幸せな終わり   作:ラバジョゼ

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幸せな終わりの4章

少年と王子さまはようやくたどり着いた―幸せな終わりの始まりに。


そして再会は果たされる

「ほら、人魚姫のマイクだ。」

「おぉっ!見た目は完全に治ってますね!」

「つっても、見た目だけだがな。外のパーツはともかく、中身は直しきれなかったから、ただの張りぼてだ。……こっちの袋に、壊れた部品や細かい破片が入ってる。」

「十分ですよ。本当にありがとうございました、ハルさん。」

「僕からも、本当にありがとうございました。」

「気にすんな。……いや、気になるんなら、ちゃんと人魚姫を連れて帰ってこい。」

「「はいっ!!」」

 

 翌朝、一連の騒ぎが収まった後、準備を終えた僕たちはまず姫の棺を掘り起こした。黎明の中で一番いい場所に埋められていた姫の棺の蓋をジャックが開けて中を見てみると、そこには、幼いままの姫の遺体が、ブラッドスケルター化したまま綺麗な状態で納められていた。ジャックの考えが当たっていた形だ。そのことにひとまず安堵する僕達だったけど、姫の遺体が無事だったというのはただの前提条件に過ぎない。本番はここからだ。

 そのまま遺体を持って都庁に向かう前に、僕とジャックはハルさんのもとに来ていた。昨日預けていた姫のマイクを返してもらうためだ。

 ハルさんのおかげで、姫のマイクは見た目は壊れる前の状態と遜色ない状態まで修理されていた。完全に真っ二つになっていたものを修理するのはかなり大変だったようで、ハルさんの目元にははっきりとクマが浮かんでいる。もしかすると、徹夜で作業をしてくれたのかもしれない。僕や姫のことは覚えていないはずなのにここまで手を貸してくれるハルさんの優しさと、それをはっきりとは口にしない不器用さが、僕の知るハルさんのようで、少し懐かしかった。

 ただ、感傷に浸るのは今じゃない。それに、ハルさんに改めてお礼を言うときは、姫と一緒のほうがいい。ハルさんもそれを望んでいた。

―必ず、成功させる。そう、決意を固め直して、僕とジャックは皆のところに向かった。

 

 都庁のジェイルの攻略は、困難を極めた。強大なメルヒェン、複雑で広大なフロア、様々なギミック、そして、暴走したナイトメア。

 特にこいつは、ナイトメアでありながら自らコアを壊すという予想外の行動をとるだけでなく、純粋に強かった。流石にナイトメア・ラブほどではなかったけど、それでもあの鬼のナイトメアを上回るくらいのプレッシャーを放っていたように思う。

 ただ、それでも血式部隊のみんなのほうが一枚上手だった。僕は姫の遺体を運んでいるから戦闘には参加できなかったけど、問題なくあのナイトメアも撃破していた。

 そして、監獄塔の最上階。そこにたどり着いた僕達が見たものは―

 

「あれが……」

「うん、間違いない。ウィッチクラフトだよ。」

「成程、あの白い月の名前が、ウィッチクラフトというわけだったのね。」

 

 白い、巨大な球。軽く発光するそれこそが、僕達が求めていたもの。姫を生き返らせるための最後のピース、ウィッチクラフト。注視するジャックとグレーテルを横目に、僕はウィッチクラフトの様子を観察する。この都庁のジェイルが『七夕』を擬態化してできたものである関係で、ここのコアは願いに対して強い力を持っている。その中でもこのウィッチクラフトはコアの中でも最大級のものだ。現に僕はこれで一度過去へ飛び、一度世界を変えている。それだけの力を持っていることを知っている。ナイトメアとしての勘も、このウィッチクラフトの力を高く評価している。

 大丈夫、きっと上手くいく―そのはずなのに、不安感が消えない。まだ、足りない気がして仕方ない。

 

「じゃあ―」

「待ってくれ……、ジャック……」

「え?」

「もしかしたら……それだけじゃ想いが足りないかもしれない……」

 

 それをこらえきれなくて、僕から姫の遺体を受け取ってマイクと一緒にウィッチクラフトに近づこうとしていたジャックを呼び止める。

 前の世界でジャック達がコアによって姿を変えていた時、二人には強い思いがあった。互いを想いあう強い思いが。だからこそ、二人は姿を変えるだけでなく、異なる二つの願いを受けて二つに分かれたりもしていた。人間の姿とナイトメアの姿の二つに。それに匹敵するだけの思いが、あのマイクにあるかと聞かれたら、正直自信がない。マイクは確かに大切なものではあるけど、あくまでも『物』だから。

 ウィッチクラフトはただのコアよりもずっと強い力を持っているから、多少想いが足りなくても何とかなるかもしれない。でも、ここで失敗してしまったら取り返しがつかない。僕達がいる二つのジェイルにはもうコアはない。二つ目のジェイルがある以上、他にもジエイルがあって、そこにはコアがある可能性もあるけど、あるかもしれないジェイルの、状態も分からないウィッチクラフトに賭けるというのはあまりにも不安だ。

 かといって、どうすればいいのか。前の世界につながる物は、もうないのに。

と、そこまで考えたところで気が付いた。物にこだわる必要はないのかもしれない。ジャックはマイクに録音されていた姫の歌で記憶を取り戻していた。僕も、倒れたジャックに寄り添うアリスという情景を見て思いだした。なら、形のないものでも、前の世界とのつながりにはなりうるはずだ。だったら―

 

「-なら、僕が行くよ。」

「……え……?」

「僕が、人魚姫さんの遺体とマイクを持って、ウィッチクラフトに飛び込む。」

『なっ!?』

「僕には、人魚姫さんに関する記憶があるから……。想いとしては、使えるはずだよ。」

「ちょっと待って、ジャック!!そんなことをして本当に大丈夫なの!?」

「……正直、自信はないけど……ウィッチクラフトは、あくまでも願いを叶えるものだから、願ってもいないことを勝手に叶えたりはしないはずだから、多分大丈夫だと思う。」

「そんなっ……!ジャック!!あたしのためっていうならそんなことしなくていいから!!人魚が生き返ってくれたらそりゃあ嬉しいけど、あんたがいなくなっちゃったら意味ないんだよ!?」

 

 僕が言おうとしていたことをジャックに先に言われてしまった。ジャックの発言にアリスと赤ずきんが血相を変えて止めようとしている。当たり前だ。意味があるかも分からない。上手くいくかも分からない。何より、失敗してしまったら、ジャックがどうなるか分からない。そんなことをさせられるわけがない。何より―

 

「-ジャック、それは僕の役目だ。」

「つう……。」

 

 そう、それは僕がやらなくてはならないことだ。姫の蘇生を一番望んでいるのは、間違いなく僕なのだから。そもそも姫に対する想いなら、姫と過ごした記憶なら、この場にいる者の中で僕が一番だ。それに、想いが足りないかもしれないといったのは僕なのに、その責任をジャックに負わせるなんて真似はできない。

 

「危険だなんて言わせないよ、ジャック。君はそれを自分でやろうとしていたんだ。僕がやるのを止められるいわれはない。」

「それは……。」

「そもそも、姫に関する記憶と想いなら、僕のほうが君よりもずっと強い。なら、僕のほうが向いているはずだ。それは君も分かっているだろう?」

「……」

「君は、どうなるか分からないから、僕にやらせるのを避けようとした。……失敗した時のことを考えて、僕に何か起こるのを恐れて、それを提案しなかった……そうだろう?」

 

 何か言いたそうな顔をしていたジャックの様子から言おうとしていたことを予想してあらかじめ反論しておく。ジャックの反応からして当たりだったようだ。人の心配をするくせに自分は平気で無茶をするその姿勢に、呆れを通り越して怒りを覚える。

 彼は、また無茶をしようとしている。僕のために。人には頼れと言っておいて、自分はそうしようとしない。彼も分かっているはずだ。想いを増やすのに記憶を頼るなら、僕のほうが向いていることは。なのに自分でやると言っているのは、コアに頼った自分やアリスが最後にどうなったかを覚えているからだろう。彼のその気遣いは確かに優しい。が―

 

「-ジャック、あんまり僕を馬鹿にしないでくれ。」

「い、いや、そんなつもりは……」

「僕が、そんなことで怖気づいてしまうとでも思ったのか?僕の姫への想いはその程度だとでも?」

「そ、そんなこと―!」

「なら何で自分一人でやろうとしたんだよ!?」

「っ……!」

「君が僕に危ない目にあってほしくないと思ってくれているのは分かるけど、それでも僕は頼って欲しかったっ!僕は君の『相棒』なんだから!」

 

 それは、僕に対する侮辱だ。姫に対する僕の想いを軽んじている。僕を、ただ守られるだけの弱い存在だと軽んじている。

 僕は、彼の『相棒』だ。少なくとも、僕はそのつもりだ。確かに昨日再会してからは情けない姿しか見せていないけど、それでも、僕は彼にただ守られ続けるだけの存在になったつもりはない。前の世界で彼と支えあって生きてきたという自負がある。誰よりも彼のことを理解していたという自信がある。だからこそ、彼に頼ってもらえなかったことが悔しくてたまらない。この重要な局面で、僕の力が一番必要になるだろうこの場所で、力を貸してくれと言われなかったことが悲しくて仕方ない。

 

 それに―

 

「……ごめん、つう……。手伝って、くれないかな……?正直に言うと、僕だけじゃダメそうな気がして……。」

「ジャックっ……!」

 

 僕の思いが伝わったようで、弱弱しく苦笑しながらジャックは僕に助力を求めてきた。ただ、手伝ってくれるかと聞いてきたということは、ジャックも一緒に来るつもりなのだろう。そのことは少し気になった。 

 ジャックが僕の想いを疑ってそんなことを言っているのではないことは分かっている。ジャックの真剣な様子を見れば僕でなくともそれくらいは分かるはずだ。ジャックはただ純粋に、自分にできることをしようとしているだけのなのだろう。ジャックにも姫に関する記憶がある以上、僕だけよりは成功率が上がるだろうからジャックの考えは間違っていない。でも、みんなにとって大切な存在で在るジャックを、失敗してらどうなるか分からないこの賭けに巻き込むのはやはり気が引ける。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!ジャック、本気であんたも行くつもりなの!?」

「そうです!危険すぎます!」

「……ん、……ん!」

「……ごめん、みんな。でも、ここで僕が残って、それでもし、人魚姫さんの蘇生に失敗してしまったら、僕はこの先ずっと、後悔し続けることになるから……。だから、やらせてほしいんだ。」

「じゃっくー……」

「ジャックさん……」

「……本当に、人を心配させるのが好きな人ですね~。」

「ご、ごめん……。でも、ちゃんと、無事に帰ってくるから。つうと、人魚姫さんを連れて。それは、約束する。」

「相変わらずのお人よしね。……でも、記憶の量が成功率をあげるのなら、あなたも行くべきなのは確かね。」

「……必ず帰ってくるのだぞ!?約束したからな!?破ったらただでは済まさぬぞ!?」

「うん、もちろんだよ。」

 

 でも、ジャックの決意は固いらしい。他のみんなにも心配され、やめるよう言われてもやめようとしない。

 そんなジャックの様子に説得を諦めたようで、渋々といった様子は見られるもののそれ以上引き留めることはしなかった―さっきからずっと黙っている赤ずきんとアリス以外は。

 

「……ジャック……。本当に、行くつもりなの……?」

「……うん。」

「引く止めても……無駄なんでしょうね……。」

「……うん。」

「……本当に、こんな時だけ、頑固なんだからっ……!!」

「……ごめん。」

「……ねぇ、ジャック……?私をおいて、いなくなったり……しないわよね……?」

「もちろんだよ、アリス。君をこれ以上悲しませたくないからね。……必ず帰ってくるよ。」

「……分かったわ……。約束よ……。」

「うん、約束する。」

 

 悲しそうな顔でジャックに歩み寄ったアリスはか細い声でそうジャックに声をかけた。でもアリスも覚悟を決めたようで、一度ジャックを抱きしめた後、かすかに笑ってジャックを送り出していた。ジャックに心配をかけないためだろう。

 そして、ジャックは最後に赤ずきんのほうに顔を向けた。対して赤ずきんは拳を固く握りしめた状態で俯いている。ここからはその顔を見ることはできない。

 

「……赤ずきんさん……」

「……待ってるから……」

「え……?」

「あんたとつうが……奇跡を起こして、人魚を連れて、無事に帰ってくるってっ……信じてっ……待ってるからっ……!」

「……うん、約束するよ、赤ずきんさん。」

「……帰って、こないとっ、許さないからねっ……!!」

 

 ジャックの言葉に顔をあげた赤ずきんは、泣いていた。泣きながら、それでもジャックと僕を応援していた。大粒の涙をこぼしながら、それをぬぐうこともなく。日頃からみんなのお姉さんとして振る舞おうとしている彼女が人前で涙を見せるのを、僕は久しぶりに見た気がする。本当は心配でたまらないのだろう。こんな危険なことをしてほしくはないのだろう。それでも僕達の願いをかなえるためなら仕方がないと、せめて心配させることのないようにと気丈に振る舞っている。ジャックもそれが分かったらしく、赤ずきんを安心させるために柔らかく微笑んでいる。

 赤ずきんとの話を終えたジャックが僕のほうに歩いてくる。そして姫の遺体を僕に返してくる。僕が持っているべきだということだろう。確かに僕が中心になって姫の蘇生を行うのなら、姫の遺体やマイクは僕が持っているべきだろう。

 幼い姫の体は、とても軽かった。ここに来るまでも僕が運んでいたから分かってはいたけど、こうしてもう一度抱き上げてみると改めてそう感じる。

 

「……つう。」

「あぁ、行こう。」

 

 ジャックに声をかけられて僕はジャックのほうを向く。ジャックは真剣な目をしながらも僕に向けて笑顔を向けていた。そのまま僕の肩に手を置いてくる。ジャックも一緒に来る以上手でも繋いでいるべきな気がしていたけど、どうやらジャックもそうだったらしい。僕の手が姫を抱えていて塞がっているから他のところに手を置くことにしたのだろう。

 もう僕もジャックも覚悟を決めていた。今更多くを語る必要もない。僕の名前を呼ぶジャックに一言だけ返事をし、見送るみんなに背を向けて、二人でウィッチクラフトのほうに足を進める。

 ここまで、本当に長い旅路だった。姫に恩返しをするためにウィッチクラフトに願ってから過ごした日々は、たくさんの苦難と失敗の連続だったように思う。多くのものを失って、何度も挫けたし、遠回りもした。

でも、諦めることだけはしなかった。だからこそ、その中で培った思い出が、ジャックの記憶を呼び起こした。そのジャックのおかげで僕も記憶を取り戻した。そして、今こうして、姫にもう一度会うための奇跡を支える礎となっている。僕は、そう思っている。

 ―大丈夫、絶対にうまくいく。さっきは持てなかった確信を胸に秘め、僕とジャックはウィッチクラフトに飛び込んだ。姫への想いと、姫にもう一度会うことを一心に願って。

 

 

 

 

 

 

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