ジェネシス ~陸奥の冒険~   作:雷電Ⅱ

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秋イベントの後は秋刀魚イベントかと身構えましたが、まだ行わないようで……
これで艦これアーケードに集中出来ます


第7話 和解

どれくらい立ったのだろうか?

 

 天井が視界に入ってきていることに気がついた。眩しさのあまり目を細めたが、それは一瞬である

 

 そして、自分の体が床の上で横になっていることも認識した。そして、タオルケットが掛けられているのを見ると怜人がかけたらしい

 

(生きている……)

 

陸奥は意識を取り戻した。自分は怜人に首を絞められた事を思い出した

 

 不思議として怒りは感じられなかった。彼が行おうとしていた事は間違っているかも知れない。しかし、それがなければ自分は生まれて来ないはずである。とても、複雑な気持ちであるのは間違いない

 

陸奥は上半身を起こして、怜人を探した

 

 彼は隣でスマートフォンを弄っていた。陸奥が起き上がるのに気がつくと彼は、ポケットにしまった

 

「すまない。命を与えたのに奪おうとして」

 

「……いいわ。もうダメかと思った」

 

陸奥は首に手を当てた。痛みはない。しかも、着けられていた首輪は外れていた

 

「センサーは壊れた」

 

陸奥の仕草に気がついたのか、怜人は答えた

 

彼は無表情だった。目も充血していないのを見ると泣いてもいない

 

「優子に頼まれたからか?」

 

「え?」

 

「いや、どちらでもいい。確かに諦めも大事だな」

 

怜人は空き缶を近くにあったごみ箱に投げながら言った。あの時に向けられた怒りもすっかり無くなっている

 

「優子ちゃんから大体の事は聞いたわ。……妻を蘇らせるためだって。伝説が本当かどうか確認のために、陸奥鉄を使って乗組員の1人を蘇らせるのは当初の目的」

 

「ああ」

 

暫く沈黙が襲った。妖精も気まずい空気に反応して静かに離れていった

 

「……ごめんなさい」

 

「なぜ、謝る?」

 

「私が生きているせいで……違った結果になったせいで……」

 

「別に危害を加えた訳でもないだろう?……首を絞めた件は別だ。俺のしたことを否定されたように聞こえたからな」

 

怜人は陸奥にアルミ缶を渡した。それは葡萄ジュースだった

 

「有り難う」

 

 陸奥は素直に受け取り蓋を開けて飲んだ。一瞬、ジュースの中に毒が入っているのかと思ったりしたが、陸奥は否定した。毒殺するような人ではない

 

「お前は生まれても平気なのか?」

 

「どういう意味?」

 

「生まれたのが、親から生まれたのではなく、機械から生まれたことになぜ平気でいられる?」

 

また、この質問だ。陸奥はこの手の質問の答えは既に出来ている

 

「そんな疑問はないわ。寧ろ感謝している。初めは奇妙な感覚だけど、優子ちゃんと話してこれまで以上に楽しく暮らせた。これが人なんだって」

 

陸奥はアルミ缶を持った手を眺めながら自分の考えを話した

 

 環境が充実しているからかも知れない。若しくは、爆沈で酷い目にあったからなのか?年齢は不明だが、20代である事には確かである

 

……進水したのが1920年であるため、それを数えたらとんでもない年齢にはなるが

 

兎に角、生まれても衝撃を受けない理由は、分からなかった。人とは違う事もあるかもしれない

 

「そうか……僕とは違うんだな。僕の場合は衝撃を受けた。なぁ……どうやったら普通に振る舞われる?僕には、君のような考えが理解出来ない」

 

「理解出来ないって……確かに言っていた日があったわね。まさか、貴方も機械から生まれたってこと?」

 

 陸奥は彼の生い立ちが気になった。数週間前、親が居ないことを告げられても陸奥は受け入れたことに彼は驚いていた。何か訳がありそうだ

 

「僕は精子バンクを利用して造られた試験管ベビー……いや、受精卵の時に遺伝子操作されているからデザイナーベビーだ」

 

「えっと?」

 

「分かりやすく言うと、ある女性が、結婚が面倒くさいという下らない理由で冷凍保存していた優秀な子種を大金で買い、人工的に妊娠させ、知能向上のためにだけに勝手に改造されて、生まれた人間の事だ。よっぽど天才を生み出したかったようだ」

 

 怜人は呆れるように笑っていたが、陸奥は衝撃を受けた。改造されて生まれた存在?実際は少々異なるが、怜人は分かりやすく説明するために敢えてそう言った。遺伝子操作と言っても陸奥には分からないだろう

 

「母親は父親は優秀な人だったが、消えたと。しかし、違う。本当は何処かの誰かも分からない存在。生きているかどうかも知らない。そして、外国人の血が混ざっていることを隠すため、遺伝子を勝手に書き換えた」

 

「優子ちゃんから聞いたわ。貴方は高校生の時から特別待遇児として扱われた。IQも200を超えて、天才的な頭脳を持った人だって」

 

「……親の隠し事を勝手に調べるなんて、僕に似ているな。僕から離れない理由も生きて行くためには仕方ないと割り切っているのか」

 

 陸奥はまた、怒るのではないかと怯えていたが、怜人はその気は無かった。彼は懐かしそうに遠くへ目にやった

 

「僕も薄々気づいていた。他の人と違って理解力が優れている事に。先天的な天才も実は何かあると。幼稚園児と中学生の接し方が全然違うと。どんなにいい成績を取っても母からは軽く返された」

 

「虐待を受けたの?」

 

「いや、僕よりも別の事に興味があってほったらかしだ。いい成績を取って当たり前と」

 

怜人はため息を着きながら答えていた

 

「……僕に対していつも、あの目で見ていた。無機質を見るような目で。愛情が全くない。人形のような存在だ」

 

「それで、どうなったの?」

 

「母親は金庫に何かを隠していた。僕には絶対に見せない。金品か何かだろうも思ったが。ある日、金庫の開け方を知った僕は、母が居ない間に金庫を開けて自分の存在を知った」

 

怜人は手に持っていた空き缶が潰れていた。無意識に手に力が入ったのだろう

 

「僕は問い詰めたが、母親は何も答えなかった。逆に俺が怒る理由が分からないと言い出した」

 

「どうして?だって、秘密にしていたんでしょ?」

 

「これは僕の推測だが……母親は結婚しない事に祖父母や親族からしつこく言われたため、やった事らしい。母の言葉は『金があれば何でも手に入る』と」

 

 つまり、怜人の母親は、結婚には全く興味無かった。あるのは金と名誉だけ。ついでに産んだだけだと

 

「母は株主だ。僕よりも株価や金に興味があった。育児なんて誰かに雇われた人で育った。家事も掃除も全て業者がやっていたよ」

 

「周りの人はどう思っていたの?」

 

「体育以外の成績は、どれもトップだった。初めは天才児だの何だの言われた。しかし、誰かが僕の過去を調べたのだろう。僕の正体が知れ渡った途端、皆の眼は冷たかった。『天才なのは当たり前』と。今もネットでも噂程度で流れている。幸い、母は極秘でやったらしく証拠なんてないから噂で留まっているが*1*2

 

 陸奥はどう反応していいか分からなかった。IQがいいのは、自分の力だろう。しかし、誰か分からない天才から生まれたとなれば、見る目は変わるものである

 

「僕には友人なんてほとんど居なかった。長谷川くらいだ。高校生までは。ある女子高生に会うまでは」

 

「その人が……亡くなった奥さん?」

 

陸奥はその女子高生がどんな人物に思い当たる事があった

 

と言っても、娘の話ではあるが

 

「ああ、石塚 優奈。彼女と出会った。初めは期末テストの勉強を教えてほしいと話しかけた事からかな?次第に親しくなって彼女の親や妹にもお世話になった。初めてだった。生まれて良かったと思った日が」

 

「いい相手だったのね」

 

「彼女の親が大学教授だった。色々と教わった。それからだ。科学に興味を持ったのは。生命の誕生から宇宙まで。……彼女と接していく内に初めて人生で楽しい事を味わったよ」

 

 怜人は懐かしそうに話していた。しかし、彼の表情は直ぐに銅像のように無表情だった

 

「高校卒業後には家出した。あれ以降、母とはもう会っていない。金にしか興味ない人だったからな。結婚し、娘を授かった。優子が生まれてから5年後、亡くなった。……それも最悪の形で」

 

 その後の事は陸奥も知っている。彼の妻は無残な死を迎えたのだ。しかも、不良少年グループであるため、完全に運が悪い事に成る

 

「運が悪いとここまで酷いものかな。こんな人生経験になるなんて」

 

「運が悪いなら……私もよ。突然、第三砲塔が爆発して沈んだ。私もほとんど戦っていない」

 

「覚えていないし、戦艦の時代は終わったという証拠だ。人が殺されているのに、殺された方が悪い世界なんて認められるか」

 

怜人は首を微かに横に振ると去ろうとする。陸奥は制止した

 

「待って!もう研究は止めて!私が……私が一緒にいるから!妻の代わりにはなれないけど」

 

「お前は関係ない。法も犯していないのだから問題ない」

 

「いいえ。これだけははっきり言える。貴方の母と同じ道を歩んでいる!」

 

陸奥は、決死の言葉だったのだろう。しかし、怜人は眉を吊り上げただけだ

 

「人体蘇生や賢者の石を使った人体生成は、どの法律にも──」

 

「法律に書かれてなくて当然よ!私が言いたいのは、母と同じ道に歩もうとしている!誕生すれば後はどうなってもいいの?」

 

陸奥は必死になって訴えていた。彼の心の中を踏みにじるのはダメだろう

 

しかし、これでは同じ事を繰り返している。問題をはき違えている

 

「私は貴方ではないから何も言えない。だけど、過去に酷い目に合ったからと言って、それを口実に好き勝手にやるのは論外よ!」

 

「……」

 

「お願い、貴方が何か酷い目に合ったら優子ちゃんはどうなるの?」

 

陸奥は強引に去ろうとする怜人の腕を掴んだ。逃がす訳には行かない

 

「私はどうなってもいい。だけど、娘さんはどうなるの?犯罪に手を染めたら彼女はどうなるの?」

 

「僕にも分かっている!だけど、それしか手は無いんだ!」

 

 怜人は掴んでいる腕を振り払った。そして、ポケットから箱を取り出し、中から注射器を取り出した

 

 怜人は陸奥に注射器を打とうとしている。あの注射器は何なのかは知らないが、栄養剤ではないのは確かだ。だが、陸奥は抵抗すらせずに立ったままだ

 

「何で抵抗しない?」

 

怜人の腕は止まった。注射針は陸奥の肌に刺さる手前で止まっていた

 

「本当に復讐をするならとっくに私を殺処分している」

 

 陸奥は淡々と話していた。怜人が持つ注射器は何の薬が入っているかは知らない。だが、決して良い物ではないだろう

 

「ふざけるな。その気になればそうして──」

 

「貴方なら殺せない。だって、殺したら母親と同じ道を歩むから。本当に狂っているなら一緒に置いたりしないわよ」

 

陸奥の意外な反論に怜人は動揺した

 

「だから……もう止めましょう。そして、ごめんなさい」

 

 陸奥は謝罪したのは、自分が生きている事だ。妻を蘇らせるためのテストなのに、副産物として新たな生命を創り出した

 

 陸奥は目を閉じて待った。自分の能力はどのようなものかは知らない。だけど、自分が死んでも悲しむ者はいない。いや、1人だけ居た

 

優子ちゃん……ごめん

 

 不意に何か叩きつけるような音がして、陸奥は目を開いた。床に、注射器が落ちている。怜人が床に叩きつけたらしい

 

「お前には負けたよ。……分かった。これにて中止をしよう」

 

怜人は呟くように言った。彼には最早、覇気がなかった。全てに対して諦めている

 

「ごめんなさい」

 

「お前が謝る必要性が何処にある。まさか、過去の戦艦から説教される日が来るとは思わなかった」

 

 しかし、誰も喜ばない。怜人は愛する妻を蘇らせる事が出来ず、陸奥も軍艦に命を吹き込んだ理由が、妻を蘇らせるためのテスト試験で生まれた存在だった

 

地下研究室内では重苦しい空気が漂っていた

 

 

*1
実際は倫理的な問題から、デザイナーベイビーはタブー視されており、国によっては法律などで固く禁止されているケースも多い

*2
しかし、2018年において中国ではデザイナーベイビーの誕生に成功したことを発表し、世界に衝撃を与えている




陸奥の説得によって、主人公は研究を止めました。陸奥は非情な人ではないと見抜いたようです。良かったですね

デザイナーベイビー……ガンダムSEEDみたいな話ですが、これは夢物語でも未来でもなく現在進行形
近い将来、価値観が変われば、デザイナーベイビーもタブーではなくなる……かも知れない
まあ、遺伝子によって全て決まる訳でもないですが
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