今になって考えてみれば、俺は前世の記憶がある訳だ。って事は、俺って一回死んだのか?
……いやいや、そんな記憶無いぞ!?
でもなぁー、なーんか違和感あるんだよな、今の俺。
もしかしてだが、記憶が戻る前の人格と前世の人格に多少の差異があったのか?
前世の俺は成人してたような気がするし、なんなら男でも無かったかもしれない。いや、それは無いか。無いな。
っていうか、そんな事今はどうでもいい事か。
兎にも角にも、原作キャラの苦労を和らげるためにはやはり、敵の能力なんかの情報を与えるべきだろう。
俺の今すべき行動は、ひたすらサポートに回る事だ。
物語に支障なく、俺にも被害なく、キャラクター達とも仲良くなれる、最高の案……!
時間軸的に、そろそろ生徒会長が動き出してるはず。
なにせ、原作前の時点で先生への手回しとかもやってたしなあの子。
どんだけ本気なんだ……
歯を磨きながら俺は戦慄する。黒神めだかを敵に回すことだけは避けよう。
逆に言えば、味方でさえあれば、完璧に近いくらい安全という事。安心院さん風に言えば、勝つ事を運命付けられてるって事だからなぁ……
まずはファーストコンタクト!
いっちょ依頼でもしてみるか!
なんて書こっかな〜
変に頭いいやつぶって分かりにくくしても、かの黒神めだか様なら一瞬で解いてしまうだろうし、逆にしょうもない奴って思われるかもしれん。此処は普通に行こう、普通に。
って事で、いざ目安箱の前まで来てみたものの……
依頼者が溢れかえっとる!?
こりゃダメだ。俺の依頼よりも純粋な気持ちで助けを求めてる依頼者も沢山いる筈。此処で変な依頼をして生徒会役員達の手を止めてしまったら、それこそ失礼極まりない。
ここは引こう。
「ん? 使わんのか?」
「え?」
「その手に持っている紙は、目安箱に入れる物では無いのか、と聞いているのだ」
げぇ!?
黒神めだかじゃねえか!
なんてこった。いきなり話しかけられても困るだけだっつうの!
えーっと、あーっと……!
「あ……いや、これは、特になんでも……」
「嘘をつけ。見たところ、あまりの投書の量に、迷惑になるかもと思って躊躇っただけだろう?」
ばれとるー
そりゃそうだよなぁ……。
ええいっ、もうどうにでもなーれ!
「あぁ、自己紹介が遅れたな。私は」
「……黒神めだか」
「む、知っていたか。そう、私が第九十八代目箱庭学園生徒会執行部会長、黒神めだかだ!」
凛っ!
って音が聞こえるぐらいハキハキとした声。こりゃすげぇや。
「あ、ご丁寧にどうも。俺は……」
「おーい、どうしたんだめだかちゃん?」
おおっと!
此処で人吉善吉の登場だぁ!
自己紹介を邪魔された事は全然気にしてないんだからね!
「ん? ああ、善吉か。いや何、目安箱を回収しに来てみれば、そこの男子生徒が目安箱のあたりをウロウロしてたのでつい、な」
「ふーん、つまりは依頼人って事か?」
「いや、別に俺は…」
「遠慮はするな!」
「アッハイ」
「あ、因みに俺は人吉善吉。生徒会庶務だ。よろしく」
「あ、こ、こちらこそよろしく」
そう言って握手する俺たち。しかし、なんてごつい手してやがる!
愛する人のために、頑張ってきたんだなぁ……!
あ、やべ、驚きと興奮のあまり硬直してたのに、感動で泣きそう。
踏ん張れ俺の涙腺!
「うお!? どうした急に!」
「ぁいや何でも……」
無理でしたぁ!
だって、いくら数年前に読んだ漫画とは言っても、やっぱりこうして主人公とかが目の前にいると、なんか、なんていうの?
感慨深い……って言うの?
っていうか、めっちゃ意味不明じゃん俺!
握手したら泣きだす奴なんていねぇぞ!?
なんとか弁明しなくては……!
「こ、これはちょっと」
「大丈夫かよお前!」
「男が涙を流す、それ程までに大きな悩みがあるのだな!?」
ちがーう!
でもそういう事にして置くー!
「じ、実は……」
「未来予知……!?」
「そ、そうなんです」
此処は生徒会室。中には、さっき出会った黒神めだか、人吉善吉の他に二人。言わずもがな、書記の阿久根高貴と喜界島もがなである。
揃いも揃って顔面偏差値高スギィ!
直視できないので常にうつむいた状態である。だってまたなんか泣き出しちゃいそう。
あ、因みに俺の顔も結構イケメソだった。流石二次元。俺のようなモブでさえアイドル並みである。
そして本題。俺は、自分のプライドと見栄のため、嘘をついてしまった。そう、未来を見た…と。
実際、100%嘘と言うわけではない。今後の展開を知っているのだ。あながち間違いでもないはず……!
「これは……」
「どうします、めだかさん?」
「うむ、まずはどんな内容だったのかを聞かせてくれ」
ごめんみんな、真剣に悩ませるようなこと言って……。
本当は全然大したことじゃないんだ……!
だからってもう引き返せねえ。やるしかない!
「この生徒会室で起きた事です」
「此処でですか!?」
「一体どんな事が……?」
「……あ、あの、その前に、風紀委員長の雲仙冥利と面識は?」
此処で一応、現状の確認のために質問してみる。生徒会選挙からあまり時間の経っていない今、俺が出来る最上のアドバイスなんて、風紀委員戦ぐらいしかない。
「何故そこで風紀委員が?」
「あ、いや、えーっと、もう過ぎた事なら言っても仕方ないし、確認のため……」
何素直に言ってんだ俺!
もっと上手い事言えただろ!
ダメだ、緊張っていうか、謎の圧迫感のせいでうまく頭が回らない!
「成る程な。……しかし、風紀委員か。雲仙冥利ではないが、別の風紀委員とは以前戦闘を行ったな」
「あぁ、手錠メリケンの」
黒神めだかの発言に続くように、人吉善吉が意味不なことを言う。
俺でなきゃ「は?」ってなってるぞ。
しかし懐かしいな、鬼なんとかちゃんだっけ、眼鏡っ娘の。結構良識あるキャラクターだったような……
「兎に角、詳しく聞かせてくれ!」
「えっと、今日から何日か後、風紀委員と戦闘になります。さらにその後、風紀委員長の雲仙冥利が、この生徒会室を火薬の入ったスーパーボールを使用して爆破します」
「ちょちょちょちょちょ、待て待て待て! え、なんだって!? 火薬の入った!?」
「スーパーボールを使って、この生徒会室を」
「爆破……か。中々面白い事をするではないか、風紀委員」
慌てる善吉、冷静な阿久根センパイ、そして不敵に笑う生徒会長。
因みに我らの喜界島もがなは固まって動いていない。
俺も、いずれはその仲間に入りたいもんだ。
「もう少し詳しいことは……?」
「いえ、それはちょっと……」
「正確な予知は出来ない……と?」
流石阿久根センパイ。中々頭の切れるお人や。
俺の記憶が正確ではない事を、こうもあっさりと暴きやがった……!
「分からないな……風紀委員。聞くところによれば、委員長の雲仙冥利は飛び級でここに入学している。年は10歳前後のはずだが……」
「だが、私と同じ十三組の一人だ。子供だからと舐めるなんて事はするなよ、お前達?」
「分かってるよ、めだかちゃん」
一年十三組、黒神めだか。
二年十三組、雲仙冥利。
三年十三組、日之影空洞。
この三人が、十三組で毎日出席している人達だ。彼等は皆仲間になる。俺の動き次第では、より円滑に協力関係を結べるかもしれん。
あれ?
なんで日之影センパイを覚えてるんだ?
ミスターアンノウンで忘れてしまう筈なんだけどな……。
まあいいや。そこら辺はいつか安心院さんとかに聞けばいいでしょ。覚えてたらの話だけど。
「ふむ、今日は貴重な情報提供、感謝する。嫌な未来を見てしまった時は我々生徒会に知らせろ。いつでも相談に乗ってやる」
「ど、どうも」
「そうかしこまる事はないよ。これからも、君とは関わる事になる気がするんだ」
「あ、それは俺も思ってたぜ!」
「ふっ、同感だな」
は、はぇー!?
なんだかすっごく嬉しいんですが!
その言葉のおかげで、俺の気分はこれまでに無いくらい高揚していた。おかげで頑張れそうな気がするお!
ルンルン気分で、俺は生徒会室を後にした。
その数日後、生徒会室及び校舎の甚大な被害と共に、風紀委員長・雲仙冥利が、生徒会長・黒神めだかに敗北したという報せが、箱庭学園中で広まった。
恐らく彼女達は、俺の言った事が真実かを確かめるためにそうしたのだろう。幸いにも、生徒会のメンバーに怪我人はいないらしい。
俺の未来予知(笑)が役立ったようで何よりだった。
だが、この時の俺はまだ、今後自分が巻き込まれる事となる困難に、気づく事はなかったのであった。
自分で言ってて恥ずかしいな……コレ。