ジェネシス ~陸奥の冒険~   作:雷電Ⅱ

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第8話 墓参りと降り掛かる災厄

次の日、食卓には重々しい空気が満たされていた。娘である優子が朝ごはんを作っていたが、陸奥も手伝った

 

「貴方のお父さんは?」

 

皿が2つしか用意されていないのを見て陸奥は聞いた

 

「もう食べた。陸奥さんが起きる前に」

 

陸奥は目を伏せた。彼は本当に実験を止めたのだろうか?

 

「会わないと」

 

「大丈夫。家にいる。一緒に食べよう」

 

「学校は?」

 

「今日は土曜日だから休み」

 

陸奥の心配事は杞憂に終わった。安心していいかも知れない

 

 

 

「本当に覚えていないの?」

 

「ええ。第三砲塔が突然、爆発した事しか覚えていないの」

 

「まさか、爆発したりしないよね?」

 

優子は身を乗り出して興味津々で聞いてきた

 

「流石にそれはないわ……初めてガスコンロを見たとき、ビクビクしていたわ」

 

台所を見たとき、陸奥は恐る恐る入ったのを覚えている。火には恐怖を感じるらしい

 

「まあ、いいか。とりあえず……」

 

 優子は戦艦だった頃の記憶を聞いてきた。何でも戦艦陸奥に興味があるらしく、図書館で軍艦の図鑑を借りたのだ

 

 陸奥も苦笑しながら出来るだけ答えた。ワシントン海軍軍縮条約から第二次世界大戦までの艦歴は歴史書と一致していた

 

第二次世界大戦から現代まで纏めた歴史を学んでいたため、陸奥はため息をついた

 

「そう……そんな事が」

 

朝食を食べ終えて歴史書を見終えた陸奥は呟いた。沈んだ後はこんな事になっているとは思わなかった

 

「負けたってことは……皆……沈んだのね……」

 

陸奥は大日本帝国海軍の艦艇図鑑に目をやりながら言った。実際は戦後で使われていた軍艦もあったが、今はほとんど残っていない

 

「ねぇ……外を歩いてみない?」

 

落ち込む陸奥に優子は思いきって尋ねた。ここで、落ち込まれては流石にこちらが悪いと思ってしまう

 

「でも、貴方のお父さんが──」

 

「頼んでみるよ。陸奥さんは待ってて」

 

優子は飛び出すように部屋から出ていた。待っている間、陸奥は窓から外の景色を眺めていた

 

戦時中の日本とは大きく違っていた。道は舗装され、人や車が行き来する。車も昔と違って速い

 

ラジオはあるものの、今はテレビかネットでニュースを見るという

 

「半世紀以上も立てばここまで変わるのね」

 

陸奥は呟いた。長門が今の日本を見ればどう思っているのだろう

 

 

 

「なぜ、散歩なんだ?」

 

「だって、庭に出ただけじゃない。過去から来た人よ。今の世の中を知るチャンスでしょ?」

 

 優子は早速、父である怜人に説得した。彼は既に研究を見切りつけていた。その代わり、G元素を調べているという

 

「だけど、何処へ連れていけばいいんだ?行くならショッピングモールか遊園地にでも──」

 

「お墓参り」

 

「お盆休みではないだろ?」

 

今は梅雨明けの時期だ。これからは暑くなるだろう

 

「そうね。でも、ママを蘇らさないのなら骨は返さないと。持っているんでしょ?」

 

娘の予想外の言い分に怜人の手は止まった

 

「もう、止めたんでしょ?」

 

「……」

 

「私はパパと同じ気持ちよ。殺されたのだから生き返らしてはダメなのかって思った。パパなら何とかしてくれる。そう思っていた」

 

娘は自分の心境を語りだした

 

「でも、それはあの記者さんと一緒だよね。蘇らると聞かされた時は期待していた。パパなら何とかしてくれるって」

 

 優子は昔の事を思い出しながら言った。あの時、自分の母親が殺されたと知ったのは小学生だった。なのに、集まってくる大人達は自分の母親が悪いと言わんばかりの言いがかりだった。父親はショックで部屋に籠っていたが、部屋を出たとき、彼が言った言葉は覚えている

 

「心配するな。パパは天才だ。パパの才能の全てを使ってでも蘇らせてやるよ」

 

そう言って優しく抱き締めた

 

 

 

「初めは子供を慰めるための言い草だと思った。だけど、本気で実行すると分かったときは驚いた。私でも密かに期待していた。でも……心の底でやっていいのか?と思ったことがあった」

 

「……僕は怖れなかった。失ってでもやり遂げたかった。だが、実際は違った結果になった。受け入れるしかないか」

 

怜人は既に諦めていた。妻を蘇らせる事に

 

確かにやっていることは反する事だろう

 

「お墓参りに行こう。だって、ママに謝らないと」

 

「そうだな」

 

怜人は否定しなかった。結果がどうあれ、人を蘇らすなんて止めるべきだ

 

 

 

 

 

「いい所ね。お姉さん、驚いちゃった」

 

「まだ、住宅街なのにね」

 

 その日、3人は墓場まで歩いていった。車を使わなかったのは、そこまで遠くないのと近くに駐車場が無かったからだ

 

 それに陸奥は外に歩いたことはない。半世紀以上の世界はどうなっているか、とても気になっているからだ

 

雑誌やテレビを見ていたが、やはり実際に見ると違う

 

「驚いたわ。本当に日本であって日本でないみたい」

 

 陸奥からみれば、過去から来た人である。よって、墓地へ向かう途中、自動販売機や通り過ぎる車には目を見張っていた

 

「艤装は何とかしたが、何であんな服装なんだ?」

 

「着替えさせて正解ね。それより、大砲取っ払う必要性あった?」

 

「警察に逮捕されるぞ。銃刀法違反になるからな」

 

 陸奥の格好は、いつもののへそ出しノースリーブのトップスに黒の超ミニスカートではない。女性がお出掛けする服装になっている。流石にあの格好で外に歩かせるのは不味い

 

 しかし、陸奥は首をかしげる始末だ。しかも、艤装も持っていきたいと言って来たのである。流石に武器を町に持ち歩く訳にも行かない。よって、艤装は丸裸だ。第三者から見れば、鉄の塊を腰の回りに付けているようなものだ

 

勿論、すれ違う人達からジロジロと見られたのは言うまでもない

 

「しかし、あの艤装……何かあるな」

 

「どうして?」

 

 不意に怜人は疑問を口にして娘が反応した。陸奥は工事現場にある建設機械に興味があるらしく、それを遠くで眺めていたが

 

「あの艤装、どういう訳か陸奥にしか扱えないらしい。あの中の様子は精密な機械だ。大砲の弾も本物だ。小さい以外は」

 

「でも、流石に威力は小さいよね?」

 

「……分からん」

 

 実は陸奥の艤装にあった砲弾の1つを分解したところ、本物の砲弾だった。これには怜人も仰天した。陸奥には整備中と言って取り上げた。本人は真に受けているが

 

「でも、大砲を外しても艤装を付けたい理由が分からない」

 

「もしかすると……」

 

 怜人は何か思い当たる節があるのか、ある事に気がついたが、娘の前では言わなかった。あくまでも仮説だ。証明出来るモノなんてない

 

「いや、これは調べるべきだ」

 

 彼は心の中で呟いた。昔、賢者の石が実在する事を知った時の心情と同じだ。彼は科学者でもある。そのため、未知の物には興味を示し、調べる方向だ

 

そのため、戦艦陸奥が人となって現れても恐怖すら感じなかった

 

 彼の生い立ちのことも有るかもしれないが、彼の考えは不可解な現象を勝手に恐れるのは安易な方向に考える愚かな人だということだ。理解できないものには恐れるのは仕方ないが、無害と分かっていてもずっと恐れるのは知識がない人ということだ

 

「ねぇ、どうしたの?そんな顔をして?」

 

 声をかけられ怜人は我に帰った。怜人が考え事をしていたため、陸奥が心配そうにしていたらしい

 

「ごめん、ちょっと考え事をしていた」

 

「私の体について?」

 

「悪いか?」

 

「ええ。私が兵器なのに、人と同じように接するなんて」

 

 陸奥は自分が兵器であることは理解しているらしい。だからなのだろう。機械から生まれたと知らせても平気なのだと

 

「悪いが、僕は一般人だ。お前がどんな存在なのか、なんて興味はない。重要なのは、お前の潜在能力が気になるだけだ」

 

「潜在能力?」

 

 陸奥は不思議そうに聞いてきたが、怜人は頷くだけだ。彼は何を言っているのだろうか?

 

 

 

「このお墓が……」

 

「ああ、僕の妻だ」

 

陸奥は墓石の前で悲しそうに呟いた。分かっていた。聞かされたのだから

 

「昔は大変だった。墓石を破壊されたから」

 

「誰に?」

 

「犯人の両親」

 

 怜人の変わりに優子は平然と答えていた。陸奥はどう反応していいのか、分からなかった。ここに連れてこられるとは思いもしなかった

 

 ……いや、正確には優子から聞かされていたのだが、実際に立ち会うとなるとどう表せばいいのか分からない

 

「本当に……お気の毒に……」

 

「ああ、ここに来た理由は骨を戻すためだ。幸い、話はついてある」

 

「手伝うわ」

 

陸奥も怜人の妻の事は聞かされたのだ。自分も完全には無関係ではない

 

 

 

 

「貴方の妻は、天国にいるわ。そこから見守っているはずよ」

 

「天国なんてあるかどうかは知らないが、そういう考えも悪くないな」

 

 陸奥は自分の中で思っていた事を口にした。慰めにもならないと思っていたが、意外にも彼は素直だった

 

彼はため息をつくと、二人にこう言った

 

「さて、何処かへ行くか?何か言え。アイスクリームでも何でも」

 

「じゃ、この喫茶店でいい?最近、出来たばっかりで学校で有名になった」

 

「いいだろう。……こんなケーキが人気なのか?」

 

 優子はスマホを取り出して怜人に見せていた。怜人は差し出されたスマホを見て眉を吊り上げていたが

 

この会話を見て陸奥は唖然としたが、直ぐに気を取り直した

 

 どうやら、妻の事は吹っ切れたらしい。気の転換が早い。ただ、タイミングが無かっただけ。まだ予断は許さないが、今のところは大丈夫だろう

 

「陸奥、お前はどうする?」

 

「え?私?」

 

陸奥は戸惑った。私もいいの?

 

「何を驚いている?」

 

「えっと。私もいいの?」

 

「僕が『お前は食べるな』なんて言ったか?」

 

彼は笑っていた。それは嘲るような笑いではなかった

 

優子……娘に向かってやる笑顔だった

 

「ええ!」

 

陸奥はこみ上げてくる感情を抑えながら、一緒に歩き出した。マッドサイエンティストかと思っていたが、どうやら認識を変えるべきだ

 

「それはそうと……どうして艤装が必要なのか?簡易的とはいえ、邪魔だろ?」

 

「私のこと知っている?砲塔が爆破したのを」

 

「それで?」

 

「だから!」

 

首をかしげる怜人が分からないだろう

 

「私のことは知っているでしょ?大東亜戦争で碌に戦わなかったどころか勝手に爆沈されて!もし、貴方達になにかあったら!」

 

「要は運が悪かった。妻が生まれてこなかったのも運のせいだと?」

 

怜人は口角を釣り上げた

 

「何に使うかは知らない。だが、いいんだ。お前のせいではない」

 

 陸奥は何も言えなかった。簡易的な艤装の使い方は限られている。だが、未来の日本は治安がいい。ライフラインも充実し、医療も凄い。怜人は科学者でもあることから誰かに狙われるだろうと陸奥は思っていたが、杞憂であった

 

「そうね……」

 

陸奥はうなずいた。彼等の心配はしなくてもいいだろう

 

優子も言っていた。天才児であれ、被害者であれ彼は既に忘れ去られた人物であると

 

(心配しなくてもいいかしら?)

 

 

 

陸奥は心の中で呟いた

 

そう……それがどんなに良かったか

 

 

 

(へへへ……アイツだ。しかも2人いる)

 

 遠くから一同を監視している者がいた。いや、正確には途中からだ。出所してからずっと付け狙っていた

 

彼は少年時代に怜人の妻を拐って監禁し殺した犯人の1人だった

 

 刑期は当時では13年だったが、こうして出られた。刑務所も思っていたよりも悪くはなかった

 

そして、テレビで柳田怜人の事が出たときには、再び会って殺そうかと初めは思った。しかし、彼には娘がおり、そして見知らぬ女性もいる。恐らく、何処かからか拾って来たのだろう

 

 彼は出所後、ネットカフェなどを使って彼の居場所を特定した。車は上手いこと盗んで彼の考えは居場所まで飛ばした

 

 男は車にエンジンをかけるとアクセルを踏んだ。狙いは男の方だ。女は誘拐させればいい。こっちにはナイフと拳銃がある!

 

 彼は怜人に向けて車を走らせた。あまり勢いよくやると車が壊れて支障がきたす。1人を怪我をさせて行動不能にすればいい。男性の方は車の存在に気付き娘と見知らぬ女性を逃がそうとしていた。しかし、背の高い女性は逃げようとしない

 

いい勇気だ!死にたいのだろう。腰に何やら変な機械をつけていたが

 

強い衝撃が襲い車が止まった。やった!

 

しかし、彼はその後、困惑した

 

 なぜ、あの父親が目の前にいる?手で顔を覆っているが、何をしたんだ?そして、エンジンは快調に回っているのに、なぜ前に進まない?しかも、エアバッグが作動していない?アクセルを踏んでも前に進まない!

 

なんだ?壊れたのか?しかし、彼はフロントの方に目を向けた時、驚愕した!

 

あの女性、車を抑えている!?ボンネットやバンパーがへこんでいる事から抑えている?

 

バカな!人が時速60キロ走る車を止めれる訳がない!

 

彼は正体不明の女性をひき殺そすためにアクセルを思いっきり踏んだ!

 

 

 

「おい、陸奥!」

 

「大丈夫よ!これくらいなら!」

 

 怜人達に突然、災厄が訪れた。車が猛スピードで突っ込んで来たのだ。咄嗟に娘と陸奥を逃したが、陸奥は逃げようとしない。それどころか、怜人の前に立ちはだかったのだ!

 

「正気か!?陸奥、死ぬぞ!」

 

 怜人の悲痛な叫びに陸奥は無視した。彼女は車を止める力があると直感的に思ったのだ

 

 艤装がどういう原理なのかは分からない。マニュアルすらない。しかし、艤装を身に纏えばパワーアップする事は知っていたのだ。彼には教えなかったが

 

 しかし、陸奥自身も小さいとは言え、大砲が並ぶ艤装を付けて街に彷徨くのはダメということは流石に分かっていた。その辺りは娘から習ったのだ

 

 ……しかし、腕力なら別だ。パワーも道溢れている。陸奥はこちらに突進してくる車を受け止めた。数メートルは動いたが、車を止める事に成功した!

 

「大丈夫!」

 

「あ、ああ……」

 

怜人も困惑しているため、陸奥はちょっと笑った。凄いところを見せられた事に

 

 しかし、相手はアクセルを踏んだのか、押してくる力が増している。タイヤの音が甲高くなっている。運転席に乗っている人は何やら喚いていたが、止める気はないようだ

 

「陸奥!車を横転させるか、方向転換させるかにするんだ!」

 

「了解!」

 

 怜人は正気に戻ったのだろう。陸奥は車を抑えながら、怜人の命令を素直に従い、車を腕力だけで横転させた。陸奥も自分にここまで力があるとは思わなかったが

 

エンジンは空回りし甲高い音を出していた

 

 陸奥は横転している車のドアを無理やり開けた。全力で開けたため、ドアは物凄い音を立てながら車体から離れた。そして、陸奥は運転手を引きずり出すと問い詰めた

 

「危ないじゃ──貴方は!?」

 

 陸奥はこの男に見覚えがあった。いや、会った事は無い。怜人が残していた当時の雑誌を読んだからである。本来なら未成年者の加害者は名前を公表されない

 

しかし、あるフリージャーナリストは多数の反対を押し切って雑誌に載せたのだ。だから、陸奥は運転手が誰なのか、一発で分かったのだ

 

「貴方……何をしているの!?」

 

陸奥はある感情が沸き上がった。それが怒りである事を理解していた

 

陸奥は男が動く前に胸ぐらを掴み、車体に叩きつけた

 

 男は痛みで呻いたが、隠し持っていたのか、ナイフを取り出すと陸奥に突きつけた

 

「調子に乗るな!痛い目に合いたくなきゃ大人しく──!?」

 

しかし、男は陸奥の行動に驚愕した。何と、陸奥はナイフを直に握ったのだ

 

「コイツ、バカか!ナイフの刃を握りやがった!」

 

しかし、男は気を取り直した。この女は指を失っていいらしい

 

「俺がこのナイフをちょっと引っ張ったら、指四本は削ぎ落ちるぜ」

 

「その前に貴方をぶっ飛ばしてあげる!」

 

 陸奥の凄みに男は一瞬怯んだが、彼は望み通りナイフを引き抜いた。いい度胸だ。これでこの女の指は切断されるだろう

 

 

 

 しかし、そうはならなかった。ナイフがピクリとも動かない。男はナイフに目をやったが、彼は驚いた

 

(この女、ナイフの刃を素手で握っているのに、手から血も出ていない!)

 

なんだ、これは?しかも、ナイフからミシミシと嫌な音が出ている!

 

「俺は人を殺したことがある。ハッタリだと思うな。後で酷い目に遭うぞ?」

 

「やってみなさい!そんな事が出来るなら!」

 

陸奥は怒りに任せて握っているナイフに力を入れた

 

 ナイフは変な音を立てながらアメのように曲がった男は愕然とした。ナイフが曲がったのだ!突進する車を素手で止めた時点で気付くべきだが、残念ながらこの男はそこまで頭が回らなかったらしい

 

 男は焦った。自分を掴んでいる見知らぬ女性の容姿は素晴らしいのだが、覇気や凄味だけでなく、腕力は凄まじかった。幼い頃から悪さばかりし、数え切れない程の犯罪を手に染めていた彼にとっては、初めての経験だった

 

だが、男は気を取り直すと陸奥に立ち向かう

 

「いい気になるな!」

 

 男はナイフを捨てると女に向けてパンチをお見舞いした。相手が誰であろうとこれで相手は怯む

 

ずっとそうだった。殺した女も怯えて逃げなかったほどだ

 

 だが、目の前の女性はこれまで会った女とは違う結果だった。何と、パンチを片手で受け止めたのだ

 

「貴方……何をしているの……」

 

「ああぁぁ!痛ってー!」

 

 男は目の前に恐怖した。何と、掴んだ手首に力を入れてねじ伏せようとしている

 

こんなバカな!力に負けるなんて!

 

 一方、陸奥はこの男の態度に怒っていた。人を残虐な行為をして刑務所に入れられていたはずのに反省すらしていない。それどころか、こちらに危害を加えようとしている

 

 怜人や優子はどうしているのだろう?振り向く余裕もない。遠くで二人の声がしたのは聞こえた。だが、二人の人生を滅茶苦茶にしたのはこの人だ。殺しても問題ない!

 

不意にパン、という音がしたと同時に体に何か当たった感触がした

 

「いい加減にしろ、女!調子に──な、何で倒れねぇーんだ?」

 

 陸奥が目を向けると男は拳銃を取り出していた。銃口から硝煙が出ていることからさっきのは銃声だろう。しかし、アスファルトには薬莢以外に潰れた銃弾一発が落ちている。弾かれた?あり得ない

 

「クソ、何だ、お前!防弾チョッキか何か身につけているか?死にやがれ!」

 

男は陸奥に向けて拳銃を乱射したが、陸奥は倒れるどころか出血すらしない

 

それどころか、陸奥は拳銃を男から奪い取ると片手で握り潰した

 

金属の破片や弾丸などが陸奥の片手から落ちるのを見た男は呆然とした

 

「何なんだ……お前は……?」

 

「貴方の死神よ!」

 

 陸奥は呆然としている男を殴った。男は両手で咄嗟にかばったが、威力を軽減する事はない。今まで感じたことも無い衝撃を受けたと同時に、後方に飛ばされた。破壊された車に叩きつけられても男は何とか立ち上がろうとしたが、陸奥は走り逃げようとする男の首を掴んだ

 

「俺を殺すと……お前は刑務所行きだぞ」

 

男の苦し紛れに陸奥は一瞬、動揺したが

 

「私は兵器よ!殺しなんて馴れている!」

 

陸奥は掴んでいる首に力を入れた

 

 男は初めて恐怖を味わった。この女、本気だ!殺そうとしている!普通の人なら殺人なんて躊躇するはずだ!ハッタリではない!

 

現に首を絞められ意識遠退いて行く……

 

 

 

 陸奥は片手で男の首を絞めていた。殺意はあった。自分の本来の艤装なら簡単に殺せるだろう。しかし、優子から聞いた柳田 優奈……彼女の母親の事を聞かされたのならば、黙ってもいられない

 

「地獄に送ってあげる」

 

 男は次第に抵抗する力を失い、ぐったりしていた。もう少しという時に鋭い声がした

 

「おい、離せ!死んでしまうぞ!」

 

 陸奥を制止したのは何と怜人だった。彼は止めようとしている!?予想外の事に陸奥は驚いた

 

「だって、この人は貴方の妻を殺した人よ!」

 

「ああ、そうだ!」

 

「何で!?私なら出来る!この人は反省もしていない!」

 

陸奥は止める気もなかった。なぜ?殺した人を許すってこと?

 

「私は兵器よ!人を殺すくらいなんて躊躇しない!だから──」

 

「お前が殺人犯になったら、どうするんだ!?僕だけでなく優子が喜ぶと思っているのか!?」

 

 この叫びに陸奥はハッとして優子を探した。優子は怜人の後ろにいた。しかし、彼女は泣いていた。なぜ、泣いているのだろう。そして、優子は微かだが、首を横に振っていた

 

 陸奥はそれがどういう意味なのか、理解した。陸奥は首をつかんでいた手を離した。男は糸が切られた操り人形のようにそのまま倒れた。気を失ったらしい

 

「私は……」

 

陸奥は呆然とした。自分のしたことは覚えている。彼女は人を殺そうと

 

「行くぞ。騒ぎを駆けつける人も来るはずだ」

 

「……いいの?」

 

「勝手に事故を起こしたんだ。後で面倒になる!」

 

呆然自失している陸奥に怜人は陸奥に促した

 

 誰かが通報したのだろう。遠くでサイレンが聞こえる。陸奥は怜人に言われるがままに連れていかれた

 

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

陸奥はハッとして辺りを見渡した。いつの間にか、家の中にいた

 

 どうやって家にたどり着いたかは覚えていない。考え事をずっとしていた。自分はどうなるのだろうと

 

「ごめんなさい。私……どうかしていた」

 

陸奥の声は掠れていた。目も二人に合わせないようにしていた

 

「陸奥、おい、こっちを見ろ」

 

 そんな陸奥に怜人は指示する。陸奥は彼を見た。彼からは怒りは無かった。それどころか心配そうな表情をしている

 

「怪我はないか?」

 

「ええ……大丈夫」

 

 予想外の問いに陸奥は狼狽した。てっきり人を殺そうとした事に非難されるか、それとも陸奥の怪力に怖がるのかと思った

 

しかし、彼や近くに居た優子からは一切そのような事は無かった

 

「あ、あの!」

 

怜人が陸奥の両手を調べている時に陸奥は思い切って聞いてみた

 

「何も言わないの!?私があんなことをして!」

 

 陸奥は今までの事を思い出しながら聞いた。簡易的な艤装装着しているとは言え、突進してくる車を止めたし、ナイフや拳銃で傷1つ付かなかった

 

しかも、復讐の肩代わりのような事をした

 

それで何も批判が無いのはおかしい

 

しかし、怜人の口から出た言葉は陸奥の予想を超えていた

 

「僕はこんな人間でも殺しなんてしない。人を殺す勇気がない事もあるが、優子だけでなく亡くなった妻にも悲しませたくないからだ。君自身でもだ。確かに怒る気持ちはある。嬉しいよ。だが、あの殺人鬼と同じ道を歩ませるつもりもない。今は戦争ではないからだ。僕が『暗殺しろ』と一度でも言ったか?」

 

「私は……そんなつもりは……」

 

 陸奥は言葉を詰まらせた。彼や娘から色々と学んだが、今思い返せば犯人グループに対する復讐や殺人は一度も口にしていない

 

「それに自分が兵器だって?正体はどっちでもいい。ただ、これだけは言わせてもらう」

 

陸奥は覚悟した。何かするつもりだろう

 

目を瞑り、待った

 

しかし、彼女の予想とは裏腹に何かが覆い被さるのを感じた

 

陸奥は驚き、目を開けた

 

「無事で良かった。……もう死なないことにな」

 

陸奥は何も言わなかった。人とは違う力を見ても驚かないのだ

 

「人とは違っても僕には関係ない。これは本心だ」

 

「ごめんなさい。だけど、私は普通の人間じゃないの。どんなに言われようと。見たでしょ?」

 

陸奥は涙声になっていた。確かに陸奥は普通の人ではない

 

「ああ。ちゃんと見たよ。そんな重荷は背負いたくないのは当然だ。生み出した僕の責任でもある。だが、僕が言うのも何だが今、経験している事に感謝する日が来るかも知れない」

 

「でも、私は……家族ではないの?」

 

「そんな事は無い」

 

彼の腕は優しかった。怜人にとっては関係ない事だろう

 

「生き方は自分で探すんだ。勿論、僕も手伝う」

 

「分かった」

 

 陸奥は安心した。どうやら、彼は悪い人ではないようだ。優子も眺めていたが、陸奥を毛嫌うようなことは無かった

 

 

 

 事故現場では騒然としていた。通報を受けた警察が駆けつけたが、伸びきっている男性と横転し大破した車を見て何が起こっているのか分からなかった

 

 しかも、気を失っている男性は身元を調べると前科の人間であるという。それもあの……

 

 男性は意識を取り戻すと訳の分からない事を喚いた挙句、警察官に暴力を振るった為、現行犯逮捕された

 

 

 

「あの女はまさか……」

 

 そんな事故現場をある男性が見ていた。偶然とはいえ、事故が起こる前から今までの事を。警察を通報したのも彼である

 

彼は早速、行動に移った。こんなものを見逃してはならない!

 

 




陸奥「私、あんな怪力見ても恐ろしくないの?」
優子「そう?探偵漫画である『名探偵コナン』見たら別に……」
怜人「そうだな。創作のキャラの力って誇張するものだ。空手を習った普通の女子高生が電柱や車の窓、ナイフの刃やシャッターなど鉄やコンクリートを簡単に壊したり、至近距離で撃たれた銃弾を避けたりしているからな。男子高校生の空手部主将が走っている軽自動車を止めて更に持ち上げたり、腕にナイフが刺されても平気だったりと――」
陸奥「……それ、探偵漫画なの?格闘漫画じゃない(その前にその人達、人間?)?」

艦娘の身体能力ってどうなのだろうか?人外な力を持っているらしいが?多少誇張しているようなSSがありますが、本作品はこんな感じで(素手ですが)

まあ、推理漫画なのに、格闘漫画(正確には殺人+格闘漫画(+申し訳程度の探偵要素))が存在するくらいだから特に気にする事は無いと思う

名探偵コナンの登場人物がスマブラに登場するのも時間の問題()
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