ジェネシス ~陸奥の冒険~   作:雷電Ⅱ

21 / 30
こんにちは。雷電Ⅱです
節分イベントや私用で色々と時間が足りなくて嘆いていました
それでも銀河は手に入れました
アーケードもゆーちゃんや熊野鈴谷改二実装など沢山あり過ぎます


第21話 空母『いずも』

「パパ。何処へ連れていかれるのか分かる?」

 

「さあ? 護衛艦と言ったが、種類が多くて分からん」

 

 哨戒ヘリであるSH-60Kに乗せられた一同は、何も話さない。民間機とは違って乗り心地は良くないのだから当然である

 

例外なのは長谷川くらいで彼は窓の外を仕切りに覗いているが

 

「私なら分かる。多分、ラボに監禁されて人体実験されてしまうかも」

 

「あり得なくもないが、やったところで何も分からんよ。人体構造は、他の女性と変わらないのだから」

 

 こんな時でも怜人はぶれない。科学者というのは知識と経験があるからこその反応なのだろう。完全な未知のものなら話は別だが、怜人は既に調べている。なので、どんなに時間をかけようが怜人の研究結果と同じだろう

 

「え? そういう……」

 

「売春なら別だが」

 

「……その時は暴れるわ。艤装つけて施設を完全に破壊する」

 

「ああ、構わないよ。但し、やり過ぎないように」

 

 怜人の反応に陸奥は頷いた。性犯罪などは彼にとって許されないものなのだろう

 

しかし、横で聞いていた草野1尉はニヤリと笑った

 

「血の気の多い人だ。人材として欲しいくらいだ」

 

「それは有り難う。それで、何処へ向かうか教えてくれないか? 変なクラゲのような被り物をした女がドローンを飛ばしてきたら終わりだぞ。いや、護衛艦が沈められているかも知れない」

 

「心配するな。もう圏内だからな。護衛艦の大半はそこへ避難している」

 

 草野1尉の予想外の答えに陸奥と怜人は顔を見合わせた。優子も唖然としている。こんな事はあり得るのか? 

 

「護衛艦ってそんな能力あるの? 弾道ミサイル迎撃の能力があるとか」

 

「それはあり得ない。圏内? ……電波か? ……確か未知の生命体に特定の電磁波を浴びせたら嫌がるといった報告書を読んだ。動物の中には電磁波によって悪影響するといった事が……陸奥は何も感じないか?」

 

「いいえ。私は何も……」

 

 陸奥は狼狽えながらも否定した。陸奥の誕生方法はともかく、全て影響するわけでも無さそうだ

 

「でも、何処へ連れていかれるの? スパイ映画みたいに秘密って」

 

「分からないが、ここまで極秘なのも珍しいな。草野1尉も怪しいし」

 

「確か、長谷川さんの話では特殊作戦群は名前も秘密って言ってたけど*1

 

 三人はヒソヒソ声で話していた。特殊作戦群は実態が分からない。名前すら秘匿するような部隊があっさりと名前を名乗るのも可笑しな話だ。恐らく本名ではないだろう

 

三人のやり取りを聞いていた草野1尉は、苦笑して話に割に入った

 

「心配しなくても正真正銘の自衛官だ。工作員でもスパイでもない。身分を証明出来るものはないが」

 

「リンフォンを奪っておいてもか?」

 

「あれは仕事だ。仕方ない。それに陸奥という女性も気になるな」

 

陸奥に目をやった

 

「本当に軍艦の生まれ変わりか?」

 

「えーと……記憶は曖昧だけど、間違いないわ」

 

「そうか」

 

草野1尉は頷きながら答えたが、陸奥は警戒を緩めなかった

 

 怜人も陸奥の事は困惑したが、後になって仲は良くなった。変人な所はあるが、彼は科学者だ。仕組みも分かっているため、陸奥を毛嫌いなんてしていない

 

しかし、草野1尉は会ってもないのに受け入れているのだ。情報を手に入れたとはいえ、それで満足するのだろうか? 

 

 陸奥は口を開こうとしたが、その直前にヘリの窓を覗いていた長谷川は驚嘆していた

 

「あそこに降りるんですか? まさか、空母に降りるんですか!?」

 

「そうだ。『いずも』に降りる」

 

 草野1尉の言葉に長谷川以外の人は唖然としていた。確かヘリ空母である『いずも』を本格的な空母に改装した護衛艦である。但し、アメリカの原子力空母と違ってそんなに大規模なものではないが

 

 怜人も陸奥もヘリの窓から見た。大海原に沢山の護衛艦が集まっていた。全ての艦艇に旭日旗を掲げていることから海上自衛隊の船らしい

 

 その中に他の船よりも一回り大きく、飛行甲板を持った船がいる。それが『いずも』なのだろう

 

上空には『いずも』から発艦した艦載機らしきものが飛んでいる

 

「戦艦はもういないのね」

 

陸奥は呟いていたが、誰も聞いたものはいない

 

一行はヘリから降りた

 

 いずもの飛行甲板では、艦載機であるF35Bが3機ほど駐機しており、整備員が弄っている

 

いずもの周りにはイージス艦が守っている事からこの艦は重要なものだろう

 

「これが自衛隊の空母か……初めて見たな」

 

 『いずも』の空母改修はニュースで見たことはある。というより、長谷川から聞いただけだが

 

「むっちゃんの時代の空母はこんな感じ?」

 

「全然違うわよ……でも、何だか懐かしいわ」

 

 半世紀以上も経てば空母も変わる。昔見たゼロ戦がオモチャに感じるほどだ。しかし、何だか懐かしい気分でもある

 

 搭載する機体の数は圧倒的に少ないが、ジェット機の前では無力だろう。赤城加賀などの空母には叶わない。そもそも、速さが違う

 

 素人考えだが、間違ってもいない。コンピュータやミサイルはどは、1940年代には無かった

 

「いいか、見学ではないぞ。君は私が撮影禁止と言ったのを忘れたのか? スマホを仕舞わない海に投げ捨てるぞ」

 

「は、はい……」

 

 草野1尉に睨まれた長谷川は、撮影しようとスマホをポケットにしまった。折角のスマホをここでうしないたくない

 

 

 

「ここで待ってくれ。関係者を呼んでくる」

 

飛行格納庫らしきところで怜人達は待たされた。飛行格納庫と言っても、ステルス機もヘリもない。出払っているのだろう

 

「艦橋ではないか……」

 

「ねぇ、本当に大丈夫かな? さっきの自衛官、怪しいよ」

 

「心配しなくていいわ。艤装があるもの」

 

 陸奥は艤装を叩きながら不安する2人をあんしんさせた。何故か艤装は没収されなかった。先の戦闘では中破したが、怜人は何とか直した。但し、完璧ではないが何処かしら不具合が起こるのは仕方ない

 

 格納庫に装置がある。さっきのF-35の戦闘機くらいの大きさだ。強いて言うなら電波発信装置にも、似ている

 

何だろう

 

陸奥達も気づいたのか、怜人に習って近づく

 

「何でしょう?」

 

長谷川が呟いた時、後ろから鋭い声が辺りを響き渡った

 

「それを触るなよ。防衛装備庁が開発した試作品だ。電磁波を止めたら奴らが来る。国民の税金が無駄になってしまうし、我々だけでなく、君達も死んでしまう」

 

 皆が後ろを振り向くと数人の人がやって来た。さっきの特殊作戦群の人と一緒に青色の迷彩を来た者がいる。そして、如何にも幹部自衛官の人がこちらにやって来た

 

 自衛隊についてはあまり知らないが、制服には色々な物がついていることから偉いヒトなのだろう

 

「私は吉村海将だ。柳田君、久しぶりだな」

 

「えっと……何処かでお会いしました?」

 

陸奥達の目線が怜人に集まる中、怜人は平然と答える

 

「覚えていないのも当然だな。数年前に三浦研究所に訪れた。G元素の特徴を技官や防衛大学校の学生研修相手に熱心に教えているものだから、私は部屋の隅っこの方で見ていた。私に対して挨拶も軽かった」

 

「すみません。あの時はちょっとした野望を抱いていましたからあまり──」

 

「妻を蘇らせるつもりが、人工生命体を産み出した。賢者の石などオカルト話が実在していたとは。三浦社長も君を持ち上げていた」

 

吉村海将は怜人の言葉を遮りながらも説明するように話す。一行は呆然とした

 

「ねぇ……自衛隊については私、余り知らないけど、海将はどれくらい偉いの?」

 

「帝国海軍だと海軍中将に当たります。記憶が確かなら吉村海将は護衛艦隊司令官に就いたという記事を見ました……艦隊司令長官と同じですね」

 

「提督のようなもの?」

 

「まあ、帝国海軍の見方だとそう思ってもらっても結構だと思います。……護衛隊群司令の方が正しいかも……いえ、気にしないで下さい」

 

 だけど、帝国海軍と海上自衛隊は別組織だから、システムなどは違うよ、と長谷川は陸奥の質問にそっと教える。提督*2は正式な官名ではなく、敬称に当たるが長谷川は余り気にはしていない

 

そんな2人のやり取りを余所に怜人と吉村海将は、話終えていなかった

 

「それで、どうやって調べた? 僕の研究をどうして知っている? 三浦社長が漏らしたのか?」

 

「そんなことはしていない」

 

吉村海将は怜人の追求には否定し、連れてくるよう部下に促した

 

数分後、部下は誰かを連れてやって来た。それは……

 

「離しなさい! こんなことをして許されると思ってるの! 自衛隊は裏ではこんな事を……ってあなた達……」

 

何と、アナウンサーの下園である。カメラマンは居ないらしく、連れてきたのは一人だ

 

「……また、この人? 実はストーカーじゃないの?」

 

「ち、違う! 今回の大事件で──」

 

「どうせ、パパ達の事を調べ過ぎて自衛隊に目をつけられただけでしょ? 視聴率欲しさのために」

 

 優子の冷たい指摘に下園は何も言えない。この人と出会ってから大体は想像が出来る。警戒した陸奥ですらあきれた。どうせ、マスコミの事だ。今回の事件でしつこく調べたのだろう

 

「昔も今も変わらないのね」

 

「そうなの、むっちゃん?」

 

「当たり前よ。自分達に都合が悪いと報道しないのが報道機関よ」

 

 陸奥の言葉に流石の下園は怒った。同情しないどころかまさか、こちらが悪者扱いしてるとは思わなかっただろう

 

「それはない! 昔は大本営発表で──」

 

「あまり変わらないような気がするけど。だって、首相が嘘をつくなら会社も嘘をつかない分けないでしょ」

 

 陸奥の呆れるような発言に下園は何も言えない。争いを切り上げるように吉村は説明する

 

「警察と共同捜査で柳田教授をしつこく調べていた下園からはパソコンやハードディスクなどを押収した。そして、陸奥の事があった。半信半疑だったが、まさか本当に軍艦に命を吹き込むとは」

 

「それは良かった。それで、何をして欲しい?この『いずも』とかいう空母やイージス艦などに命を吹き込んで欲しいとか?」

 

「そうだ」

 

 冗談交じりで言った怜人に対して吉村海将は真面目に冷たく言い放つ。自衛官以外の者は唖然としていたが、吉村は間を空けずに話を続ける

 

「だが、成功しなかった。三浦社長から押収したデータを元に賢者の石を作ったが出来なかった。変化無し。何か分かる事は?」

 

「さあ? 不純物でも混ざっていたのではないか?」

 

「いいか。今はAIロボットであるリリは世界の攻撃を止めた。何時、攻めて来るか分からない。我々には、この国を守る義務がある」

 

「僕はあんたの部下か? 僕は自衛官ではない。ここへ連れてきても何も出来ない」

 

 吉村は怜人に協力するよう説得しようとしてるのは明らかだ。だが、怜人は拒否しようとしている

 

「ラボだったら分かるが、こんな空母に連れてきても」

 

「ここは、G元素で作られた未知の生命体が暴走した時のために大幅改装されたものだ。深海棲艦という相手も奮闘した」

 

「嘘よ。本当は軍国主義の手掛かりのために改造してるだけでしょ?」

 

 吉村の説明を遮るかのように下園は大声で叫んだ。どうやら、下園は自衛隊に対して嫌っているらしい。連行されてために批判してる訳でもなさそうだ

 

「アメリカと結託して海外へ派兵しようと──」

 

「悪いが、僕は下園のように反戦感情なんてこれっぽっちもない。この問題を片付けるために行動してただけだ」

 

 今度は怜人が下園を遮るように強く言った。予想外だったのだろう。下園は雷に打たれたかのように固まった

 

「戦争なんて興味ない。それは軍隊、いや、自衛隊の仕事だ。僕らには関係ない」

 

「学校で戦争の悲惨さについて習ったでしょ?」

 

下園は信じられないような声を上げたが、怜人はため息をつきながら反論する

 

「知らないな。僕が戦争について一生懸命調べても何故か先生は不機嫌になるばかりだ。高校で『戦争体験者の話聞いて感想文書きなさい』って宿題出された時に、母さんが仕事関係で付き合っていた外国の友人の中に元フランス外人部隊の人が居た。お話聞いて感想文を提出したら、何故か怒られて突き返された。戦争体験した元傭兵に失礼だろ」

 

 予想外の反論に全員はポカンとした。怜人の母親は性格はネジ曲がってはいるものの、仕事上の関係で外国の人達と交流している

 

 その関係だろう。元フランス外人部隊の人から聞けるという事が出来るのだろう。とても貴重な体験談をなぜその時の教師は拒否したのか?

 

「先輩、気持ちは分かります。私も同じように在日米空軍の親友からUFOの話を聞く次いでに湾岸戦争の話を聞きました。元パイロットの話は学生間では受けましたが、先公から何故か叱られ評価されなかったです」

 

「私もパパと長谷川さんと同じで在日米軍の基地公開の時にイラク戦争に参加した兵士と話したのを元に戦争の事を調べた感想文を書いたけど、評価されなかった。学校で習う戦争って半世紀以上前の太平洋戦争だけなの?」

 

「確かに戦争体験者を聞いた感想文ね。優子ちゃん達の方が貴重なものだけど」

 

怜人と娘の優子と長谷川の不満に全員は呆れた

 

「貴方は戦艦陸奥でしょ? 太平洋戦争について教えてあげなかったの!?」

 

「お姉さんは、あまり覚えてないかな? ミッドウェー海戦では何もせずに帰って来たり、ソロモン海戦で機動部隊に置いてけぼり食らって周りから邪魔者扱いされたお蔭で乗組員全員が嘆いていた事しか。後は第三砲塔が勝手に爆発して沈んでしまった事しか*3

 

「……そう」

 

 陸奥が困惑する反応に下園は不満だった。学校で教える戦争体験は、何を求めているかは知らないが、どうやら何かしら決まりがあるらしい。よって、他の戦争体験は受け付けない教師がいる

 

「なるほど、流石は科学者……いや、理系の家族だ。戦争を研究しただけ事はある訳だ。第二次世界大戦はともかく、これからは深海棲艦を止める手助けをして貰いたい」

 

「何度も言ってるが、僕達は──」

 

「柳田教授、自衛官は何も銃を持って戦うだけの職場とは限らない。厨房で乗組員全員の食事を振る舞う自衛官もいる。今回、ここに呼んだのは現状を伝えるためだ」

 

 吉村海将は説明するが、陸奥は怜人の前に躍り出ると吉村海将を睨んだ。しかも、なぜか艤装は付けている。咄嗟に付けたのか? 

 

「そうね。なぜ、場所が飛行格納庫なの? 12人の自衛官がこちらに武器を向けられては安心できないわ」

 

「12人?」

 

 怜人は訝し気に聞いたが、吉村海将は無表情だ。陸奥は近くにあったパイプ椅子を片手で持ち上げると誰もいない格納庫の壁に向かって投げた。パイプ椅子は壁に当たって壊れ……なかった

 

バカデカイ銃声がしたと思うとパイプ椅子は、何かにぶつかったかのように空中で壊れた

 

余りの非現実な行為に下園は悲鳴を上げたが、それ以外は冷静だ

 

 陸奥の身体能力は、怜人達には分かってはいたが、意外な事にその場にいた自衛官も驚きもしなかった

 

「41cm主砲をここでぶちかましてもいいかしら?」

 

「君の艤装の防御は、装甲のみだ。その前にアンチマテリアルライフルのAPFSDS弾が四方八方から飛んで来る。その痛みに耐えられるか?」

 

 陸奥と吉村海将は朗らかに話し合っているが、一触即発の状態なのは明らかだ。どうやら、周りに対物ライフルを構えた自衛官が何処かに潜んでいるらしい

 

「APFSDS弾って何?」

 

「徹甲弾の一種です。むっちゃんは死にませんが、怪我を負うでしょう。というより、対物ライフルのAPFSDS弾って……改良した奴か*4

 

 優子と長谷川はこそこそと話していたが、怜人は無視して吉村海将に迫った

 

「脅迫では何も解決しない。僕のプライドのためじゃないぞ。リリが拠点してる場所まで行って爆撃するとか」

 

「残念だが、それは出来ない。我々には敵基地攻撃能力はない。そのため、海外に拠点を置いているAIロボットを停止する手段を知っているのではないかと思ったのだが」

 

「悪いが、石塚さんほど詳しくない。リリはほとんど独自研究で作ったものだ。僕が関わったのはボディだけだ。IT関連は疎いんでね」

 

 どうやら、リリを止める手段を怜人が知っていると考えた吉村海将は、ここに連れて来たらしい

 

「『スカイネット』というホワイトハッカーが妻を殺した犯人グループを県警に垂れ込んだ。ホワイトハッカーだった人にしては出来過ぎた嘘だ」

 

「それとこれは違う。コンピュータに疎いのはあんただ。人工知能の開発なんて日本は他国から大きく後れを取っている。石塚博士のAI研究なんて三浦会社しか興味を持ってくれなかった。だから、仕組みや構造なんて互換性がほとんどない。完全に独自プロジェクトだ。ここからネット経由で停止命令のコードを送るなんて無理だ」

 

 吉村海将と怜人の会話に周りは唖然とした。ホワイトハッカーはともかく、リリは何と独自設計なのだ。つまり、これでは何もできないのではないか

 

「日本ってAI開発から遅れているの?」

 

「当たり前だ。よくマスコミで仕事していられるな。──それはともかく、吉村海将。F-35とかいう戦闘機を飛ばして爆撃させれば──」

 

「例え自衛隊法などの法律関連を全て無視して船を進めたとしても戦力が足りない。我々は米軍ではない。深海棲艦がウヨウヨしている所に行けない」

 

怜人は下園に冷たく言い放つと、吉村海将に提案をしたが、彼は首を振るだけだ

 

「だとしたらお手上げだな。憲法を書き直しただけで日本が軍事大国への道を突き進むというの謎めいた巨大な力があると思っていたが、違ったようだ」

 

「そんな誇大妄想の輩は放って置いて貰おう。我々自衛隊員は服務の宣誓した者達だ。だから、そんなバカげた事なぞしない。それが、我々の勤めだ」

 

「勤めって何だ? 怪獣王と戦うための勤めとか?」

 

「……現実を守っているんだ、クソ野郎」

 

 怜人と吉村海将との間で雰囲気が悪くなっていった。2人だけでない。陸奥は艤装を操作して攻撃しようとしているし、草野1尉は無線機を手に取り攻撃命令をしようとしている。自衛隊にあれだけ不満だった下園もどうしたらいいか分からずオロオロする始末だ。そんな状況を長谷川は割り込む

 

「ちょっと待って下さい、冷静になってくれませんか。未成年の女子高生もいるんですよ。今、大事なのはリリを止めるのが第一でしょう。確かにAIは独自設定で作られていますが、幸いな事にAIロボットを製造しようとしていない。そうが唯一の救いです」

 

「……その事で引っかかっていた。リリはどうして深海棲艦、未知の生命体を戦闘用にしたのか? AI兵器なんて実用化されているはず。……吉村海将、何か知っているのか?」

 

 長谷川の割り込みで何とか衝突を回避出来たらしい。静かに怒っていた吉村海将も今は呆れていた

 

「知っている……訳では無い。どうやら、君はまだ知らないらしい」

 

「ああ、是非教えてもらいたいね。協力するから、こちらに武器を向けて来る自衛官を下がらせてくれ」

 

「いいだろう。草野1尉」

 

「了解……全員、その場から離れろ」

 

 草野1尉の指示で何もない所から幽霊が現れたように大きな銃を抱えた自衛官が次々と現れた。陸奥も驚いたが、長谷川はちゃんと説明した

 

「幽霊ではありません。あれは光学迷彩の奴です。量子ステルス*5をカナダから譲り受けたとは。科学の時代は凄いです」

 

「解説どうも。これだから軍事……いや、科学オタクは」

 

 草野一尉は不満そうだったが、陸奥は未だに信じられなかった。機械なしで魔法のように消えるマントなんて存在するなんて思ってもいなかったからだ。自在に姿を消したりするのは改良版だろう

 

「道理で気配しか感じなかったのね……地上戦闘で勝てそうにない」

 

「まあ、ムっちゃんの場合だとシステムが骨董品ですから。第二次世界大戦当時ならともかく、現代戦だと厳しいです。特に奇襲攻撃は」

 

「むっちゃんはスーパーマンではないから……別に戦う必要はないと思う」

 

「では、空を飛ばないとね」

 

敵もバカではない。陸奥の落ち込みに優子は慰めていた

 

 

 

 

 

「少し昔話をしよう。これは、ある人物の話だ。ある土地へ移住して都をかまえようとしたが、その土地を支配している者との戦いとこう着状態だった。悩んだ『彼』の前に天から星が降ってきた。その時、『彼』は天の贈り物を武器として作った所、奇跡を呼び起こした。そして、いくさに勝ち、その土地に都を築いた」

 

広間に案内された一行は、吉村海将の説明を聞いていた。まるで歴史の授業を聞いていたようなものだが、全員は首を傾げた。こんな昔話は聞いた事が無い

 

しかし、優子は恐る恐る手を上げた

 

「あの……これって古事記や日本書紀の内容と被るのですが?」

 

「そうだ。『彼』は天の贈り物から作った武器を『霊剣』と呼んだ。それを手にした事によって、いくさに勝利した」

 

吉村海将は頷くように答えるが、下園は怪訝そうな目で吉村海将に聞いた

 

「それって……神武天皇は実在し──」

 

「これは、あくまで最近の学説だ。ある事柄を美化して書物として書くのはよくある事だ。特に科学技術が発達していなかった時代には。──柳田教授、貴方のG元素の研究論文により、技術発展だけでなく、人類の歴史を塗り替えるような事象にも繋がっている」

 

下園の言葉を遮りながら吉村海将は怜人に向けて説明する

 

「G元素の衝撃は、学会だけでなく歴史学者まで及んでいる。適切な処置で加工すれば実現出来る代物だ」

 

「賢者の石やリンフォンはその産物だと? 神話だけでなく、魔法や呪いなども実在していたとか?」

 

「ほとんどは嘘だ。だが、その記述にも僅かだが真実はある。ある野生動物がG元素を何らかの方法で身体に取り入れたり身につけたりと拒絶反応を起こし死に至る。だが、生命力が強い動植物はG元素を適合すると進化という素晴らしい力を得る」

 

「つまり、八咫烏も実在したって事か」

 

 伝承や歴史の絵がスクリーンで映し出される度に怜人はため息をついた。自衛隊が研究をしていたとは思わなかった

 

「日本だけではない。海外もそうだ。だが、G元素はそんな都合のいいものではない。悪の力も存在する。善人なら善の方向へ。悪人なら悪の方向へ力が働く。悪の力が強いとその生き物は醜い化け物となる事もある。ただ、その生き物の命が尽きればG元素は崩壊してしまう」

 

「ちょっと待って下さい。世界中の悪魔や怪物伝説はG元素のせいというのですか? 隕石がしょっちゅう降って来ているとでも?」

 

長谷川は驚いた。流石に全てではないが、1つや2つはそうだろう

 

「隕石は別に珍しくない。最古の隕石が日本の神社で祀られているくらいだ。……しかし、G元素には知恵があるらしく、この世界の技術を取り入れ創造すると言われている。歴史が変われば、G元素も変わる」

 

「そうなのか?」

 

「そうだ。深海棲艦の姿は完全に妖怪か鬼だ。物理攻撃も学習したのか、組織を変形させた事で攻撃を受け付けなくなった」

 

 吉村海将は深海棲艦の写真を見せた。自衛隊が撮ったものだろう。禍々しい怪物ではあるが、確かに鬼のような姿をしている

 

「だが、陸奥。君は別だ。君は奴等を傷つける事が出来る。しかし、F-2A改の対艦ミサイルを受けたのに被害があった」

 

「知らないわ。それよりも、貴方からの謝罪はないの? 私を攻撃して来た自衛官は謝罪したけど、貴方達は違うのね」

 

 陸奥は不満そうに言った。確かに陸奥の言い分も一理ある。近くで聞いていた草野一尉は何か言おうと前に出たが、吉村海将は手で制した

 

「これは失礼した。しかし、どうやって倒したのか。それが知りたくてね」

 

「分かった。調べればいいんだろ? 深海棲艦を捕まれば分かるかもね」

 

怜人は茶化していたが、吉村海将は想定内だったらしく、素っ気なく言い放った

 

「既に1体は確保した。人間に近いものだ」

 

怜人は凍り付き、陸奥達は唖然とした。まさか捕まえているとは思わなかったからだ

 

「資料も渡す。AIロボットが更に暴走する前に何としてでも食い止めて欲しい」

 

「あんた何者だ? ただの自衛官とは思えない」

 

怜人は渡されたHDDを眺めながら吉村海将を睨んだ。陸奥も同じだった。軍人がここまでやるとは思わなかったのである

 

「正真正銘、自衛官だ。私はA幹……失礼、防衛大学校で理工学専攻していてね。君達のファンなんだよ。ネットで上がっていた論文を夜更かししてまで読んだ事もある。君達をここに招き入れるのに海上幕僚長にどれだけ説得させたことか」

 

 吉村海将は不敵な笑みを浮かべていた。怜人は陸奥の方へ目を向けたが、彼女は肩を透かした。取り敢えず、こちらが何かしない限りは手出ししない人の要で悪い人ではないようだ

 

「それでは……どうした?」

 

 吉村海将は次の言葉を口にしようとした時、扉が開いた。服装からして海自の隊員だろう。その者が小走りに走り吉村海将に近づくと耳打ちした

 

「何? なぜ、奴がここへ通信して来た?」

 

吉村海将が困惑していた表情を見たのは、怜人も陸奥も初めて見た。どうやら、彼も予想していなかった事態が起こったらしい

 

 

 

何もなければいいが

*1
特殊作戦群に限らず特殊部隊で普段から顔を隠す隊員は、対テロ任務につく可能性のある隊員や、非常に高度な軍事機密を知る権利を持つ隊員。広く顔を知られてしまった場合、平時に報復や工作のために、隊員個人やその家族が暗殺や脅迫に晒される可能性があるため顔を隠しているという

*2
提督は名誉称号みたいものであり、実際の呼称ではない。艦娘によって呼び名が違うのもそれと関係があるのだろうか?

*3
戦艦長門、陸奥は有名になったが、太平洋戦争開戦はこれと言った活躍も無かった。第三砲塔による爆沈も攻撃を受けたものではない

*4
現実世界だと試作に終わったがIWS2000対物ライフルがあった。垂直防弾鋼板40mm射貫という性能を発揮していた

*5
カナダの軍服メーカーが開発した光学迷彩。電源を必要としない、紙のように薄くて安価な素材で作られており「人・乗り物・船・宇宙船・建物を隠すことができる」と謳っている




誰からの通信なのか?

空母『いずも』が空母化される事が決まりましたね。ただ、どうもF-35Bを操縦するパイロットは海自ではなく空自だという……
指揮系統や運用面など大丈夫なのだろうか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。