でしょうし隠れられたら探すのも一苦労です。
ですが向こうにアクションを起こさせる事で尻尾を掴み易くします。
また、至高の御方々を崇拝する住人たちが情報を貢ぎに来る可能性もあります。」
「確かにカルネ村の村人たちは救世主であるモモンガ様、ヘロヘロ様を英雄の様に崇めていたわね。
彼らなら至高の御方々を嗅ぎ回っているヤツを発見した場合、報告に来る可能性は十分にあるわ。」
「現場を見てきたアルベドがそういうのでしたら間違いないでしょう。
つまり、最小限の労力で敵対勢力を炙りだす。
そしてもう一つ、この世界の強者たちと戦う場合、我々が『善』として活動してきた場合、情報操作により相手を強制的に『悪』とする事が可能になります。
仮に相手が『善』だったとしても、第3者は『中立』となる可能性が極めて高くなる。」
「多方面に戦線を築かない様に出来るんですね。
一対一なら絶対にナザリックが勝利するもんね。お姉ちゃん。」
「そうだねマーレ。モモンガ様、ヘロヘロ様はナザリックの消耗を考えて下さっていたんだね。」
「この世界でも敵となる者は必ず現れるでしょう。
その時にナザリックの有利になるように事を運ぶ。
その下地をお創りになるのでしょう。
それに、この世界の住人すべてが至高の御方の威光に触れ平伏す。悪くないとは思いませんか?」
「この世界は至高の御方の威光をそして、慈悲深さをしらないわ。
それを啓蒙するのも私達の役目よ。」
「ナルホド、私達ハ伝道師トイウ役割モ担ッテイルノカ」
「そうだね、コキュートス。大目標として私が現状推察できたのはこれくらいです。
アルベド、パンドラズ・アクター、知者として作られた御二方は、他の意見はあるでしょうか?」
「いいえ。私も同じ結論よ」
「わたくしも、守護者統括殿と同じでゴザイマスッ!」
パンドラズ・アクターはビシッっと音が鳴りそうなほどに勢い良く敬礼をして答える。
一瞬、場の雰囲気が固まりこの話は終了した。そんな空気となった。
「そ、そうですか……。それは良かった。」
デミウルゴスは眼鏡が少しずり落ちたのを元に戻し、再び会話の舵を取る。
「ここからは直近の方針の話に入りましょう。
1つ、カルネ村のテコいれ。
1つ、トブの大森林の調査。
そして、ナザリック周囲を広げる様に探索。
ナザリック防衛に関してはシャルティアを指名した理由を除いては額面通りの意図で間違ってはないでしょう。
先ずはカルネ村。
これには2つの目的があります。」
「え? 3つではなくて?
……ごめんなさい、ひとつ伝え忘れていたわ。」
アルベドはモモンガたちが金策を練っていた事を皆に伝えていない事を謝罪した。
「なるほど、そうでしたら確かに3つですね。」
「3つもあるのですか? デミウルゴス様」
人間が関わってくるのもあって、セバスがデミウルゴスに尋ねる。
「そうだよセバス。人間を悪いように扱うわけではないから安心してくれ。
1つ目はカルネ村の住人を使って、この世界での強化――――レベルアップと至高の御方が仰っているものを行えるか、変化があるかを確認します。
これはナザリックの自動POPである程度までであれば、ナザリックに損失なく行えるでしょう。
一度に多数のアンデッドを送るためにもシャルティア、キミがナザリックの防衛を任務として与えられたのだろうね。」
「ゲートでありんすね。
そしてナザリックで自動POPが一番多いのもアンデッド。まさしく私の領分でありんすえ。」
シャルティアは自分が余り頭がよくない為留守番かもしれないと少し気落ちをしていたが、
理由があって防衛が適任と判断されたのならば、嬉しさもひとしおというものだ。
もちろん防衛任務も大切であるということは分かるが、自分も外に出て至高の御方のお役に立ちたかったからだ。
「2つ目はナザリック強化計画の一環だね。こちらは確証があるわけではありませんが、一般メイドなどのレベルが低いNPC達の強化を行います。
仮にレベルアップが出来たとしても、一度レベルが上がると下げることは出来ないみたいだからね。
いきなり一般メイドで試すわけにはいかないという事でしょう。
それにカルネ村の住人みたく、ナザリックのPOPモンスターではレベルは上がらないでしょう。
同じ組織に属しているのですから当然ですね。
そこで、トブの大森林が必要となるわけです。」
「もしかして、森林内のモンスターでレベルアップするんですか?」
「その通りだよマーレ。ダミーナザリックはNPCのトレーニング拠点としての側面も持つのだろうね。
だから適度にモンスターを狩れそうな地区も条件に入れてくれると助かります。」
「わ、わかりました。モンスターが繁殖し易そうな地形を作ったほうが良いってことですよね?」
「ええ。マーレの持つ魔法とスキルならば困難ではないでしょう。
そして3つ目。こちらもトブの大森林と密接の関わるのですが、簡単に言うと金策ですね。
トブの大森林は人類未踏の地。
周辺国家には無い薬草や毛皮などの素材が収集できるでしょう。
これをカルネ村を経由して商人に売りつけます。
そして、商人には2種類の存在がいます。
有益な情報を仕入れる使える商人。そして
この世界の金銭を得ると同時に『善』としての活動も行うことが出来ます。」
「お金ならナザリックに金貨が大量にありんすえ?
あ、至高の御方の物でありんすから、モモンガ様とヘロヘロ様以外使えないでありんすね。」
「いいえ、シャルティア。問題はそこではないわ。
ナザリックの金貨を使用した場合、それはここにユグドラシルに関係するものが存在する事を外部に知らせるのと同義なの。
ナザリックが『善』としての立ち位置を確立すれば問題はないのだけれど、今は不要に情報を外に漏らす意味はないわ。」
「なるほどでありんす。
それにしても、やる事は3つだと思いんしたのに、やる事がいっぱいありんすね。」
「流石は至高の御方。1つの手で幾重にも布石を打つ。我々も見習わなければならないね。」
うんうんと全員が頷く。
「さて次はトブの大森林の調査だね。
これはダミーナザリックの建築、NPCのトレーニング、金策のための素材、そして、実効支配による領土の獲得だね。
これは、ナザリックで今後行われるであろう実験を行う場所として、他者の存在が少ないこの場所が現状適任なのだろうね。
ナザリック内で様々な実験を行うには、適さないものをここで行うのでしょう。例えば地形を変えたりする場合、ナザリック内では行えませんしね。」
「たくさんあるね。お姉ちゃん、セバスさん。」
「全ての項目でモモンガ様、ヘロヘロ様の御期待に沿えるかは正直自信が御座いません。
ですが、このセバス粉骨砕身の意気で――――」
「セバス。一人で気負ってはいけませんよ。
我々は協力して事に当たる。アウラにマーレそして私達も居るのです。
何かあれば力になります。」
「有難う御座いますデミウルゴス様。少し気負い過ぎておりました。
アウラ様、マーレ様。あなた方が十全に能力を発揮できるようサポートする事が恐らく私の役目でしょう。
必要なことがあれば何なりとお申し付け下さい。」
「わかったよセバス。そのときはよろしく頼むね!」
「お、お願いします。セバスさん。」
正直デミウルゴスとセバスの相性は悪い。
だが、至高の御方が協力して事に当たれと命じたのだ。
そこに私情を挟むなど愚かの極み。デミウルゴスもセバスも重々理解している。
だからこそ、デミウルゴスは助け舟を出すし、セバスも素直に受け取ったのだ。
「そして、最後の周辺探索。
私とコキュートスが任されましたが、アウラ、マーレ。貴方達の第6階層にPOPするLv30以下のシモベたちを使わせては頂けませんか?」
「いーよ。アタシたちは探索に使えるシモベたちにレベルの上限が無いし。
弱い子達はお留守番の予定だったし。」
「獣系、虫系のシモベだと、外に居てもナザリック産のモンスターだと分からないからですね。
でも、そうするとデミウルゴスさんのシモベは悪魔系だから外に出すのが難しいですよね?」
「そうだねマーレ。
だが、敢えて悪魔系のシモベを外に出すことで役に立つ事もあるのですよ。」
アウラ、マーレはどうすれば役に立つのか考えるが、これだと思えるアイデアが浮かんでこない。
「う~ん、わかんないよデミウルゴス。いったいどうするのさ?」
「それはですね。悪魔系のモンスターに率いられている様に見せる事で、魔神という存在が行動を起こしている様に錯覚させるのですよ。
上位といってもLv50~60くらいの悪魔ですけどね。」
「えっ、でもそうすると、この世界の強者を刺激しちゃうんじゃ……。」
「大丈夫ですよ。陽光聖典から仕入れた情報によると魔神に対しては、我々にとって強者と呼べるほどの存在が動いた事はないそうです。
それに、どういうシナリオかは察する事が出来ませんでしたが、魔神をモモンガ様たちが討伐する事で『善』としての役割、そして魔神が倒された後、悪魔系のシモベを引かせる事で調査の引き際としてのイベントとして使う事も出来ます。」
「なるほど。だからモモンガ様、ヘロヘロ様はデミウルゴスを周辺調査に命じたんだね。」
皆が頷く中、パンドラズ・アクターだけはそうではなかった。
「パンドラズ・アクター? 何か疑問点があるのですか?」
「ええ、悪魔系のシモベを外に出すのは少し気が早いのではないでしょうか?
モモンガ様、ヘロヘロ様は、もう少し情報を得てから行動を決めるように思います。」
「確かに一理あります。ですがそうであるならば、私ではなくアルベドやキミに命じても良かったはずでは?
私に命じたからこそ、このシナリオだと思ったのですが。
ですが、パンドラズ・アクター。キミはモモンガ様によって創られた者。
キミにしか感じ取れない違和感があるのだね?」
アルベドとシャルティアが不機嫌になるのをデミウルゴスは感じるが無視する。
万が一、至高の御方の描くシナリオを汚してしまう事があれば、デミウルゴスは自身の命如きでは罪を償えない。そう思っているからだ。
「モモンガ様は仰られたではありませんか。
『分からないことがあったら連絡してくれ』と。」
「ナルホド。モモンガ様ハ、デミウルゴスガ悩ムデアロウ事ヲ分カッテ居ラレタト。ソウイウコトダナ?パンドラズ・アクター」
「
(何でドイツ語……?)
守護者だけに限らず、プレアデスのメイドたちもそう思うが、
それを聞こうとすると話が長くなりそうな気もしたのでパンドラズ・アクターの言葉に誰も返答しない。
「おぉ!モモンガ様はそこまで読んでおられたとは……。
ありがとうパンドラズ・アクター。私は少し功を焦っていたみたいです。
では、私はモモンガ様の元へ伺います。」
「では私も向かいましょう、デミウルゴス殿。
私にも言葉を発した責任がありますゆえに
そぅっ!セキニンがッ!」
仰々しく礼をするパンドラズ・アクターにデミウルゴスは行動が煩いなと思うが、
モモンガ様にそう在れと創られたのだから仕方が無いとも思う。
「そうだな。確かに少し気が早いかもしれんな。
デミウルゴスでも風呂敷を閉じるタイミングを見出せていないのだ、そこまで急くこともないだろう
それと素晴らしいぞ!デミウルゴス!
迷った場合は相談する。私の言葉を直ぐに実行してくれるとはな。
やはりデミウルゴスに最も情報処理が必要となる案件を任せてよかった。
頼むぞ、デミウルゴス。
後、何で居るのだ? パンドラズ・アクター」
モモンガはデミウルゴスの質問に対して、自分の指示にそこまで深く考えていた事に嬉しく思う。
そして自分より遥かに先を見通す事も。
「それは――――」
「モモンガ様の御尊顔を拝見したかっただけです。
ご迷惑――――でしょうか?」
「ん? そうか。まぁ、それなら構わないぞ。」
「ありがとうございマスッ!」
ビシッっと敬礼するパンドラズ・アクターにモモンガは、ハァ……と溜息をついた。
モモンガの執務室から退出し、自身の持ち場へ戻る道すがら――――
「ありがとうパンドラズ・アクター。私は危うく至高の御方々の意に背いてしまう所でした。
先ほどのフォローといい、キミには感謝しかありません。」
「協力して事に当たるのです、お気になさらずにデミウルゴス殿。」
「デミウルゴスで構わないよ。
今まではキミと話す機会あまり無かったからね、これからは親交を深めていこうじゃないか。」
「ぉぉお!!オトモダチですね!
これは歓喜の舞を踊らずには……居られないっ!!」
急に踊りだすパンドラズ・アクターを見つつ
(距離感を掴み辛い御方だ……。)
苦笑いをしつつも悪くないと思うデミウルゴスだった。
後日
パンドラズ・アクターからデミウルゴスの作戦内容を聞いたモモンガとヘロヘロは
「そこまで考えていったのか……」
「一般メイドはワンチャンあるかもとは思ったけど、他は全く考え付かなかったなぁ」
「ホントですか?強がってません?」
「強がってねーし! 一般メイドの1/3は俺が作ったから、Lvアップできずに弱いままじゃ可哀想とは思ってたし!」
「じゃ、そういうことにして置きましょうか。」
「だからーー!」
パンドラズ・アクターは思う。
この様な素敵な時間をいつか我々守護者が共有できる時間が来る様に――――
そのためには、我々守護者の至高の御方に対する神聖視しすぎる精神を変えていかなければと。