第11話 陸奥記念館
ある日、怜人は会社から呼び出された。まだ、契約は有効なのだから応じない訳にもいかない
会社の建物に入り、会社員がヒソヒソ話をしている中、怜人は平然として社長室へ向かった
「下がっていいぞ」
社長室まで案内した案内人は部屋から出ていくと、三浦社長はいきなり問い正した
「賢者の石はまだあるのか?」
「何の話です?」
「では、ヒントをやろう。会社が保有しているG元素は、実は歴史の影に隠れていたと。伝説を使って死者を蘇らせようとしたが、失敗し別のを創った」
三浦社長は、無表情で指摘した。ヒントというより、簡潔明瞭な質問である
「軍艦に命を吹き込んだらしいな」
三浦社長は数枚の用紙と写真を投げて渡した
それは自分が書いた研究論文と陸奥の写真だ。誰かが後をつけたのか?
「知りませんね」
「採石跡地の件を追及したら長谷川は白状した」
「オカルトマニアの言葉を信じるのですか?」
「数日前まで、は信じなかったのだがね。素手でヒグマとやり合う女性も驚いた」
既に知られたらしい。あのハンターなのか?
いや、ニュースにもなっていないし、ネットにも陸奥に関することも無かった
つまり、見張られていたのだ。どうやったかは知らないが、スパイでも送り込んだのか? それとも、病院のMRIを使った事で足取りを掴んだのか?
怜人の困惑に三浦社長はニヤリとした
「有能にとって絶望は不可能を可能にする力がある。伝説を使って人体生成とはな。中々の感動的なストーリーだが、問題がある。世間に知られたらどんな事になる?」
「知られないようにする」
「石塚も知ってしまったし、下園というフリージャーナリストが君をしつこく調べているぞ。情報社会が発達した世界で、そんな事が出来ると思っているのか? 捏造記事が出回ったら直ぐにバレる時代だぞ」
三浦社長の指摘に怜人は、黙り込んでしまった。尤も、スマホや動画、そしてSNSの隆盛がある時代で完全に秘密は難しい
「それで、何が言いたいのですか?」
「賢者の石のデータを渡して欲しい。G元素は会社と国の所有物だ。研究成果を会社に提出するのが、君の仕事だろう」
三浦社長は手を差し出し、渡すようよう要求した
「はぁ……分かりました。そう思ってUSBメモリーにありますよ」
「随分と素直だな」
怜人はUSBメモリーをポケットから差し出したが、三浦社長が手をとる前に怜人はUSBメモリーを引っ込めた
「条件がある。陸奥には手を出すな」
「良いだろう。こっちは、賢者の石のデータがあればいいのだからな」
どうやら、陸奥には興味ないらしい。国防には興味ないのか。はたまた、大した事はないと判断しているのか
しかし、次の言葉で怜人は凍り付いた
「よく考えて見たまえ。誰が大金を出して難病を救う人がいると? 募金で集まるか? 馬鹿らしい。多額の借金をして苦しむのがオチだ」
「ただの会社ではないのか?」
「私は、防衛省やペンタゴンの発注に応じているだけだ。戦争に勝つための手段は何か? ただ、無闇に部隊を送って神に祈れば勝てると思っているのか? いいや、訓練された精鋭部隊が重要になる。その精鋭部隊に死傷者が出れば、任務に支障が生じる。兵士がその場ですぐ、自力で回復できるような技術は必要不可欠だ」
「医療技術を軍事転用させる気か?」
「何を今更? そんな事は遥か昔からあったじゃないか? 君も知っているはずだ。軍事医学を学んだはずだ*1」
三浦社長の言葉に怜人は何も言い返せない。軍事医学も昔からあった
「もう一度聞くが、陸奥に手を出さない保証は?」
「ああ。無人機やステルス戦闘機などハイテク兵器が存在する中、骨董品の兵器が何の役に立つ? 親友の海将補に聞いたが、不要と言われた」
「酷評ですね」
「熊とやり合うのは面白かったが、そんな馬鹿力があっても何の役にも立たないし、無力化する方法だってある。一騎当千は軍事においてあり得ないんだよ」
三浦社長はニヤニヤと笑っていたが、怜人は口を挟まずに聞いていた。どうやら、軍事の知識をそれなりに知っているらしい。親友に海将補……癒着か?
しかし、ここは怜人が首を突っ込む事案ではない。兎に角、陸奥に危機は及ばないと判断すると怜人は一瞥して扉を向かう途中、三浦社長に呼び止められた
「安らぎは得られたか?」
「そういう事にしておいておく」
怜人は一瞬固まったが、生返事をして今度こそ出て行った。
「渡したのか?賢者の石のデータを?」
怜人が自宅に帰ると、直ぐに長谷川を呼んで今の事を伝えた。陸奥も驚いていた
「大丈夫なの?」
「今のところは心配しなくていい。G元素から賢者の石を作るのも一苦労だ。それに、量産できない。G元素は小惑星にあるからな。次の探査機打ち上げてからもって帰るまで時間がかかる」
陸奥は心配したが、怜人は否定した。確かにNASAとJAXAなどは躍起になって探査機を打ち上げようとしている
「賢者の石は何をもたらすのか分からない。人工的に人を作る事が分かったら」
「クローン人間は法律で禁止されている。だが今後、修正されるだろう」
「だけど、悪用されないか? 軍事用とか臓器移植用とか。戦うだけに生み出された多数のクローンを生まされた、というようなSF超大作の映画のように」
長谷川は指摘した。今のクローン技術でも議論を巻き起こしている
「面白い設定だが、現段階ではそれはない」
「どうして?」
きっぱりと否定する怜人に陸奥は質問した。なぜ、乱用しないと言い切れるのか?
「クローン技術については一度教えたが、哺乳類を含めたクローン動物は、次々に造られている。だが、人間だけには法律からも禁止されている。その理由は、その扱いに対する意識から来る道徳観念だ」
「それだけで防げるの?」
「残念だが、これは扱う人次第だ。クローン人間は作ろうと思えば作れる。どこの国が作っていたとしてもおかしくはない。尤も、作る理由なんて大した理由なんてないと思う」
怜人の指摘に陸奥は黙ってしまった。怜人もだが、怜人の親の件が大きい
「無機物に命を与える技術なんて、会社にとっては要らないのだろう」
「本当に大丈夫? 私の能力を狙う者もいるはず」
陸奥は不安だった。自分に関わる事だからである。もし、公になったらどうなるのか?
(馬鹿力はいらない……か)
一方、怜人は三浦社長の言葉を思い出しながら呆れ果てていた。恐らく、陸奥の主砲の威力が、アダとなったらしい。確かに41cm主砲は威力が高すぎる。対空機銃もあるが、精密射撃が出来る程の能力なんてない
軍事についてはよく分からないが、確か如何に味方の損失を抑えながら敵を倒すかである。コンピュータを搭載せず精密射撃が出来ない陸奥は役に立たないと判断したのだろう
「心配しなくてもそれはない。話はこれで終わりだ……ところで陸奥。海へ行きたくはないか?」
「え?」
話を振られた陸奥は面食らった。なぜ、海に行くのだろう?
「艤装がどのように作用するか見たい。海で航行できると言ったのは君自身だ」
「確かにそうよ」
陸奥は困惑した。確かに艦の記憶では海に浮かんでいたのは覚えている
しかし、人として生まれ海を航行したことは一度もない
採石跡地で主砲射撃しただけである
「来週、行こう。人目を避けるために山口県へ向かう」
「どうして山口県なの?」
陸奥は疑問に思った。なぜ、わざわざ遠くまでいく必要があるのか?
「見てからのお楽しみだ」
一週間後
陸奥の航行試験をする前日、一行はあるところへ向かった。といっても、山口県へ車で走らせている
地方へ向かっているため、あんなに多かった車は次第に数を減らし、建物も少なくなった
怜人にどこへいくのか聞いたが、彼ははぐらかしている。優子もだ。何なのだろう?
怜人は好きな音楽を車内に流しながら高速道路を降り、国道を走らせる。そして、橋がかかっている島へ車を走らせる事に流石に陸奥も心配した
「ねえ、本当に道はあっている?」
「あっている。一度、いったことはあるから。中学の修学旅行に」
怜人は自信満々だが、陸奥は不安しかなかった。周りは数件の一軒家と田んぼばかり
「着いたぞ」
車に乗ってからどれくらい経ったのだろうか? ある駐車場に止まったのだ。陸奥は分からなかった。なぜ、こんな所に車を止めたのか? 周りは建物がほとんどない
しかし、車を降り辺りを見渡したとき、あるものに目が入った
「こ、これは?」
「見覚えはあるだろう。それとも、懐かしいか?」
「デートに誘う場所ではないわ。でも、懐かしい」
陸奥はあるものを見つめていた。それは艦だった時についていた右舷錨と錨鎖だった。見覚えがある。いや、嘗ては自分のものだったものだ
そして、その背後にある建物に目をやると急に目頭が熱くなった。それもそのはず。ここへ連れて来るはずだ
『陸奥記念館』
そう書かれていた
「長谷川から聞いた。戦後、引き上げられ陸奥の沈んだ近くの島に記念館が建てられたのを知ってな*2」
「ええ」
陸奥は歩こうとしたが、なぜか動けない。自分がなぜ金縛りにあったのか
「え?」
陸奥はその理由が分かった。足が微かに震えていた。そう、ここに入るのが急に怖くなったのだ。怜人も察したのか、優しく言った
「大丈夫だ。お前の恨みつらみなんて書かれてない」
「そう……ね」
陸奥は迷ったが、思い切って前へ進んだ
場所が場所なだけに人はほとんどいない。しかし、展示品は多くあった。怜人の話だとサルベージによって7割近くも引き揚げられたらしい
そして、数々の戦艦だった頃の陸奥の写真と乗組員の遺品。当時の船室のイメージモデルもある
「ちょっと違うような気がする」
「そこは突っ込むな。失われたものだ」
陸奥の指摘に怜人は小声で言った。戦艦は当時では海軍の主力艦だった。だが、航空機の発達により戦艦の存在意義が失い始めて来た。陸奥も実戦経験はほとんどなかった
「これがむっちゃんの本当の姿?」
展示物を見回っている最中、優子は戦艦陸奥の模型に指を指しながら聞いた
「ええ、でもこれは改装前の姿ね」
「写真もあるぞ。いい姿だ」
「複雑ね。まさか、こんな形で見ることになるなんて」
陸奥も模型と白黒写真を眺めながら答えた。そこには、かつて軍艦だった頃の写真がいくつも掛けられている
『ワシントン軍縮条約では未完成の艦は廃棄という条件があったため、戦艦陸奥は急いで完成させました』
説明文を読んでいた陸奥は、苦笑した。もし、大日本帝国海軍が気が変わっていれば解体されていたかも知れない
「あんな風に撃っていたのか?」
「演習中の時ね。覚えているわ。でも、実戦ではほとんど撃たなかったわ」
陸奥は遠い目で主砲が発射した瞬間の写真を見ていた。自慢の主砲はこの時しか撃っていない
この時代でも、撃たず仕舞いだ。ただでさえ、誤魔化しているのだから
「むっちゃん、これはお仲間」
「ええ……そうよ」
優子が見ていたのは、他の軍艦の写真である
赤城、大和、高雄、隼鷹……
そして
「長門……」
陸奥はある写真を目にした時、不意に呟いた。それは一番艦である戦艦長門の写真がかけられていた
「一番艦だな? つまり、姉に当たるのか?」
「ええ、そうよ……でも……」
「確か米軍の核実験の標的艦にされたんだってな。他の軍艦もあったらしいが」
陸奥は目を伏せ、静かに頷いた。優子から既に戦艦長門の艦歴は聞いている
戦艦長門は撃沈はしなかったものの、終戦後、米軍に引き取られ、ビキニ岩礁へ運ばれた
そして、核実験の標的艦にされたらしい。今もビキニ岩礁で眠っている
「出来れば……行ってみたいわね」
「ああ……行けたらな。ビキニ環礁は、人気のダイビングスポットで世界文化遺産になったから難しくもない」
戦艦長門は遠い海に沈んでいる。会えるのが難しい事に陸奥は複雑の気分だった
その後、一向は記念館を回った。記念館の中だけでなく、外回りもした
嘗ては自分に搭載されていた14cm副砲やスクリュー、そして艦首も展示されていた
維持されているとはいえ、長い年月がたっているためあちこち錆びている
そして……
「……っ!!」
陸奥はあるものを見た瞬間、心臓が飛び出すほど驚いた
「これ……は……」
「慰霊碑だ。お前の乗員の墓だ」
陸奥は言われなくても分かっていた。だが、現実を見据えないといけない
絶対にあるはずである。爆沈で大勢の乗組員が亡くなったことも
「そうね。皆……こんなところで眠っているのね」
陸奥は平常心を保ちながらも、静かにいった
陸奥は慰霊碑の近くまで歩いていく。しかし、身体が中々言うことを聞かない
それでも、動かない体を無理矢理動かして移動する
二人は陸奥に付いていかない。しかし、陸奥は不満も無かった。これは自分の事だから
「むっちゃん……大丈夫かな?」
「大丈夫だ。折角、命を与えたんだ。だから、彼等にも挨拶しないとな」
怜人のいう彼等とは、陸奥に乗り込んでいた乗組員のことである
「意外ね。ママを蘇らそうと科学者とは思えない」
「そうだな。でも、陸奥に言われた。死者は安らかに眠らせる方がいい、と」
数日前に陸奥に言われたことだ。亡くなった命は蘇らせない方がいい、と
二人は身体を微かに震わせて慰霊碑に手を合わせている陸奥を見守っていた
(三好少将……みんな……私は戦艦陸奥よ。会いに来たわ。天国で見守って)
陸奥は手を合わせ心の中で呟いた。三好少将とは、陸奥の艦長だった海軍軍人である。また、甲種予科練練習生という訓練兵150名近くが艦隊実習として乗り込んだ。そして、爆発事故に巻き込まれた
「あそこね。私が沈んだ場所は」
「静かな場所だったのね」
「そうね。景色は今も昔も変わらない」
慰霊碑から離れた一行は陸奥が沈んだと思われる方向へ向かった。と言っても案内の看板があったため容易に見つけることができた
野外展示場から見える海の沖約3kmの海の底に陸奥は沈んだらしい
「航行試験の時に沈むことはないよな」
「冗談言わないで。その時はあなたを怨むわ。天才の科学者なのに、防げなかったって」
「そうだな。科学者失格だな」
怜人は陸奥の茶化しに苦笑いした。確かに昔のように爆沈してしまっては陸奥に命を吹き込む意味がなくなる
「時間もあれだし、そろそろ行くか」
「ええ」
一行は陸奥記念館から離れた。航行試験は誰にもめがつかない場所で行われた
特に問題はなく、アイススケートのように航行出来るらしい
怜人は陸奥が忍者なのか、と思うようになった
航行試験は問題なく、直ぐに撤収した。誰かに見られたらそれこそ問題だ
「ありがとう。嘗ての乗組員に会わせてくれて」
帰りの車で陸奥はお礼を言った。まさか、あんなところに記念館があるとは思わなかった
「江田島や大和ミュージアムでは、むっちゃんの主砲などが展示されているよ」
「江田島……そう……」
江田島は昔は海軍士官学校だった場所だ。今は海上自衛隊の幹部候補生学校として使われている
(また、機会があればもう一度いきたいわ)
自分が沈んだ付近に建てられた記念館。嘗ての仲間達は事故の事を語らずに眠っている。場所が場所だけに気軽に行ける所ではないが、陸奥にとっては重要な場所でもあった
艦これのSSにおいて舞台設定を現代にしていると気になる所があります
それは、自分の艦が記念館や人気スポットなどになっている所へ足を運んだかどうか?です
呉鎮守府開庁130周年に参加した際にちょっと気になった点です
大和ミュージアムでは戦艦大和の模型の他に主砲弾や零戦六二型、回天などの模型が展示しています
横断幕や看板のイラスト等で艦娘がいますが、実際に大和ミュージアムのように記念館に立ち寄ったらどういう反応をするのだろうと?と思いこの話にしました
陸奥記念館も過去に一度だけ立ち寄った事があります
記念館や写真など太平洋戦争時の艦だった姿を見た艦娘がどう反応するか、について皆さんはどう思われますか?
次話からは主人公達は、トラブルに巻き込まれていきます
後に章を立てておきます