0079.10
「TC-Sとの接続が完了しました」
壁一面には大型の液晶画面が敷き詰められ、線が波打ち、異様な図形が様々な色へと変化していた。
「リュカ・アルトレイとの脳波を確認、スタンバイOK」
「TC-Sを起動、接続開始」
白髪を後方に固めた男が静かに言い放つ、彼の全てから色が抜け落ちていた。
操縦席とは思えない、腰を預けた椅子には濡れたように黒く光っていた。しかし、高級感の溢れる意匠とは裏腹に、剥き出しの様々な色の管が心に負担を与えた。
「これよりTC-SをMSに同期させる、君は座っているだけでいい。何も気にする必要は無い」
数秒すると機器達が唸り始め、全身が逆立ち身体が危機を訴えた。瞬間、瞼の一点から解き放たれた光に飲み込まれ……
夜、甲高い、砕ける音がした。
眼前で人影が赤く揺れ動く。目が離せない、何も聞こえ無い、体が凍りつく、熱い、寒い。
突然扉が倒れ、青白く染めた使用人を最後に暗転した。
目を覚ますと私は雲の上にいた。
いつも沢山いるのに、僕の他は2人だけだった。
皆は?今日はダイジンさんの所に行かなくていいの?
お父さんに聞いても何も答えてくれなかった。
いつものお姉さんに聞いても、お菓子をくれるだけだった。「ルウムのお家にはもう帰れない」「ムンゾに行く」それだけを伝えられた。
平穏な暮らしは続いた。誰もあの日のことは触れられず、記憶は奥底に仕舞われた。
義兄さんとよく小鳥さんを狩りにいった。
休んでる小鳥さんは走って行って取られちゃうから、飛んでるのをよく取った。戻ってくると「リュカは凄いな。また一緒に来ような」と褒められた。嬉しくていつも飛び付いていた。
昔からここに住んでる。そう思える程に楽しかった。
でも、義兄さんは車の上で皆に話してたら撃たれた。
小学校の作文が表彰され、自慢した次の日だった。
目の前に自分がいる。
女みたいだと蔑まれた自分がいる。
沢山いるお兄さんの中で義兄さんは認めてくれた。
義兄さんはそれから立てなくなった。
人前に立つのが怖くなっていた。
僕に義兄さんはいなくなっていた。
だが、私には敬愛すべき義兄さんができた。
大衆から声を浴び、華麗な動きで道を作り上げる。
私に期待を寄せ、私を認め、居場所をくれた。
例え、私の幻想だとしても……
あの御方の傍で生きるしかないのだ。
支柱を失った私には……この機体と。
心を表す様に光は収束していき暗闇に包まれた。再起動した瞳には、異様な光景が映し出されていた。
数字の羅列、プログラムの様だった。中心には大きく「TC-S」の表示、続いて「リュカ・アルトレイの意識レベル回復を確認」「再接続完了」と伝えられた。
下から上に格子が裏返える様な演出、初めは視界に霧がかかっていた。
しかし、明らかな異変に気付かされることとなる。宇宙が見えているのだ。
いつも画面越しに見ている雄大な景色が、目前に存在していた。段々と霧も晴れていき、肉眼には有り得ない程の場所が見えるようになった。意識を集中させるとロックオンの文字、見慣れた火器管制システムの表示であった。
「気分はどうかね」
noticeの文字と共に音声が繋がれる。
「おめでとう、君は初めての成功者だ」
言葉はおぞましい真意を秘めていた。
「今の状況に察しはついていると思うが、端的に説明しておこう。君はこのMSと繋がっているのだ」
血に濡れる箱船の中、隔てられ優美な時が流れていた。
「何か不満かな」
予想外の質問だったのか、切り花を持つ手が止まった。
「……何故です」
「何となくさ、傍にいると分かるものだ」
仮面を外し、髪を振り分ける。この男なりの配慮であった。
「リュカ様、彼の専用機……若旦那様が造らせたと理解しております。ですが……あのシステムは強化人間でさえ扱えない代物との噂が……その上、適応出来なければ死を招くとも……」
言いずらさが勝つのか、目を泳がせながらの質問であった。主が期待を寄せている、そう知っている故の困惑であった。
「彼は強化人間では無い。そして超能力者でも無い。だが彼はとても人間的だ。理由のない運命に理由を探し、居場所を求め彷徨う。実に人間らしい。そうは思わんか」
満足したのか、仮面を手に取り姿を隠した。
お気に入り、感想、評価 心よりお待ちしております。
「TC-S 」thought-controlled System
搭乗者の意識・視覚・聴覚・触覚領域と機体の制御システムを同期させる事により意志による機体制御を可能にする。
MSの情報量に耐えうる空間認識能力を備えていない場合、処理量過多を起こしショートする。