鬼連れ獪岳   作:はたけのなすび

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少々間が開きました。

何かと立て込んでおり、今度もこれくらいの更新頻度になると思われますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。

では。


十二話

 

 

 

 

 

 獪岳は、酷い記憶を元々思い出さないようにしている。

 そうすると自然と薄れて来て、楽になれるのだ。

 寄る辺をなくしてから飢えを抱え路傍を流離ったことも、喉の渇きに耐えかねて泥水を啜ったことも、思い出さなければなかったのと変わらない。

 そんな具合だから、過去を顧みるというのは自然、苦手なのである。

 思い出すことで心を労ってくれるような過去の縁も、ないわけではないが薄い。今を失くさないようにするほうが、大事だった。

 生きることだけを考えて必死で藻掻く間に、記憶は良し悪しの別なく、襤褸布のように擦り切れてしまう。

 とはいえ呼吸を研鑽した柱であり、しかも姉弟子からせっかく貰えた助言を、無下に切り捨てる気にもなれなかった。

 様々な人に、同じことを言われるのだ。

 なら結局、思い出して立ち向かう以外にどうしようもないのだろう。人間、すぐには強くなれないし変われないのだから。

 開き直るしかないだろう。

 そんなこんなで恋柱のところの稽古を終えて、次に向かうのは霞柱のところであった。

 ここでは高速移動の稽古で、特に問題も何も起きなかった。

 霞柱、時透無一郎からは、玄弥と炭治郎の友達かと聞かれた。友達かはわからないが話すことはある、とかなり正直に返せば、霞柱からの答えは、ふぅん、である。

 何を考えているやら読みづらい時透無一郎は、刀を持って二ヶ月で柱になったというから、才能の塊である。無論、死ぬほど鍛えたのだろうが。

 何の為に聞かれたのかあまりわからなかったが、ともかく霞柱との打ち合いも含めた稽古は、数日かかって次に行っていいと言われた。

 獪岳は言ったことがちゃんとできてるから、とのことだ。霞柱は、できていないとみなした隊士には辛辣極まりなかった。

 そのため道場には疲労困憊死屍累々の隊士が積まれていたが、できていないところをできていないと言ってくれるだけ、有り難いだろう。

 霞柱の次は、蛇柱、伊黒小芭内である。

 ここが、これまでで一番の難所だった。

 一言でいうと、蛇柱からの当たりがきつかったのである。

 自分が何かやらかしたかと思うほど、稽古の度くどくどネチネチ小言を言われまくった。とはいえ、獪岳は鬼を藤襲山から連れ出して連れ歩いていたのだから、やらかしてはいる。

 それも、隊士同士で乱闘したなどという生易しい違反ではない。

 実際、柱合裁判にもかけられた。

 が、蛇柱のはそれを差っ引いても雨上がりの泥のようにしつこかったのである。

 しかも概ね、甘露寺に近づくなという小言だった。

 その上で、仮にも煉獄の弟子だというのに弱過ぎると、これまた湿度の高い繰り言の嵐だった。

 柱の中でどうしてその二人のことだけやたら言い立てるのかわからないし、しつこい。

 稽古形式も、道場の壁や天井から突き出している棒や柱の一本一本に隊士たちが括りつけられ、その隙間を塗って蛇柱と打ち合うというとんでもないものだった。

 しくじると当然仲間である隊士を木刀で叩くことになるし、その都度滅茶苦茶痛そうな音がして、隊士からは涙目で睨まれる。

 しくじり過ぎれば、今度はこちらが柱に括られるのだ。それは獪岳も断固嫌だったから、とにかく人をどつかないように太刀筋を柔軟にし、蛇柱に攻撃するしかなかった。

 あの蛇柱、攻撃がめったやたらに曲がるのだ。

 使っているのはそう変わらない木刀のはずなのに、獪岳の攻撃は当たらず、蛇柱の攻撃ばかりが人間柱をすり抜けるかのようにして当たる。

 本当に、岩の隙間をくぐる蛇の化身に思えた。

 

「お前、なんか蛇柱様に随分やられてない?大丈夫か?」

「……平気だ」

 

 水で打ち身を冷やしている間に、見ず知らずの隊士にまで声をかけられるのだから、傍から見てもよっぽどなのだろう。

 今回は雪五郎も静かで、屋敷にある立木に止まって綺麗なお澄まし鴉の面となっている。

 一回蛇に呑まれて痛い目を見ちまえと、けっ、と鴉を睨んで、獪岳は稽古を続けた。伊黒はしつこいし面倒だが、柱は柱だ。

 鍛錬ならば多分、つらかろうが死にはしないだろう。

 鍛えてくれているのであって、何も、殺そうとかかってくるわけではない。

 打たれては避け避けては打たれ、合間で鴉にカァカァと鳴かれ、繰り返している間にある日唐突に、蛇柱の羽織の袖を木刀でざくりと切り裂くことができた。

 不意に、攻撃が見えるようになったのだ。肩を狙った一撃を避けて突きを入れ、弾くために蛇柱が腕を引いた瞬間に、障害物の間を縫って木刀を瞬時に引き戻し、下から上へ切り上げた。

 その一振りが、蛇柱の羽織の袖を切ったのだ。

 薄い膜を突き破るように、いきなり攻撃が()()()

 できなかった型ができるようになったときも、そんな唐突さがあったと半ば呆然としている間に、蛇柱からは合格を言い渡されていた。

 

「ここはもういい。だがお前、二度と甘露寺と親しげに喋るなよ。煉獄と悲鳴嶼さんの顔に泥を塗れば、俺はお前を決して許さん」

「はい」

 

 だからなんでそこまで恋柱に拘るんだ、という疑問はすっぱり頭から消して、獪岳は次に行くことにした。

 

「カァ!次ハ風柱ノ稽古!風柱邸ヘ向ェエ!」

「わかってんだよ。テメェらはいちいちやかましい」

 

 風柱邸へ向かうまでも、雪五郎は肩に乗っかっていた。勝手に定位置にしたのか、なかなか降りないし獪岳も引き剥がすのを諦めた。

 それよりも、さっきのあの動きどうやったのだろうかと思い返す。

 ()()打ち込んでくると感じて、その通りに身を捻った。

 今までも、考えるより先に体が殺気や攻撃に対して反応したことはあったが、大体はぎりぎりの瀬戸際だった。

 蛇柱の羽織りを切れたときは、それよりも速くなれたのだ。

 雷の呼吸使いにとって、速さは生命のようなものだ。基礎である壱ノ型からして、鬼の頸を如何に速く取れるかが要なのだから。

 あの感覚を、もっと自由に使えるようになるべきだった。狙って入れた域ではないのが、悔やまれる。

 人間は、鍛錬して戦って死にかけて血反吐を吐いて、また鍛錬する。そればかりだ。

 感情任せで力を引きずり出し、体を組み替えて強くなることができてしまうのは、鬼だけだ。

 そのまま引き返せない場所まで踏み込んでしまうのも、鬼だけだ。

 つん、と肩の鴉を指で突く。

 

「お前、さっき俺がどう動けてたか見たか?」

「オレハ外!見エタハズガ無イ!ナイィ!」

「ンだよ、使えねぇな。鎹鴉のくせに。……ッてぇ!叩くな阿呆!」

 

 翼で、べしんと頭を一打ちされる。

 どうせ側にいるなら、それくらい見ていても良さそうなものである。

 幸だったら見ていたろうし、あそこがこうこれがああだと言ってくれたはずだ。何せ、一度見たものを忘れないのだ。

 

「フン!オ前タチハ、兄弟ガ言ッタトオリノヤツ!風柱邸ハコッチ!コッチダ!」

「あ?」

 

 兄弟の意味を聞き返す間もなく雪五郎は翼を広げて、獪岳の肩から飛び立った。

 頭に一筋だけ生えた、白い羽が風でふわりと揺れている。ふと、玄弥の、あの特徴的な鶏冠頭が思い出された。

 次に行く稽古先の風柱は、思い返してみれば不死川玄弥の実の兄貴である。

 その兄貴に会うために玄弥は鬼殺隊に入ったと言っていた。恋柱邸ですれ違ったきりまだ姿を見ていないが、あの丈夫さだから抜けて来るだろう。

 そうして、一つ角を曲がったところで。

 ゴウ、と風と炎が目の前を通り過ぎた。

 

「ギャッ!」

 

 煽りを受けて体勢が崩れた雪五郎は、慌てたように獪岳の頭の上に戻って来る。

 開けた空き地で向かい合っているのは、白髪の男、風柱と、煉獄杏寿郎だったのである。

 双方手に持っているのは、木刀。炎ノ呼吸と風ノ呼吸が、真っ向からぶつかる。

 風柱の動きは変幻自在で、掴みどころがない。それを迎え撃つのは、地に足をつけ、大気を切り裂くほど唸りを上げた杏寿郎だった。

 骨が砕けるような鈍い音がしたかと思えば、ぶつかり合った二本の木刀が叩き折られる。風柱の突き技と、杏寿郎の切り払いに、得物のほうが耐えられなかったのだ。

 折れた木刀を持った風柱は宙で一回転して危なげなく着地し、壁の陰にいた獪岳に目を留めた。

 

「テメエかよ。おい煉獄、お前の弟子が来てやがるぞ」

「ム!」

 

 べっきりへし折れた木刀を手にしたまま、煉獄杏寿郎は頭に鴉を乗っけた獪岳を振り返った。

 

「獪岳か!不死川のところへ稽古に来たのか?」

「ええ、はい。師匠たちは何をしてんですか?」

「手合わせだ!ところで不死川、しばらく獪岳を借りて行ってもいいか?」

「構わねェよ」

「うむ!ありがとう!そういうわけで獪岳、ついて来い!」

「へ?……はい」

 

 相変わらず視線が合わせづらいが力が籠っている杏寿郎の眼で見られると、頷いてしまう。

 鴉が、カァと鳴いて空の彼方へ飛んで行った。

 当然至極のように引っ張られ、気づいたら茶店の軒先の床几に獪岳は杏寿郎と並んで座っていた。

 

「息災のようだな!近頃は互いに何かと忙しかったな!」

「……そう、ですね。すいません、師匠のところにも伺えず」

 

 上弦の壱から逃げて入院して、そのまま柱稽古に突入したのだ。蝶屋敷に杏寿郎が訪ねてきてくれることはあったが、煉獄家のほうも煉獄家のほうで、何かと立て込んでいて訪れるのは憚られた。

 歴代炎柱を輩出してきた家とあって、柱稽古には色々と関わっているのだ。

 杏寿郎からして、負傷を理由に柱を退いても、風柱と手合わせしていた。その動きも、獪岳より遥かに強いことが伺える。

 隻眼になったのにこれであるのだから、悲鳴嶼といいこの人といい、柱は本当に同じ人間であるのに底が知れない。

 それに相変わらず、杏寿郎は食べる速度が尋常でない。獪岳が団子を二つ、三つと食べる間に、空になった一皿、二皿とぽんぽん手品のように積み上げられていく。

 この御仁、確かどてっぱらに大穴を開けられたはずである。胃袋も貫かれていたっておかしくなかろうに。

 

「食欲がないのか、獪岳?傷の具合がまだ……」

「あります。超あります。傷も治ってるんで」

 

 獪岳が団子を勢いよく口に放り込むと、杏寿郎はうむ、と頷いた。

 

「お館様より聞いたのだが、君と幸少女が遭遇した上弦は、元鬼殺隊であったと思しいのか?」

 

 一転した静かな声に、団子が喉に詰まるかと思った。

 差し出されたぬるい茶を飲んで、口の中を空にする。

 

「多分……そうなんじゃないでしょうか。幸が描いた似顔絵には痣者の痣みたいなのがあって、日の呼吸にも執着していたらしいんで」

 

 痣も呼吸も、鬼を殺すためでなければまず手にしない力だ。それを持っていたのなら、過去に鬼殺隊であったのだろう。

 あれだけ強かった剣士なのに、鬼になった。月の呼吸という、この時代には残っていない戦い方を引っ提げて。

 無理っくりに鬼にされた場合もあるだろう。幸や竈門の妹がそうだ。

 その二人とて、戦っている間に自我が薄れ、人の血肉を求める鬼の本能に飲み込まれかけたこともある。

 鬼になって十年や五年足らずの彼女たちでもああなるのだから、百年二百年鬼で過ごしていれば、人の感覚など薄れるはずだ。

 

「俺も無限列車で戦った際には、鬼にならぬかと誘われたな。君もだろう、獪岳」

「はい。……師匠には上弦の参、がそう言っていたんでしたか」

 

 獪岳はその場面を見てはいないが、無限列車に現れた上弦の参は、しきりと強い人間を鬼にしたがっていたのだという。

 童磨は反吐が出るような憐れみで獪岳に鬼にならないかと言っていたし、上弦の壱は陸の穴埋めで強い鬼になれそうな者を探している風情だった。

 鬼殺隊士が鬼に変えられる危機は、案外そこらに転がっているのだ。大概の場合断れば死、という状況なのがまた腹立たしい。

 前回は寸でのところで逃げられたが、あれは思い返すだに首の皮一枚である。鎹鴉も殺された。

 

「……俺は、鬼になるのは嫌ですよ。惨めになりたくないから」

「君から見て、鬼と言うのは惨めなのか?」

「そうですよ。日には焼かれて、大事に思ってた人間に嫌われる。おまけに、無惨の縛りを壊せなけりゃ簡単に殺されちまうんでしょ?前に無惨の名を口にした鬼は、俺とあいつの目の前で、体から生えてきた腕に腹をかっ捌かれて死にましたよ」

 

 挑発に簡単に乗るほどの馬鹿な鬼だったが、食った飯を吐きそうになる死に様だった。

 呪いによって、あんなふうに踏み殺される虫のような扱いをされるのは御免だ。

 それに、あれだけ自分を縛って人喰いに堪えていた鬼ですら、()()()は真っ先に慈悲の心で殺そうとした。

 かつて共に暮らしていた子どもであったのに、ただ鬼であると言うだけで。

 柱として正しい行いであっても、恨みなどはなく慈悲の心であったとしても、涙を流しながらであっても、殺される側からすれば関係ない。

 だって一番痛いのは殺されるやつだ。それも、慕っていた人の手にかけられるなど。

 鬼になるとはああいうことだ。

 だから獪岳は、鬼になりたくない。

 いつか杏寿郎が言っていたように、ただ人という生き物が好きで、儚さを愛おしんでいるわけではない。

 好きでも嫌いでも何でもない。

 そも人間の大体は獪岳に優しくなかったし、それが当たり前だ。全員一からげに愛おしむなど、できるものか。

 獪岳はもう、下へと堕ちたくないのだ。

 思い返すとまたも腹が立って来て、獪岳は湯飲みの中の茶を一息で飲み干した。

 杏寿郎は腕組みをして、首肯する。

 

「鬼は惨め、か。……鬼を人へ戻す薬の目処は立ったと聞いたが、君は幸少女を人へ戻したくはないのか?」

 

 それか、と獪岳は眉間に皺を寄せた。

 

「俺は戻れと言いました。言いましたが、あいつは自分で仇を取るつもりです。鬼でないと戦えないから、戻らないって」

 

 本来なら、首根っこ掴んででも人間に戻すべきだろう。それが正しい気がする。

 だけども、正しいことばかりでやりたいことができない鬼にされた幸なのだ。

 復讐しても、もう何も元には戻らない。そんなこと、己含めて皆がわかっている。

 そんな理屈はここに至ってはどうでも良い。元凶を殺せば、単に気が晴れる。

 憂さ晴らしだ。

 

「頑固というよりも……彼女は意志が硬いのだな。そうでなければ、君と共にいることもできなかったろうが」

「ほんとですよ。多分、竈門の頭より硬いんじゃないですかね」

 

 滅多に言わない獪岳の冗談で、杏寿郎はからから笑った。団子のお替りを持ってきた店員が、ぎょっと二度見するほどの大声だ。

 それが治まるのを待って、獪岳は口を開いた。

  

「師匠、俺のほうからも聞きたいことがあるんですが、いいですか?」

「む。なんだ?」

「鬼は、この先どう来ると思いますか?」

「それか……」

 

 今、鬼は姿を見せていないし、人がごっそり消えたような話も出てこない。

 ならば恐らく、鬼は戦力を溜め込んでいる。鬼殺隊も戦力を練っているが、鬼は次にどう出るのか。

 杏寿郎はうむ、と大きく頷いた。

 

「獪岳。お館様には、天性の勘があるのだ」

「勘?」

「うむ。それも並みのものではなく、未来を見通すと言っていいほどの先読みだ。お館様の一族は、それで以て鬼殺隊を導き、また資金も築いて来た。……それによれば、近く一気に事態は動くとのことだ」

「一気に?」

「ああ。一年や半年先などではない。数ヶ月、或いはもっと短いかもしれない」

 

 勘で、そこまでわかるのだろうか。

 確証はないが、煉獄杏寿郎にとっては信じられるものなのだろう。確かに、お館様の、産屋敷家の財力は生半なものではないから。

 それにしても、一気に全面戦争になるとは思わなかった。

 だが、陰に隠れた鬼に襲われて削られるより余程いい。人はひとりだと勝てないのだから。

 

「だからそれまでに励むことだ!俺も柱こそ退いたが、鈍らぬように手合わせは怠っていない!次は、竈門少年と共に冨岡の下へ向かってみようと思っている!」

「水柱様の?……なんでまた」

「冨岡が、己は柱ではないから稽古をつけられんと言い出したらしくてな!冨岡以上に水柱に相応しい剣士はいないのに、これはどういうことなのかと思った次第だ!」

 

 竈門と行くことになったのは、お館様が竈門に直接手紙を出して説得に当たってほしいと言ったからなのだとか。

 水柱がそんな馬鹿を言い出した事情は知らないが、この師匠とあの石頭が総出で説得にあたったら、多分水柱であっても三日も保つまい。

 獪岳だったら一日どころか半日で白旗だ。うるさ過ぎて。

 

「ではな!不死川、悲鳴嶼さんの稽古に励むように!」

 

 団子の代金を二人まとめて払い、杏寿郎は一瞬で去って行った。

 空になった皿の山を横にして、獪岳は立ち上がった。

 

「……行くか」

 

 ばさばさと戻って来た雪五郎が、伸ばした獪岳の腕に止まる。

 

「ヨウヤクカ!風柱邸ヘ向カエ!」

「だァから、案内しろってんだよ」

 

 腕から肩へ飛び乗った雪五郎の嘴が示す先へ歩いていく。

 見えてきた屋敷の塀の角で、獪岳ははたと足を止めた。雀を頭のてっぺんに乗せた、間違えようのない金髪が門前に突っ立っていたのだ。

 思わず頭を抱える。

 同じ稽古に参加しているのだから顔を見るくらいはあると思っていたが、鉢合わせはしたくなかった。

 当然のように気配に気づき、我妻善逸は片手を上げた。

 

「か、獪岳、久しぶり。あ、えっと、俺は今来たとこなんだ。獪岳もだよな?」

「……ああ」

 

 善逸は獪岳より先に稽古していたはずだが、何処かで並んでいたらしい。

 尚も善逸が何か言い続けようとしたところで、門からぞろりと伸びた手が金髪頭を鷲掴みした。

 

「ヒィェッッッ!?かかかかか、風柱ァ!?」

「入りもせずにぐだぐだしてんじゃねぇよ、糞餓鬼共ォ。ぶっ殺すぞォ」

 

 顔も体も傷だらけの白髪の男、不死川実弥は、善逸の頭を林檎のように掴んだまま獪岳を睨めつけた。視線で人が殺せそうな鋭さで、尋常でない険がある。

 

「テメェも何してやがんだァ」

 

 とっとと入れと、風柱は顎をしゃくって善逸と獪岳を屋敷へと放り込んだのだった。

 

 

 

 

 

 

 




師匠による弟子カウンセリング問答。
そろそろ最終決戦です。まだ間がありますが。

尚、善逸は獪岳に並ばれないように稽古していましたが、ついに並ばれました。


【コソコソ話】
雪五郎と雷右衛門は、同じ親鳥が産んだ卵から産まれています。
また、雪五郎は担当していた隊士が殉職したために、獪岳たちのところへ来ました。

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