幸せな終わり   作:ラバジョゼ

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幸せな終わりの7章

王子さまの仮面を脱いだ少女は、彼女の王子様とともに、束の間の平和を楽しむ―彼女の王子様には、まだ試練が残っている。


デート

 時刻はお昼を少し回ったくらい。ジャックの部屋での話が終わった僕達は、現在二手に分かれていた。ジャックと僕の二人と、姫一人というグループに。何故姫が別行動かというと―

 

「まさか、人魚姫さんが今からみんなに話をしに行く、なんて言い出すとは思わなかったなぁ……。」

「あはは……まぁ、姫にとっては僕達の思っている以上に大事なことなんだよ。」

 

 苦笑いでそんなことを口にするジャックに、僕も同じ表情で返事をする。姫の気持ちもジャックの気持ちも分かるため、そうとしか言えない。

 そう、姫がみんなに話をしに行ってしまったからだ。僕達もついていこうか、と言ったら断られてしまった。曰く、ジャックがいるとみんなが正直にならないかもしれないからジャックはついて行けず、今ジャックには一人になって欲しくないから僕にはジャックのそばにいてほしいとのことだった。理由は一人一人話していったらどうしても話をしたメンバーとしていないメンバーとが出てきてしまうから、だそうだ。もっと言うと、話したメンバーが抜け駆けしてジャックのもとに行ってしまうのを防止するためらしい。姫から話を聞いたメンバーがジャックに真実かどうか確認しに行くというのは十分考えられることだし、その様子をまだ話を聞いてないメンバーが目撃してしまったら確実に状況がややこしくなる。それを防ぐためにジャックには姫がみんなに話をするまではみんなとの接触を控えてもらい、聞きたいことがあるなら全員が話を聞いてから改めて質問してもらう、というのが姫のプランらしい。僕はみんながジャックに接触しようとした時の壁役だ。最初に抜け駆けした僕が他のみんなが抜け駆けしないようにするというのは、なかなかに皮肉な状況ではないだろうか。

 さらに姫からのお願いはまだあり、僕とジャックにはできるだけ長い間黎明から離れていてほしいと言われてしまった。お昼はともかく、夕ご飯も外で食べてきてほしいとのことだ。理由はさっきと同じ。今度は物理的にジャックを遠ざけるためらしい。名目としては、黎明に来て日が浅い僕達の部屋には家具を含め最低限の物しかないため、必要なものを買い揃えるために僕が解放地区に行き、ジャックは念のため道案内についていく、ということになっている。

 そんな話を姫から聞き、ここまで本気で計画している姫の熱意に改めてジャックは開いた口が塞がらない様子だった。姫にはこんな風なある種苛烈な一面があることを知っている僕でも驚いたぐらいだから仕方がないだろう。あと僕はその話を聞いてジャックに思わず同情した。帰ってきたら姫の話を聞いたみんなに一斉に真実を追求されることになるのが簡単に予想できたからだ。よく言えば個性豊か、悪く言えば癖の強い血式少女達全員に一斉に詰め寄られるというのはかなり骨が折れるだろう。原因の何割かは僕にあるから、本当に申し訳ないと思う。

 思うけど、ジャックにはそれでもみんなと真剣に向き合ってほしいと思っている。僕達全員で幸せになるために。まぁ僕としてはジャックは誠実な奴だからそこの心配はいらないだろうと思っている。ジャックを、信じている。

 そして、今の僕達はその名目をハルさんに伝えに向かっているところなのだ。あまり長時間どこに行ったのかが分からないというのはみんなを不安にさせてしまうだろうとの判断だ。あと、それまでに他の血式少女に出会ったら姫が話があると言っていたと教えることになっている。みんなへの説明を少しでもやりやすくするための対策である。

 そんなわけで、ハルさんがいるであろう作業場に到着した僕達。ジャックが扉をノックして中に声を掛けるとハルさんの声で返事があった。

 

「おう、どうしたジャック……って、あん?なんだ、つうも一緒か。それにしちゃあ人魚姫がいねぇが……珍しいこともあったもんだ。」

「ははは……姫はみんなに話があるって言って他のみんなを探していましたよ。もしみんなを見かけたらそう伝えてください。」

「そりゃあ構わねぇが、わざわざそれを言いに来たのか?」

「いえ、実はつうと一緒に二人の部屋に置くものを買いに行くつもりなんです。それで、どれくらい時間がかかるか分からないから、一応ハルさんにどこに行くのかを伝えておこうと思って。」

 

 作業場に入って挨拶をする僕達を見たハルさんは僕がジャックと一緒に来たこと、僕が姫と一緒にいないことの二つに驚いていた。そんなに僕達はずっと一緒にいるようなイメージがあるのだろうか。そんな風に思われていることに苦笑しつつ姫の名前が出たことを使ってさりげなくみんなが姫に会いに行くように誘導する。そしてジャックはここに来た目的を伝えていた。これで僕達のやることの大半は片付いた。随分簡単ではあるけど、問題があるよりはずっといい。これで後は解放地区の中で時間をつぶせばいいだけだ。もちろん部屋に物が少ないのは事実だから買い物はするつもりだけど。

 

「二人で買い物ねぇ……。デートしてたなんて人魚姫が知ったら怒るんじゃねぇか?」

「あ、ははは……ひ、姫も知ってるから大丈夫ですよ……。」

「そ、そうだね……あはは……。」

「…………なんだ、その反応は……?」

 

 ジャックの言葉に意地が悪そうなニヤニヤ笑いとともに投げかけられた言葉に、二人そろって表情を引きつらせる。冷や汗を流しながら不自然な態度を見せる僕達にハルさんが不審そうな目を向けてきた。デートという表現に僕達が慌てるだろうと予想していたところに全く予想と違う反応をしたからだろう。

 姫がまだみんなに話をしていない以上、ハルさんの口から話が洩れるの防ぐために真相は話せない。もちろん口止めすればハルさんは黙ってくれるだろうけど、その説明にも相応の時間がかかる上に、それを他のみんなが聞いてしまわないとも限らない。この作業場が黎明の内部にある施設である以上、みんながここを訪れる可能性は決して低くないのだ。だから、僕達が姫に聞かされたプランでもハルさんへの説明は他の血式少女達への説明が終わった後で、ということになっている。

 だから仕方ないことではあるけど、ついさっきあろうことその姫の勧めで、しかも本人の前で恋人同士になった僕達としては真実を知らないハルさんの指摘に苦笑いするしかない。このままここに居てもぼろが出そうになるだけで危険だから、さっさと退出しよう。

 

「な、何でもないです……。……さ、さぁ、行こうかジャック。」

「う、うん、そうだねつう!僕達はこれで!」

「あ、あぁ……。気をつけろよ……。」

 

 そう思ってジャックに声を掛けて二人で作業場を後にする。幸いなことにハルさんからの追撃はなかった。これ以上何か聞かれたら口を滑らせそうだったから助かった。

 

「……危なかったね……。」

「……あぁ。まぁ確実に怪しまれてはいるだろうけど、姫がみんなに話をしたらハルさんに伝わるのも時間の問題だろうからあまり気にしてもしょうがないよ。それより、お腹もすいてきたことだしそろそろ行かないか?」

「あ、そうだね。どこかお昼ご飯を食べられるところも探さないといけないし……。人魚姫さんは夕ご飯も外で食べてきてほしいって言ってたけど……。」

 

 ハルさんの部屋を出た僕達は顔を見合わせる。ジャックの顔には苦笑が浮かんでいた。僕も同じ表情をしているだろう。二人ともお世辞にも嘘が得意とは言えないから、ハルさんを相手に早々にばれてしまってもおかしくはなかった。今更ながら、からかってくる可能性の低そうな視子さんのほうに予定を伝えに行けばよかったことに気づいて少し後悔したけど、結果的にはうまくいったのだから一先ずは成功でいいだろう。

 それよりも僕達は早く黎明を出たほうがいい。ここに残っていたらいつ他のみんなと出会うか分からない。姫に会いに行くように伝えるよりも僕達の不自然さを看破されて問い詰められるほうがまずい。そう思った僕はジャックをせかし、足早に黎明を後にした。

 

「あれが本を売っているお店で、あそこにあるのが服を売っているお店。あっちの奥が―」

 

 ジャックが一つ一つの店を指さしながら僕に説明してくれる。その指の指す方向に視線を向けながら、ジャックの声に耳を傾ける。

 黎明を出た僕達は解放地区で軽く昼食を取った後、ジャックの案内で解放地区の中を散策していた。今までは姫や僕に関することをみんなに話したり、視子さんによる検査があったりで解放地区をゆっくりと見て回ることができなかったため、折角時間があるのだからとジャックに頼んだのだ。

 解放地区の中は、限られたスペースを少しでも利用しようと大小さまざまな建物が所狭しと並び、明かりが乏しいため薄暗い道が幾重にも枝分かれし、その中を、色々なエリアで捕まっていたところを血式部隊のみんなが助けたことで少しづつその数を増やしている人々が行き来している。

 そんな光景が、僕には懐かしかった。前の世界で解放地区を歩いて以来だから、ジェイルの中という危険な場所で、先の見えない不安に苛まれながらも、それでも日々を精いっぱい生きている人々の姿が、とても眩しかった。もちろん、僕の知る景色と同じではない。前の世界とこの世界とでは辿った歴史が違うのだから当たり前だ。知らない建物があったり、逆に知っている建物がなかったり、所々に違いがある。でも、そこで生きる人々の姿が眩しいのは、前の世界と同じだった。そのことに、頬が緩む。

 

「ん?つう、どうかしたの?」

「え?あぁ、いや、少し懐かしくてね……。」

「懐かしい……?って、あ……。ごめん……。」

「あぁ、いや、謝らなくてもいいさ、ジャック。この世界ではここは崩壊なんてしていないし、僕達が今生きているのはこの世界なんだから……。今ここに幸せがあるってだけで十分だよ。」

 

 そんな僕の様子を不思議に思ったのか、ジャックが説明を中断して声を掛けてくる。でも僕の返事を聞いてその顔がすぐに曇ってしまった。前の世界での出来事を僕が気にしていると思ったのだろう。申し訳なさそうなジャックに僕は軽く微笑みながら言葉を返す。僕の言ったことは本当だ。前の世界を思い出して何も思わないということはもちろんないけれど、それでも今ある幸せを大切にすると、僕はジャックの恋人になれた時に決めたのだ。前の世界についてどれだけ後悔しても、過去は変わらない。なら、前を向いて生きていくほうがずっと良いに決まっている。そう思うようになった。そう思えるようになった。

 何より、僕が自分を責め続けていたら、ジャックに心配をかけてしまう。ジャックが僕に、自分を責めないように求めてくれたのだから、僕はそのジャックの気持ちを尊重したい。

 そんな思いを込めて僕が返事をしてもジャックはまだほんの少しだけど気にしているような顔をしていた。相変わらず優しいというか心配性なことだ、とその様子を見て思う。

 

「……なら、こういうのはどうかな?」

「えっ?ど、どうしたの、つう?」

 

 ふと思いついて、ジャックの手に指を絡める。突然のことにジャックは驚いているようだ。隣にいる人間がいきなり自分の手を取ってきたら、それがたとえ親しい人間だとしても驚くのは当然だ。だから僕はジャックにからかうような笑みを向けて理由を話す。

 

「これはジャックへの僕からの仕返し……だよ。」

「へっ?」

「さっき、ジャックは僕に謝っていただろう?つまり、僕に悪いことをしたと思ったわけだ。なら、僕がその分の仕返しをしても、文句は言えないだろう?」

「それはそうだけど……。」

「だから、これが僕の仕返しだよ。このまま僕をエスコートすること。」

「エ、エスコート?」

 

 僕の口から飛び出した言葉がよほど予想外だったらしく、ジャックは目を丸くしていた。僕自身、らしくないことをしているのは分かっているけれど。

 僕が突然こんなことをしたのは、僕が口でどれだけ気にしていないと言ってもジャックは気にするだろうから、話題を変えることにしたからだ。それに、僕が楽しそうにしていればジャックも安心するだろうというのもある。あとは、ここで僕が仕返しをするということにして、貸し借りなしの状態にするという目的もある。

 

「僕は普段エスコートする側だからね。偶にはいいかなって思ったんだよ。……ダメかい?」

「……分かった。そういうことなら、頑張ってみるよ。」

「あぁ。期待しているよ、王子さま?」

「うぅ、王子さまって面と向かって言われるのはまだ慣れない……。」

「おいおい、黎明に帰ったらみんなに話が通っているはずだから、早く慣れないとだめだぞ?」

「そ、そうだった……。よ、よし。……こ、こちらです、お、お姫様……。」

 

 僕の言葉に顔を真っ赤にしたジャックが、たどたどしくそれっぽい言葉を口にする。随分と恥ずかしそうだしかなりぎこちないけれど、僕のために精一杯王子さまらしく振る舞おうと努力してくれているのが分かったから、それは純粋に嬉しかった。

 周りからの視線を感じる。突然手を繋ぎ出した僕達の様子がおかしかったのだろう。それには気づいたけど、こうしてジャックと手をつないで歩けることが嬉しくて、大して気にならなかった。そのまま温かなジャックの手に引かれて、僕達は再び散策を始めた。

 

「ご覧ください。ここが、僕達がよく来る……雑貨屋?です、姫。」

「なんで疑問形なんだ……?それと、その口調や仕草は一体……。」

「売ってるものが変すぎるので……。でも、偶に掘り出し物があることもありますから、よく来るのです。アリスの部屋の茶器や、赤ずきんさんの帽子のいくつかもここで見つけたものですしね。…………つうの真似のつもりなんだけど、やっぱり変かな?」

「普通にしてくれていいよ。……正直違和感が強くて、なんというか、ムズムズする。」

「そ、それなら戻すよ。……うーん……中々上手くいかないね、王子様っぽく振る舞うっていうのも……。」

 

 ジャックの突然の奇行に思わず半眼で尋ねる。ジャックが敬語を使うだけなら別に変ではないけど、所々に無理やり畏まった話し方をしている感じが出ていて違和感が強い。表情も笑顔だけど、無理に格好よく笑おうとしているのがまるわかりだ。おまけに大仰な仕草でお店を指し示しているところなんか怪しさ満点だ。どうやら僕のお願い―名目的には仕返し―を受けて彼なりに王子さまらしく振る舞おうとしてくれていたようだ。その気持ちは嬉しいけれど、流石に不自然すぎる。ジャックにとっては初めてのことだから当たり前だけど。一朝一夕でそれらしい振る舞いができるなら僕もわざわざ練習なんてしない。

 それはともかく、これなら日頃のジャックの方がずっと魅力的である。ジャック自身無理があるというのは分かっていたらしく、僕の指摘を受けて潔く演技を辞めた。僕の苦労を分かってくれたようで何よりだ。

 ジャックがまず案内してくれたのは、雑貨屋?らしい。自分でもよく分からないような場所に案内するのはエスコートとしてどうかと思うけど、よく来るというのは本当らしく、店内に入るジャックの足取りには迷いがなかった。

 僕もジャックの後について中に入ると、ジャックが言っていた意味が分かった。針が足りない裁縫セットに空気が抜けるビーチボール、塗潰されたキャンパス。他にも何に使うのか、そもそも使えるのかすら分からない大量の物が所狭しと並べられている店内は、確かに雑貨屋と断言するのは憚られる様相を呈している。

 ただ、僕はこの店の品揃えに妙な既視感を覚えた。どこかで見たことのあるような商品が店内の所々に見受けられる。その既視感の正体は次のジャックの言葉で明らかになった。

 

「おーい、くらら、いるかな。」

「……おぉ、その声はジャックさんじゃないっすか!ご無沙汰っすね!」

「うん、久しぶりだね。」

「なんか大怪我したって風の噂で聞いてたっすけど、元気そうで何よりっす。……って、そちらの方は?」

「あ、この子はつう。最近新しく黎明に加わった血式少女だよ。もう一人、人魚姫って子もいるんだけど、彼女の紹介はまた今度ね。」

 

 ジャックが店の奥に呼び掛けた名前に驚いた。ここはくららがやっている店らしい。一人が性に合っているからと、流離いの放浪商人をやっていた彼女が解放地区の中で店を構えているなんて想像もしていなかったから、こんなところで彼女と出会ったのは意外だった。もしかしたら、ジャックは彼女がいるからここに来たのかもしれない。僕に合わせるために。その気遣いは嬉しいけど、欲を言えば前もって教えておいて欲しかった。

 

「……ジャック。くららがいるって分かっているなら教えてくれてもよかったんじゃないか?」

「一応サプライズのつもりだったからね……ダメだったかな?」

「……まぁ、そういうことにしておくよ。」

 

 僕のことを知らないくららに、僕が彼女のことを知っているということがバレない様にとジャックの耳元に口を寄せて小声でそういうと、ジャックから少し申し訳なさそうな声音で返事があった。その声と内容から本当に悪気がなかったということが分かったからそれ以上の追及はやめておく。僕自身、別に本気で腹を立てているわけでもないのだし。

 

「……最近黎明に来たって言ってた割に随分と仲がよさそうっすねぇ。それに、新しく加わったばっかりの女の子ともう手をつないで町を歩くなんて……ジャックさんも隅に置けないっすね~。」

「あ、あーこれは……。」

 

 僕達が小声で囁きあっているのを見たくららは、僕達のつながれた手を見てニヤリと笑ってそんなことを言う。その笑い方は少しハルさんに似ていた。後日聞いたところによると、くららはハルさんのことを師匠と慕っていて、時々手伝いに顔を出しているらしい。ジャック達がこのお店によく来るのも、顔なじみがやっているお店だからというのもあるらしい。もちろん掘り出し物を求めて、というのも本当らしいけど。前の世界と同じようにくららには謎の入荷能力があるらしい。

 そんなくららの発言にジャックは少し困った顔をしていた。くららに理由を何と説明するか迷っているのだろう。

 姫からの頼みごとを考えれば、話すべきではない。みんなもよく利用するお店、ということならみんながいつ来るかわからないのだから。くららにここで真相を話した後で、今黎明ではなく解放地区にいる他の誰かが帰る前にこのお店に寄ってしまう、なんてことが起きると、姫の説明を聞く前にくららの口から真実が語られることになって混乱を招いてしまう恐れがある。もちろん口止めすればいいのだけど、くららがみんなにバレない様に隠し通せるか分からないため少々危険だ。

 かといって、僕のジャックへの仕返しと正直に言うのも憚られるのだろう。なんで王子様っぽく僕をエスコートするのが仕返しになるのかを説明しようとすると、僕が日頃から王子様っぽく振る舞っていることとか説明しないといけないことが多すぎるし、その過程で姫のことについて触れないといけない。そうなると僕達が手をつないでいる状況自体がくららには不自然に思えるだろう。そうなると話は振り出しに戻ってしまう。

 また、嘘をつくというのも選びづらい。今日明日にでも姫の話はみんなに伝わるし、そうなったらくららの耳にもいずれ入るだろう。そうなれば僕達が手をつないでいた理由もバレるし、そうなったらここで嘘をついたこともバレる。理由を説明すればくららも納得してくれるかもしれないけど、やっぱり親しい相手に嘘をつくというのは気が進まないだろう。

 そんなジャックの心境が分かった僕は、ジャックに代わって理由を説明しようと決めた。ジャックへの仕返し、というのも僕と手を繋いで歩くのを恥ずかしがるジャックの様子を眺めるため、ということにしておけば不自然ではないと思ったからだ。最初はそんなことを考えていたわけではないけど、今はそういう気持ちが全くないわけではないから嘘でもない。それを言うために口を開いて―

 

「そんなんだから、10股かけてる~なんて噂が立つんすよ?」

「…………は…………?」

 

 くららの口から飛び出した衝撃発言に言葉が続かなかった。ジャックに至ってはあまりの衝撃に思考停止してしまったらしく反応さえない。そんな僕達の様子にきょとんとした様子だったくららは、何かに納得するような様子を見せると僕のほうを向いてさらに口を開いた。

 

「あ~最近ここに来たって言ってたっすね、おつうさんは。なら知らないかもしれないっすけど、解放地区では結構有名っすよ?ジャックさんは誠実そうな顔をしてるけど黎明の女の子皆に手を出している鬼畜だとか、優しそうな顔をしているけど年上から幼女まで守備範囲の変態だとか。……あ、でも最近だと、実はジャックさんが手を出しているんじゃなくて、ジャックさんが皆さんにシェアされているんだって話が有力―」

「ちょっ!?ちょっと待ってくらら!?何その話!?初耳なんだけど!?なんでそんなことになってるの!?心当たりがないんだけど!?」

「お、落ち着いてくださいっすジャックさん……。目が、目が怖いっすよ……。」

 

 くららの口から飛び出す衝撃の話の数々にようやく再起動したジャックが反論する。あのジャックが真顔でくららに詰め寄っている様子からして本当に心当たりがないのだろう。話したくららもジャックがここまで反応するとは思っていなかったらしく詰め寄られて少し顔が引きつっている。僕は逆にそのジャックの反応を見て少し安心した。ついさっき姫と二人で話をしていた時には恋愛なんて考えたこともなかったなんて言っていたのに、ともう少しでジャックに詰め寄るところだった。

 取り乱すジャックを下がらせてからくららに話を聞いてみた。そもそも、なんでそんな噂が解放地区内で広がっているのかと。内容はこんな感じだった。

 黎明は解放地区の人なら誰でも知っている組織であり、その中でも血式部隊のみんなは黎明の最高戦力として知名度が高い。様々なエリアに取り残されていた人達を解放地区に連れてくること等もしている関係で顔も売れている。実際に助けられた人達もみんなの顔を覚えている。そしてそうなると必然的に血式部隊の女の子が皆美少女だということ、その中にジャックしか男がいないということも露見することになる。そんな集団があったら、娯楽に飢えている解放地区内の人々の好奇心を刺激するのは当然だ。みんなの関係性に関する様々な噂が飛び交うのに時間は掛からなかった。

 ジャックが他のみんなと親密な関係だということは、すぐに知られた。アリスや赤ずきん、シンデレラ、白雪といったメンバーと解放地区を二人きりで歩いている様子が度々目撃されたらしい。その時のジャック達の様子がとても親密そうだったことから、その様子を目撃した人達が口々に、二人が恋人同士なのではないかということを知り合いに話したらしい。それが人数分積み重なった結果、ジャックの10股疑惑につながったそうだ。

 最近になってジャックが共有されているなんて話になったのは、ジャックについての理解が進んだから。

 最初、解放地区の人々はジャックもみんなのような高い戦闘力を持っているのだと考えていたらしい。どちらかと言えば華奢なジャックではあるが男であるのは間違いないのだから、女の子であるみんなよりも強いのではないかと思ったそうだ。でも実際にジャックが戦う姿を見た者がいないことから、段々とジャックは戦うことができないのではないか、戦うこと以外が彼の役目なのではないか、というように話が落ち着いたらしい。そしてその役目の一つが、みんなの精神の安定なのではないか、と。ジャックに好意を持っているみんなのメンタルケアをすることが彼の仕事であり、だからこそみんながジャックと解放地区を歩いている姿が目撃されたのではないか。そんな風に人々は結論を出した。

 ジャックがその話を知らなかったのも、実はこれが関係しているらしい。端から見ればジャックの10股なんていう異常な関係だとしても、自分達のためにメルヒェンと戦ってくれている血式少女達が納得し、あまつさえ望んでいるのなら、部外者の自分たちは口を出すべきではない、温かく見守るべきだ、と人々は考えた。血式少女達に命を救われた等の理由で好意を持っていた男達もそれなりにいたらしいけれど、その人達も同じことを思ったらしく、ジャックに文句を言うのを血の涙を流して我慢しているらしい。

 そう説明するくららの話を聞いて、ジャックは顔が引きつっていた。気持ちは分かる。自分の知らないうちに自分が10人以上の女の子を誑し込む、あるいは逆に共有されていることにされた挙句、それが解放地区公認だというのだ。実際は誰とも付き合ったりしていないジャックとしては、文句の一つや二つ言いたくもなるだろう。

 

「……まぁ、なんだ、ジャック……元気出そう。」

「……僕、もう解放地区をどんな顔をして歩けばいいか分からないんだけど……。」

「ジャックは何も悪いことしてないんだから、堂々としてればいいさ。」

「悪いことしてると周りの人は皆思ってるんだけど!?」

「いや、皆仕方ないかって受け入れてるっすよ?」

「だからこそどうすればいいか分からないんだよ!?僕に打つ手がないじゃないか!?」

 

 励まそうとする僕やくららの言葉もあまり効果がないらしい。仕方ないとは思うけど。ジャックが言う通り、ジャックには打つ手がないのだから。みんなのファンは、ジャックとみんなが既に恋人同士であり、みんながそれを望んでいると思っているから我慢しているのだ。噂を否定すると恋人でもないのにみんなと親密な関係を築いている、とみんなのファンから何をされるか分からない。それに、所々事実が混ざっているのがまた厄介だ。ジャックがみんなと親密なのは事実だし、ジャックが戦えないのも、戦うこと以外の大切な役割があるのも事実。大々的に流れている噂の一部分だけを修正するなんて難しすぎる。この件に関してはもう諦めるしかないだろう。

 それに―この噂が真実になるのも、そう遠くないだろうから。今日黎明に帰った後、姫の話を聞いた後のみんながどんな行動に出るかに思いを馳せつつ、取り敢えず今はジャックを立ち直らせるのが先だと、ちょっと泣きそうになっているジャックを励ますのだった。

 

 

 

 

 

 

 時刻は夜。あの後僕達は結局夕ご飯を外で食べるくらいの時間になるまで解放地区の中で過ごした。解放地区の中で流れている噂を知って落ちこんでいたジャックは僕と、流石にこのまま放置するのは悪いと思ったのか手伝ってくれたくららの必死の励ましにより何とか立ち直っていた。まぁ少し空元気じみた様子だったけど、夕ご飯を食べて黎明に帰ってくる頃にはいつもの調子を取り戻していた。おそらくここからが本番だと思っている僕としては一安心だ。ジャックはもう今日やることは一通り終わっていると思っている様子だったけど。姫がみんなに話したことについて聞きに来るという可能性は考えていないらしい。知ってしまった噂のせいで疲れているからか、自分に真実を聞きに来るほどジャックのスタンスにみんなが興味を持っていないと本気で思っているのか。僕の予想だと、大体7:3といったところだ。

 そして、案の定僕の予想は当たり、黎明に帰った僕達を迎えたのは、張り詰めた雰囲気を纏ったアリスと赤ずきん、シンデレラだった。みんながジャックに聞きたいことがあるから、今すぐ食堂に来てほしいらしい。なんでこの三人なのかと思ったけど、多分ジャックを逃がさないためだろう。幼馴染であるアリス、血式部隊トップの身体能力を持つ赤ずきん、血式スキル『12ダッシュ』を使えば血式部隊中最高の移動速度を持つシンデレラの三人からジャックが逃げるのは、どうあがいても不可能だ。

 三人のただならぬ雰囲気に委縮しているジャックの返事を待たず、三人はジャックの背を押して食堂へ向かった。僕もそのあとをついていく。三人は僕に気づいていたけど特に何も言ってこなかった。姫から既に話を聞いているのなら僕がジャックの恋人になったことを知っているはずなのに何も聞いてこないのは、僕からではなくジャックから話を聞くつもりだからだろう。

 食堂には、血式少女全員が揃っていた。この時間だと既に眠っていることもある眠りも起きてこの場にいるし、部屋にいることの多いかぐや姫もちゃんと来ていた。二人も真剣な表情で部屋に入ってきたジャックを見ている。そして、この集まりの原因である姫の姿もあった。姫は僕とジャックを軽く微笑みながら見ている。

 アリス達は部屋の中央に設置されている椅子にジャックを座らせた。他のみんなはジャックを様々な方向から囲んでいる。距離自体はそこまで近くもないし、等間隔でもないけど、どの方向に逃げようとしても必ず誰かと接触するような配置になっている。さらに食堂の入り口にはかぐや姫がいる。彼女の血式スキル『タケプロテクター』を展開されたらジャックでは突破できない。絶対に逃がさないというみんなの強い決意を感じる布陣である。

 僕がみんなの様子を確認していると、ジャックが恐る恐るといった様子で口を開く。話があるとは言われていても、具体的に何の話をするのかを聞いていないからそれが気になるのだろう。

 

「……あ、あの、赤ずきんさん……。それで、その、は、話って一体……?」

「……ジャックには、心当たりはない?」

「え、えっと、その……人魚姫さんに聞いた話について……とか……?」

「なんだ、分かってるんじゃん。そう、その話だよ。」

「そ、そう、で、すか……。」

 

 ジャックが口を開いたことで、みんなの視線がジャックに集中する。僕と姫以外が硬い雰囲気を纏っている―ラプンツェルとハーメルン、グレーテルはよく分からないが―からかジャックは緊張している様子だったけど、ジャックが姫に聞いた話と言った瞬間にみんなからの圧が一段と強くなった。ジャックもそれを感じ取ったらしく、緊張が怯えに変わって敬語になってしまっている。

 

「おねーちゃん、ちょっと落ち着いて。ジャックさん怯えちゃってるよ?みんなも、ね?」

 

 そんなジャックの様子を見かねたのか、姫が口を開く。姫が言わなければ僕が言うつもりだったけど、みんなに話したのは姫だから姫のほうが適任だろうと判断し、僕は口を閉じる。

 

「……人魚姫さん、みんなになんて話したの?」

「え?別にジャックさんに話したことと同じだよ?」

「じゃあなんでみんなこんなにピリピリしてるの……?今日は色々ありすぎて僕もうちょっと限界なんだけど……。」

 

 そんな姫の様子を見てジャックは話の矛先を姫に向けた。姫に聞いた方が話が早いと思ったのだろう。ただ結果的には何も分からなかったため、ジャックはひどく疲れたような顔で弱音を吐く。確かにジャックには今日色々なことが立て続けに起こっている。弱音の一つも吐きたくなるだろう。

 

「……色々あったですって?わたしたちもあんたのせいで一杯いっぱいだっての!」

「お、親指姉様、落ち着いてください。お気持ちはわかりますけど……。」

「……ん、……ん……。」

「だってこいつがあんな、あんなっ……!」

 

 ただ、その投げやりともとれる発言は許せなかったらしく、親指が真っ赤な顔でジャックに食って掛かっていた。白雪と眠りに止められてすぐにやめていたけど、顔はまだ赤いままだ。ただ、その顔の赤みはさっきジャックに食って掛かった時までとは原因が違うように思える。さっきまではジャックの発言への怒り、今は姫の話を思い出しての恥じらい、といったところだろう。

 

「…………はぁ……あー、ジャックもみんなも限界みたいだし、手短にいこうか。……ジャック、あたし達はあんたに確認したいことがあるんだよ、人魚に聞いた話について。」

 

 親指の様子を見たからか、あるいは姫の言葉が聞いたからか、赤ずきんが張り詰めた雰囲気を消しながらジャックにもう一度声を掛けている。ただその表情は真剣だった。ジャックもそれが分かったらしく、表情を引き締めて赤ずきんと正面から目を合わせる。

 

「まずジャック、あんたとつうが恋人になった、しかも人魚の許可も取ってあるみたいな話を人魚から聞いたんだけど、ホント?」

「……うん。」

「……そっか、一先ずおめでとう。」

「ありがとう、でいいのかな?」

 

 赤ずきんの質問は当たり前のものだった。姫と僕が恋人だというのはみんな知っているのだから、そこにいきなりジャックが加わったら不思議に思うだろう。ただ赤ずきんにとってはそこまで重要ではないらしく、確認だけしてさらっと受け入れていた。ジャックがよどみなく答えたから、口出ししても意味がないと思ったのかもしれない。それか、まず、と言っていたことだし、この後の話のほうが大切だからか。

 

「……で、本題なんだけど」

 

 やっぱり、予想通りだったらしい。赤ずきんは今までよりも一層真剣な表情で口を開く。

 

「なんか人魚がジャックが告白されたらいくらでも受け入れる、みたいなことを言ってたって、わざわざマイクに録音してまで聞かせてきたんだけど、こっちは?」

「い、いや、いくらでもってわけじゃ……ただ、つうは今恋愛感情を持っているか分からなくても、この先分かってくれればいいから、それでも恋人になって欲しい言ってくれたから……他にもし、つうと同じようなことを僕に求めてくれる人がいれば僕は受け入れるって、人魚姫さんと約束したんだ。」

「なんか、人魚に言われたからって、言ってるけど、あんたとしては不本意なわけ?」

「……ううん、それは違うよ、赤ずきんさん。確かに人魚姫さんのお願いがきっかけではあるけど、僕も彼女の考え方が間違っていないって思ったから受け入れたんだ。……だから、あくまでも、僕の意思だよ。」

 

 そう口にする赤ずきんの表情はさっきまでと変わらなかったけれど、彼女の声音にはいくらか批判的な感情が混じっているように感じた。一般的な倫理観としては当然の反応だろう。いくら僕達血式少女が人並み外れた力を持っているとはいっても、心は普通の人と同じだ。一人の女の子としての彼女の感性が、ジャックの発言に抵抗感を持たせているのだろう。それはジャックにも分かっているはずだけど、それでもジャックは赤ずきんから目をそらすことなく断言した。ジャック本人も言っていたように、最後に選んだのは自分だからこそ、それを曲げるつもりはない、ということなのだろう。

 それを感じたらしい赤ずきんも次に言うことが見つからないらしく口ごもってしまった。場が一瞬静まる。その静寂を破ったのは―グレーテルだった。

 

「なら、仮に今私がここであなたに告白したとしたら、あなたは受け入れるの?」

 

 グレーテルの落とした特大の爆弾にみんなが一斉に息をのむ。相変わらず、感情の機微に疎いというか、常識から外れているというか。ただ、その感情や常識に左右されない自由で冷静な言動や思考が彼女の短所でもあり長所でもあると知っている僕としては、いつもと変わらない薄い笑みとともにジャックに向けてそう問いかけるグレーテルに呆れ半分、関心半分といった心境だった。

 そんなグレーテルの言葉を受けてジャックは―

 

「それは、もちろん。」

『なっ!?』

 

 一切の躊躇なく即答していた。これにはさすがのグレーテルも驚いているようで目を丸くしていた。他のみんなに至っては驚愕で口が半開きだった。

 

「……驚いたわね。少しくらい躊躇するかと思ったのだけど。」

「さっき言っただろう?僕は、僕の意思で決めたんだ。その責任はちゃんととるよ。……それに、僕は君のことを嫌いだなんて思ったことは一度もないからね。」

「……ふふっ、中々嬉しいことを言ってくれるじゃない。ありがとう。」

「……嬉しいなら、もう少し分かりやすく喜んで欲しかったかな……。」

 

 いつもと変わらない表情で言うグレーテルにジャックは肩を落としながら苦笑いでそう答える。確かにいつもと同じ表情で言われても喜んでいるかは分からないだろう。感情の読み取りにくい冷たい笑顔とポーカーフェイスがデフォルトなグレーテルなら特に。

 

「……はっ!ま、まぁ、ジャックが本気だってのは分かったよ、うん。」

「赤ずきんさん……。」

「……前に人魚たちにも言ったけど、愛のカタチは人それぞれだからね。ジャック達がそういう選択をしたのなら、そこにはもうとやかく言わないよ。」

「……ありがとう。」

「うん、どういたしまして。じゃあジャック、これで話は終わりだから、いきなりで悪いけど退室してくれない?」

「へ?」

「女子だけで話したいことがあるんだ。ジャックがいると話せないから、席を外してほしいんだよ。話が終わるまでここに戻ってきちゃダメだからね?」

「ま、また唐突だね……。まぁそういうことなら……僕は部屋に戻らせてもらうよ。……みんな、おやすみ。」

 

 グレーテルとジャックのやり取りを呆然と眺めていた赤ずきんが、すぐに正気に戻ったかのように口を開いた。そしてジャックに対して苦笑しながらお祝いの言葉を投げかける。しかし、赤ずきんは表情をそのままに、彼女の言葉にお礼を言ったジャックに対して今度は急に話を終わらせにかかる。当然ながら突然出て行けと言われたジャックは困惑していたけど、特に食い下がることなく部屋を出ていこうとする。赤ずきんに逆らうのは大変だと知っているからか。単純に精神疲労が限界だからかもしれない。

 そんなジャックの背中に声を掛ける少女がいた。―今まで一言も話していなかったアリスだ。

 

「……ジャック……。」

「ん?なんだい、アリス?」

「……その、恋人ができたみたいで……おめでとう。」

「あ、ありがとう。」

「…………覚悟しておいてね…………?」

「いきなり何!?」

「はいはーい。男子はさっさと帰った帰ったー。」

「まっ、待って赤ずきんさん!!最後のアリスが言ってたのは―!?」

 

 少し寂しそうな顔でジャックに祝福の言葉を贈ったと思ったら、突然凄絶な笑顔で恐ろしいことを言い出すアリスと、その豹変に混乱するジャック。そしてジャックを容赦なく追い出す赤ずきん。彼女に抵抗できるはずもなくジャックはあっさりと部屋の外に追い出されていた。思わずジャックに同情する。今日はちゃんと眠れるのだろうか。心労で寝られない、なんてことになりそうな予感しかしないのだが。

 まぁアリスが言った覚悟しておいて、という言葉の意味は恐らくジャックにも遠からず分かるだろう。女子だけで話、なんてことになった時点でこの後の展開は僕にも予想できた。アリスがなんでそんな言い方をしたのかは分からないけど。いや、ある意味合っているのかもしれない。これからジャックに起こる―みんなが起こす、でもいいけど―ことを考えれば。

 ジャックが部屋の外に出て姿が見えなくなったことを確認した赤ずきんが部屋に戻ってくると、みんなもその周りに集まってきた。今まさに、男子禁制の話し合いが始まろうとしている。黎明の夜は、まだ終わらない。

 

 

 

 

 

 

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