ジェネシス ~陸奥の冒険~   作:雷電Ⅱ

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第16話 命の価値

 私は柳田優子。柳田怜人の娘。ちょっとトラブルがあった。私には分からない。どっちが正しいのか? 双方とも合っているようで、間違っている

 

 むっちゃんは、ただ平穏に生きたい、パパはむっちゃんが無事に生きていくための力をあげているだけ

 

 

 

パパの研究データを見せた次の日、パパとむっちゃんは喧嘩をしていた

 

初めは軽い口論だったが、今では取っ組み合いになりそうな寸前だった

 

 陸奥が手を出さないのもパパがむっちゃんを追い出さないのもそこまで悪くないだろう

 

 中々、関係は改善されず、ある日、気分転換にどうかと長谷川おじさんが提案したドライブでも同じだった

 

今日は悪くない天気だが、車の中は最悪だった

 

「隠れて生活するのはウンザリ! 私だって自由になって生きたい!」

 

「そうしたいのは僕も同意見だが、今のままだと拒絶されるのは明らかだ。準備を整えるまでは、隠れた法がいい」

 

「仲間まで呼ばなくても力をつけなくてもいい! 人と触れ合うのに武力と仲間は必要!?」

 

 

 

 帰り道、車の中では相変わらず陸奥と怜人は口論している。高速道路で走っているにも拘わらずである。あの研究を見て以来、両者は一歩も引かない。怜人が言う『悪夢』についてが原因だった

 

 確かに悪夢は恐ろしいものだが、それを恐れて研究するのもどうかという事である

 

「脅威に立ち向かう力を持ちつつ人の役に立つためには、これしかない。僕と陸奥が見た夢が何であれ、ただの夢ではないのは確かだ」

 

 怜人は陸奥以上に悪夢に固執していた。陸奥はあの悪夢については初めは気にはしていたものの、関係ないと忘れていた。しかし、怜人は違った。もし、何らかの形で陸奥が拒絶され恐れられたら? 人間全てが寛容ではない

 

「何で指図するの! 大体、怜人に作られたけど、私の父親でも家族でもないくせに!」

 

「むっちゃん!」

 

 あまり熱くなり過ぎたのか、陸奥ははっとして口を紡ぎ、助手席に座り直した。車内では気まずい空気が漂っていた

 

「……いや、いいんだ、優子。陸奥のいう通りだ。僕個人の勝手な行いだ。批判はずっと受けてきた。今までもな。僕の母から優子や陸奥まで。褒められた事はほとんどない。業績や実験は成功しても、その度に不幸が訪れる。今回も災厄が来ないといいが」

 

 怜人は運転しながら呟くように話す。成績がどんなに良かろうが、褒め讃えられる事は少ししかない。まして、デザイナーベビーとなると

 

「人の生活に憧れるのはいい。だけど、それは良い方しか見てないからだ。善悪全て見た上で判断した方がいいかもな」

 

怜人はそう言った。いつもなら、こういった実験は止めるべきだが、何故か優子も陸奥も無理して止めようとは思わなかった

 

 リンフォンの幻影や存在は実在する。そして、怜人まで認めていた。だとすると、あの『悪夢』はただの夢ではない。それを備えるための研究。しかし、そうなると陸奥は自衛官と同じく戦う事になるだろう。いや、戦場で生きる存在に

 

 平和な日本に戦争はピンと来ない。そういうのは艦娘ではなく、自衛隊や在日米軍。そして、日本政府の仕事だ。陸奥も戦争に参加して五体満足で戻ってくる保証なんてない。しかし、何かしら行動しないと、陸奥は虐げられるかも知れない

 

陸奥は目を伏せていたが、思いついたのか、顔を上げた

 

「怜人、私は──」

 

 その時だった。車が激しく揺れた。突然の出来事に車はスピンをしたが、怜人は何とか止めることに成功した。ガードレールに衝突したが

 

「何? 今のは?」

 

 陸奥は荒い息をしながら聞いたが、三人ともわかっていた。車が揺れたのではない。地震だ! その証拠にあとこちで車が立ち往生し、建物も揺れていた。高速道路は大きく揺れ、二十メートル先には崩壊して崩れていた

 

「ケガはないか? 出るぞ!」

 

 幸い、ケガはない。車は大破したが、いつガソリンに火が付き爆発するかもわからない

 

「どうするの?」

 

「とりあえず、怪我人は助けるんだ!」

 

 陸奥は聞いたが、怜人は分かっていた。まずは一人でも多くの人を助けないと。すぐに消防や救急が来るか分からない

 

「ありがとうございます」

 

「いいから止血して!」

 

 陸奥は瓦礫の下敷きになってる老人を助けながら言った。怪力を見ても驚かないのは、そんな余裕はないのだろう

 

 優子が手当てをしている中、陸奥はある音を聞いた。この時代でも聞くとは思わなかった。陸奥はあの音がする方向へ向かった。高速道路の塀から外の景色を見た

 

近くに海があるわけがない。そんなはずはない。この高速道路は、海岸から10キロのはず。なのに、海面が迫ってくる

 

「津波よ!」

 

「大丈夫だ。高速道路が倒壊しない限りは、安全だ」

 

 陸奥は警告したが、怜人は安全だと言い聞かせた。尤も、近くにいた人も興奮はしており、絶叫する者もいた

 

 そんな中、高速道路の非常階段口で何やらもめていた。一人の男性が降りようとしているのを周りが止めている。何があったのだろう? 

 

怜人達は駆け寄り、騒動に聞いていた

 

「どうしたんです?」

 

「下の国道で取り残されている人がいるんだ。車が変形して開かない!」

 

どうやら、さっきの地震で事故が起こり、車に乗っていた男の子が、閉じ込められたらしい。周りの人が開けようとしたが、中々空かず津波が来たことで慌てて避難したらしい。車に閉じ込められたものを置いて

 

「ガラスは割ったのか!?」

 

「違う! 足が何かに挟まっているんだ!」

 

 男性はわめいていた。どうやら、一家の夫らしい。あちこちでケガをしているようだが

 

「よし、助けに行く。大丈夫だ、携帯溶接機がある」

 

 常に艤装の整備用品を積んでいた甲斐があって良かった。携帯溶接機材を持ち運ぶのは本人だけであるが

 

「私も手伝う!」

 

「いや、陸奥は残れ。大丈夫だ、足に挟んでいる金属を切断するだけだ」

 

 大まかなことは男性から聞いているため、怜人は楽観的に言った。陸奥は不安だった。確かに下敷きになった人を助けたが、下敷きになった本人は陸奥の正体なんて知らないだろう。しかし、多くの人が注目しているときに、超人的な力を発揮できればどうなるか? 

 

 陸奥が迷っている間、怜人は高速道路の非常階段を素早く降りる。津波が来るまで数分しかない

 

 

 

「おい、金属を切断するから我慢しろ!」

 

「うん!」

 

 怜人は足を挟まれた男の子を見つけたが、状況は最悪だった。電柱が倒れ、車が下敷きになっている。挟んでいるのは変形した車のドアだろう。とても、人の力では持ち上げられそうにない

 

ドアを切断するだけでも一苦労だ

 

しかし、怜人は慌てず、邪魔となっているドアを切断した

 

「よし……合図したら足に引っ張るんだ……1、2の……3」

 

怜人は金属を持ち上げたが、男の子は力が出ないのか、動かないままだ

 

「無理だよ……」

 

「いいからやれ! パパが心配しているぞ!」

 

 怜人の怒鳴り声で男の子は何とか力を振り絞って挟まった足を引っこ抜いた。これで、大丈夫だ

 

 高速道路から歓声が上がったが、誰かの悲鳴染みた叫びで歓声は嘘のように止んだ

 

「あ……ああ……」

 

「クソ」

 

怜人は何なのか、分かっていた。津波がもう近くまで来ていたからだ

 

 

 

 陸奥は焦った。艤装を付けて駆けつければ助ける事は可能だ。しかし、大勢の人の前で力を行使するのはどうしても戸惑ってしまう。いや、確かに人助けすれば、歓声を浴びるだろう。しかし、その後はどうなるか? 優子ちゃんが言ったように、最悪人体実験されるだろう。研究材料として捕まるかも知らない。表向きは保護となって知られる事は無いだろう。そして、第三者の目が気になる。陸奥は他の人から見れば一般人だ。そんな人が超人的な力を発揮すればどうなるか? 

 

 こうして、迷っている内に津波が押し寄せてくる。波の高さから見て、高架線である高速道路は大丈夫だろう。しかし、怜人と閉じ込められた人は波に流されるだろう。高速道路の非常口付近では、声援と避難するよう促す声が交じっているが、誰も助けに行かない

 

「ねぇ、パパが!」

 

「分かった! 持ってくる!」

 

 陸奥は車の中にある艤装を取るために走り出した。簡易的だが、それでも超人的な力は発揮できる。車の中から艤装を取り出し、重たい艤装を片手で持ち、再び走って高速道路の非常階段口に向かったときには既に津波は怜人の近くまで来ていた

 

陸奥は艤装を付けようと非常階段口に手をかけるが、次の動きを止めた。誰かに止められたからではない。

 

 怜人が陸奥に向かって片手をあげていた。それは、制止する合図だった。怜人は助けを拒んだ。陸奥の力を見せないためである

 

 陸奥が躊躇してる間、津波は二人を襲った。優子が、父の名前を悲痛な叫びを上げていても、周りが叫び声と怒号を上げている時も陸奥は思考停止に陥った

 

自分の存在は何なのか? 何のための力なのか? 

 

 

 

数日後

 

「むっちゃんのせいではないよ」

 

「いいえ。私が喧嘩したせいよ。あの時、艤装付けていたら、私は注目されていた」

 

 陸奥と優子は病室で横たわる怜人の隣に座っていた。結果から言うと、怜人と閉じ込められた男の子は助かった。災害派遣て出動していた自衛隊の人が見つけてくれたらしい。ただ、二人とも意識がないため病院に搬送されたという。長谷川さんも駆けつけ、送ってくれた

 

 例の親子連れの一家は助けてくれたことに感謝を述べていたが、陸奥は何も言わなかった。もし、自分が降りて助けたらどう反応していたのだろう? 

 

 

 

 そして、もう一つ問題があった。陸奥は怜人の家族を呼ぼうとしたが、それは叶わなかった。優子の忠告は本当だった

 

 不意に誰かが声を掛けて来た。看護師かと思い振り返ると例の記者、下園が立っていた

 

「ノックしたけど、返事が無くて──」

 

「帰って」

 

 陸奥は冷たく言った。マスコミがこんな時も取材とは呆れる。病院の受付は何をやっているのだろう

 

「その、お見舞いに……ところで彼の家族は……その柳田さんの母親は──」

 

「その人は来ない」

 

 下園があれこれと言い訳するため、陸奥は下園の方を見向きもせずに冷たく言い放った

 

「どうして、そう言えるの? 彼は忘れ去れた天才だけど、一時期、有名になった人よ! 母親は柳田さんを自慢していた──」

 

「貴方、記者なのに何も知らないの?」

 

 陸奥は立ち上がり、下園を睨みつけた。陸奥の気迫に下園は数歩下がったが、流石は記者と言うべきか怯みもしない

 

「前も言ったけど、怜人は怜人なりに頑張っていた。私の強化研究もそのため」

 

「ど、どういう──」

 

「教えてあげる」

 

陸奥は淡々と昨日の事を話し始めた。それは怜人の母親について

 

 

 

その前日

 

「ここが?」

 

「そうよ」

 

 陸奥は怜人の家族が見舞いに来ないのにしびれを切らした陸奥は、直接会うことにした。電話では、本人は忙しいと判を押すように返される始末である。優子は、嫌そうな顔をしながら案内させた

 

「でも、マンションにずっと住んでいるのに、どうやって働いているの?」

 

「株主なの。インターネットと株で生きている人だから」

 

優子は鍵を取り出すと施錠を開けた。陸奥の目に入ったのは、何もない廊下だった。家具はほとんどなく、靴が三足あるだけ

 

「優子ちゃんのおばあちゃんって──」

 

 怜人の母親は貧乏なのか、と危うく口にしそうになった。しかし、優子は首を振った。陸奥の手を取るとある所へ連れて行こうとする。陸奥も慌てて上がり、優子に従った

 

 廊下を歩き、ある扉を開くと陸奥に入るように仕草で促す。しかし、陸奥は部屋の中を見て唖然とした。部屋の広さではない。リビングだろうか? そこに複数のパソコンとタブレット端末とスマートフォンが複数ある。そして、三人の女性がパソコンを弄っていたが、仕事だろう

 

「──柳田さん、買いのタイミングまで後2分切りました」

 

「いい。この取引が成功したら、6億は動くよ」

 

「IT企業の株価も予想通りです。これで──」

 

 パソコンの駆動音やスマートフォンのメロディなどは慣れてはいたものの、怜人とは違う雰囲気。しかし、この場所はどう見ても研究室ではない。画面にはドルやユーロなどが書かれた折れ線グラフや会社絡みの情報がびっしりと表示されている

 

「これは──」

 

「むっちゃんに何度も言ったじゃない。金持ちになるためには、何も豪邸に住む必要なんて無いって」

 

 人は自分自身の眼で見なければ信じられないというのは本当だった。時代が違う事もあるだろうが、経済はここまで変わるのだろうか? 

 

「ねぇ、あんた……その人は誰なの?」

 

 一人の中年の女性が、優子に気付いたのか、面倒くさそうに聞いた。しかも、こちらをチラリと見ただけでパソコン画面に目を戻した

 

「あ、あの私は陸奥です。怜人さんの──」

 

「もう再婚相手を探したのかい。全く。さっさと帰って。忙しいから」

 

「え?」

 

 陸奥の言葉を遮った怜人の母親はため息をつくだけで終わった。それだけ? それだけの反応? 

 

「ちょっと聞いてよ! 貴方の息子さんは意識不明なのよ! それも──」

 

「知っている。警察から電話来たわ。だから何? 失敗作にも程があるわ」

 

「し、失敗作って?」

 

陸奥は、この言葉に唖然とした。失敗作? 

 

「どういう意味! 貴方、母親でしょ!」

 

「五月蠅いわね。そう簡単には死なないように大金積んでまで遺伝子操作までして頭の良い子を作ったんだから」

 

「何を言っているの?」

 

「デザイナーベビーは知能だけ上げるだけではないの。肉体的にもね。怜人は運動が苦手だからやらないだけだけど。治癒能力も向上させるように頼んだから、あの程度の怪我でも治るわよ。それよりも、バカ息子は何処でこんなアバズレ女を捕まえて来たんだい。全く、何を考えて」

 

「貴方、どういう事!?」

 

 陸奥は自分の身体から怒りが沸いて来るのを感じた。アバズレ女は自分のことらしいが、それはどうでも良かった。先ほどの言葉を聞いて怒っていたのだ。あの程度の怪我? 意識不明の重体になって入院する事が? 

 

「自分の息子を心配しないなんて! どういうつもり!」

 

 陸奥は今まで自分が大声を上げた事は初めだ。2人の男女は部下だろうか? ビクッとして陸奥に目を向けたが、関係ないというふうに目を逸らして仕事を没頭していた。いや、自分達には関係ないと言いたいのか? 

 

「何をそんなに叫んでいるのよ? デメリットを限りなく無くすために創ったのよ。お酒に逃げてアルコール中毒にならないように代謝能力を挙げてアルコールどころか薬物耐性を上げてもらっているんだから。治癒能力を人よりも高いのは自殺でうっかりと簡単に死なないため。だから心配なんて──」

 

 ここまで来て陸奥は堪忍袋の緒が切れた。何をしたのか覚えていない。ただ、陸奥は近くにあったパソコンを拳で破壊したのははっきりと覚えていた

 

陸奥の破壊行為に優子だけでなく、怜人の母親も驚いた

 

だが、彼女はため息をついた

 

「あんたもデザイナーベイビーかい? 悪いけど、脳筋はうちにはいらない」

 

「貴方、自分のした事が分かっている! 貴方の息子は、人形ではないのよ!」

 

「怜人はね、叶えられなかったことを叶えるために作ったの。それを言うことも聞かずに──」

 

「当たり前よ! そういう態度だから嫌ったのよ! 何の夢を追っているか知らないけど、そういう態度が傷つく! 私の時でも、そんな事は無かったわ!」

 

陸奥は怒鳴ったが、彼女は呆れるだけで「後で弁償しなさいね」と言っただけだ

 

「もういいよ。むっちゃん、帰ろう」

 

優子の声が聞こえたが、今度は陸奥が優子の腕を引っ張って部屋を出た。ここには居たくない。それだけだった

 

 

 

「──怜人の母親は、金と天才しか興味ない。人の命なんて人形としか見ていない。怜人が何で私を追い出さなかったのか、分かったような気がした」

 

 昨日の事を話し終えた後も下園もカメラマンも口を挟まなかった。陸奥は一瞬、怜人の逆鱗に触れてしまい首を絞められ死ぬことを覚悟した日を思い出した。彼は初めから殺そうとは考えていない。死なないと知っていたからかも知れないが、陸奥はある疑問を抱いた

 

彼は、私の手によって殺されるのを望んでいたのか? 真相は分からない。

 

 ただ、確かなのは彼は陸奥を嫌ってはいない。私の能力を見ても嫌ってもいないのは確かだ。一緒に過ごしている内に、彼も考えが変わったのだろう

 

「リンフォンで悪夢を見たの。私の仲間が死んでいくのを。あの悪夢が本当かどうか分からないけど、彼は恐れたの。私が死ぬのを。平穏な生活が壊れるのを。だから、私の仲間を呼ぼうとした」

 

「でも、デザイナーベイビーや人造人間は倫理観で──」

 

「倫理や人権なんて大金を積めば皆は黙る。おばあちゃんはそう言っていた」

 

今度は優子は反論した。下園の反論を一切与えないように

 

「むっちゃんが怒ってくれて嬉しかった。わたしもそう。人の命や人権なんて相手が変わると紙切れ同然の価値になるの」

 

「だから、もう出て行って。私はビキニ岩礁へ行って長門を迎えに行く」

 

 陸奥は既に目的があった。かつての仲間を集める事。まずは長門からだ。怜人に協力する方向だ

 

 陸奥の気迫に下園は病室から出た。彼女もここに居るのが得策ではないと考えたのだろう

 

 記者が出て行くのを見届けると陸奥と優子はベットに目を向けたが、2人共仰天した

 

「パパ? 起きてたの?」

 

「ああ。目は覚めたよ。怒鳴り声にね」

 

 怜人はニヤリとしていたが、陸奥は顔から火が出るかというくらい真っ赤にした。まさか、聞かれていた? 

 

「だけど……お礼を言わせてくれ。ありがとう。研究は──」

 

「いいえ、やって頂戴。その代わり、仲間を呼んで」

 

陸奥は指を指しながら怜人の言葉を遮った

 

「リンフォンの悪夢が何であれ、ある種の警告よね? それなら、お姉さんが悪い人を倒してあげる」

 

「いいのか?」

 

「そんなに悪い人には見えないから」

 

 陸奥は今までの事を思い出しながら答えた。今まで奴隷のようにこき使われていた事があっただろうか? 彼は彼なりに努力している。彼の母親のように子供を人形か何かを見るような愚かな人間ではないはずだ

 

「だから、さっさと退院して帰るわよ」

 

「病人に向かって酷いな」

 

「直ぐに治るでしょ?」

 

 陸奥は悪戯に笑い、怜人はヤレヤレというふうに肩をすくめた。雨が降って地が固まるとはこの事らしい

 

 

 

某テレビ局

 

「下園、お前は何をしている? よくもネットに人造人間のニュースを流したな。お蔭で抗議の電話が鳴りっぱなしだぞ」

 

 下園がデレビ局に帰ると、そこには怒り狂ったプロデューサーが待ち構えていた。それは、ある者が人造人間の研究をしているというネット記事だった。中々、放送してくれない事にしびれを切らした下園は、ニュースを自分で作りこっそりとネットニュースで流したのだ。しかし、現実は非情である。SNSではフェイクニュースだと非難され、ほとんどの者は誰も信じなかった。精々、漫画映画ネタを出して馬鹿にする始末である。巡順に上げていくはずだったが、それが裏目に出た

 

「いいか、君は2週間の停職処分だ」

 

「はい。今さらですが、取材は辞めました」

 

「素直だな」

 

 プロデューサーは眉を吊り上げた。本来は反発するはずだが、今日はやけに大人しい事に不信がっていた

 

下園が帰宅するために一瞥するとプロデューサーは後ろから声を掛けた

 

「素直すぎるから、停職は3週間だ」

 

「ちょっと! 職権乱用よ!」

 

下園は抗議したが、プロデューサーは無視した

 

「何を見たかは聞かないし、どうでもいい。ただ、取材は辞めたのは、正しい判断だ」

 

 意外な言葉に下園はパチクリとした。どういう事なのか? まさか、ネタを独占するつもりなのか? 

 

「手柄を奪うつもりはない。──この世界で超人的な人間がいたら、一般の人々はどう思う? デザイナーベイビーですら過去に大騒ぎとなったのに」

 

 プロデューサーの指摘に下園は黙った。彼等は人間だろう。しかし、周りはどう見えるのか? 価値観が変わって奇異な目を向けられなくなったが

 

あの親子と陸奥と名乗る艦娘はどうなるのだろうか? 

 

 

 

2週間後

 

 私は陸奥。怜人の退院後、いつもの日常生活が戻った。怜人の母親の抗議の電話を受け取らず、地下室の研究室でG元素の研究を続けていた

 

私も協力した。G元素がこの世界で何をして来たのか? 宇宙から飛来して歴史の影に隠れながらも存在している

 

「順調だな。この理論で行くと、長門は召喚できるかどうかは保証はしない」

 

「いいわ。誰であっても」

 

怜人との関係は改善した。もう、暴走する事は無い石塚さんからの忠告ももう大丈夫だろう

 

「あの2人……一体、どうしたんだ?」

 

「何でもない」

 

 長谷川は優子に質問したが、優子は何でもないと言う風に首を振った。三浦社長も素直に研究データを渡す怜人の姿を不審がったが、裏切ってはいないのは分かっていたため、特に気にはしていなかった

 

「本当に未曾有の危機なんて来るもんですかね。まだ、ノストラダムスの大予言の方が信ぴょう性がありますよ」

 

「予言通りにはならなかっただろ?」

 

 旧友の話し合いも相変わらずだ。家族が崩壊する事なんて無いだろう。あの悪夢が現実にならないのを祈るしかないが、今のままだと問題ないだろう

 

 長谷川のオカルトを真に受けるつもりはないが、高度に発達した文明が崩壊する兆しなんてない。情報社会で情報は自由に見れて、経済も崩壊はしていない。三浦会社も悪徳企業ではなさそうだ。精々、横領で逮捕された元課長のニュースが流れるだけである。戦争も勃発する気配もない。いや、軍事挑発する国はあるのだが、それで世界崩壊なんてあり得ない

 

「パパ、リリから電話」

 

「リリか。石塚のロボットが電話なんて珍しいな」

 

固定電話の受話器を受け取った怜人は電話に出る

 

 

 

 しかし、ある日突然、日常が崩れるなんて考えても居なかった。まだ、時間はあると思っていた。そして、ある程度は世界崩壊の原因は予想はしていた

 

 

 

全く予想外だった。私だけで怜人も優子ちゃんも長谷川も予期していなかった

 

「どういう意味だ!!」

 

怜人の怒鳴り声に周りは静まり返った。なぜ、彼は怒っているのだろう。そして……何で遠くから爆発音と砲声が聞こえるのだろう

 

「どうしたの?」

 

 もし神がいるなら、私は神を呪ってやりたい。私が爆沈した時もこんな気持ちがあったかも知れない




いよいよ秋イベが始まります
神州丸が登場するようですね

次話からは章が変わります
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