血で雪ぐ   作:夜ノ 朱

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第一話

狭く、暗い部屋にベットが一つ、部屋にいるのは二人。

 

一人はベットに横たわり、一人は隣に佇んでいた。

 

横たわる人物の顔には白い布が被されており、佇む人物は横たわる人物の右手がある位置に自分の右手を重ねる。

 

「行ってくるよ、ばあちゃん。」

 

 

人物は部屋の扉の前に立ち

静かに微笑み、狭い室内に火を放った。

 

 

放たれた火は室内に仕掛けていた爆薬に引火し、一気に爆破し燃え上がる。

 

火をつけた人物は振り返ることなく歩き出した。

 

 

__________________________

 

なあ、お客さん…」

 

ふいに声を掛けられ視線を運転手へと移す。

 

「今って、1月4日の22時27分であってっか?」

 

運転手はカーステレオに表記されている時間に目を向け、その後ルームミラーで視線をこっちに向けて訊ねる。

 

「あってるよ。この時計がズレてなければね」

 

手元にある携帯電話に視線を戻し答える

 

「だったらいいだ

この時計、よくおかしくなるもんだからよ」

 

運転手は笑いながら視線を前方に戻す

 

「おかしかしくなるなら、さっさと新しいのを買いなおした方がいいのに」

 

小言で零すが、狭い車内ではそれくらいで十分だった様で笑いながら運転手は続けていく。

 

「買いなおせるくらいに儲けてるんだったらいいだけどよ、そんな簡単にいかねぇだよ

それに、おめぇさんの様な辛気くせぇ相手にも会話の種になるからよ」

 

辛気臭いは余計だと無言を返答にした。

 

「この雨も随分となげぇことふってるだな」

 

確かにこの時期に降る雨にしてはだいぶ長いこと降っていた。

それでも雨が嫌いというわけでは無いので、ここでも無言を貫くことにした。

 

「まあ、人それぞれだけれどよ…

……そういや おめぇさん、名前はなんてーんだ?」

 

「キナコ・ヘルマト」

 

「ふぅん、キナコか

キナコって名前、気に入ってるだか?」

 

「たった一人の家族だった祖母がくれた名だ。気に入ってるかどうかのレベルではないよ」

 

「まあ、そんなふけぇ理由があるってんなら、何も言うこたぁねぇな

オンナらしい名前だな!」

 

「見た目だけで判断するのは愚か者がすることだよ」

 

再び零した言葉は雨音にかき消されていった

それからしばらくは、運転手の言葉を聞き流していくだけだった

 

 

「ところでここまで走ってきちまってなんだけど、これから行くのって

…どこだったっけ??」

 

…この運転手は相当年齢を重ねているのか、それとも?

 

「…ドーレ港だ。私はドーレ港に行きたいんだ。」

 

「へへっ、ジョークだべ、ジョーク!

あまりにも辛気くせぇ面してるもんだから揶揄っちまったんだ!

 

それはそうと、キナコよ

ドーレ港には何しに行くだ?」

 

「関係ないだろう?

別に私が何をしようと、一介の運転手に話す義理はないよ」

 

そこまで言い終えると運転手の雰囲気が変わる感じがした

 

「あぁ、それが一介の運転手なら ばな。

おめぇさん、大方ハンター試験かそこらだろ?」

 

出来る限り気を乱さず、動揺を気付かれないように平然を装いつつ警戒を強める

 

「その反応を見ればハンター試験の受験者らしいな、どうしてハンターになりてぇだか?」

 

最初こそ変貌した雰囲気と発言に驚きこそしたが、その後は今まで通りの口調に戻ったことにより、警戒を緩めた。

 

「もっともらしいことをついて、その質問を回避することは容易いよ。しかし、偽証は恥ずべき行為だと祖母に教えられていてね。

だから、その質問に答えることは出来ない。しいて言うなら答えたくない。」

 

そこまで答えると、運転手はウインカーランプを焚き、路肩に車止める。

今度は視線だけでなく身体ごと後方を向き、私と向かい合った

 

「…ほぉ、そーかい。なら今すぐ車から降りな

おめぇさんは失格ってことを審査委員会に報告しておいてやるべ」

 

「どういうことなんだ?」

 

「わかんねぇのか?ハンター試験はとっくに始まってんだよ」

 

「…。」

 

運転手の言葉に小さく驚く。

そんな私をよそに、小さくため息を吐いて、運転手は説明を始めた。

 

「ハンターの資格を取りたい奴らはこの世界を走るタクシーの数より多くいる。

そいつら全員を審査できるだけの試験場も審査員の余裕も時間もねぇ。

そこで、オラ達みてぇな一般人も雇われちまって受験者をふるいにかけていくのさ。既に午前中にも脱落者として報告してる奴等もいる。別のタクシーを使ったとしても、もう門前払いされるほかねぇ」

 

ところどころでタクシーネタを入れてくる説明だったが、重要な部分は聞き取れた。

だからこそ、眉間にしわを寄せて唸ることしかできなかった。

 

「つまり、おめぇさんが本試験を受けれるかどうかはオラの気分次第ってことだ。

よーく考えて、オラの質問に答えるんだな。で、答えるか降りるかだな」

 

「私は流星街の出身だ。」

 

運転手は僅かに目を見開くが、何も言わずに次を催促した。

 

「10年前だ。元プロハンターだった祖母のライセンスが、私のせいで盗賊団に奪われた。その盗賊団を見つけ出し、贖罪させること。

そして、ライセンスを取り戻し穢された祖母の汚名をそそぐためだ。」

 

運転手は何も言わずに、前方を向きなおしウインカーを焚き直し発進した。

 

「盗賊団について何か知ってるだか?」

 

「何も知らない。私はすぐに気絶して、気付いたときはライセンスがなくなっていた。」

 

「ライセンスは既に売られているんじゃないのか?

運よくその盗賊団を見つけ出したとしても、ライセンスはもう…」

 

「必ず見つけ出す。

その為の10年だった。これまでもこれからも…だ」

 

「…となれば、賞金首ハンター志望か。

ランク次第じゃ熟練ハンターでも迂闊には手を出せねぇと聞く。無駄死にすることに「私には関係ない!熟練がどうとか相手がどうとか、そういうことに左右される私ではない!必ず見つけ出す!」…。」

 

運転手は言葉を失い、無言でルームミラーを使い此方に視線を向けていた

 

「すまない、ムキになってしまった。」

 

「いや、こっちにも比があった。」

 

再び車内を静寂が支配し、外の雨音とエンジンの鼓動だけが響いていた。

 

静寂を切り裂いたのは、キナコの方だった。

 

 

「私はまだ、話していないことが…」

 

「そろそろ、ドーレ港に着くだよ。

おっ いつの間にか雨も上がり始めたみたいだべ」

 

話を被せるように運転手は声を張り上げ、口調を最初の時のように戻し、車を路肩に止めた

 

ドアが独りでに開き、運転手も外に出た。

運転手に続き、私も荷物を片手にタクシーから降りる。

 

「さあて、ようやく着いただよ。

ここがドーレ港だべ、詳しいことは全部自分で探してくんろ。なあにそれも試験の一環だよ」

 

「ということは、私は…まだ」

 

「あぁ、合格だ。オラは質問に答えろ。あとはオラの気分次第だと言っただよ。

それじゃあ、気合入れていけよ

キナコ!」

 

その後、運転手は私に一言残し、客がオラを呼んでいる。と叫びその場から離れていた。

 

 

 

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