『ZIONノ物語』新訳UC0079   作:ふわってーさん

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『ZIONノ物語』第一話 Prolog

所狭しと置かれた制御装置の中に、男は座っていた。

おもむろにラジオに手を伸ばし、地球の衛星回線へと繋ぐ。雑音の入り交じった音声が小さな空間に反響した。

「ジオン連合軍との開戦から数ヶ月、我々地球連邦軍は宇宙の平和と安定を守るべく奮戦して参りました。しかし彼らはスペースノイドの権利拡張を求め、未だに共栄圏を構成し反抗しています。このような暴挙を認める訳には……」

男は眉間に皺を寄せ電源を落とし、懐中時計を手繰り寄せ目を閉じた。静かな世界に響く時の音が、男に束の間の安らぎを与えている様だった。

幾ら時が流れようとも宇宙に朝は来ない。淡々と歯車だけが進んでいた。

「リュカ中尉、12分後に目標小隊が射程圏内に到着します。中尉の発砲を確認後、私達が強襲をかけ殲滅予定です」

聞き慣れた声で現実へと引き戻される。握り締めていた手には丸く跡がついていた。

「了解、出来る限り敵の数を減らしておきます」

「そう気負わなくていいのですよ。まだ士官学校を卒業してそれ程経っていないでしょう」

「確かに未熟者ですが、ジオン軍人として尉官を授かったのです。キャスバル様を失望させる訳にはいきません」

男の瞳には、憧憬の人物に期待された喜びと恐怖が入り交じっていた。

「そうですね……ですが必ず帰ってきて下さい。キャスバル様は貴官を大変目にかけていらっしゃいます。悲しませる様な事だけは無いようにお願いします」

普段あまり語調を強めない彼女が、その時だけは違っていた。その事実がことの重大性を画面越しに訴えていた。

「肝に銘じます、それでは準備がありますので」

喉の乾きを癒し、小柄な体をシートに埋めた。彼の椅子は他と比べ遥かに上質な物に見えた。全てはキャスバル・レム・ダイクンの計らいによる物である。

しかし、彼には自分にそこまでの待遇を受ける価値があると思えなかった。

 

刻々と無慈悲に針は進む。翠玉色の癖毛を整え、電源を入れヘルメットを被った。深く息を吐き、機体をマニュアル通り設定していく。目を覚ましたレーダーは情報通りこちらに向かう3つの光点を映し出していた。

頭上から操縦桿を引き出し、スコープを覗き込む。彼の要望だったのか、狙撃銃のハンドガードから銃床にかけてを模造した構造となっていた。

右手で模造のボルトを引き込むと、MSも薬室に弾薬を装填する。鳴り響く金属音に満足したのか、口角を歪ませていた。

胸元から鳴り続ける針の音が空間を支配していた。

赤く覆われた世界に薄緑の機影が映り込み、

特注の頭部カメラが意思を汲み照準を合わせていく。

撃鉄が一気に引き込まれ、撃針が雷管を叩き炸薬を燃焼させた。高圧で撃ち放たれた弾頭は宇宙に軌跡を描き、2つの魂を刈り取る。

並走していた一対は胸部を赤黒く露出させ、直ぐ様に光球へと姿を変えていった。

溜めていた息を吐き切り、次の行動へと移る。

 

炸薬の光が瞬く中、片隅で微動だにせず視線を向け続ける機影が居た。黒い影の頭部から、赤い光の筋が主の元へと伸びていた。

「ほう……いい腕だ。的確に2機のコックピットを貫いている」

顎の付け目から下部にかけて生やした髭に、青を基調とした服装。如何にも軍人と言った雰囲気をまとっていた。

「大佐もそう思うか。監視に勘づかない所から察するに、彼は未だ覚醒はしていないが……」

カールのかかった流れる金髪に、銀色のマスク。装飾の施された赤色のスーツから自信が漏れだしていた。

「ニュータイプの素質がある、と」

「ああ、私は感じたのだよ。彼の奥底に眠る悲愴を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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