ジェネシス ~陸奥の冒険~   作:雷電Ⅱ

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 去年の『時雨の特殊任務』の話で「XF5Uフライングパンケーキは戦艦少女でも実装されたんだから、艦これも実装されるんじゃね?」と思っていたが、本当に実装されるとは
 ランカーは取っていませんが、ランカー報酬を取得したプレイヤーさんから聞くと対空値が12でアメリカ艦と加賀に搭載すると装備ボーナスが出るとの事
加賀、何があった?


提督「まさかXF5Uフライングパンケーキが本当に実装されるとは思わなかったな。サラトガだけでなく、ガンビア・ベイやイントレピッドも喜んでいたし。これでこちらもバンバン使っていこう」
時雨「でも、大丈夫?あの機体って一航戦をコテンパンにやっつけられた時期があったし、本人も使いたがらない可能性も」
加賀「心配いりません。あの時の敵は浦田結衣であって、艦載機ではありません」
提督「そ、そうか」
時雨「でも、何で加賀さんがXF5Uを運用すると性能が良くなるの?」ヒソヒソ
提督「そりゃ、当時の記憶を引き出しているんだよ。搭乗している妖精さんも加賀さんの覇気の影響を受けて強くなったんだよ。お蔭で機体のメンテナンスが大変と明石が嘆いていた」ヒソヒソ
時雨「だけど、赤城さんは性能アップしないけどどうして?それどころか、普通に使っているのに」
提督「あー……あれはだな。ある日、フレッチャーが振る舞ってくれたパンケーキを赤城が食べてとても感激したらしくてな。嫌悪感示さないどころか、XF5Uをパンケーキ風に塗装してくれないかと明石に頼む始末で。勿論、断っているのだが」ヒソヒソ
時雨「食欲であっさりと馴染むものなの!あの機体にパンケーキの塗装ってあれだよね!絶対、某ゲームネタ(※)だよね!?」
加賀「赤城さんの悪口を言わないで」ゴゴゴ
時雨・提督「「はい」」

※『荒野のコトブキ飛行隊 大空のテイクオフガールズ!』のゲームネタ。XF5Uが登場するが、何とパンケーキ塗装する事が可能。これが本当の『空飛ぶパンケーキ』


第29話 艦だった頃の世界と予感

 数日後

 

 横須賀鎮守府では秘密裏の緊急会議が開いた。レイテ沖海戦に勝利し帰還した提督は、不機嫌だった。大破した艦娘はいたものの、撃沈した者は居なく羽を伸ばしたいと考えた矢先の事だから無理もなかった

 

しかし、内容が内容なだけに流石の提督も驚きを隠せなかった

 

 取り敢えず、現場にいた明石と龍驤、記録係である大淀もいた。陸奥と提督の父親である博士も当然参加していた

 

 陸奥の説明はとても突拍子もないものばかりでとても信じられない事だらけである。科学の方はさっぱりだが、納得した所はある

 

「……つまり、こう言いたいのか? 艦娘達が言っていた『艦だった頃の世界』は田村1尉がいた世界ではなく、実は全く別の世界と言いたいのか?」

 

「その可能性はある。陸奥が建造された時の年代が西暦2032年らしいが、その世界の過去で浦田社長が隠れ蓑としていた宗教団体も居なかったと証言しておる」

 

 陸奥はネットでその世界の歴史を学んだが、浦田社長が暗躍していた事は無かった。似たような会社や人物はいたが、関連性はないし、当の本人は死亡している

 

「だが、ワシが問題しているのはそこではない。陸奥が建造された世界は、艦娘と深海棲艦の全ての始まりと認識しておる。陸奥は陸奥鉄と言ったか……それを元に誕生した。そして、偶然とはいえ、深海棲艦も生まれた。世界は……というよりアメリカは人類の敵を消し去るためにブラックホール兵器で深海棲艦を消滅させたが──」

 

「実は違ったの。あのブラックホール兵器は深海棲艦を別の世界に移転しただけ。これだけはハッキリと言える」

 

 陸奥が補足説明した。陸奥は科学のことはちんぷんかんぷんだが、博士の解説で何があったのかわかった。柳田怜人がこれを予知していた。もしくは、知っていたのか? 柳田もブラックホールの中にはワームホールのようなものがある、と言っていた

 

 柳田怜人は別の世界の存在も知っていたかも知れない。ブラックホール兵器は、実は別の世界に送り出す空間というのを

 

「……ってことは、時雨がタイムトラベル出来たのも、浦田社長が並行世界に行けたのも」

 

「不思議では無かった。開発資材は、深海棲艦を研究して得られた未知の素材ですから。多分、柳田という人が詳しいと思いますが」

 

 提督は明石の説明を聞いてため息をついた。これは、信じざるを得ない。証拠は無いが、前例があるし、父親は僅かながら証拠もある。数式や化学式だが。どうやら、『あの世界』ブラックホール兵器はこちらの世界で厄介な事を引き起こした

 

 時間差はあるのの、何らかの拍子で深海棲艦が現れたのだ。父親曰く、隕石が落下してワームホールが開いたのも柳田怜人達が発見した未知の元素が引き起こした現象と見ている

 

深海棲艦が現れたのも神の悪戯でも何でもない

 

「ええっと……つまり、深海棲艦も艦娘も宇宙人と言いたいのかな? ……冗談だ。だけど、深海棲艦が生み出した世界か……」

 

「何が言いたいのですか?」

 

 大淀が尋ねた。眼鏡を光らせて来るからエリートにも見える。実際に彼女の仕事は見事だが

 

「いや、以前行われた深海棲艦との対話したのを覚えているか? 深海棲艦のボスである戦艦棲姫は、こちらの話を聞かず『人間は愚かだ』と言って交渉にも応じなかった。それどころか全ての国の対話も拒否した。あれは、ただの差別主義でも無くて──」

 

「多分、『リリ』が誕生させた姫級よ。以前、戦った事があるから分かる。人の残虐性を知っているから、関わらないようにしているだけよ」

 

 陸奥は思い出しながら提督の言葉を引き継いだ。実際に、戦艦棲姫は人類に対して交渉は応じようとしない

 

「整理するとこういう事ですね」

 

 大淀はチョークを持ち黒板に書き出した

 

 

 

 艦だった頃の世界……2030年代、ある科学者(柳田怜人)が未知の元素から艦娘のプロトタイプ(陸奥)が誕生された。一方、人類の愚かさに涙を飲んだAIロボットが人類の敵である深海棲艦を生んだ

 

    ↓

 

 ブラックホール兵器で深海棲艦を消し飛ばした。柳田怜人は陸奥の魂を異次元に飛ばした

 

    ↓

 

 しかし、深海棲艦はブラックホールに吸い込まれても死んではおらず、高次元の世界に閉じ込められただけである

 

    ↓

 

 この世界……何らかの拍子で時空の穴が出来、深海棲艦の一部(重巡棲姫と駆逐古姫)が大昔のこの世界に到着。提督の先祖と接触

 

    ↓

 

 先祖は深海棲艦の力を我が物にしようと研究(超人計画)するが、実用化せず

 

    ↓

 

 時は流れ、提督の父親である博士は研究を引き継いだが、恐ろしい事実に気付き破棄。変わりに兵器に命を吹き込む『艦娘計画』を研究する

 

    ↓

 

 隕石衝突でワームホール出現。閉じ込められた深海棲艦がこちらの世界に来る

 

    ↓

 

 浦田結衣が超人計画を手に入れ我が物にする

 

 

 

 大淀はそれ以降は書かなかった。そこから先は皆が知る歴史である

 

「という事は、柳田は問題をこの世界に丸投げしたのか? 陸奥の記憶まで消して?」

 

「そうね……今となっては聞けないわ。記憶を消す薬があるなんて」

 

 陸奥は不機嫌そうに言ったが、実は向こうの世界では部分的に記憶を消す薬はある*1。怜人はG元素を元に作り、ガスを陸奥に吸わせたのだ。後は解体した。いや、正確には陸奥の肉体をG元素の分子結合を崩壊させた。魂だけ送り出して

 

 誰もが悩んでいたが、博士は閃いたとばかりに手を軽く叩いた

 

「……もしかすると……奴は未来予測出来たのではないか?」

 

「え? ……ど、どういうこと!?」

 

 陸奥は唖然としたが、博士は構わず言った

 

「陸奥の話を聞くと……奴はリンフォンとかいうオカルトグッズを手にしてから気が変わったかのように研究していた。そうじゃな?」

 

陸奥は頷いたが、彼女も困惑していた。提督もその場にいた艦娘も同じだ

 

何が言いたいのか? 

 

「柳田怜人は、どういう人物かはワシも知らん。聞いただけなら、相当な偏屈な学者なのは間違いない。超常現象を我が物とするくらいだからのお」

 

「超常現象を信じる学者の方がおかしくありません? ……まあ、艦娘である私が言うのも何ですが」

 

大淀は指摘したが、博士は首を振った

 

「それは違う。浦田重工業から押収した資料の中に興味深い記述があったな。『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』と。人工生命や死者蘇生、そして不老不死の研究なんて、周りの人から見ればイカれているかも知れんが、柳田にとっては科学現象の1つに過ぎないと結論付けたのじゃろう。例え上手くいってなくても、それは『失敗』として片付け新たに挑戦する。別に国家プロジェクトでも無いから、柳田は気にはしていなかっただろうが」

 

「……そうね。怜人だけでなく、後輩の長谷川さんやゆう子ちゃんも私が誕生しても嫌悪感1つも無かったわね」

 

 陸奥はあの時の事を思い出していた。確かに身体能力のテストをさせられたが、あれはどちらかというと体力測定のようなものだった

 

構造や成り行きが解れば、人は嫌悪感は無いのだろうか? 

 

まあ、彼等は心が狭い人間では無かった事もあるが

 

「そして、偶然にもリンフォンを手にした。柳田だけではなく、君も見たのではないかの?」

 

「そんな事は無いわ。悪夢は見たかも知れ……待って……もしかして……」

 

 陸奥は固まった。開発資材から作られた赤い石を触ってから、記憶は蘇ったが、更に陸奥はあることを思い出した

 

悪夢の内容が、火力発電所の攻防戦だった事を。そして、負けて奴を見たことも

 

異質な戦艦ル級改flagship……いや、浦田結衣だった事も

 

固まった陸奥を見て博士は、頷いた

 

「どうやら、知っているらしいのお」

 

「だけど、親父。何でワザワザ記憶を消して……いや、それだけじゃない。本当に何らかの方法で未来予測出来たのなら、どうして改善しようと行動しなかったのか分からない。何で回りくどい事をしたのか」

 

 提督は固まっている陸奥を他所に、質問したが、博士は答えた

 

「彼なりの行動じゃよ。柳田はあることを境に信用出来る者以外は他人を信じなくなった。しかし、偶然とは言え、陸奥が誕生した。心を開き前に向かって歩もうとした時、深海棲艦が誕生してしまった。柳田は間接的とはいえ、関係者が責任を取られるのも陸奥の存在も知られるのも時間の問題。しかし、彼は権力者ではないのでやることは知れておる。リンフォンを使って小型ワームホールを開き、未来を計算したのじゃろ。そして、最善の方法を選択したのじゃ」

 

「つまり、幾つもの未来を見た行動の結果が今の状態なのか?」

 

 提督は唸った。もし、提督の父親のいう通りならこの世界の事も知っているはず

 

「陸奥の記憶を消したのも、未来を教えたらその通りになるとは限らないと判断したのじゃろ」

 

「でも……どうして怜人は、自分の命を捨ててまで……私をこの世界に飛ばして……」

 

 陸奥は分からなくなった。彼はどういう想いでこの世界に飛ばしたのか? 深海棲艦がこの世界に現れれば、艦娘も現れるのは必須

 

ワザワザ、陸奥を巻き込む必要性なんてないのではないか

 

だが、意外にも提督が答えたのだ

 

「これは、俺なら分かるかも。多分、陸奥を守るためだろう」

 

「え?」

 

「艦娘の指揮官だから言える事だが、艦娘でも色んな艦娘もいる。身体能力だけでなく、考え方や行動など。指揮する者は常に周りを把握しないといけない。当然、最悪のケースも想定しないといけない。万が一、という事も視野に入れないとな。まして、艦娘や深海棲艦が生まれた条件も現象も柳田は知っている。深海棲艦の騒ぎが収まれば、今度は深海棲艦や艦娘を利用した兵器やそれに準ずる技術が出現するだろう。初めは、偉大な志を持っていても時が経てば、歪んでしまう事もある。また、企業や国のトップは興味を持ち技術を欲するのは決まっている。だから、ブラックホール兵器を利用して、陸奥や深海棲艦だけでなく、当の本人諸とも葬ったんだよ。泥沼化になるような世界にならないように」

 

 陸奥は唖然とした。確かに国や軍事組織は、最悪のケースまで想定しないといけない。仮想敵国を決め、それに対する軍事作戦やドクトリンを立案し、兵器や部隊を形成する

 

 国家の戦略には、それが必要だ。そのためには、手を汚す行為もあるかもしれない。企業も金儲けのチャンスと見て関わる事もある

 

「陸奥を毛嫌いする者の対処も厄介だが、技術利用して国のため、組織のために、会社のためと称して活動される方が厄介だな。どんなに科学が発達しても人間の心情は変わらない。変えられるのは、価値観と法律だけだ。柳田は、このやり方とこの世界なら陸奥は無事に生きられると判断したのだろう」

 

「そんな……」

 

陸奥は何とか反論しようとしたが、言葉が見つからない

 

「軍艦だった陸奥も知っているとは思うが、戦争や争いが起こる理由はなんだと思う? 悪の国家や組織がいたから? いや、違う。どちら側も自分の行いが正しいと思っている。互いの『正義』のぶつかり合いだ。それは深海棲艦も同じだ。深海棲艦にとっては、『人と関わらない』と『人類を海洋進出させない』事が『正義』と思っているのだからな」

 

 陸奥は何も言えない。AIロボットのリリが辿った末路は、聞いた。孤児院が紛争に巻き込まれた事を。リリは『人類は争いが大好きな生き物。だから、争いを無くすために共通の敵を作ろう』という結論を導き出した。だが、深海棲艦である戦艦棲姫から見れば、納得がいかない。それどころか、ネットに介して人類の事を学んだ戦艦棲姫は距離を置く事にした

 

「我々ハ人類ト交渉ナンテシナイ。関ワルト碌ナ事ニナラナイカラダ」

 

 確か提督が以前、深海棲艦と会談した時、戦艦棲姫はこう言いだしたのだ。会議は平行線に終わった

 

世界は複雑だったのに対してAIは単純すぎたのだ。そして私達である艦娘は……

 

「浦田重工業は……悪だよね? 世界を支配しようとして私達を弾圧したんだから」

 

「まあ、悪と言ったら悪だな。だが、俺は浦田重工業の行為は『行き過ぎた正義』と見ている」

 

 提督の予想外の言葉に陸奥は食い掛かろうとしたが、提督は手で制した

 

「分かっている。俺はそこまで腐ってはいない。確かに第二次世界大戦を食い止めたかったのは事実だ。奴はそれが正義だと思った。だが、奴は思い通りに上手く行かなかったから過剰に攻撃した。行き過ぎた正義は、時に人を狂気に変える。相手に対して容赦なく攻撃する事もある」

 

 陸奥は何も言えなかった。確かに歪んだ正義は、人を暴走している。それはあの世界でも同じだからだ

 

もし、あの時……怜人の妻を殺していた犯人を殺してしまったら……

 

あの時の陸奥は、軍の関係者ではない。殺人罪として捕まるだろう

 

「柳田教授だったっけ? その人は、未来のために人生を歩んでいたのだろう。だから、未来予測で事実を知った彼は、陸奥をこの世界に送り出すと同時に艦娘の研究や論文を捨てたはずだ。そして、彼自身も消えた。後世に渡らないよう」

 

「そう言えば、怜人は私をバージョンアップして武装強化しようとしていた」

 

 陸奥は思い出しながら答えた。確か、優子ちゃんが怜人のパソコンで見たからだ

 

『これで艦娘の命が簡単に消える事は無い』

 

『我らに平和を』

 

 これが答えだ。最悪の場合に備えて、自衛する能力を与えたのだ。もしかすると、過激な人間が艦娘を攻撃するかも知れない。ならば、反撃する力も与えようと

 

「その柳田教授という人は、私達艦娘と人間が戦わせようと仕向けたんですか?」

 

「まあ、自衛のためだろう。何処まで本気なのかは知らないが。しかし、人間は慈悲深い天使ではないのは確かだ。妻を殺した犯人と世論の冷たさを見れば、陸奥や艦娘も同じ目に合うと判断したのだろう。そして、変化した未来の中でこの方法を選んだんだ。親父が開発資材から作った宝石もかつては柳田教授が造ったものと酷似しているんだろう。反応して記憶が蘇ったんだ。──親父、造った赤い石は使える?」

 

 確かにあの宝石は、柳田怜人が所持していたものだ。提督は、博士に質問したが、博士は首を振った

 

「無理じゃろう。今は、黒い石に変化して何も反応せん。賢者の石が造れるなら興味はあるが、造れそうにもないわい。ワシは柳田教授ではないからのう」

 

 流石の造れなかった。この世界の技術では不可能なのか? それとも、彼しか造れないのか? 真相を知る者は本人だろう

 

「まあ、この世界は『行き過ぎた正義』や深海棲艦よりも超人的な能力を手にした浦田結衣が恐ろしいがな。奴は目的を果たすためには手段なんて選ばない。そして、相手に対して徹底的に痛めつける。奴は葬ったから、当面は大丈夫だろう」

 

「じゃあ、今の所は安泰なんやな。これ以上悩んでも仕方ないし、どっしりと腰を据えた方がええ。陸奥もこの世界で骨をうずめる覚悟で生きた方がええと思う」

 

 龍譲は朗らかに言ったが、陸奥は気が晴れない。笑顔で返したが、やはり何か引っかかっている。何か言葉で表せない何かに

 

 会議はこれで終わった。今後、どうするかは未だに決まってはいないが、自分達が存在する理由が近づけそうである

 

「陸奥、食堂へ行こう! 間宮さんがアイスを……どうしたんだ?」

 

 陸奥は無意識に廊下を歩いていたため、長門が後ろから声をかけられた事で飛び上がった

 

「な、何でもないわ」

 

「そうか? それよりも会いに行こう、西村部隊に」

 

 長門は不思議そうにじろじろと見ていたが、気のせいだと思ったらしく、食堂へ行こうと誘った。長門が誘う理由は分かる。先日の作戦であるレイテ沖海戦で勝利したからである。今日は、その宴会だ。新たな艦娘も加わった事で長門は嬉しいのだろう

 

「もう、長門ったら」

 

 既に食堂へ早歩きで行く長門に追いつこうとする。あの世界……『艦だった頃の世界』で陸奥や深海棲艦が消えた後の事は知らない。柳田怜人が予想通りなら人類は宇宙進出の準備に入るはずである

 

 この世界では、どのように歩むかは知らない。だが、龍譲が言っていたようにあちらの世界がどうなろうか確認しようがない。折角、柳田怜人が選択した未来予測だ。堪能するしかない。もしかすると、時雨がタイムスリップした事も予測していたかも知れない

 

 食堂では大勢の艦娘が賑わっていた。あの時雨も扶桑山城もいた。新たな艦娘である涼月もいた。防空埋護姫と交戦し、撃沈した直後に現れた艦娘である。長門が乱入した事でまた、騒ぎは大きくなった

 

 陸奥はどうしていいか迷っていると、遅れて食堂に入って来た提督が近づいてきた。陸奥を心配していたらしい

 

「柳田教授が心配か? 親父の話だと、次元の狭間で生きている可能性もあるらしい。浦田社長と違って異世界か高次元の世界で迷子になっているんだと。本当かどうかは知らないが」

 

「……そうね。もし、ひょっこりと現れたら抱きしめた後に平手打ちを食らわせてやるんだから。未来のためとは言え、騙して閉じ込めるなんて」

 

「手加減しろよ」

 

 涼月が秋月達に囲まれているのを微笑みながら答えた。ここで悩んでも仕方ない。陸奥は悩みを忘れて、時雨に近寄った

 

 

 

 某所、ある一軒家

 

 人間に欲がある以上、人間が存在する以上、犯罪も戦争も無くならない

 

 世界は複雑で時には残酷な光景を目の当たりにする。もし超人的な能力を持つ艦娘の力に嫉妬、もしくは排除しようと企み力を欲していた者がいたのなら……

 

 その者が良からぬ事を考えていたら? 

 

 陸奥はある事を完全に忘れていた。いや、あれは機能停止したと思っていた

 

 

 

 人里離れた一軒家にある男が住み着いていた。近所の付き合いは、あまりせず漁で金を稼いで暮らしていた。但し、漁と言っても密漁である

 

 夜も更け、寝ようとした時、誰かがドアを叩く音がした。男は直ぐに飛び上がり、隠し持っていた拳銃をポケットに入れるとドアへ足へ運んだ

 

(密漁がばれたのか? いや、脱獄犯だと警察が気付いたのか?)

 

 相手が漁業組合なら兎も角。警察なら逃げないといけない。しかし、警察の動きは常に観察していたし、脱獄した事は新聞にも載っていない事から、警察の線は薄い

 

 となると、相手は漁師か。だが、ドアを開け目の前の姿を見た男は愕然とした。相手は女性だった。いや、違う。人間の女性ならこんなに整った身体つきはしていない

 

 何しろ、着ているスーツの服装は全て黒色。顔は日本人らしいが、日本人の顔の特徴を全て集めて再構成したかのようで、かえって特徴がない

 

 男は素早く拳銃を取り出して、女性に似た何かに向けたが、それよりも早く相手から言葉をかけられた

 

「田中 湊ですね。私は『リリ』です。貴方に会いに来ました」

 

 予想外の言葉に男は呆然としたが、敵意はないと判断し銃を降ろした。しかし、警戒はしていない。警察ではないなら、何なんだ? 

 

「お前は……誰だ? 何しに来た? なぜ、俺を知っている?」

 

 質問を沢山ぶつけたが、帰って来た返事は……

 

「この世界で言うと、私は機械人間です。私の目的は、平和のために人類共通の敵を作る事。この世界も同じ目に合う。3年前にこの世界にたどり着き、543日かけてボディを修復。134時間前にこの世界情勢を把握した後、ボディの組織を組み替えると警察の潜入し膨大な資料と死を偽造し逃げ続けている脱獄犯を追跡しました」

 

「マジか? それで、俺に会いに来て何がしたいんだ?」

 

 リリと名乗る女性がスラスラと答える内容に愕然とした。チンプンカンプンだったが、一体どうやったらこんな事が言える? 

 

「浦田結衣を蘇生させたい。彼女の能力は、間違いなくG元素を使った強化人間」

 

 リリは新聞を取り出し、男に見せた。それは、浦田重工業が反乱を起こした記事だ。一面の写真には浦田結衣である戦艦H44改と艦娘である武蔵がやり合っているものである

 

 田中はこれを聞いてピンと来た。詐欺かも知れないが、目の前にいる者は、自分の理解を超えた存在だ。既に彼は神や仏を信じていない

 

 だが、もしかすると……

 

「死者を蘇らせる事が出来るというなら、喜んで手伝ってやる」

 

 田中はニヤリとした。部屋の隅に左腕と身体の一部である石の破片がホルマリン漬けにされた瓶を思い出しながら

 

 

 

 鎮守府・戦艦寮

 

 真夜中なのに、陸奥は起きていた。ベットには長門が眠っている。最近、妙な夢を見るのだ。あの赤い石を触ってから、変な夢を見るのだ

 

 気がつくと、自分は工廠の前に立っていた。釘のような形をした開発資材と資源がある。だが、開発資材が変形し、怜人が持っていた赤い石、賢者の石に変形した

 

 そして、まばゆい閃光と鼓膜が敗れそうな音が響き渡る。咄嗟に腕で目を覆ったが、陸奥は見た。隙間から何かが来るのを

 

 深海棲艦でもなく、艦娘でもない何かが……

 

 それは、高笑いしながら巨大な砲塔を向けて来た。身の危険を感じた陸奥は、直ちに艤装の砲塔を向けるが、相手は既に発砲していた……

 

 

 

 夢はそこで終わる。毎晩ではないが時々、こんな悪夢を見る

 

 窓を開け、夜空に輝く星を眺めながら呟いた

 

「怜人、ありがとう。経緯はどうあれ、感謝している。優子ちゃんと長谷川は向こうでも上手くやっていけていると思う。でも、私は帰れないかも知れない。優子ちゃんが住む世界にあんな悪夢を見せてはいけない」

 

これは誰も言っていない。自分が経験した事は姉である長門にも言っていない

 

 艦娘が撃沈すると大抵は死亡する。建造する事も可能だが、沈んだ艦娘と同じだからと言ってこれまで培ってきた経験や能力、そして記憶なんてない。別人である。勿論、これは『失われた未来』の話だ。敵が強過ぎただけで非難するに値しない。今の提督が『命は消耗品』などと抜かして無駄な戦争をしている訳では無い。そんな事をすれば、反発を買うだろう

 

 しかし、常に引っかかる。現在の深海棲艦は陸に対してほとんど攻撃していない。そのため、艦娘に対して疑問視する者が少なからずいる

 

 提督から聞いた事がある。何か変化を起こしたり突き動かすような事をすれば目に見えて功績が残り人々から記憶が残るが、問題が起きないように保守したり、何かを守ったりする者は結局は目立たずに不要扱いにされる事もあると

 

 そして、危険である事も信じない者が行動を起こすと、必ず災厄をもたらす

 

 

 

「私も負けない。絶対に」

 

 陸奥は自分にそう言い聞かせた。この世界が愚かな方向に突き進まない事を祈って

 

 

*1
PTSDなど治療目的とした記憶を消す薬は現実に存在する




次回作

時雨は帰って来る

陸奥は帰って来る

提督は帰って来る

浦田結衣は???

???は帰って来る?


 これで『ジェネシス ~陸奥の冒険~』は終わりです。これは『時雨の特殊任務』の前日譚、そして次回作の予兆の話でしたね
ただ、現状では創作活動出来るかどうかは未知数です
コロナ関係……というより個人事情がありまして、中々時間がとれないことがありました
(そう考えると小説家や脚本家などを本業にする人って改めて凄いと感じています)
と言う訳で、人の愚かな行為で災厄が起こらない事を祈るしかないですね()

それでは、またどこかでお会いしましょう
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