貞操逆転世界の日常 作:貞操崩壊太郎
弟もいないから姉弟の関係もわからない
兄も姉もいないから妹と弟をどう表現すればいいかもわからない
退院してから自宅に戻った俺は、2階にある部屋の変わり具合に驚きが隠せないでいた。記憶におる俺の部屋は学習机とベットくらいしかなかったのだが、物置だったはずの間取りの広い部屋が自室に代わっており、ベット、テレビ、冷蔵庫、折り畳み式のテーブルに本棚など充実具合がすごい。
「なんで部屋で突っ立てるの? はい、これ飲み物とお菓子」
「……あ、うん。ありがとう」
自分の部屋ではない気がして落ち着けずに立っていると、お菓子を片手にナツが部屋に入ってきた。病院の時とくらべかなり落ち着いていて偽物化と見まごう。なんとなく気になったので聞いてみる。
「今日は抱き着いてこないんだね」
「え、えぇっ!? もう6年生だし、そんなことしないし! あれは、もしかしたらもう会えなくなるかもとか考えたら歯止めがきかなかっただけだから! 勘違いしないでね!」
「そっか……」
勘違いも何も普段からあれぐらい俺に甘えたいってことなのかなと心の中で思いつつも飲み込む。多感な時期だしとやかく言う必要もないだろう。とりあえずベットに腰掛ける。
「まだ調子悪い?」
「ん、そんなことないよ。いろいろと混乱してるけど」
「えっと、記憶に混濁? が、あるんだよね?」
「うん。物とか人とかはわかるんだけど、その関係性というか、深いところがわからないんだ。ナツともこんなに仲良かったっけ? って感じ」
「うぐ、面といわれると……はっ!? ふふん、実はお兄ちゃんは私の恋人だったのです!」
「さすがに嘘ってことくらいわかるよ?」
「ダヨネー」
こんなに義妹と話したことは人生で初めてかもしれない。記憶にあるスキンシップといえば、すれ違いざまに舌打ちされるくらいだったから新鮮だ。
「え、えっと……なに? じっと見られると、なんか、はずかしい」
「あ、あぁ、ごめん。すこしぼーっとしてた」
「すこし横になったら? ご飯の時に起こしに来るから」
「ん、そうしようかな」
心配そうにこちらを見る義妹の言葉に甘えて横になることにする。義妹が持ってきたお菓子とジュースを片つけようとするのを見てからなぜかベットの上に置いてあったパジャマに着替える。
「お菓子は棚に上げとくね。飲み物は冷蔵庫に……うえっ!? なんで着替えてるの!?」
「え、私服のままじゃ寝づらいし」
「あ、いやそうじゃなくて……」
こっちを振り返るなり、顔を真っ赤にして俺の胸のあたりを凝視する義妹。病院でも似たようなことあったなと思いだす。気にしても仕方がないのでそのままパジャマに着替える。
「い、いつからお兄ちゃんはそこまでオープンに……」
「なんか変だった?」
こっちだとそこそこ仲がいいみたいだし気にしていなかったが、気を使ったほうがよかったかもしれない。汚いもん見せるなってことだろうか。
「むむむ……一応、私以外の前ではいきなり着替えないほうがいいよ」
「ん、今後は気を付けるよ。ごめんね」
「あ、ああぁああああああ。みたい、けど見せたくないぃ……というか騙してるみたいでなんか……」
「ナツ……?」
「お兄ちゃん。普通、自分の裸は人に見せないよ?」
「? 当り前じゃない?」
「さっき上脱いでたよ!?」
「あっ……そういうことか」
「どういうこと!?」
どうやら義妹と俺の間で認識のズレがあるらしい。今後は気を付けよう。となると病院で会ったときに川島さんと神崎さんの様子が変だったのはそういうことなのだろう。なんか、現実感ないなぁと思いつつ俺はベットに横になった。
*
「お兄ちゃん、お客さん……」
「ん……だれ?」
「市川さん」
「桃奈?」
「ぐぅ、いつの間にそんなに仲良く……」
夕方前に義妹が俺を起こしに来た。桃奈が家にきたらしい。家も向かえだし、プリントでも持ってきてくれたのかもしれない。苦虫を嚙み潰したような表情の義妹に部屋に来てもらうように伝えてと頼んで布団から起き上がる。
「……来ないな」
待つこと5分程度。なぜか桃奈が来ない。義妹となにか話してるんだろうか。記憶にある中でもあまり仲は良さそうじゃなかったもんな。様子を見ようと部屋から出ると、元々俺の部屋があった物置に入ろうとする桃奈が目に入った。
「桃奈、こっちこっち」
「あれ? あ、ごめんごめん」
不思議そうな顔をした後に何かを思い出したように俺の部屋のほうに歩いてくる桃奈。こっちの桃奈とはそんなにかかわりがなかったのかもしれない。言動には注意したほうがいいかもしれない。
「まぁ、適当に座ってよ」
「あーうん、どーも」
俺の言葉に桃奈は部屋に置てある小さめのイスに腰掛けこちらを見て、何かを聞きたそうな気まずそうな顔をする。何かあるのだろうかと思い、今の自分の格好に思い至る。服の乱れを直してボタンを一番上まで止める。義妹との失敗を忘れてはいけない。
「……あ、これ学校のプリントね。もう体調は大丈夫なの?」
そんな俺の行動を見て、何か残念そうな、あきらめたような表情をして、プリントを差し出してくる。桃奈は俺の胸元が気になっていたらしい。たしかに俺も女子の胸元が見えてたらついつい見ちゃう。
「うん。明日からは学校に行くよ。2週間の遅れは怖いなぁ」
「そう思って、一週間のコピー持ってきたわ。2週間前のはないけど……」
「そういえば、桃奈も入院してたんだっけ?」
「そうなのよ。もう、あれ以来いろいろと大変で……あ、いや、ゆ、悠? に言うことでもないわね」
「?」
桃奈の言動にどこかぎこちない印象を受けながらも、何か自分に不備がないかを考える。大丈夫だよな?
「まぁ、何かあったなら相談してよ。聞くからさ」
「ん、ほんと悠は優しいわね」
どこか安心したように桃奈がそう答える。はっていた気が少し緩んだように感じる。緊張していたのだろうか。ということは、こっちではそこまで親しくはなかったのかもしれない。でも名前で呼び合ってるし、イマイチ距離感がわからないため素で対応する。
「まぁ、でも悠も元気そうで安心したわ」
「長引いたけどねー」
「そういえば、川島と神崎と病院で会った?」
「うん。休憩所で会ったよ。途中でトイレ行くっていなくなっちゃったけど。なんか気に障ることしてないか聞いといてくれないかな?」
「あー、大丈夫大丈夫。むしろ喜んでたから」
「えっ?」
「あー、いや、変な目で見ないようには一応言っておいたから」
どうにも慣れない。この世界では男がそういう目で女性に見られるらしい。桃奈がこういうことを冗談で言うわけないし、気を付けていないとそのうち、とんでもないことになるかもしれない。
「……気を付けるよ」
「ん、よろしい。じゃあ、あんまりお邪魔してても覗いてる妹さんに悪いし、帰るわね」
「あっ、こらっ、ナツ!」
「ご、ごめんなさいぃいいいいいい」
桃奈に指摘され扉を見ると少し空いていて義妹がのぞき込んでいた。軽くしかると慌てて謝りながらドタドタと階段を下っていく音が聞こえる。どこか兄妹らしいやり取りな気がして少し笑みが漏れる。
「……悠って、笑うとそんな顔するのね」
「えっ?」
「ん、気にしないで。初めてこっちに来てよかったって思っただけ。じゃ、また明日ね」
どういう意味かと聞こうとしたが、それよりも先に桃奈は部屋から出ていく。いわれて気が付いたが、笑ったのなんていつぶりだろうか。うまく笑えていたのか不安になりながらも先ほどの桃奈の言葉の意味と義妹の、ナツのことをどう問い詰めてやるかを考えながらベットにもぐりこんだ。