これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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視点変更多め。


第十六話 今の全力を知らしめよう。

「ハハハハハハハハハ!!!」

 

 いとも容易く決闘場の一部を崩壊せしめたテルモピュライは狂ったように笑う。

 それは何の束縛も無く己の力を震える事への歓喜であり、その一撃を見事回避してみせたネビロスへの賞賛の表れでもあった。

 

 TYPE:ウェポン【乾坤一擲 ユースティティア】、それがテルモピュライのエンブリオの名である。

 

 能力特性は「エネルギーの貯蓄」、「エネルギーの置換」、「エネルギーの放出」の三つに分けられ、スキルを使う際のリソースを外部から得る事で初めてエンブリオの固有スキルを使う事が出来る。

 【ユースティティア】は形態によって外部から得るリソースが異なり、必然リソースを放出する際も貯蓄した物によって変わる。

 

 【ユースティティア】第一形態はグレートソードの姿を持ち二つのスキルを有する。戦闘時非戦闘時に拘らず魔力――MPを貯蓄する《魔力置換》、貯蓄したMPを魔法的ダメージに変換して放出する《妖天昇華》。

 この二つのスキルを用いて、テルモピュライは己のMPのみでこの惨状を作り出したのだ。

 

 それを、あいつは避けた。どんな手を使ったのか、俺の知らないスキルでもあるのだろうか?

 どうでもいいか、どうだっていいな。あいつは俺に一矢報いる為に避けたんだ。ならばネビロスがどう動くのか、楽しみにしておこう。

 

(まぁそれはそれとして)

 

 初撃に全霊を込めたのは事実だがあれが俺の全力と思われては堪らない。MPに余裕はあるが《妖天昇華》は今使っても効果は薄いと判断し、【ユースティティア】の形態を変化させる。

 蒼の光に包まれた【ユースティティア】を尻目に、敵意と警戒心、そして微量の恐怖心を漂わせるネビロスへと目を向ける。

 ガードナーは本体を迅速に叩くべし。誰でも思いつく事だぜ?

 

「さぁて、どう動く?」

 

 

◇――◇――◇

 

 

 停滞は全てに於いて悪手である。

 誰かがそんな事を言ったような言ってないような、朧げな記憶の中に浮かぶその言葉に従い足を止める事無くグラシャラボラスとの合流を図る。

 

 初撃を回避する為に使用したスキルはクールタイムがまだ終了していない為使えず、悔し紛れに鉄針をテルモピュライに向けて投擲するも余裕を持って避けられた。

 反撃で時間稼ぎを試みてはいるがそれで時間が味方をするのは俺達だけでなくテルモピュライとて同じ事。光を放つテルモピュライのエンブリオがその光量を落とした時に現れたのはグレートソードではなく、蒼の刀身を持つエストック。

 

 何にせよどうにかスキルの再使用までテルモピュライの注意を逸らさねば――

 

「《命脈昇華》」

 

(――しまっ、避け)

 

 走らせていた己の足を急停止させ、その場から飛び退く。と同時に先程の面攻撃とは比べ物にならない速度で、死の嵐とでも形容できる過密な直線攻撃が俺のいた所を貫いた。

 怖気が走り、冷や汗が流れた。先程テルモピュライが放った《妖天昇華》といい一撃で俺のHPを全て刈り取る攻撃しかしてこないのが恐ろしい。範囲は狭いが今のエストックの突きで使ったスキルでも結界一枚貫通してるし。

 

 仕方無い、前倒しで進めよう。グラシャラボラス、頼んだ。

 

「グルルゥアア!」

 

「声を出したな?」

 

 テルモピュライが振り向き、エストックを視界の端でこちらに向かってくる黒い物に向けて振るう。

 暴風が吹き荒れ、グラシャラボラスの姿は見えなくなった。

 

 ……上手くいった。

 『何かの音が聞こえた』、それは後ろから聞こえる、振り返って音の正体を確かめようとする、『黒い何かが“見えた”』、ならばそれが音の正体だ。

 聞いた音から情報を集めて一瞬見えた物を敵だと誤認しそれをピンポイントで攻撃する、グラシャラボラスがテルモピュライに行ったのはそういう無意識下の行動の制限だ。テルモピュライが敵の位置を探知する装備でも身につけていたら危なかったが、こうしてグラシャラボラスは己の影を囮にテルモピュライの死角へ逃れる事に成功している。

 

 勿論すぐに本当にグラシャラボラスを倒したのか? と疑問に思うのは自明なので、

 

「ふっ――」

 

 鉄針を投げつける。グラシャラボラスの時間稼ぎのお陰で俺のスキルのクールタイムも終わった。

 既にグラシャラボラスも《インビジブル・マーチ》で透明化している為テルモピュライの意識は完全にこっちに向かっている筈。

 

「甘いな」

 

 形態変化、出てきたのは――ソードブレイカー。

 飛来した鉄針を全て破壊して落とすとまたしても形態変化を行いエストックを手に取った。

 

(来たか……)

 

 口角を上げたテルモピュライはエストックを構えてこちらに突撃してきた。

 初めてテルモピュライが足を動かした瞬間ではあるが、単純なAGI差による物か瞬き一つで俺の目の前まで迫ってきている。

 

「《命脈――」

 

 テルモピュライのエストックが精確に俺の首を刺し貫かんと迫り、スキルを発動させる。

 

「《ショート・トリップ》」

 

「――昇華》」

 

 

◇――◇――◇

 

 

 闘技場に暴風が吹き荒れる。貫通力に特化した攻撃スキルであるため現在のネビロスであれば装甲を貫通して死に至らしめる事が容易なのだが……。

 

(消えた?)

 

 《命脈昇華》が直撃する瞬間、最初からそこにいなかったかのようにネビロスの姿が消え失せたのだ。即座に透明化を疑い……自ら否定する。

 透明化をしたとしてもステータスが爆発的に上昇する訳ではなく、ネビロスの素のステータスでは至近距離の《命脈昇華》を避けられる訳が無い。

 

 であるならば、避けられるだけの何かをしたのだ。それは恐らく当たる寸前で呟いたスキルによる物で。

 

(うぅむ、こうも避けられると自信無くなる――後ろ)

 

 大人気なく特典武具の力を使い、外付けの野生的直感によりネビロスが俺の真後ろにいる事に感付いた。

 ついでに今のネビロスのスキルが短距離転移系統である事、先程ネビロスが回避したのもこのスキルを使っていたからだという事に気付くが、今は捨て置く。

 

 槍を突き出したネビロスの攻撃に合わせる様に【ユースティティア】を形態変化させ、ソードブレイカーでネビロスの槍の穂先を砕く。

 構わず棒だけとなったそれを突き出すネビロスだが、――やはり認識が甘い。

 

「射程圏内だ」

 

 ネビロスから距離を取り、ソードブレイカーを振り払う体勢に入る。

 お前のそのスキル、そう簡単に連発出来る様なもんじゃねぇんだろ、加えて今のお前思いっきり槍突き出して方向転換とか出来ねぇよなぁ?

 

「《塵埃昇華》」

 

 武器も防具も、アクセサリーすら塵に還す風をその身に受けようとしていたネビロスは、

 

 それでも笑っていた。

 

「やれ」

 

 やれ、やれ? 意味のある言葉、命令、第三者への合図、誰に? 他に誰か――あぁ。

 忘れてた。

 

「グゥルルゥアアアア!!」

 

 今まで姿を隠していたグラシャラボラスがネビロスの前に現れ、咆哮と共に火球を放つ。

 リソースが足りなかったばっかりに、俺の放った風は火を掻き消す様な事は無く火球を巨大な炎へと変えてこちらに飛んできた。

 

 笑う。

 

(あぁ、やっぱ凄いなぁネビロスは。第四形態までの俺だったら確実にダメージを受けていたよ)

 

 本心からそう思い、確固たる意思で【ユースティティア】の形態を変化させた。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 ベストなタイミングでグラシャラボラスが火球を撃ってくれたのを見て思わずやったか、と口に出してしまった。

 まぁ流石に倒せはしまいがこれでテルモピュライもダメージを――

 

「やるじゃねぇか」

 

 ――え?

 

 風によって力を増した《茜色の群火》が引き起こした爆炎へと目を向ける。

 今テルモピュライはその炎に巻かれている筈で悠々と会話を交わす余裕を晒すべき時ではない筈、と警戒を高め、直後炎に変化が訪れる。

 

 何度か見たテルモピュライのエンブリオの形態変化の光が収まったと同時に、炎など最初から無かったかのように掻き消えた。

 

「……は」

 

「おいおい、こんなチンケな炎でダメージを食らう訳が無いだろう?」

 

 炎から無傷で現れたテルモピュライは蒼く揺らめく陽炎を彷彿とさせるフランベルジュを携え、ニィと口角を上げた。

 

 テルモピュライらしからぬ挑発、幾度か見たエンブリオのスキルの共通点、隣のグラシャラボラスの苛立ち混じりの唸り声。

 思考を回転させて向こうの狙いが読めた俺は弾かれたように隣へ目を向ける。

 

「止まッ――」

 

「ヴァウゥウウ!」

 

 静止の声は一手遅く、グラシャラボラスは再度《茜色の群火》をテルモピュライに向けて繰り出した。

 されど相手は笑みを深くするばかり。

 

「お代わりだ」

 

 フランベルジュを振り払い、先程の焼き増しの様に炎は消えた。

 戦闘前にテルモピュライから教えてもらった彼のエンブリオの特性に嫌な予感がした俺は破損した槍を投擲するが、全てが遅かった。

 

「楽しかったぜ、――《炎天昇華》」

 

 大きく振り切ったフランベルジュから溢れ出た蒼い焔が俺の槍を融かし――

 

 ――決闘場の岩や地面ごと俺達の体を焼き切った。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 まぁそんな訳で、俺達の初PVPは圧倒的敗北を喫したわけだ。

 

「あーくっそ負けたァ……」

 

「グルゥ……」

 

「いやいや、結構動けてたぞ?」

 

 既に結界は消え、俺達とテルモピュライは座り込みながらさっきまでいた決闘場を見ていた。

 最初に張られていた結界は見る影も無い程ボロボロで、もう一つの結界が無ければこの闘技場ごと消し飛んでいたのではと思ってしまう壊れっぷりだった。少なくとも二つの結界が無ければ観客席はぐしゃぐしゃになっていただろう。

 

 極めつけは決闘場、ある場所は衝撃波で石畳が粉砕され、ある場所は地盤まで貫通する勢いで大きな穴が開き、ある場所は風化し砂のように、ある場所は融けだした石畳が未だに燃え続けているといった惨状だ。

 これをたった一人で引き起こしたというのだから改めて俺の友の荒唐無稽ぶりが身に染みた。

 

「まぁでもいい経験にはなったよ、目指すべき物が見えた」

 

「俺のは極端な例だとは思うがね……ん、どした?」

 

 落ち込んでいたグラシャラボラスがとことことテルモピュライに近づき、「グゥ」と鳴く。

 

「テルモピュライのエンブリオ、今第何形態かってさ」

 

「何で分かるの……」

 

 まぁ何となくとしか言いようが無いが。

 しかしグラシャラボラスも目指す形が見えた様で何よりだ。

 

「そういや俺が教えたのは第一形態のスキルとエンブリオの特性だけだったな、俺のエンブリオ【乾坤一擲 ユースティティア】は今第五形態まで進化してる。第五形態は、さっきお前らが見たように熱をリソースとしたスキルを使うフランベルジュだ」

 

「えぇと、グレートソードにエストックにソードブレイカーにフランベルジュ……もう一つは?」

 

 第五形態あるはずなのに形態は四つしか確認できていない。

 

「あー、パルチザンだな。スキルが使い辛いから今回は出さなかったが」

 

「ふーん、まぁ何にせよ助かったよ。戦ってくれてありがとな」

 

「それはこっちのセリフだよ、久々にネビロスと戦えて気分が高揚したわ。いやぁやっぱ手加減せずにブッパ出来るのは楽しかったなぁ!」

 

「なぁにが楽しかったなぁ! だアホ!」

 

 俺達の後ろから尋常ならざる苛立ちを含んだ声が投げ掛けられた。

 振り返るとメガネを掛けた線の細い男性が腕を組みながらテルモピュライを睨みつけていた。左手に紋章は、無い。

 

 ……あー、もしや?

 

「よぉアルキメデス、今日は助かったぜ」

 

「うるせぇよ闘技場使うなら先に連絡入れろや。何か急に決闘場の方にお前がいたから肝冷やしたわ」

 

 この口の悪い男性がテルモピュライの言っていた信頼できる結界の使い手であるアルキメデスらしい。いや、口が悪い原因はテルモピュライにありそうだが。

 

「いやぁ今日は俺も突然でな? 俺の友達のネビロスが是非とも強い人と戦いたいって言ったもんだから」

 

「えっ」

 

 いやまぁ強い奴と戦いたいみたいなニュアンスの事は言ったがその言い方だと俺がテルモピュライを焚き付けたみたいな言い方に「ネビロス?」

 

「あ、はい! 自分です!」

 

 気が動転しよく分からない自己紹介を行ってしまったが致し方あるまい。

 

「あぁ、君闘技場初めてか。強い奴といってもコイツみたいな極端な奴を選ばなくていいんだよ? 基本的に新参者には優しいから次からは他の人に声を掛けるといい」

 

「あ、え、あはい」

 

 あれ? 思ってたより優しい……?

 目尻を下げ優しい表情を浮かべるアルキメデスに戸惑いながら言葉を返すとニッコリと微笑む。あれこれ子供に対するそれでは……。

 

「おい何でそんな態度変わるんだ俺にも優しくしてくれよお前の給料上げてやっただろ?」

 

「お前の、仕出かした馬鹿みたいな事の尻拭いでな! っつーか給料倍になっても労働が三倍になったら割りに合わねぇよ」

 

 はぁ、と溜息を吐きふと思い出したように顔を上げる。

 

「そういやテルモ、お前今金に余裕あるか?」

 

「そりゃもうがっぽりだが――」

 

「女王陛下がお前の事呼んでたぞ」

 

「――城か? 城だな!? 行ってくるぜまたなネビロス!」

 

 待っててくれぇ、と大声で叫びながら闘技場を抜け出したテルモピュライ。隣のアルキメデスが相好を崩す。

 

「女王陛下から弁償金を強請られればあいつも金落とすだろうな」

 

「弁償金?」

 

「あぁ、闘技場のステージの破壊は基本的に国からの金で修理されるんだが、度を越した破壊は破壊した奴に損害賠償が行くんだ」

 

 あいつ以上に闘技場を破壊して損害賠償喰らった奴知らないけど、とアルキメデスが続ける。

 聞く所によるとテルモピュライは過去にここの決闘場とは比にならないレベルで別の決闘場を壊した事があるらしい。結界システムに異常をきたすレベルだったらしいのでテルモピュライから定期的に賠償金を貰って全体的な闘技場の強化に当てている様だ。

 

「勿論半分以上は国家予算から捻出されてるらしいが、これで俺の仕事が楽になってくれたら助かるんだけどなぁ……」

 

 と今まで何回かテルモピュライに振り回されているらしいアルキメデスの吐いた溜息はとても深いものに見えた。

 

「さて、ネビロス、と言ったか。まだ対人戦をしたいと言うのならすまんが少し待っててくれないか? とうの決闘場があの様だからな」

 

 そう言ってアルキメデスはボロボロの決闘場を指差す。俺、というかグラシャラボラスが齎した被害など精々石畳を焦がした程度であり、その殆どはテルモピュライの手によるものだ。

 時間が経って冷静になって見てみると改めてやべぇなあいつ、アルキメデスの苦労も分かってきた。

 

「うぅむ、なら今日はやめときます」

 

「ん、そうか。興味があるなら公式戦の方にも足を運んでくれよ」

 

 そう言って手を振ってくれたアルキメデスに手を振り返し、闘技場を後に――

 

 あ、テルモピュライに槍返すの忘れてた。

 

 




この後【妖精女王】にこってり絞られる【剣聖】の姿があったとか。

【乾坤一擲 ユースティティア】
・ローマ神話に於いて正義の女神の名を冠するテルモピュライのエンブリオ。現在第五形態。
・性質は貯蓄、置換、放出。完全に攻撃スキルのリソースを外部に依存しており、その分のリソースを貯蓄量に回している。
・第一形態はグレートソードの形状で、《魔力置換》《妖天昇華》の二つのスキルを持ち、自身のMPを溜めて切り払った時魔法的ダメージとして放出する。
・第二形態はエストックの形状で、《活力置換》《命脈昇華》の二つのスキルを持ち、自身のHPを溜めて刺し貫いた時貫通力に特化した暴風として放出する。
・第三形態はソードブレイカーの形状で、《壊撃置換》《塵埃昇華》の二つのスキルを持ち、破壊したオブジェクトをリソースとして貯蓄し、切り払った時無生物の耐久値を迅速に削る暴風を放つ。
・第四形態はパルチザンの形状で、《痛撃置換》《決起昇華》の二つのスキルを持ち、被ダメージをリソースとして貯蓄し、刺し貫いた時生物のHPを急速に減らす衝撃波を放つ。
・第五形態はフランベルジュの形状で、《灼熱置換》《炎天昇華》の二つのスキルを持ち、熱エネルギーを溜めて切り払った時炎や光として放出する。
・《置換》はパッシブ、《昇華》はアクティブ。
・貯蓄したリソースは形態変化を行っても貯蓄されたままである。

はい、大体こんな感じのエンブリオです彼のは。テルモピュライが第四形態を使わなかったのはそもそもテルモピュライがネビロスからダメージを受けるつもりが無かったから。
ちなみに描写するの忘れてたけどネビロスの紋章は折りたたんだ翼と狼の横顔、テルモピュライの紋章は天秤と長剣。
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