プリシラ 戦士ルート 作:クア
――頭に血が登って、カッとなった時は一回落ち着いて空を見て、深呼吸しろ。
怖がりで寂しがりやの癖にお前はすぐに熱くなるからな。
私の頭を撫でたお兄ちゃんは、そう言って、微笑んだ。
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ああ、なんでこんなこと、今になって思い出したんだろう。
組織を離反したナンバー1、微笑のテレサの粛清任務。
ナンバー2から5。4人がかりで挑んだのにも関わらず、彼女の圧倒的な力を前に成すすべなく敗れて。
頭に血が登って、今までやったことがないくらい大きな力を解放して。
それでも叶わなくて。
快楽と苦痛で混濁する意識の中、私の頭に過ぎったのは今は亡きお兄ちゃんの言葉だった。
「――」
お兄ちゃんの言葉に従って、私は上を見上げる。真っ青な晴れやかな空がそこには広がっていた。
「すぅー、はぁーっ」
そして、深呼吸を繰り返す。滾る妖気を抑える事に集中する。
「すぅぅぅぅ…………はぁぁぁぁぁ………」
どうにか妖気を沈めた私が顔を上げると、そこには驚いたように目を見開くテレサさんの姿があった。
「驚いたな。まさか、あそこから自力で妖気を抑える事に成功するとはな。もはや手遅れかと思っていたが……」
「……私のお兄ちゃんが亡くなる前に言ってた事を思い出したんです。お前はすぐに熱くなるところがあるから、そうなったらまず空を見上げて、深呼吸しろって」
私の言葉にテレサさんはきょとんとしたが、やがて「そうか」と頷いた。
「お前の兄のその言葉が、お前が怪物になるのを防いでくれたんだな」
よかったな、とテレサさんが微笑む。
組織を離反した敵からの言葉というのに、そのあまりに綺麗な微笑みに少し恥ずかしくなった私は、顔を赤らめ、けれど事実だったから頷いた。
「はい」
私の言葉に満足げに頷いたテレサさんは己の大剣を背中に戻した。
「頭が冷えたようだから、改めて言うが今のお前では何度やろうが私には勝てんよ」
その言葉に私は顔を俯ける。冷静になった今だからこそわかる。
この人は強い。とてつもなく強い。今の私じゃ何度やっても勝てない。
でも。
それでも――
「それでもあなたは組織の掟を破り、挙げ句の果てには粛清を免れて組織を離反しました。テレサさんは強いです。強いですが、それが私たちがあなたを見逃していい理由にはなりません」
そう。勝てないんだから見逃していい、という訳ではないのだ。
テレサさんは掟を破り、粛清されなければならない。それが組織に属する戦士としてのけじめであるのだから。
そんな私の言葉にテレサさんはやれやれと肩をすくめた。
「理屈は間違ってはいないと思うが……世の中、そんなに単純で理想通りには行かないものなんだよ。
とにかく、私はまだ死ぬわけにはいかない。私の前に立ち塞がるのならば、斬り伏せるのみだ」
テレサさんは背中に戻した大剣の柄を握った。
「それで、まだやるのか?」
私は右手の大剣の柄を握りしめる。
本音を言えば、ここでテレサさんを倒したい。組織を裏切ったその報いを受けさせてやりたい。
だけど現実は私の力ではまだテレサさんには敵わない。
テレサさんを倒すにはもっと修業して、強くならなければならない。
そうなると今、この場では退却するのが最善の手段だろう。だがしかし――
目の前のこの人は、今、私を見逃してくれるというのだろうか?
そんな私の内心を見透かしたかのようにテレサさんが口を開いた。
「立ち塞がる者は斬り伏せると言ったが……逃走する敵を追いかけて倒す程、今の私には余裕はなくてな。今、ここで退却すると言うのなら追いはしないよ」
情けをかけられた。そんな事くらいわかってる。
悔しくて悔しくてたまらない。それでも今はテレサさんの言葉に乗っかり、撤退するしかないのだ。
ギリリ、と歯を食い縛った私はテレサさんを睨み付ける。
「もっと修業して、強くなって、いつか絶対にあなたを倒します。精々、それまで生き延びていることですね」
「ああ。来たければ何度でも来い。その度に斬り伏せてやるよ」
私の言葉などどこと吹く風の如く受け流したテレサさんは身を翻す。駆け寄ってきた小さい女の子を伴って、西の方へと歩いていく。
取り残された私はその場に膝を着く。
「クソッ……」
感情のままに地を殴る。
「クソッ……クソッ……ちくしょぉおおおおおお!!!」
これが私が組織の戦士として味わった最初の敗北。
そしてこれが、これから長きに渡って繰り広げられる私と組織の元ナンバー1、微笑のテレサとの戦いの始まりだった。
ここまで読んでくれてありがとうでした。
とりあえず覚醒しなかったからオフィーリアさんとか原作キャラが複数出てこない事なりそうだなぁ…