DOLLs story   作:アウオ

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主に不定期です。


Wa2000 1-1

「私の名前はワルサーWA2000、指揮官、私の足を引っ張ったら、承知しないから」

 

 なんてことを言っていた着任当時、自信満々に言い切ったセリフを撤回するまで、ひと月とかからなかった。

 私の思っていた以上に前線は厳しい場所で、そこを守る先輩人形たちとの実力の壁は高く、厚いものだった。そんな現実に私は幾度となく挫折しかけながらも努力を重ね実力を付けていった。

 

 その甲斐があってか、若しくはただ自分の等級の高さが影響しただけか、今では光栄にも第3小隊のリーダーを任されるようになった。もちろんリーダーになったからと慢心せず、今でも研鑽は続けている。しかし、やはり職務上、それまでのような訓練の時間は取れず、様々な業務の合間に鍛えるという形となり不足感が否めない。

 

 そう、リーダーともなれば多くの業務を抱える、自身の受け持つ小隊の訓練計画から指揮官の副官まで、この支部ならではのものも、特に本部から指名される作戦がある際には文字通り忙殺される量の業務が課される。

 かく言う現在も先月、行われた対鉄血ハイエンドモデル討伐作戦で、支部は普段よりも慌ただしい雰囲気に呑まれていた。今は幾分か和らいできた時期だ。

 

 …まあ、騒がしいのは鉄血だけが原因ではないが。

 

 

 指揮官から頼まれた資料を担当部署へ届けるお使いを終えて、指令長室へ戻ってきたところ

 

「――」

 

 ノックをしようと手を上げたところで、中から聞きなれた声が聞こえた。

 

「――、―――」

 

「―――!――、――――。――!」

 

 ドアの向こうからは、2人分の声が聞こえる。話しているというよりは一方がまくしたてているように聞こえる。まくしたてる方の声の主はこの支部の指揮官と最近入った新入りのものだった。

 

「はぁ…」

 

 思わずため息が出る。私の時だってここまで噛みついたことはなかったが、今回の新人は随分粘り強いらしいこの一ヶ月間ずっと指揮官に喰ってかかっていた。

 まあ、事情が事情であるのでその気持ちは分からないでもないが。

 

 中での話は途切れる様子はないが、構わずノックをすると中の声はピタッと止まった。

 

「ワルサーです。戻りました」

 

「入れ」

 

 応答を聞きドアを開ける。部屋に入ると入口側に応接用のテーブルとソファが、その奥に指揮下用の机があり、その前には予想通りの人形が立っていた。

 

「ワルサーさん…」

 

 M4A1、先月の作戦で保護された人形であり、ここに来る前はAR小隊のリーダーとして采配を振るっていたらしい。

 見た目や話した印象からは、特別頭が切れるわけではなく、頼れるリーダーと言ったようにも見えない。本当にリーダーなのか疑問を持つところもあるが、実力は折り紙つきだ。

 

 何か言いたそうにこちらを見るM4を一旦視界から外し、仕事の報告を行う。

 

「資材課のプロップ課長への資料の受け渡しと連絡事項の伝達、終了しました。」

 

「ご苦労」

 

 いくつか報告と確認を終えると、指揮官の机の横にある副官用の仕事机に着こうと体の向きを変える。

 

「…」

 

 …まだいたのか。

 まあ、勝手に退室する者はこの支部にはまずいない。軽く息をつくと、何事もなかったようにM4の横をすり抜け自分の席に着いた。

 

「……それで、まだ何か用かね?M4A1」

 

「私を戦場に出させて下さい、指揮官」

 

「却下だ」

 

「…なぜですか、演習や訓練に於いても問題はないはずです。戦場に出ても足を引くことはないはずです」

 

「貴官に問題が無くても、上層部はよしとはしていない。今は諦めろ」

 

 話をしながらも、私を気にしてかこちらにチラチラ視線を向けていた。

 

(こっちを見たって援護はしないわよ)

 

 M4の視線を無視しながら、自身の小隊の訓練報告に目を通す。副官は基本、指揮官の補佐としての仕事を行うが、特に指示がない時はの業務をしてもよいことになっている。

 報告書のペラペラとめくりながら目を通していく。そうこうしているうちにも、横2人の話は段々とヒートアップしていった。…険悪な方に

 

「前線は常に資源不足のはずです。特に人員は常に不足しているはず、指揮官の話される上の意見はそれらが見えていないように思われます」

 

「口を慎め、それは貴官の考えることではない」

 

「それでは、このようなところで油を売ることが最善の策だと?」

 

「…何を言いたい?」

 

 今回は随分きわどいことを言うな、聞き方によってはこの支部のやり方を否定するようにも聞こえる。

 頭に(疑似)血(液)が上っていたのかM4もそのことに気が付づき、やや顔を青くさせる。しかし、それでも撤回はせず、目をそらすことはしなかった。

 

 重い空気が場を支配する。

 

「…思うに君の動機には誠実性がないと見える」

 

 長い沈黙を破り口を開いたのは指揮官であった。その言葉を聞き、M4は目を見開き握っていた手を震わせた。

 

「私が不誠実だと?」

 

「違うかね?」

 

「違います」

 

 即座に否定するその声には怒りが滲んでいた

 

「私たちは戦いに勝利するために在ります。今までもこれからもそこに変わりはあるません。今こうして、自身の出撃を提案しているのもそれが、戦いに役立つと考えているからです」

 

「本当か?とてもそうには見えんがね」

 

「なぜ、そのようなことをおっしゃるのですか」

 

 指揮官は一旦一呼吸置くと、答えた

 

「ならば、君はこれから受け持つ任務が全てAR小隊に関係していないものだとしても、文句はないか?」

 

「っ!?」

 

 M4の息が詰まった。

 まあ、このことは本人には悪いが皆にバレバレなことだ。彼女は姉妹の痕跡を探すため、危険を冒してでも前線に出ようとしている。それは、なにも彼女だけに限ったことではなかった。姉妹の関係がある人形、かつての部隊が離散した人形、彼女たちはそういった相手を時折探そうとすることがある。

 

 ともあれ、この問いはそれだけを狙ったわけではない。M4は「戦いに勝利するため」と言っていた。しかし、ここでyesと言えば、姉妹関連の任務には抜擢されない部隊に任命されかれない。noならば、今までの言葉の真偽を問われる。揚げ足を取るようなやり方ではあるが、元々仕掛けてきたのはM4だ。

 

 言い返そうと言葉を探すM4であるが、見つからないのか、握られた手はふらふらとさまよっていた。

 

「話は以上か?だったら戻れ」

 

「……っ、はい」

 

 M4は少し悔しそうに顔を歪めるが、素直に退室していった。

 

 室内は先ほどと打って変わったような静寂に変わる。

 はっとして、手元に視線を移す。先ほど手に取った報告書はまだほとんど目が通せていなかった。いつの間にか、M4と指揮官の言い合いに意識が取られていたようだ。

 

 再び報告書に集中しようとするが、先ほどの会話の影響か室内の空気はすごぶる悪いせいもありどうにも作業に集中しにくい。

 結局、少し進めたところで、作業を中断することにした。時計を見るとちょうど昼休みの時間を指していたこともありこのまま、昼食を取りに行くことにする。

 

「指揮官、昼休憩を取ってきます」

 

「ああ、ご苦労」

 

 指揮官は、書類からは目を離すことなく返事をする。

 了承を聞くと私は内心、こんな空気にしたM4に悪態をつきつつも席を立ち、指令長室を退室した。




指揮官は人形が嫌いなわけではなく、あくまで仕事上の部下として接しているだけです。
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