これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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自分があいつの立場だったらなんて、考えた事も無かった。


第十九話 軋轢を叩き壊そう。

 

 

 若干の騒動はあったものの、談合はお開きと相成り。

 エイラはこの話をガルシアに伝える為に屋敷に帰り、テルモピュライも知人に連絡しに一度ログアウトしていった。解散な流れだったのでグラシャラボラスと共に早速配達系の依頼を受けようかと思ったのだが、ペルシアに止められた。

 

「ネビロス、話がしたい」

 

 ついてこいと言い放ち俺に背を向けるペルシア。随分な言い草ではあったが俺自身何故ペルシアが俺と一緒に行動する事を選んだのか気になったのでグラシャラボラスと顔を見合わせ、ペルシアの後を追いかける。

 道中で一体何をしに行くのかと問うたが「聞きたい事がある」と言うだけで何も分からなかった。

 まぁ先程の店で二人きり(グラシャラボラスはいるがうちの子なのでノーカン)になれた筈なのにその場で聞かず別の場所に向かってる事から話を聞く以外に目的はありそうだけども。

 

(というかこのルートって霊都の外……)

 

 配達依頼をこなしていく内に霊都の大体の位置関係を把握出来ていた俺はペルシアの向かう先に一抹の不安を覚えるが……今更だろう。

 何をするつもりなのかは大体察したが、真意は本人の口から聞かなければならない。

 

「ついたぞ」

 

 そう言ってペルシアが振り返る。きっと彼の眼にはやっぱりという表情を浮かべる俺の顔が映っている事だろう。

 

「がっつり外に向かう道だけど、何がしたい?」

 

「話を聞く」

 

「今更それだけで誤魔化せると思っているのか? 俺の何を知りたい? 何故この場を選んだ? ここで答えてくれないか?」

 

 流石にこの情報量の少なさでほいほいと霊都の外に向かうわけには行かない。

 何も知らずに殺されるなどまっぴら御免である。

 

「……俺にはお前が分からない。何でテルモピュライがお前を気にかけるのか、何でお前がテルモピュライと楽しそうに話し合うのか。今日だってそうだ、何でテルモピュライがお前に配慮する必要がある? テルモピュライは幾多もの功績を掲げて、お前は何も持たないニュービーだ」

 

 ペルシアの疑問や困惑は、まぁ分からないでもない。ぽっと出の奴に親しげにしていたら不思議に思いもするだろう。

 

「『……マスター』」

 

 動いてくれるな、グラシャラボラス。ペルシアが抱いているのは、決して敵意ではない。

 

「最初はお前の事が分からなかった。リアルでの友人なんだろうなとは思ったし、事実テルモピュライからお前の事を聞かされた。今まで色んなゲームを遊んできた親友だと、デンドロも俺が誘ったのだと、いつかお前達にも俺とあいつが並んで戦う姿を見せたいと」

 

 テルモピュライはそう言っていたと述べたペルシアは酷く複雑そうな顔をしていた。

 

「俺はテルモピュライが自慢げに語るお前の事が分からなかった。だから分かろうとはしなかった。別にいいじゃないか、テルモピュライにだって友達はいる、友達と遊びたいってだけなんだ。そこになんの不満がある?」

 

 ペルシアが歯を食い縛る。

 

「不満だったよ。悔しかった。何で俺がそこにいない? 俺はテルモピュライの特別になりたかった。ずっと、テルモピュライに相棒として扱われたかった」

 

 ペルシアの左手の、『扉を開く鍵』の紋章が光り輝く。それに応じてグラシャラボラスが俺の前に立ち、唸り声を上げるが気にしていない様にペルシアは話し続ける。

 

「テルモピュライは言ったよ。ネビロスは俺の相棒だって。それに怒りや憎しみは無かったが、俺はそれから分かろうとしなかったお前の事を知ろうとした」

 

 ペルシアの左手に、淡い翡翠色の水晶で形作られた何かの鍵が握られる。目を、細める。

 

「すぐに分かった。お前が『良い奴』なんだと。俺は一度、『良い事をしている』お前の顔を見た事がある。遠巻きながらすぐに似たような顔を思い出したよ」

 

 俺は槍を取り出し、グラシャラボラスが身を屈める。呼応して、ペルシアも武器を取り出す。

 

「あの時のお前の顔は、テルモピュライに良く似ていた」

 

 それは例えるなら両刃鋸だろうか? 夥しい量の鋭利な突起物が両の刃に付いたその直剣は物質を切る事よりも生物に傷を付ける事に特化している様に見えた。

 

「『真似』か『憧れ』かは知らないが、それさえ分かれば十分だった。ネビロス、今から俺が言う事は突拍子も無い事だろうが、どうか聞いてくれないか?」

 

「……」

 

 敵意を滲ませ、ペルシアに話の続きを促す。最早碌な結果にはなりはしないだろうが、それでもペルシアが聞きたい何かを、俺も聞きたかった。

 

「テルモピュライが、俺だけを照らす太陽であって欲しいと願うのは強欲だろうか?」

 

 掻き集めた敵意が霧散する。

 あふれ出しそうな感情を表に出さない様に蓋をするペルシアの表情はとても見てられないもので、漸く気付く。

 

 ペルシアも、俺と同じくテルモピュライに救われたのだ。ともすれば命を絶ってしまおうかとすら考えてしまう苦しみから。

 ――俺と同じだ。差し伸べられた手を掴んで、その手の持ち主の特別になりたい。それでもその手は他の誰かが既に握っていて。

 憎しみより先に悲しみがあったのだろう、本当に、俺と良く似てる。

 

 それさえ分かれば、心が楽になった。

 

「強欲ではないさ、俺も、似たような事を考えた。でも無理だ、お前が自分で言ったじゃないか」

 

 そして、テルモピュライを表す言葉に、それ以上のものはないだろう。

 

「どうして太陽の光がたった一人を照らす? ペルシア、お前だけじゃない。俺だって例外じゃない。あいつは困ってる奴皆を助ける、はっきり言おう」

 

 ――そんなの考えてるだけ無駄だぞ。

 

 俺の言葉はペルシアを突き放す言葉に聞こえただろうか。正直に言って俺はペルシアがエンブリオを取り出した時点で戦う気など更々無く、速攻でグラシャラボラスの背に乗り行方を眩ましてログアウトした後テルモピュライにチクるつもりであった。

 その気が失せたのは、俺に問い掛けたペルシアの姿がかつての俺の姿と重なったから。俺の言葉を聞いたペルシアは理解を深めるように言葉の意味を噛み砕き、溜息一つ。

 

「そう、か」

 

「そうだよ」

 

 ペルシアの心の霧を少しでも晴らせたのなら良かった。

 

「ネビロス、あと一つ俺の頼みを聞いてくれ」

 

 ペルシアが未だ武器を手放していない事からその頼みは自明だろう。

 

「俺と戦ってはくれないか? 俺はお前の事を少しでも知りたい」

 

 多くは語らないまでも、ペルシアの考えている事は分かった。自分と似た境遇の人物だと分かっていても相容れないという思いはそう簡単に変わるものではない。

 だから戦って、その心の軋轢を均そうというのだろう。……ただがむしゃらに戦って、それで心理的に何かが好転するなんて創作物でしか見たことは無いが、これでペルシアが満足するのであれば受けよう。

 

「分かった。勝敗は?」

 

 問い掛けると同時に俺目掛けて何かが飛んでくる。

 慌ててキャッチし、飛んできた何かを見やる。

 

「……ブローチ?」

 

 それは俺が口に出したように何の変哲も無いブローチの様に見えた。だがどっかで見たような……。

 

「救命のブローチだ。それが壊れるまでにしよう」

 

 そうだ思い出した、救命のブローチという名のアクセサリーだった。着用者の体力が無くなる程のダメージを受けても《九死に一生》というスキルが発動し、救命のブローチがダメージを肩代わりするというもの。スキル発動時に10%の確率で壊れるらしいので実質タスキとハチマキ足したアイテムである。

 何か掲示板覗いたら馬鹿高かった記憶があるのだが、確か買うとしたら500万リルくらい掛かった様な……。

 

「何度も言うようだがここから先はもう俺の自己満足だ、我が侭に付き合ってもらうのだからこれくらいは構わんよ」

 

「今更だが闘技場じゃなくていいのか?」

 

「予約が取れなかった。後俺は闘技場で戦うのは苦手なんだ」

 

 ジョブの都合上真正面から正々堂々というのはどうしてもね、と肩を竦めるペルシア。そこまで言うのであればもう止めはしない。

 グラシャラボラス、戦おうか。

 

「『あぁ、私のマスターを愚弄した事を後悔させてやろう』」

 

 気にしてないってのに。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 ペルシア、テルモピュライのパーティーメンバーでありメインジョブを【兇手】に据える上級マスター。

 役割としては斥候や隠密行動、相手の意識から外れての暗殺を得意とする。

 

 他のパーティーメンバーと比べて多い役割を十全にこなす事が出来るのは本人の才能も要因の一つではあるが、ペルシアのエンブリオの力が要因の大部分を占める。

 

 【万象良好 オールグリーン】、それがペルシアのエンブリオの名である。エンブリオの特性は「異常の排除、最高の維持」である。些か広義的に過ぎるがペルシアの必殺スキルはそうとしか言い表せないものであるようで。

 簡単に言ってしまえばバッドステータスの解除が【オールグリーン】の力である。到達形態も第五形態にまで達しており、生半可なデバフではペルシアの体を蝕む事は不可能だ。

 

「これが俺の知ってるペルシアに関する情報だ」

 

「まぁ間違っちゃいないな」

 

 俺の言葉にペルシアは頷く。所々に植物系統のモンスターが存在する平原に辿り着いた俺はペルシアに俺の事をどれだけ知っているかを聞かれた。

 霊都の住人からの依頼をこなしていくにつれて俺はDINなる組織から依頼をされるようになった。内容は普通に雑用だったが、DINという組織が情報を取り扱う大々的な組織である事を知った俺は依頼報酬の使い道の一つとして「情報の買取」を加えた。

 一週間で集めた情報の中で得たペルシアのものを述べただけなのだが、概ね間違い無い様で助かった。

 

「舐めている訳では無いが流石にハンデが無いと最初から飛ばしていけないからな」

 

「思ったより律儀だった」

 

「こっちから吹っかけておいてあれだがレベルが違いすぎるからな」

 

 始めよう、と武器を構えるペルシア。

 今のペルシアの装いは素肌を殆ど晒さない布装備でその上からマントや腰布を装備している。道中で僅かな金属音が聞こえた事からマントや腰布の裏に投げナイフでも付けているのだろう。距離を離した時は注意しよう。

 全体を通してみると少し忍者らしさはあるが、やはり異彩を放つのはペルシアの主武装である両刃鋸と直剣を組み合わせた様な武器。

 

 絶対普通の剣の方が使いやすい筈であるのにわざわざそれを使うという事は、使いにくいというデメリットを上回る性能を持っているか、そういう形である事が望ましい戦い方をするという事。

 あの剣にも注意を払っておくべきだろう。

 

「『それでマスターよ、どう動く?』」

 

 テルモピュライの時は速攻を仕掛けざるを得なかった。そうしないと即死してしまう状況だったから。

 しかしペルシアは初手で相手を葬り去るような瞬間火力に特化したマスターではない。勿論隠し球はあるのだろうが、それを使うにしてもフィールドを有利な状況に整えてから使うだろう。

 

「『つまり?』」

 

 序盤は様子見、ちょっかいをかける位に留めておく。その間、グラシャラボラスは好きに戦ってくれ。

 

「『了承した』」

 

 ニィと口角を上げるグラシャラボラスの頭をぽんと撫で、俺はペルシアに問い掛ける。

 

「戦闘開始の合図は?」

 

「足元に石があるだろう」

 

 ペルシアの言葉を聞いて足元に目を向ける。これを投げろと。

 腰の収納カバンと簪のアイテムボックスからアイテムを何時でも取り出せるようにして、足元の小石を拾い上げる。

 一つ息を零し、思考を切り替える。余計な事は考えないが、数多の事に考えを巡らせなければ。

 

「ふっ!」

 

 小石を頭上に放り投げる。

 

 この世界における先達、格上のマスターとの戦いはこれで二回目。

 幾つか策もある、何とか喰らいついて見せよう。

 

 ――小石が地に落ちた。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 ペルシアが何かを放り投げ、直後白い煙が辺りを満たす。

 視界を塞ぐつもりなのだろうが手の一つとしては読めている。さて前から来るか後ろから来るか――

 

 ――項に違和感。

 

 即座に前転し槍を後方に切り払う。手応えは無し。

 

「テルモピュライとの戦いを見た」

 

 薄れゆく白煙の中、ペルシアの輪郭が朧げに歪んでいた。まるで自分も実体を持つ煙となったかのように。

 辺りを見渡し、ペルシアは俺達を見つけられていないかのように振舞う。

 

「何故あんなにも動けるのかと疑問に思っていた」

 

 開始直後に既にグラシャラボラスに《インビジブル・マーチ》をかけて貰っている。今の俺達の姿は見えていない筈。

 追撃するか悩んで、距離を取る事を選択する。音で居場所がばれないようにカバンから取り出した瓶を辺りにばら撒くのも忘れずに。

 

「一つ一つのシーンを切り取れば、そう驚く事じゃない。その状況に対応して現状打てる最善手を逐一更新しているだけ」

 

 俺が投げた瓶が茂みに転がり、音を立てる。その音に反応してペルシアが瓶の方向に顔を向けるが、再び辺りを見渡し始める。

 ……何を探している?

 

「こうして戦ってみて分かったよ、ネビロス」

 

 ――いい勘を持ってるな。

 

 グラシャラボラスに合図を出そうとした手が止まる。すぐさま合図を下そうとするが、一瞬の隙を与えてしまった。

 

「《感度良好》」

 

 ペルシアが左手に持つ鍵が「何か」をこじ開けた。

 

「――見つけたぞ」

 

「くっ」

 

 思わず声に出してしまったが、最早今更だろう。

 今ペルシアが使ったスキルは透明化した相手を感知するスキルで間違いない。スキルの効果がそれだけな訳無いが、今はグラシャラボラスの透明化が意味をなくしたという事実さえあれば十分だ。

 

「今だってそうだ。透明化を見破られた焦りはあるのだろうが、それはそれとして次打つ手に関して既に思考を巡らせている。大局での優先度を無意識の内に把握してるのかね?」

 

 軌道の読めぬ朧げな輪郭のまま、こちらに向かってくるペルシアへ向けて槍を突き出し――己の失策を悟る。

 

 突き出した槍がペルシアの纏う霧を何の抵抗も無く貫く。

 幻影、いや違う。

 

(ずらされた?)

 

 距離を取ろうとして、ペルシアの姿が掻き消える。

 首筋に違和感。今度は逃げる暇すらなかった。

 

「お終いだな」

 

 左方向から蹴りを入れられ、体勢を崩した所に首元を狙って鋸剣を振り抜くのと、ペルシアと俺の体に影が差し、その影が独りでに動きペルシアの刃を防ぐのは同時だった。

 仕方無い。グラシャラボラス、やれ。

 

「やはり上ッ――!」

 

 ペルシアが初めて距離を取り、同時にマントから投げナイフを取り出して上空に投擲するが、グラシャラボラスがスキルを使う方が早かった。

 《茜色の群火》によって上空から降ってきた火球が散らばったガラス瓶を割り――

 

 ――爆発。

 

 表情の変化が分かりにくいが、ペルシアが驚愕の表情を浮かべている事に気づき、笑った。

 驚きを引き出せたなら上々だろう、やはりあれは使いやすい。この戦いが終わったら買い足しておこう。

 

「《空間固着》」

 

「《ショート・トリップ》」

 

 片や楽しそうに、片や嬉々とした表情を浮かべて戦いは佳境に入っていく。

 

 




原作の方で妖精女王がロリババアと判明したり、読者の想像する変態像をK点突破し満を持して【呪術王】LS・エルゴ・スムが登場したり色々ありましたがいかがお過ごしでしょうか。
自分はテルモピュライを<YLNT倶楽部>に入れなくて良かったと心底ホッとしてます。【呪術王】のぶっ飛んだキャラは好きですけどね。

今回ペルシアはチラ見せです。若干情緒不安定気味に見えてないか心配なのでもしかしたらそのうち手を加えるかも。
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