これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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お話聞くよ。


第十八話 戦の予感を感じよう。

 それから俺はデンドロ内部時間でおよそ一週間程、レベル上げの為に四方八方を駆けずり回った。

 

 グラシャラボラスが飛行可能となったお陰で高所からの奇襲が可能になったのでレベリングの高速周回を行い、偶にギルドの掲示板に張り出されていても誰もやらないような配達系クエストを相当数こなしていったり【行商人】のティアンに色々な話を聞いてたりと充実した一週間を過ごす事が出来た。

 そのお陰で一部の顔馴染みからはマスターの配達人と呼ばれ始めている。その内クロイヌ宅急便でも名乗ってみようか?

 

「とまぁこんな具合で楽しい一週間だったよ、これも全部グラシャラボラスのお陰だけどな」

 

「『嬉しいな、力になれたのなら何よりだよ』」

 

 何時ぞや喰った串焼きの店で串焼きを数本買い、グラシャラボラスに与えると嬉しそうに齧り付いた。

 硬い口調とはいえ好物の肉への反応は産まれた時から変わらないグラシャラボラスを撫でてやり、隣の人物へと目を向ける。

 

「で、大丈夫なのかエイラ。ガッツリ日昇ってるけど」

 

「大丈夫ですよ、外套もありますし」

 

 俺の隣でフード付きの外套を羽織ったエイラが答える。

 エイラが俺達と行動を共にしている理由はそんなに多くは無い。

 配達依頼を終え、予定も無くぶらぶらと霊都内を徘徊していた俺達を、いつかの焼き増しの様に路地裏からエイラが呼び止めて一緒に行動する事となったのだ。

 

 エイラは俺に用事があったらしいが外で話すような事でもないと言われたのでいつもの個室付きの飲食店に向かっていた。

 もうすっかり常連である。

 

「おっすおっちゃん、いつもの部屋使える?」

 

「いや、今日は先約がいる。残念だったな配達人さん」

 

 店主はそう言って肩を落とす俺の隣に目を向ける。

 

「そっちのフード被ってる人はどちら様で?」

 

「友達だよ、俺達のな」

 

 怪しい格好だが俺の友人なら大丈夫だろと店主は俺達を店の奥に案内する。配達依頼をこなしていく内に顔馴染みからは信頼されてきたのが分かって少し嬉しくなった。

 という訳で奥のテーブル席に腰を落ち着けた俺達は一先ず飯を注文、先に串焼きを食べていたので軽い物を頼む事にした。

 

「エイラは食わんの?」

 

「先にお昼は済ませましたから」

 

 それよりも、と本題に入る為にエイラが姿勢を正す。

 

「ネビロスに先んじてお伝えさせて頂きますが、近い内にモンスターの軍勢がこの霊都目指して進行して来るかもしれません」

 

「……モンスターの軍勢? 何でまた」

 

 エイラが言うにはガルシアがこの襲撃を予見したらしく、エイラに詳細を伝えた後は【妖精女王】に話を付けに行ったんだとか。

 確証が取れたなら霊都全域に知らせる事だが現段階ではこの情報がどれだけ精度が高いか調べている最中だと言う。

 

「……というか私、当主がそんなスキルを持ってたなんて知らなかったんですが」

 

 とはエイラの弁だ。

 今までエイラがどんな生活を送り、ガルシアがどんな事を思っていたかを推し量る事は出来ないが、何となく言う必要が無かったんだろうなぁと。

 ガルシアの予知能力も《操血術》による物らしいので、もしかしたら妄りに他人に言うような事ではないのかも知れない。

 

 何にせよ少しずつエイラも変わり、父に色々な話を自分から聞きに行っているという事が分かってホッとした。

 一週間以上前に焚き付けた身としては余計な事を言わなかったか若干不安だったのだ。

 

 閑話休題。

 

「それで、その襲撃に関して分かる事って他には何かあるか?」

 

「原因はアクシデントサークルによるスタンピードでしょう、このスタンピードはレジェンダリアで稀に起こるので珍しい事ではないのですが、そのスタンピードを利用する首魁の姿が確認できました」

 

 ここで注文した料理が届く。

 手にしたサンドイッチと共にエイラから齎された情報を咀嚼し、飲み込んだ。

 

「首魁ってのは霊都の人間か?」

 

 ガルシアやトリカブトから話を聞いてレジェンダリアの水面下でえらい事が起きてそうな雰囲気を察しているので遂に表層化してきたかと思ったのだがそれに対してエイラは首を横に振る。

 

「いえ、はっきりとモンスターの姿が確認出来たそうです。他のモンスターと比べて遥かに強い力を持っているのが目に見えて分かり、……恐らく複数の【UBM】が故意的にアクシデントサークルからスタンピードを引き起こした物と思われます」

 

「【UBM】だって?」

 

 俺達が相対し、逃げに徹した【UBM】、【静界蜂針 サイレンサー】との戦いは未だ記憶に新しい。

 あのレベルの【UBM】が配下を作り引き連れて霊都に現れるかもしれないというのは、中々の衝撃で――

 

「――その中の一匹が【餓鬼王 グレイロード】であるとガルシアは言っていました」

 

 思考が白く染まる。

 

 【餓鬼王 グレイロード】の名には聞き覚えがあった。本来であれば俺が始めて相対する筈だった【UBM】。

 そしてエイラが気絶した俺を助ける為にアンブロシアの実を与えた相手だ。

 

(ガルシアから貰った記憶だと【グレイロード】は純粋な肉弾戦と配下の統率に特化した【UBM】だったか、軍勢を率いてはいても故意にアクシデントサークルを引き起こす様な魔力は――)

 

 つ、と冷や汗が流れ落ちる。

 

 いやいや、まさか。そんな、あれを手にしてから二週間と経ってないんだぞ? それに今俺が考えてたじゃないか、純粋な肉弾戦と統率力に特化していると。

 ……もし、あの時渡したアンブロシアの実から、アクシデントサークルを故意的に作り出せる様な魔力を取り出せたのならば今回のスタンピードの原因は……。

 

 いや、いや。全て仮定で話を進めている、俺の悪い癖だ。

 頭を振り、務めて冷静に振る舞いエイラに話の続きを聞く。

 

「まだ何とも言えない状況だったな、それで複数の【UBM】が確認できたと言ってたけど今どれだけ分かってる?」

 

「……そう、ですね。現在確認できているのは【餓鬼王 グレイロード】を含め二体、予知内のモンスターの多くに見覚えの魔力が掛かっているのが分かったらしく、もう一体の正体は恐らく【魔竜王 ドラグマギア】と呼ばれる【UBM】かと思われます」

 

「じゃあ首魁はその二体って事でいいんだな、故意的にアクシデントサークルを作り出したのは……名前からして【魔竜王 ドラグマギア】の方か?」

 

「もう一つの可能性も捨て切れませんがね、ただ【魔竜王】が引き起こした場合【魔竜王】のコンディションは万全とは程遠いでしょうし、仮に【餓鬼王】が引き起こしていたとしてもそれで【餓鬼王】の切り札の一つは消えます。どちらが主犯かは分かりませんが戦力の当て方を考えれば、乗り越えられない事は無いでしょう」

 

 理解した。今からでもその二体に関する情報を集めてこよう、進行が何時になるかは不明だが出来るだけの準備は怠ってはならない。

 ありがとう、と言って席から立ち上がろうとする俺をエイラが押し留める。その目はまだ本題を言っていないと語る目だった。

 

「ここからが肝心です、何なら私からの依頼として受け取って貰って構いません」

 

「……聞こうか」

 

 グラシャラボラスと顔を見合わせ、再び席に着く。

 空気を入れ替えるようにコホンと咳を一つ吐き、エイラは口を開いた。

 

「正式にこの情報が知らされるまでの間、ネビロスには霊都中に近々スタンピードが来るかもしれないという噂を流して貰いたいのです」

 

 エイラのその言葉に、俺は口元に手を当てて考える。

 まず噂を流す事の意味。これは考えるまでもないだろう、恐らく情報が出た時の混乱を抑える為の緩衝材だ。スタンピードに対する認識を「急に」では無く「遂に」に変えるのだろう。

 

 次に何故俺にそれを頼むのか。これは俺が【行商人】のレベルを上げる為に配達系統の依頼をこなし少なからず住人達からの信頼を得ているからだと思うが……多分俺以上に影響力のある人間は幾らでもいる筈で、噂を流すだけであれば俺だけでは力不足ではなかろうか。

 なので一応確認する。

 

「その頼みって他には誰に?」

 

「私は今ネビロスにお願いしたのが初めてですが、当主の方で様々な人に手回しをしている様で」

 

 成る程、安心した。俺が、じゃなくて俺も、だったんだな。

 であるならば安心して請け負う事にしよう。

 

「分かった、引き受けよう。配達のついでだし依頼としてじゃなくエイラからの頼みとして」

 

「助かります……」

 

 そう言って溜息を一つ零したエイラは、肩の荷が下りた様な穏やかな顔をしていた。

 

「今当主が一部の氏族を集めて【妖精女王】陛下と会議を行っている筈ですが、二体の【UBM】をどうやって崩すつもりなんでしょうか?」

 

「そこは、まぁ俺達マスターを矢面に立たせるのが先決じゃねぇかな。マスターってのは大概オンリーワンって言葉に弱いから嬉々として向かってくぜ」

 

「その話、詳しく聞かせて貰って構わないか?」

 

 エイラと共にどうなるか話を膨らませていると横から聞き慣れた声を掛けられる。

 恐らくマスターを投入した際の対【UBM】の要になるであろう、テルモピュライ達の姿がそこにあった。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 俺達とエイラが奥の席で会話していた理由は個室席が埋まってたからなのだが、どうやらその個室席を先約していたのはテルモピュライのパーティーだったようだ。

 プラタイアやサラミス、そして多分俺にあまり良い感情を抱いていないであろうペルシアもおり、パーティーメンバーに抜けがない事からパーティー関連で真面目な話をしていたのだろうなという考えに至る。

 

 テーブル席の空きに座るよう示すがテルモピュライに押し留められる。「せっかくだしこっちで話そう」と個室席の方に行く事を促され、エイラと顔を見合わせてテルモピュライの提案に乗る。

 若干個室席が狭くなったが、会話に支障をきたす程ではないだろう。

 

「まぁなんというか、ずっと聞いてたというか聞こえてたんだよ」

 

 そう言ってテルモピュライが指差したのは何時ぞやの青い鳥、最初にこの店でテルモピュライと駄弁ってた時にテルモピュライを呼びにきた一羽の小鳥だ。

 あの時は誰かのテイムモンスターだと思っていたのだが、どうやらこの鳥はパーティーメンバーのエンブリオであったらしい。

 

「うむ、この青い鳥は私のエンブリオで名を【蒼天睥睨 フィロソフィア】と言う。今回は周囲の警戒に当たらせていたのだが、君達の会話を意図せず届けてしまった」

 

 すまなかったと頭を下げるプラタイアの肩に青い鳥が留まる。何かグラシャラボラスがすっごい見てるけど食べちゃ駄目だよ?

 

「『喰わんよ、私を何だと思っているのだ』」

 

 不満げに唸るグラシャラボラスだったが、空気を張り替えるようにテルモピュライが手を叩いた事で負の感情が霧散した。ごめんね。

 

「という訳でだ、事故とはいえ恐らく機密に値するであろう情報を聞いてしまった訳だ俺達は。そこは申し訳無いと思ってるがプラタイアが言うには俺達以外は話を聞いている奴はいなかったらしいからこの話は俺達だけで完結出来る」

 

 ここからが本題だとテルモピュライが続ける。

 

「その、スタンピード? だっけかが起こる日が分かったら教えてくれないか? それまでに実力の高いマスター連中を大量に掻き集めてくる」

 

 そんな事を口にしたテルモピュライは、俺ならそれが出来るとぎらついた目をしていて、あぁこいつなら出来るのだろうなと確信せざるを得なかった。例えどれ程気が進まなかろうと、こいつに呼び掛けられたなら心を奮い立たせて千載一遇のチャンスへと飛び込むのだろう。

 目の前の我が親友はそういう奴なのだと、俺はまぶしいものを見るように目を細めて再確認するのだった。

 

 エイラもテルモピュライに対して言いたい事は幾つもあっただろう。

 本当に当日までに集められる自信はあるのか、とか、集めきったとしても皆独断専行していくのでは、とか。それでもそんな不安を掻き消すようにして笑うテルモピュライに

 

「分かりました」

 

 そうエイラは答えた。

 テルモピュライなら本当に何とかしてくれるのだろう、そう疑いようも無く確信してしまうこれがテルモピュライの今まで積み重ねてきた力なのだろう。

 

「細部は追々詰めていくつもりだが、当日は集めたマスター達を大雑把に三部隊に分けるつもりだ」

 

「三部隊?」

 

「そう、一つは後方支援部隊」

 

 まぁそれは必要だろう、全員が全員戦闘職な訳が無いし何なら総力戦では後方支援が命綱となり得る。

 あまり考えたくは無いが市街戦にまで発展すれば、彼らの活躍でどれだけ被害を抑えられるかが決まるだろう。

 

「そして残りの二つだが、前衛戦闘職を対【魔竜王 ドラグマギア】部隊と対【餓鬼王 グレイロード】部隊に分けるつもりだ」

 

 恐らく混戦が予想され、マスターの心理的に通常のモンスターだけを相手取る部隊は組めそうにないとの事。出来て精々、二体の【UBM】に辿り着くまでの道を塞ぐモンスターを根こそぎ狩り尽くす程度らしい。

 

「まぁここらへんはお偉いさんと話し合って正式に部隊を分けるつもりだが……ネビロス、お前はどっちの部隊に入る?」

 

 【魔竜王 ドラグマギア】か、【餓鬼王 グレイロード】。テルモピュライがどちらに行くのかは分からないが多くのマスターは【魔竜王 ドラグマギア】の方に流れるのではないだろうか。

 まだ仮定の段階だから断言は出来ないが、目に見えて分かりやすい元凶と言って差し支えないだろうから。

 

 でも。

 

「俺は【餓鬼王 グレイロード】に会いに行く」

 

 あの時会えなかった悔しさや、アンブロシアの実を取られた憤り、逃げてるばかりだったあの時から少しは強くなった俺達の力を見せてやろうという硬い意思が、【魔竜王 ドラグマギア】に対する羨望を遥かに上回っていた。

 どうせ【グレイロード】は俺の事なんて覚えていやしないだろうから、一方的に初めましてを叩きつけてやろう。

 

「『私も彼奴にはいずれ相対したいと思っていた』」

 

 今まで沈黙を保っていたグラシャラボラスが口を開く。

 そういえば気絶していた俺を背負っていたグラシャラボラスは一度【グレイロード】の姿を見たのだった。

 

「『彼奴の可笑しな犬を見るような目、今思い出しても腸が煮えくり返るようだよ。私の名はグラシャラボラスだ、この名を持って生まれた以上、あのような目を向けた彼奴には報復を叩きつけてやらねば』」

 

 目を細め、ここではないどこかの敵に唸り声を上げるグラシャラボラスの頭を撫でてやる。

 そんな俺達の決意を目にしたテルモピュライはくっ、と口元をひくつかせ、

 

「くはっ」

 

 心底楽しそうに、笑みを噴出した。

 すぐにすまないと謝罪し、それでも笑いを止める様子が見えないテルモピュライに思わず溜息が零れる。

 

 お前はそういう奴だったよ。

 

「んぐっ、いやすまんね。お前がこの世界を謳歌してるようで何よりだよ。ともあれ、じゃあネビロスは【餓鬼王 グレイロード】の方に、俺達は【魔竜王 ドラグマギア】の方に向かうという事で――」

 

「――すまない」

 

 サラミスに肘鉄を撃たれて痛みに呻きながらテルモピュライはそう纏めようとして、それを遮るようにして声が一つ。

 

「俺はネビロスについていく」

 

 今まで我関せずを貫き通していたペルシアが俺を見て、そう言った。

 

 




【魔竜王 ドラグマギア】
・多重技巧型UBM。
・数多の魔法を扱い、自分自身も膨大な量のMPを保有する。
・レジェンダリアには豊富な自然魔力を求めて来た。
・「……誰だ? 私の姿を覗くものは」

【餓鬼王 グレイロード】
・指揮系統に特化しており、部下も様々な職業に分かれている。
・配下のゴブリンを集め、この先起こるであろう争いに備えゴブリン達にラーニングを行う。
・一等大事なある木の実は大切に懐へ。
・「セメテ、イイ隠レ蓑ニハナッテクレ」
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