ジェネシス ~陸奥の冒険~   作:雷電Ⅱ

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不漁だからなのか、去年と比べて鰯と秋刀魚の集まりが悪い……
朝霜改二も実装されましたね。加賀と大和の改二は何時だろう?

それはそうと……あらすじの『時雨の特殊任務』と全く無関係ではありません、は嘘でもありません
この話はそれを含めて『艦これ』前日譚ですから


第12話 リンフォンと陸奥の悪夢

「リンフォン?」

 

「そうそう。ネットで噂になっているあれ! 知らないの?」

 

学校の帰り道、優子は友人はある噂の話を聞いていた

 

何でも奇妙なパズルがあるとの事

 

 

 

ネット掲示板では、ある男女が正三角形を組み合わせた正20面体という完璧に美しい形のパズルを骨董品で見つけたという。完璧な20面体のリンフォンはパズルの形を変えると地獄の門が開くといわれており、ある形をすると、地獄の門に吸い込まれる、とい噂話である

 

「それ、噂話でしょ?」

 

「でも、奇妙なパズル見た人が後を経たないの」

 

「SNSで上げていた人もいたくらい!」

 

「占い師も真っ青になったくらい怖がったという噂よ」

 

優子は疑問だったが、周りの人は信じていた。確かにある掲示板で奇妙な事が書かれている

 

それがリンフォンの噂話だ。長谷川さんなら興味ありそうな話だが

 

「ある男女が骨董品に行ってみつけたって」

 

「でも、学校の近くの骨董店は一軒だけだよ」

 

「行ってみましょう!」

 

話が進むにつれてどういう訳か骨董品へ行く話に繋がった

 

優子も特に気にすることでもないし、今日は部活動は休みだ。帰る時間も早いため結局は同意した

 

 

 

この町にある骨董店は一軒しかない。と言っても、リサイクルショップである。個人が経営する店らしく、漫画やDVD、そして一昔のゲームが並べられていた

 

今ではクレーンゲームやアイスなども売られており、何でも屋である

 

「見つかりそう?」

 

「まあ、いいんじゃない!」

 

一行は早速、並べられている商品を見て回ったが、物がたくさんある。一時間もすれば、皆は他の興味に引き寄せられた

 

「そんな都市伝説を真面目に探す人はいないって」

 

「う~ん。そうねえ」

 

優子の指摘に友人はだんまりした。折角、怖い話のネタになると思ったのだが

 

諦めて帰ろうとクレーンゲームに夢中になっている友達に声を掛けようとした時、友達の一人が手に何かを掴み掲げながら駆け寄ってきた

 

「ねえ、これじゃない!」

 

友達が手に持っていたのは正20面体である。正にネット掲示板の情報通りだった

 

クレーンゲームをした友人も漫画を立ち読みしていた友人も集まり正20面体に目を光らせていた

 

「じゃあ、これをレジに持っていったら店員さんは驚くんじゃない?」

 

「でも、数年前の情報だろ?」

 

「わからないよ。店員の息子かも?」

 

ネット掲示板によると正20面体を見た店員は驚愕し、恐る恐るリンフォンについて語るらしい

 

「で、誰がいくか」

 

「じゃんけんにする?」

 

「面倒よ。私が行くわ」

 

友達はレジに持っていくのを誰にするか相談している所を優子はパズルを取り上げてレジに並ぶ。余りの反応に友達は呆気にとられていた

 

「3500円です」

 

「負けてくれません?」

 

「こちらでは、そういうのは取り扱っていません」

 

優子はわざと値引きするよう言ったが、相手は冷たく返された。3500円で正20面体のパズルは女子高生のお小遣いで買うのには高すぎた

 

キュービックと何も変わらない

 

やはり、噂は所詮、噂だった。レジから離れ友達と合流し、レジ袋から正20面体を取り出した、その時優子は驚いた

 

「ん? この説明書は?」

 

店員がレジ袋に入れたのはパズルでは無かった。チラシかと思いきや、黄ばんだ紙が折り畳んだ状態で入っていた。紙を広げるとそこには、正20面体の絵に「RINFONE(リンフォン)」と書かれており、それが「熊」→「鷹」→「魚」に変形する経緯が絵で描かれていた。

 

「まさか、本当に!」

 

「いやいや、店員の雰囲気作りだって」

 

「で、誰が組み立てるの?」

 

周りはネット掲示板が実在するのかと興奮し、誰が組み立てるのかを議論していた

 

結局、リンフォンを買った優子が組み立てる事になった。お金をだして買ったのは優子なのだから当然の事だろう

 

周りは「本当に地獄の門に引きずられたらどうするんだ?」と茶化していたが、優子は特に気にはしていなかった

 

こういうのは大抵、この噂は作り話であるし、万が一の時はパパか長谷川おじさんに頼めばいい。地獄から怪物が出てもこちらには陸奥がいる

 

特に長谷川はこれには興味を引くはずだ

 

「いいわ。完成したら写真で送るから」

 

別れるときに優子はそのように伝えた。パズルを組み立てると地獄の門が開くなんて半信半疑であった

 

 

 

 

 

 リサイクルショップを出る優子達。その背中が見えなくなるまで店員は宿屋の前に立っていた

 

「あの女子高生が買ったのか?」

 

「はい」

 

「お気の毒だ」

 

 店長は店員からの報告を聞いて満足そうに頷いた。その顔は欠落しているかの様に表情が無い。寧ろ、何かを悪巧みしているかのようだった

 

 

 

「リンフォン? スマートフォンではなくて?」

 

「そっちじゃないよ。ネット掲示板の噂よ」

 

優子は家に帰ると早速、相談したが、父親の反応は予想通りだった

 

いや、彼の場合は賢者の石にたどり着いたのは文献や遺跡など辿ったからこそ手にいれたものである

 

ネット掲示板でしかも、正20面体のようなものが地獄の門を開けるとは到底考えられないものだった。説明書も見せたが、さっぱりだった

 

「確かに押したり引いたりして変形出来るのは凄い。でもなぁ、これが怖い話というのも──」

 

怜人も困っていた。娘が面白いものを買ったというが、怜人から見ればただのガラクタである

 

しかし、陸奥は違っていた

 

「凄いじゃない。動物に変形するなんて変わった玩具ね」

 

「でも、噂だと熊から鷹、そして魚に変えると地獄の門が開くの」

 

「へぇ~、お姉さん、やってみて良いかしら」

 

陸奥はというと完全に興味を引いていた。ここのところ、陸奥は現代の生活に馴染むように励んでいるらしい

 

そのため、こういった玩具にも興味がわいてきた

 

「ところで、何で地獄の門が開くんだ?」

 

「それはね。『RINFONE』を置き換えると『INFERNO(地獄)』になるから」

 

怜人は娘の説明を聞いて呆れていた。つまり、アナグラムである

 

「動物の変形パズルの玩具が、地獄の門の鍵か」

 

怜人はため息をつきながら呟いた。どうしてこんなものが、噂になるのか? 

 

一方、陸奥はあちこち弄っており、組み立てようとする

 

「汚い紙を寄越してくれ。翻訳してみる」

 

「でも、ラテン語は習っていないでしょ?」

 

「大丈夫だ。ラテン語の辞典と教本を買って数時間でマスターするから」

 

「……少しは自重して」

 

折角の怖い話のロマンの設定が、天才によって解読されようとする。これでは、面白味がない

 

余談ではあるが、ネットなどの自動翻訳で通していない。どうしても不自然な文になるからである。まして、ラテン語は日本人から見れば難しい

 

「では、陸奥はパズルを組み立ててくれ。数日前に襲われた熊からだな」

 

「嫌味は止めて」

 

陸奥はそう言い、パズルを眺めていた。とても、不思議な正20面体のパズルである

 

 

 

「もう熊が出来たのか?」

 

「ええ。これでも、手先は器用よ」

 

次の日の夕食には、陸奥は既にパズルを完成させていた。4つ足で少し首を上げた、熊の形になったリンフォンを見せていた

 

優子も驚いていた。時間がかかるかと思ったからである

 

「どうせ、妖精の力を借りたんだろ?」

 

「それが、そうでもないの。中身はなんなのか気になって、妖精の力で開けようとしたの。でも、開かなかったわ」

 

陸奥の意外な言葉に怜人は顔を曇らせた

 

妖精の力は幻想的なものである。限定的ではあるが、妖精の力は魔法のように壊れた機械を直す

 

陸奥の艤装も妖精は直した。体が小さいお陰で怜人よりも精密な作業をなってくれる

 

そんな妖精が、リンフォンを分解出来ない? 出来てもおかしくないのだが? 

 

「そうなんだ。それで、パパの方は?」

 

「あ、ああ。ラテン語は大体はマスターした。だが、それ以前にあの紙が気になっていてね」

 

優子が話を振ってきたので、怜人は正直に答えた

 

「気になるって?」

 

「文章から見て古い文献を写したようにも見える。英語の所はラテン語を翻訳したらしい」

 

「それだけ?」

 

怜人は娘が期待しているような目でみていたが、怜人は首を振った

 

「どうだろうな。年代測定出来るものがあれば分かるのだが」

 

「どういう意味?」

 

陸奥も身を乗り出した。リンフォンに興味を示した陸奥にとっては、貴重な情報だった

 

「ラテン語は難しいんだ。しかも、中世ラテン語で書いてある。英語に比べて難しいのに。僕の専門分野でもないんだ。まだ30%しか直訳出来ていない」

 

怜人は愚痴を溢していたが、陸奥と優子は唖然としていた。ラテン語は日本人にとっては計り知れないほど難易度が高いとされている。現在でもバチカン市国では公用語として使われているという

 

怜人はそれをマスターしたのか? いや、まだ基礎あたりだ。流石に苦労はしているのだろう

 

「何だ、二人ともそんな目で見て」

 

「ラテン語を教えて。むっちゃんも習いたいって」

 

「おい、冗談はいうな。僕はラテン語の教師では無い。明日、学校だろ。早く食べて宿題して寝ろ」

 

怜人は会話を切り上げて食事をした

 

「パパが教壇の前に立って授業するよりも、実験をよくやるの。理論よりも実験と経験を積み重ねた方が身に付くって」

 

「あらあら、私に教えてもいいのに」

 

優子と陸奥はヒソヒソと話していた

 

 

 

「出来たわ。よく出来ているわね。今の玩具はこんなに凄いの?」

 

「私も初めて見る。誰が見ても鷹よ」

 

夜9時辺りには陸奥は、鷹を完成させた。精巧な造りであり、本当に羽ばたいて飛んでいきそうな錯覚に陥るほどだ

 

「最後は魚ね」

 

「気を付けてね。オカルトは信じないけど、何が起こるか分からない」

 

「あらあら、私は爆発してもピンピンしているのよ。地獄の門も破壊するわ」

 

陸奥は朗らかに答える。艤装は近くにあり、主砲と副砲、そして、対空機銃が一つずつついている

 

こんな狭い家で使うべきではないが、用心に越したことはない。ここで引き金を引いたら、大惨事である。別に大砲に頼らずとも戦艦陸奥の防御力は高い

 

「早速、組み立てるわ」

 

陸奥は慎重にパズルを弄っていった。何が起こるか、二人とも未知数だ

 

ただの噂か、それとも……

 

 

 

『優子ちゃん、リンフォンを手に入れたって!』

 

「そうだ」

 

『直ぐに捨てるべきだ! 地獄の門が開くと3人ともパズルに閉じ込められぞ!』

 

地下の研究所では、怜人はラテン語と英語が書かれた説明書を翻訳していた。そして、8割ほど翻訳が出来たため、一先ず友人の長谷川に電話をした

 

当然、オカルトマニアである長谷川は驚き、捨てるよう言ってきた。怜人はある程度は予想はしていた。ネットで調べたのだ

 

『動物のオブジェをした地獄の門が開かれたら大問題だ!魚まで変形させていないだろうな!』

 

「そんなのは掲示板に書かれた噂話だ。それに映画のネタだろ*1?」

 

『なぜ、そう言いきれる! オカルトだからって無神経過ぎるぞ! いつもやっている、解析とかはしないのか!』

 

「そうだ。だから気になる。今から画像とデータを送る。一旦電話を切るから見てくれ。10分後にまたかける。お前の感想を聞きたい」

 

怜人は電話を一旦切るとラテン語と英語がぎっしりと書かれた黒板を撮った写真とパソコンでデータ解析したファイルを送った

 

数分後、再び長谷川から電話がかかってきたが、電話に出た長谷川の声は困惑していた

 

「あ、あの……これって……」

 

「戸惑うのも無理もない。まさか、量子物理学の数式と設計図が出て来るなんて思っても見なかった」

 

怜人の説明に流石の長谷川も言葉を失っていたらしい。まさか、説明書にそんな事が書かれているとは思わなかったのも無理はない

 

『先輩の言う通り、リンフォンはホラー映画のモデルになったと噂が……』

 

「どうだろう? 逆かも知れないな」

 

『では、地獄の門の正体は──』

 

「ちょっと待て。反応がある」

 

長谷川が言い終わらないうちに怜人は電話を切った。それはあるセンサーが反応したからである

 

「反応はある。しかし、視認できない。まさか、あのリンフォンの原料は。その前に何処にある?」

 

『まさか、本当に地獄の門が』

 

「黙っていろ。一旦、切るぞ」

 

怜人はパソコンを操作しセンサーをフル作動させた。場所はわかるものの、『あれ』が何処にあるのは全く不明である

 

 

 

一方、陸奥は魚に変形させようとあれこれ弄っていた。優子は明日、学校があるからという事で既に寝ている。陸奥はせめて魚だけでもと思い、試行錯誤して変形させていた。と言っても、パズルはほぼ魚の形をしている。しかし、背びれや尾びれがどうしても出ず、困っていた

 

「う~ん。お姉さん分からないわ」

 

陸奥はため息をつきながら、椅子にもたれた

 

流石にずっと弄るのも疲れる。噂であった無線の混線もなかった。優子から借りたスマートフォンも沈黙している。噂だと電話がかかって来て複数の男女のざわめき声が聞こえるという

 

しかし、かかって来る気配が無い。艤装の無線も試したが、入って来るのはラジオだけ

 

「噂は所詮、噂ね」

 

陸奥は欠伸をしながら背伸びした。流石に彼女も疲れた。艤装を外し、天井を見つめる

 

そのため、陸奥はいつの間にか居眠りをしていた。ベットで寝るべきだが、うたた寝してしまったのだ

 

 

 

そして彼女が見た夢は……悪夢だった

 

 

 

いつの間に自分は海の上にいた。海は酷く濁っており、空はどんよりとしていた。遥か遠くの水平線は、黒い何かが近づいてきた

 

「陸奥さん、指示をお願いします」

 

「あらあら、本気なの? 無線のやり取りを聞いてなかった?」

 

陸奥は小柄な女性の問いかけに笑っていたが、それは陸奥の意思ではなかった

 

『何……これ……?』

 

陸奥はまるでテレビを見るかのような感覚に陥った

 

ある女性に乗り移ったのか? しかし、自由に手足どころか口も動かせない

 

そして、周りの女性の集団に陸奥は驚いた。小柄な女性から大人びた女性まで様々だ。しかも、自分と同じく艤装を纏っている。しかし、その全員が絶望に歪んだ顔で空を眺めていた

 

空には黒い、矢じりのような航空機の集団がこちらに迫ってくる

 

そして──

 

 

 

地獄は突然、訪れた

 

沢山のロケットのようなものが、空と海からこちらに向かって来たのだ。余りの速さと正確さに回避出来ず、周りの艦娘は次々と火だるまになる

 

しかし、彼女達は屈しない。遥か遠くにいる敵に向かって砲撃する者もいた

 

だが、目にも止まらない謎の航空機は雷鳴のような轟音を響かせながら、こちらに向かってロケットを発射していく

 

陸奥も数発はやられ、艤装は破壊される

 

「足柄! 皆を連れて逃げて!」

 

陸奥は叫んだが、足柄と呼ばれた艦娘はそれどころではなかった

 

あちこちで水柱と爆発音と悲鳴が鳴り響き、煙と水飛沫が収まるとそこにいた艦娘はいない

 

『ダメ! 皆! 逃げて!』

 

陸奥は叫んだが、その声は届かず。人型や魚のような黒い何かは、ロケットや大砲を発砲して、陸奥達を徹底的に攻撃していた

 

陸奥も自分自身の艤装で応戦していた。41cm主砲が轟き、砲弾を喰らった相手は火だるまになる

 

しかし、多数に無数。陸奥は押し寄せてくる大群に対処出来ず、正体不明の敵に接近され、あっという間に捕まった

 

陸奥は抵抗したが、相手は陸奥を殴り飛ばして拘束した

 

 

 

『そんな、どうして!』

 

陸奥は鎖に縛られているのに、痛みは感じない。しかし、自分の体がボロボロになっているのには、怒りを覚えた

 

陸奥以外にも捕まった艦娘がいる。足柄と呼ばれた艦娘と弓道着を付けたツインテールの艦娘である

 

正体不明の怪物の軍団は、強引に引きづり三人をある人の前に突き出す

 

目の前にいるのはボスだろうか? しかし、この者の姿を見た陸奥は恐怖した。それ女性ではあるが、両手に巨大な艤装を付けており、その砲台も陸奥が持つ主砲よりも大きい

 

そして、左目から青い光を発光させており、こちらを睨んでいる

 

殺気も半端なく陸奥はその者に畏怖した。ボスらしき者は三人を見渡しながらも口を開いた

 

「オ前達ハ何ヲ企ンデイル?」

 

「知らないわ!」

 

目の前にいる陸奥は、怯まず吠えた。あれだけ、やられても闘志は消えないのか? 

 

「ソウカ。答エナケレバ、1人ノ艦娘ガ死ヌダケダ。火力発電所デ何ノ『新型兵器』ヲ開発シテイル?」

 

火力発電所? 新型兵器? 陸奥はボスらしき人が何を言ってるのかわからなかった

 

しかし、ツインテールである女性は、意外な答えをしたのだ

 

「いいわ……私を殺して。翔鶴姉の……所へ行かせて……」

 

「ソウカ。瑞鶴、貴様ヲアノ世ニ送ル」

 

瑞鶴と呼ばれた艦娘は、砲を向けられても無表情だった。まるで、死ぬのを受け入れているかのようだ。そして、砲弾が発射され爆炎に巻き込まれても悲痛な叫びすら上げなかった。爆炎と水しぶきが収まると、海面にはボロボロになった矢が数本浮かんでいるだけだった

 

「サテ、次ハ誰ダ?」

 

ボスの問いに陸奥は怒りを感じた。まるで、虫を殺すような感覚で殺している。命を弄んでいる怜人もだが、殺人までは行わない。しかし、目の前にいる人物は、罪悪感すら感じない。怜人の妻を殺した犯人グループ……いや、それ以上の悪を感じる

 

「沢山の命を奪っても平気なの?」

 

足柄は抗議したが、相手はだんまりしている。いや、そうではない。通信が入ったらしい。インカムでも持っているのか、右手を耳に当てている

 

微かであるが、通信の内容が辛うじて聞こえる

 

「結衣、火力発電所から熱源反応がある。奴は何かをしている。そいつらは後回しにしろ」

 

「どうでもいいでしょう。核兵器でも死なない私に急ぐ必要がある?」

 

相手は無線を切ったが、足柄は唖然としていた。当然だ。今まで怨念の声が、通信する時だけは普通の人間の声だったのだから

 

「ど、どういう事?」

 

「知ル必要ハナイ」

 

結衣と呼ばれたボスは、足柄を撃ちぬいた。陸奥は恐怖を感じた。相手は何者だ? 

 

しかし、相手は陸奥の疑問を他所に、両手に持っていた艤装を置くと、右手で陸奥の首を掴む

 

陸奥は抵抗するが、相手の腕を振りほどけない。それどころか、片手で陸奥の身体を持ち上げたのだ

 

「オ前ハ血ヲ流セルノカ? イヤ、血ハ流レテイナイナ。兵器ダカラナ!」

 

結衣と呼ばれた者は左手を刀に変えると陸奥の身体に突き刺した! 

 

「きゃあぁぁぁ──!」

 

陸奥は悲鳴を上げた。さっきまでは痛みを感じなかったのに、刺された途端、胸を貫いた痛みが、全身を駆け巡った

 

 

 

「はっ!」

 

陸奥は机から飛び上がった。真っ先に目に入っていたのは、見覚えのある場所だ。柳田家のリビングだ。時計は2時を指しており、自分自身はいつの間にか、うたた寝をしていたらしい

 

「今のは? 夢?」

 

不思議と自分は落ち着いていた。変な夢を見ても平常心を保てていたのが不思議だった

 

その時だった

 

 

 

「陸奥! 陸奥!」

 

突如、眩いが発生し、部屋の明かりはまるで昼間のようになっていた。余りの眩しさに陸奥は片手で顔を覆ったが、薄目を開けて声のする方向へ向けた

 

光の中に誰かが居た。まるで、トンネルの中を無理矢理入って出て来た感じだ。その女性は、腰まであるロングストレートの黒髪と真紅の瞳をしており、陸奥と同じヘッドギアをつけていた

 

その者は片手を伸ばして必死に陸奥を掴もうとする。陸奥は、驚きのあまり手の届かない範囲まで下がるが、何かに躓き転んでしまった

 

陸奥がパニくっている中、その者は必死になって自分に語り掛けている

 

「陸奥! お前のいる男が鍵だ! 絶対にこの世界の流れを変えるな! でないと、人類どころか私達も世界も全滅する!」

 

その者は叫びながらもこちらに訴えて来た。陸奥は唖然としていたが、ある事に気がついた。艤装が自分と同じ……まさか、彼女は! 

 

「長門? ……長門なの!」

 

陸奥は問いただした。長門は微かに頷いたが、陸奥が素早く起き上がると手を掴み、長門を光の靄から引っ張り出そうとする。しかし、何かに引っかかっているのか、ビクともしない。自分自身は車を止める程の力はあるはずなのに、なぜだ!? 

 

「私の事は気にするな! そちら側には行けない! 輪廻転生が出来ない! タイムスリップが出来ない! 私は既に沈んでしまったからだ! だが、これは警告だ! 自然の法則を逆らってでも変えなきゃならない!」

 

「長門、何を言っているの!?」

 

陸奥は負けずに叫んだが、長門をよくよく見るとあちことで服が破れており、艤装も壊れている

 

「お前が見たビジョンは、私達の未来だ! 私達はいずれは迫害され殺される! 私はそちらに行けない! だけど、この世界の過去は変えてはならない! 彼に伝えてくれ! そして、私達を見つけてくれ!」

 

長門は叫んでいたが、光の靄は長門を呑みこもうとしている。何が起こっているんだ? 

 

「陸奥、お前は奴に負けるな! 私の事はいい! だから、生きてくれ!」

 

 

 

「――あああぁぁ!」

 

陸奥は自分の悲鳴で、陸奥の意識は一気に覚醒した。どうやら、夢の中で夢を見る『二重夢』を見ていたらしい

 

体中、汗はびっしょりで、心臓は早鐘を打ったかのようになっていた

 

「今のは……一体……」

 

しかし、陸奥は今のが夢とはとても思えなかった。自分が何者かによって殺される夢。そして、長門の警告

 

「何なの、これ。これがリンフォンの力?」

 

陸奥は恐る恐る魚の形をしたリンフォンに手を触れようとした

 

その時だ

 

「陸奥」

 

「きゃああ!」

 

「おい、五月蠅いぞ? ……どうした、まるで幽霊でも見たかのような顔をして?」

 

後ろから声を掛けられ陸奥は、飛び上がった。今まで悪夢を見せられたのだ。驚くのも無理はない

 

「陸奥、どうした?」

 

「これ、本当に呪われているわ! 私、見たの。悪夢を!」

 

陸奥は今まで見た夢を全て怜人に話した。自分が何者かに殺される夢。そして、自分の姉である長門に会った事

 

「信じなくていいわ。だけど、ナイフを突きつけられた痛みが残っている感じがするの。あのパズル、嫌な予感がするわ。早く捨てないと!」

 

陸奥は全てを話し、捨てるよう言ったが、怜人はただ聞いていた

 

普通ならあり得ない、とかただの夢だ、と言うはずだ

 

「どうしたの? 私の話を信じなくて呆れているの?」

 

「そうではない」

 

陸奥はからかうように聞いたが、怜人の顔は真剣そのものだ

 

「その悪夢は信じている。理由はある」

 

陸奥は愕然とした。てっきり、否定されると思っていたが。怜人は手に持っていたタブレット端末を陸奥に見せた

 

レーダーのような画像と何かを点滅するような表示がしてある

 

「これは何?」

 

「簡単に言ったら、量子トンネル計測装置──僕が勝手に名づけたものだが──一種のトンネルだ。滅茶苦茶小さな世界、量子世界へ通じる穴を図る装置だ」

 

「それで?」

 

陸奥は何を言っているのか、分からなかった。なぜ、これを陸奥に見せるのだろう

 

「反応があった。そのリンフォン……ただのオカルトグッズではない。ポータル(異次元の穴)を開く鍵だ。完成させると別次元へ引きずり込まれ帰って来れなくなるぞ」

 

*1
ホラー映画『ヘル・レイザー』の事。設定が酷似している所がある




リンフォンは某ネット掲示板で噂になったオカルトグッズです

ここでは一行はそれを見つけ、とんでもないものを目の当たりにしますが
陸奥が見た夢……ある意味、外伝ですね。『時雨の特殊任務』である戦いの……

怜人は何か分かったようです。それが、いい方向に転がるのか
それでは、次話でお会いしましょう
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