ある日、三浦会社は地球外生命体の存在の詳細を公表した。これにはどのメディアも注目した
「この生き物は地球外生命体でありますが、この生命体を調査するに辺り生命の起源も発見しました。短期間での成長や進化は未知の元素によるものだと思われます」
既に未知の生命体は成長していた。今ではマグロ並の大きさまでに発達した
「生命の起源?それは生命誕生は宇宙からということでしょうか?」
「パンスヘルミア仮説というものですか?部分的には正解と言っていいでしょう」
「というと?」
記者は混乱した。とてもじゃないが、彼の考えが理解できない
「つまり、条件さえ整えば生命誕生は起こるということです。地球に生命誕生したのは生命誕生や進化の条件をクリアしていたからです。この生命も地球環境に慣れた事で成長したのです」
この衝撃的な発表に記者会見場は騒然とした
「……し、しかし、その割には地球の生き物と違うような……」
「恐らく、未知の元素が影響を及ぼしているのでしょう。この未知の元素は生命に多大な力を与えているようです」
記者の質問にも柳田は淡々と答える。ある程度の記者の質問の内容は想定内であるからだ
「この元素はウイルスのような働きをし、構成された生命体に力を与える。しかし、この元素は他の元素と結び付こうとしないが、特定の条件下によって結び付く。炭素に似た元素ということが分かりました」
「炭素?……炭素で生命が造り出せるということですか?」
「そうです。これまでの常識では、炭素以外に生命体を作り出せる可能性はケイ素だろうと思われました。理由は炭素と同族であるからです。あなた方も知っているようにSF漫画や映画などに登場する宇宙人の中にケイ素生命体の設定であるのはそこから来ているのです」
柳田は誰でも分かりやすいように説明した。SFなどの創作を上げれば真っ先に思い浮かべやすいからだ
「天然で存在できる元素は既に調べ尽くしています。ウラン以降の元素は安定せずに、自然界には存在しません。よってSFのようにエイリアンや頭の切れる科学者が周期表にも載っていない新元素を作り出すのはあり得ないのです」
「で、ですが今の説明だと矛盾していますが?」
「そうです。実際は違いました。我々の推測では太陽系が誕生する前に超新星爆発が起こり、その時に作り出されたのではないかと思われます。宇宙を漂いながら。『はやて』が持ち帰った小惑星のサンプルですが、鉱物を調べた結果、太陽系以前の痕跡が残されているとのことです。では、どこから来たのか?ダークマターか若しくは我々の知らない何かか。いずれにせよ、これは大発見です」
柳田の説明に記者達は顔をしかめた。説明がついていけない
取り敢えず、生命誕生でも未知の元素によって姿形が異なるのは何とか飲み込めたらしい
「それで、この生き物ですが、今後どうなさいますか?」
「この生命体の組成や構造は素晴らしいです。バイオメトリクスや医学、生物学などの発展が見込めます。iPS細胞よりも高性能な細胞も形成可能だと国立大の教授はいっておられます」
この発言に記者達は愕然とした。地球外生命体の発見は凄いものだ。しかし、まさかここまで行っているとは思わなかったのだ
「あ、あの地球外生命体なのですよ?」
「我々の考えでは地球の生命と変わらぬものだと結論づけました。DNAも形成可能です。これを研究すれば、様々な治療薬が開発されるだけでなく、食料危機の脱出や絶滅危惧種の動物の誕生も容易に増やせるでしょう」
この言葉に一部の記者からは野次が走った。これは倫理に反するのではないか?
「ちょっと待って下さい!貴方のやっていることは間違っていますよ!科学を暴走させています!人類を危機にさらされる事もあるのですよ!」
「人類か」
柳田は無表情になった。まるで、この質問を待っていたかのように……
「見た目や単純な思想で判断するとは記者として失格だ。私の妻の殺人を正当化させた人達が何を言っているのですか?」
この冷たい声に記者達は沈黙した。叫んだ記者も凍ったように固まった
「ええ、いいんですよ。君達は殺人犯が大好き。僕はエイリアンの方が好きだ。何が悪い?」
柳田はたち上がると記者会場から出た。翌日、このニュースは伝えられたが、最後の質問に対しては流す者は居なかった。一部のマスコミやネットは流れたものの、コメント欄は荒れただけだった
数年後
地球外生命体の存在はビックニュースになったが、時が過ぎると民衆は徐々に冷め始めた。更に柳田教授の論文や研究データを下に三浦会社を始めとする他企業と各国立大学は研究をし、医療技術やバイオ技術を向上させた
未知の生物の観察をしていたが、人々はそれよりも未知の生命がもたらした成果に期待を込めていた
遺伝子研究の向上が遥かに進み、ほとんどの難病は治療可能となった。農家は干ばつや病気に強い麦などが売られているのを喜び、漁業も養殖が容易になった。完全養殖が難しいとされるウナギも日本の海洋研究所が実用可能とした
また、未知の元素は石油に代わるエネルギー源にもなるのではないか?という学者が発言したことにより、日本では大きな話題を呼んだ
そのため、近隣諸国といざこざが生じたが……
そんな大騒ぎをよそに柳田は実験を続けていた。未知の元素を
彼はあらゆる方法を模索していた。娘の世話もあるため、自宅で仕事をしている。勿論、彼は器用である
「未知の元素……これは思っていたよりも凄い事かも知れない」
彼は自宅の地下にラボを作った。いや、個人用のラボである。三浦会社に頼んで地下のガレージを改装してもらった
研究データは常に送っているが、対価さえ貰えば別に問題はない。大学の教授ということもあり、このようにしてくれたのだ
パソコンに通知が入ってきた。テレビ電話が来ている。三浦会社に勤めている長谷川からだ
『先輩、お久しぶりです。大学は行かれないのですか?』
「卒業論文を読んで成績を付けているところだ。助教授が卒業研究を手伝っているから問題ない」
『それ、仕事を押し付けているだけでしょう?』
「博士号取得に必要な知識を特別に教えると言ったら、喜んでいたぞ」
この言葉に画面に映っていた長谷川は苦笑した
「お前も来るか?資格持っているだろ?大学の生活も悪くないぞ?」
『考えておきます』
長谷川は苦笑いした。実は2人は大学時代に、知り合った者である。初めは先輩後輩の仲だったが、今では良い友人でもある。呼び合っているのも名残である
「それはいい。で……元素の解明は?大学に行って研究したが、不明だ。機器が足りない。ILC加速器(大型ハドロン衝突型加速器)があればいいのだが、そんなものはない」
『同感です。だけど、この元素組織……似ている……』
「どうした?」
『ああ……すみません。実は昔、父が買った宝石に似ているのです』
長谷川は手を振って何でもないという風な仕草をした
しかし、彼は違った
「今の話を聞かせてくれ。些細な事でいい」
『でも……宝石といっても価値のないものですよ。海外の骨董品屋で買ったものです。ある日競馬で負けて、せめておこずかいにということで売ろうとしたのですが、店員は宝石ではないと言ったんです。調べたんですけど、宝石ではないものでした。今は──』
「いいから。三十分でそちらに向かう。宝石も持って来い」
『わ、分かりました……』
画面越しにも拘わらず長谷川は慌てていた。柳田は荷物をまとめると直ちに出社した。オブザーバーなので問題はない
半年後……
柳田は後輩である長谷川から受け取った石の正体を突き止めた
宝石にも見えるが、違う。その元素と小惑星で見つけた元素は同じだ。いや、一度、目にした事がある。残念ながら、持ち主はただの奇妙な石と思っているだけで展示していたが
元素名は、既に命名されている。未知の元素は『G元素』と名付けられた。我々の常識では考えられない変化や能力があるため仮名ということであるが
この元素は命を与えるだけでなく、人類に多大な恩恵を受けることになる。同時に、兵器にも転用も可能である
あるアメリカの学者によると、G元素を使った兵器の製造に成功した場合、核よりも強力で軍事バランスを崩す兵器が生まれるだとか……
この発表により国連だけでなく国際社会国際社会は大混乱したが、柳田は気にも止めなかった
安全保障なんて興味ない。どうせ、憲法持ち出されて中身のない平和を唱えるだけだ。国際情勢は、日本の言い分なんて無視するだろう
そんな事を他所に彼は『G元素』を解析していく
「先輩……こんな事ってあるのですか?」
大学の研究室で作業をしていた長谷川は呟いた。今日は土曜日で学生はいない。長谷川と柳田だけだ。長谷川は三浦会社を止めて助教授に就いた。前任は転職したので、長谷川は喜んで就いた。大学側もこちらの事を知っているため了承していた
「ああ、俺も信じられん。しかし、伝説とは違っていたな」
彼は『G元素』から形成した石を取り出した。石は血のように真っ赤に染まっている
まるで宝石のようだ
「賢者の石が実在するとはな」
賢者の石
卑金属を貴金属に変える力を持ち、人間に対しても万病を治し不老不死にするという中世ヨーロッパの錬金術師が追い求めていた伝説の石である
彼は取り出した石に機器を取り付けるとコンピュータを操作した
「何をするのです?」
「生命を誕生させる」
「いや、ちょっと待って下さい!不味いですよ!」
長谷川は慌てたが、柳田は落ち着いている
「文献によるとニコラ・フラメルはこれを使って暫くの間、不老不死と黄金を手にした。彼が手にした賢者の石の生成方法である『アブラハムの書』は特定の隕石を加工したものだ」
「まだ伝説である賢者の石を追っていたのですか!?」
「お前も人の事が言えるのか?海外留学している時に、それらしき物を見つけたからだ。それは置いといて」
柳田は長谷川の質問に淡々と答えた
「少し歴史の講義をしよう。君の大好きなオカルトだ。錬金術はエジプトを中心に栄えていた。やがてイスラム帝国圏で発展し、十字軍遠征でヨーロッパへ持ち込まれた」
柳田はコンピュータを操作しながら説明していく。長谷川は唖然としていたが、彼は当たり前のように話しているのだ
「エジプトの何処か……いや、もっと昔かどうか分からない。遥か昔、アフリカ大陸に隕石が落ちたらしい。古代人は隕石を調べ、その石に不思議な力があると分かると、それを加工、凝縮して造り出した」
「それが賢者の石?」
「いや、恐らく薬として加工したのだろう。エリクサーかもな」
柳田の説明に長谷川は何とか頭についていく
「『アブラハムの書』を読んだニコラ・フラメルは隕石を再現した。だが、僕の考えでは必死になって隕石を探しに行ったと見ている。そして、伝説は正しかった」
説明が終わったときにはコンピュータの操作は終わっていた
ケーブルに繋がれた石は輝き出し……何かが現れた
小さな人だ。少女のような小人が現れた
「小人も産み出せる。伝説だと妖精と呼んだらしい。素晴らしい物質だ」
「なっ!」
長谷川は思考停止に陥った。小人を造った!?どうなっているんだ!マジックショーか?それとも、テレビの撮影なのか!?
長谷川の慌てぶりに柳田はため息をついた
「心配するな。仕掛けもない。妖精が生まれただけで騒ぐ事でもあるまい」
「ちょ……ちょっと!卵からヒヨコがが誕生したとは別ですよ!どうやって!どういう仕掛けなんです!」
「何回も言ったはずだ。生命の誕生だよ。このG元素は生命誕生から成長までを短時間で生成する。昔はこの技術を使って不老不死を得ようとしたのだろう」
まるで学校の授業のように当たり前のように話す。長谷川は未だに混乱しているようだが
「だが、それは叶わなかったようだ。この生命体は生命力が非常に高く、生存に必要な食料は必要なく、過酷な環境にも適応できる能力がある。また、人と同じように知能がある。しかし、倫理観や思考は違うようだ。超常現象も引き起こす事が出来る事から古代人には魔法に見えたのだろう」
余りにも当たり前のように話す柳田に長谷川は愕然とした
理解が追いつけない。だが、それは一瞬であり今では子猫を撫でるように優しく妖精に手を当てて撫でた
「オカルト好きなお前に分かりやすく言おう。ホムンクルスを知っているかい?ヨーロッパの錬金術師が作り出そうとした人工生命体だ。完成では小人のようなものらしい。しかし、当時はそんな事は不可能だ。バイオメトリクスなんてない。我々は科学を使う。適材適所でやれば生まれる。妖精伝説は本当だった」
長谷川は科学が魔法と同じではないかと思ってしまった。確か発展しすぎた科学は過去の人からみれば魔法のように見えるだろう
明治時代の人間が現代に来たら、驚愕するばかりだろう。錬金術師は……いや、現代で言えば科学者になるだろう。なぜ、人工生命体を産み出そうとしたのかは知らない。しかし、知恵はあったようだ
放心状態の長谷川を他所に柳田は生まれた小人を撫でていた
小人は嫌がろうとせずにされるがままだ
「既に古代人は……小人……いえ、妖精を作っていたのですか?」
「そうだ」
長谷川は妖精に手を乗せてマジマジと見た。妖精の姿は可愛らしく、まるで小動物のようでもある
「1つ質問があるのですが」
「何だ?」
「ニコラ・フラメルの伝説が本当なら、魔法学校も実在するんですか?」
「一体、何の話だ?」
柳田はため息をついた。興奮するのは分かるが、この後輩は何かある度に創作のネタを入れて来る
「ところで、写真撮ってもいいですか!?」
「構わんが、ネットに流すな。今ので6人だ。これで……優奈を甦らせる事が出来る」
柳田は赤い石を手に取ると小声で呟いた。彼の意思は固かった。どんなに説得しようが、彼は聞く耳を持たないだろう
「あの……」
「言っておくが、これは世界に発表なんてしない。どうせ、録な使い方なんてしないだろう。やることやったらこの石は破壊するし、研究ノートや論文も焼く」
長谷川が心配する声に柳田は反応したが、彼は安心するように言い聞かせた
「頼むよ」
「……分かりました」
長谷川は何も言わなかった。彼のすることはは倫理には反するかもしれない。しかし、法律には抵触するものでもない。それに彼の過去の事は知っている
「オカルトの正体が実は科学だったなんて……生きてて良かった」
「別におかしくもない。オーパーツであるアンティキティラの機械は科学的に証明された。太古にアナログコンピュータが発見されたのだ。誰が何のために作ったかは知らないが、作った者は偉大な人だろう」
「宗教団体や政府のお役人が聞いたら最悪の場合、殺されますよ」
「僕の知った事ではない。未知の物を理解すると人は乱用するだろう。人工知能は危険と言われている割には手放さないどころか発達しているからな。楽したいんだよ、皆は」
人工知能の発達は日進月歩である。人の手だけでは物が作れない時代にまで来ている。近い将来、人工知能は全人類の知能を超える日が来てもおかしくはない、と唱える者もいるという
「……まあ、不死の可能性だけは残すよ」
「よしてください。石仮面を被った吸血鬼が現れたらどうするんです?」
「何の話か知らないが、それは漫画ネタか?」
柳田と長谷川の間で冗談混じりの話をしていた
そんなやり取りを妖精は不思議そうに聞いていた。言葉はわかるが、何を言っているのかは分からない。しかし、彼が何をしようとしているのか、大まかには分かっていた
翌日……
彼は大量の黄金を売りさばいた。貴金属店だけでなく、ネットを使って売り払ったのである。ある店主は疑問に思った。この金の延べ棒は何処から手に入れたのだろうと。この黄金はとても綺麗である。まるで、ついさっき造って来たかのような
次に柳田は、手に入れた大量のお金を使って数々の機械を購入した。中には個人では買わないであろうスーパーコンピュータまで買ったのだ
これには警察もマスコミも首を傾げた。彼は何処で大量の黄金を手に入れたのか?
警察は横領や詐欺類いかと思い捜査はしたが、犯罪に繋がる証拠はなかったため、捜査を切り上げた。念のため家宅捜索をしたが、不審な点は何一つない。あるとすれば、変な赤い石があるだけだ
警察もまさかこの石で財産を築いたなんて思ってもみなかっただろう
ネットには様々な憶測が流れたが、彼は相手にせず娘も気にはしていない。娘も学校友達からは金持ちと影で叩かれたが、意外にも彼女は気にもしなかった
数ヶ月後……
「理論はあっている。問題は出来るかどうかだ。しかし、ぶっつけ本番をする訳にもいかない」
柳田は部屋の中をウロウロと動き回りながら、あれこれ考えた。
本番でやるにはリスクが高すぎる。しかし、実験も無しにやる訳にはいかない。手頃な事をやればいいのだが、これは未知への挑戦だ
一から生命を産み出すのは大変な事だ。しかし、彼は彼の持つ才能と偶然によって生命を生み出す力を手に入れた
実現まで後一息だ……
だが、テストは必要だ。しかし、石の量も限られている。無限では無いのだ
(そうだ。歴史の中でミステリー事項であり、そのサンプルが容易に手に入るものがあればいい)
彼は歴史に埋もれたミステリーを利用しようと考えた。本人かどうかともかく、機械から出てきた人物が何者かどうかともかく、生き返った証拠にもなる!
これなら……
「歴史の中でミステリーな事件ですか?」
「ああ。噂とかではなくて、完全に謎に包まれたものだ。何でもいい。事件が迷宮入りして未解決な事だ」
次の日、柳田は後輩である長谷川に質問した。長谷川も意外な質問に驚いた。なぜ、柳田は急にミステリーに興味をもったのか?いや、賢者の石を追っていた理由は分かるが、彼は突然、趣味を鞍替えするような人ではない
「なぜ、自分なんですか?ネットで調べれば出てきますよ」
「ネットで調べるよりも君の方が詳しい。それに簡潔明瞭に書いていないからこっちも分からないんだ」
「確かにオカルトや陰謀論などは好きですけど、趣味の話ですよ。親父がUFOマニアだった影響です。でも……一杯ありますけど、大抵は作り話です。……妖精のあれは驚きましたが」
長谷川は呆れながら答えた。オカルトや陰謀の話は大抵は作り話である。話題になれば金が入るからである。例え、嘘がばれたとしても信じる人は未だに居る
日本でもツチノコはいると真面目に唱える人はいるのだから
「しかし、なるべく近年……明治以降がいい。歴史の中で未だに論争になっている奴だ」
「……いや、歴史の謎を追い求めても分かりませんって。何で明治以降なんですか?エジプト文明や三国志ではダメなんですか?刀とかお城などの類はどうです?」
「興味ない。それに、エジプト文明は古すぎる。第一、知った所で何になる?」
素っ気ない返事に長谷川は頭を抱えた。確かに長谷川は父親の影響があったせいか幼い頃、世界のミステリーに興味を持った。特に超能力という番組やUFO番組はよく見ていた
年月が経ち、大人になってもオカルトや陰謀論を信じている。例え、嘘やインチキであっても。彼の考えでは、大量の嘘の中の一握りに本物は必ずあるというものである。実際に賢者の石は実在した。伝説とは違っていたが
「ミステリーと言っても色々ありますよ?迷宮入りして分からない事がありますから。どんな内容がよろしいので?」
「メアリー・セレスト号と同等くらいの不可解な事件なものだ。それも日本で起こった出来事」
柳田の無茶難題に長谷川は呆れた。世界のミステリーで有名の1つは、十九世紀の末に大西洋で無人で漂流しているのを発見されたメリー・セレスト号の事である
乗組員11人が謎の失踪を遂げ、今も真相は分かっていないという
「お言葉ですが先輩。幾ら何でもそんなものは……いや、待って下さい」
長谷川は思い出したかのように言うと、スマホと取り出し何やら操作をしていた
何か知っているか?
数分後、長谷川は検索を終えると彼に見せた。それは……
「戦艦陸奥?これの何処がミステリーなんだ?」
「ちゃんと読んで下さいよ。ここの文!条件に当てはまりますよ」
柳田は長谷川のスマホを受け取ると読み始めた
『……1943年(昭和18年)1月7日の12時15分ごろ、陸奥は三番砲塔~四番砲塔付近から突然、煙を噴きあげて爆発を起こし、船体は四番砲塔後部甲板部から2つに折れた。艦前部は右舷に傾斜すると転覆し、爆発後まもなく沈没した……』
『……陸奥が爆沈した原因は現在も分かっていない。火薬発火説・人為爆発説などと説はあるものの、確実な証拠を得られず……』
柳田は戦艦陸奥のサイトを食い入るように見つめていた。サイトはポピュラーな百科事典ではあるが、この内容はとても興味深かった。戦時中のこともあるが、未だに分からないというのだ
「軍艦の爆沈事故なんて珍しくはないです。しかし、こいつは火薬の自然発火ではないとの事。新兵の自殺や工作員の仕業など囁かれているが、未だに分かっていないのです」
「なるほど。しかし、この船は沈んだのだろ?遺留品なんてほとんど──」
「ところがそうでもない。下げてみて下さい」
柳田は言われる通りにページを下げたところ、次の説明が出てきた
『引き上げられた陸奥の砲塔の装甲や船体は、鉄屑として再利用された』
『戦後一時期盛んに行われた核実験による放射能汚染もされておらず、さらに日本国内で引き上げやすい浅瀬に眠っていた事から、放射線精密測定機器の大気中からの微量な放射線を遮蔽する防護壁として有効活用されている』
この文を読んだ柳田は驚いた。戦前の鉄が重宝されている?
「現在の製鉄では破損の検出目的で鉄にコバルト60という放射性物質を混入させています。もちろん人体に影響があるような量ではないですが、微量な放射線を測る測定器には使えませんでした。今では測定段階で補正をかけれていますから、陸奥鉄でなくともいいのです。うちの大学でもあったはずです」
「本当か!」
柳田は飛び上がった。まさか、勤めていた大学にある?
「はい。古いタイプの放射線計測器もあったような気が。待って下さい。確か陸奥鉄を持っていた人が居たような……」
その後は言うまでもない。柳田は陸奥鉄を入手した。特に困難なものではなく、長谷川が言うように昔は使われていたためでもあった
(これで蘇らせる事が出来る。蘇生実験と人体生成を実行すれば──)
柳田の心臓は早鐘のように鳴っていた。ここまで上手くいくとは思わなかったのだ
隕石調査の日からこちらに運が向いていた。しかも、自分が探し求めていたものまで手に入れた
科学の進歩は本当にいい。しかも、伝説は本当だった。大半の内容は誇張が多いが
一見、彼はマッドサイエンティストだろう。しかし、彼はある目的があった
その目的はシンプルなもの
死んだ妻を蘇らせるということである
しかし、ぶっつけ本番にやるわけにはいかない。そのため、テストを行う必要がある
彼は歴史の謎で関わった人を蘇らせる事にした。流石に太古の人を蘇らせても意味がない。そもそも彼はそんな事には興味ない
なるべく身近な過去の……それも今も原因不明の事件に関わった人ならば蘇生実験は成功だろう
しかし、蘇ったままこの世界にうろついては流石に困るだろう。肉体もある時間を過ぎると朽ちて死んでしまうと文献に描かれてある。どうやら、妖精と人間の身体の造りが違うらしい。そして、人を蘇らせる方法も別に死んだ人の骨や肉体が必要条件ではないらしい
戦艦陸奥の乗組員の誰かが蘇り、謎の爆発の真相は分かるだろう
陸奥鉄は手に入れた。これは媒介用だ。文献によると、蘇らせたい人物の骨が無くても、その人が大切にしていた物やアクセサリーがあれば、媒介として蘇らせる事も可能と記述されている。勿論、証拠はないが、やるしかなかった。そのため、誰を蘇らせるかはランダムになるが、こればかりは仕方ない。下手すれば、厨房で働いていた人が現れるかも知れない。後は実験の成功を祈るだけだ
しかし、彼は知る由もない。テスト実験が世紀の大発見に繋がるであろうことに
戦艦陸奥は内地で沈んだため、国内に主砲とか結構残ってるという
『陸奥鉄』は特に有名で放射線測定などに使われた
因みに陸奥の鋼材を使った小さな鐘を持っていた人を見かけたことがあります