これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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第二十一話 女王と英傑、或いは勇気の前日譚

 

 

 周囲が焼け野原となり、辺りに固められた炎が散らばっている最中、俺は息も絶え絶えになりながら地面に寝転がっていた。俺の体には数え切れないほどの傷跡が刻まれ、しかし【救命のブローチ】の効果でじきにこの傷や出血も消えるだろうという段階であった。

 グラシャラボラスも俺と似たり寄ったりな惨状だったので一時的に紋章の中に戻している。

 

 戦闘はより己に有利な戦況を作った者が勝ちを握る状況であり、それを掴み取る為に策を弄しアイテムを使いスキルを全部見せ俺やグラシャラボラスの肉体すらも使い潰し――

 

 ――それでもペルシアは遠かった。

 

 姿を隠し、意識の空白を突く戦い方が上手かった。アイテムを惜しげもなく使って己に有利なフィールドを作り上げるのが上手かった。癖の強い武器を巧みに操りエンブリオのスキルを戦闘に組み込むのが上手かった。

 何もかもが俺の上を行き、笑えるほどの惨敗を喫したのであった。

 

(あぁ負けた)

 

 しかしそれでも、楽しかった。笑い声を噛み締めても零れでる程度には、ペルシアと戦っていて楽しかったのだ。ボコボコにされはしたが、多分グラシャラボラスも同じ気持ちだろう。

 パキン、と【救命のブローチ】が音を立てて砕け散る。度重なる負傷と出血により幾度と無く行われた判定の末、遂に壊れてしまった。

 

「楽しかったよネビロス」

 

「そうか、それは何より……いや、違うか」

 

 武器を仕舞い、少しの間考えてペルシアが口を開く。

 

「ありがとう、俺に付き合ってくれて」

 

 そう言ってペルシアは俺の手を掴んで引っ張り起こしてくれた。

 その顔は――と言っても口元は見えないが、それでも晴れ晴れとした表情を浮かべている事は分かる。

 同類ゆえの確執は今取り除かれた、後は決戦へ向けて準備を重ねるばかりである。

 

 ふと違和感。

 

「……?」

 

「どうした、ネビロス」

 

 辺りに目を向ける俺の行動を疑問に思ったペルシアが話しかけてくる。

 

「いや、誰かから見られている様な気がして……」

 

「視線を感じた、と? ……どれ」

 

 ペルシアが懐から横笛の様なアイテムを取り出し、口を当てて音を出す。

 ピーと高い音が響いて暫し、残響に耳をすませていたペルシアが口を開く。

 

「……特に敵意を持った相手は周辺にはいないな」

 

「そうか、気のせいだったか」

 

「気をつけておいて損は無いだろう、何か他に気に掛かる事はあったか?」

 

 溜息を吐きポーションを飲むとペルシアがそう言った。

 ただの勘であるのに真剣に考えてくれているペルシアに若干の驚きを覚える。信じてくれるのだなと聞くとペルシアは「お前の異常な勘の鋭さはさっきまでの戦いで身に染みてるからな」と呟く。

 特に戦闘で信用できるほど勘に頼っている訳では無いのだが、さておき。

 

「一瞬だけこちらを観察している視線を感じたんだが、もう視線は感じないな」

 

 感じていた違和感は既に跡形も無く消えていた。

 周りには風によって形を変える草原と、そこをのそのそと移動する植物系モンスターばかりである。

 

「……そうか、では帰るか」

 

 一度周囲に目を向け、警戒を解いたペルシアは霊都への帰路に足を進める。

 後ろ髪引かれる思いではあったが俺もペルシアに付いて行き霊都へと帰った。

 

 背後で何かが羽ばたく音がした。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 それからはずっとギルドに入り浸り配達系のクエストを大量にこなしていった。前と違うのはペルシアとの戦いで気合が入ったグラシャラボラスが飛行速度を上げていつもより早く目的地に着くようになった事と、配達依頼をこなす傍らある噂を流すようになった事。

 

 ――霊都の友に聞いた話なのだが、そろそろモンスターのスタンピードが来るらしいのだが知っているか?

 

 こう言った後のティアンの反応は大体二つに分かれる。「あぁ、もうそんな時期か。まぁ今回も大丈夫だろう」と言う者もいれば「スタンピードねぇ、今回は大丈夫なのかしら。アムニール様にお祈りしないといけないかも」と言う人もいた。

 前者は「前からいるティアンの戦力に信頼を寄せている」人達の言葉であり、後者は「新しく来たマスターの戦力に不安感を抱いてる」人達の言葉である。

 

 どちらの気持ちも大いに分かる。ティアン側には多種族故の豊富で多彩な戦力が揃っており、最たる者として【妖精女王】が存在する。俺は未だに相対した事は無いがテルモピュライがあれだけ壊れるのだからカリスマは十二分にある筈だ。噂では広域殲滅を得意としている様なので【妖精女王】をリーダーに据えて戦線を展開すればスタンピードなど恐るるに足らずと断言してもいいだろう。

 

(エイラやガルシアみたいな吸血鬼も沢山いるからただで負けはしないだろうし)

 

 問題となるのは数少ない不確定要素であるマスターの存在である。ともすればレジェンダリアの多様性を容易に上回る<エンブリオ>の使い手であるマスターは当てにする戦力としては一見最適に思える。

 

(マスターが一枚岩だったらな)

 

 当然マスターは自由に動く。そうあれとこの世界に来る際に言われ、その自由を求めてこの世界に訪れたのだから。

 霊都防衛の為に尽力する、知ったこっちゃ無いと無関心を貫く、火事場泥棒を働く、我先にと【UBM】討伐に乗り出す、騒ぎに乗じてプレイヤーキルを行う。どれもマスターの自由であり、マスターが容易にできる事だ。

 大多数は霊都防衛の為に尽力するだろうが、確実に少数はそういう事をする奴が出てくる。

 

 ぽっと出の俺ですらこういう事が容易に想像できるのだ、霊都のティアン達にとって「マスターはそういう事をするかもしれない」と思われているのも当然だろう。

 

 ……逆に言えば未だ心象をかもしれないで抑えられているという事なのだが。その評価に大いに貢献しているのはやはり我が友テルモピュライであろう。

 幾度と無く霊都の危機を救い、レジェンダリア国内の村々に赴き数々の困難を砕き、レジェンダリアにおける信頼を栄光という形で手にした男。ガルシア曰くジョブとして確立されている様なので安易に使えはしないが、それでも俺は【勇者】とはあいつの様な存在なのだろうと思っている。

 

 スタンピードの予感を吹聴して変化が訪れたのは噂を流して三日後辺りからだった。

 

 ちらほらと「俺もその噂知ってるぞ」と返してくる人が出て来た。各所で細々と流されている情報が精度を高めて出回り始めたのだ。

 これによって事態を軽く捉えていたり戦力に不安を抱いていた者、そもそも話を信じていなかった者達も噂を信じ、騒ぐ事も無く確かな緊張感と共に覚悟を固め始める。

 六日後には最早この噂を軽んじる者は無く、各所で程度の差はあれどスタンピードへ備えを蓄え始めていた。

 

 そして遂にこの時が来る。

 

 

 

 

 

 霊都の中核たる【妖精女王】の座す白亜の城、その前に数多くの霊都に住まう者達が集まっていた。

 ティアンだけではない、レジェンダリアに所属するマスターも殆どがこの場に集まっている。【妖精女王】の言葉を聞く為に。

 

「で、何で俺ここに呼ばれたの?」

 

 現在俺がいる場所は他の大勢と同じ様に城前の広場――ではなく。

 【妖精女王】が演説を執り行う城の大きなテラスの舞台裏にいた。舞台裏というか聴衆に見えないように城の中で待機していると言った方が正確だがともあれ、俺とグラシャラボラスはテルモピュライに呼ばれてこの城まで出張ってきていた。

 

「そりゃまぁ護衛依頼だよ、俺だけだと城が壊れる」

 

 そう俺の隣で言うテルモピュライに呆れた目を向ける。何故か鼻の下を伸ばしているが【妖精女王】はまだ来てないぞ。

 

「手加減しろよ」

 

「俺の辞書にそんな中途半端な言葉は無い」

 

 言い切りやがった。

 

「真面目に言うとお前にはグラシャラボラスの透明化で【妖精女王】様の護衛をサポートして欲しい」

 

 グラシャラボラスの《インビジブル・マーチ》はパーティーメンバーにしか適用されないのだが、あまり護衛が多くても困るぞ。

 

「心配すんな、透明化させるのは俺達数人だけで他はダミーというか囮として残す」

 

 なら良いのだが。

 と言う訳で俺達と同じ様に待機していた数人のティアンともパーティーを組み、【妖精女王】が来るまで待機を続ける。

 ふと思い至る。【妖精女王】の事何も知らないな、と。

 

「テルモ、【妖精女王】ってどういう人なんだ?」

 

 いやそんな常識が欠如している人を見る様な目で見られても。

 テルモピュライが我に返ったように咳払いを一つ零し、口を開く。

 

「まぁ平たく言えばこのレジェンダリアの女王様で吸血鬼や巨人、獣人といった多種族の貴族と共に内政外交全てを取り仕切るお偉いさんだ」

 

 吸血鬼の存在は知っていたが巨人や獣人の貴族もいるのか、知らなんだ。確かに遠目に見ても縮尺がおかしい屋敷はちらほらあったが……。

 

「私腹を肥やす様な事は一切しない、自分は当然の事として貴族に対してもその姿勢を崩さずにレジェンダリアの主として、王として益を全てレジェンダリアに還元出来る様に奮闘する。これが国家元首としての【妖精女王】様だ」

 

 王として、滅私奉公という言葉とは少し意味合いは違うだろうが自分よりも国を大切にする精神性を持っている様だ。

 

「毅然とした王の心を持っている一方で【妖精女王】様は俺達の心を掴んで放さないアイドルとしての一面も持っている」

 

「偶像的な意味で?」

 

「タレント的な意味で」

 

 それはそれは、一国の女王がアイドルとして活動するとは。

 いやしかし隣でアイドルとしての【妖精女王】の良さをマシンガンばりに喋り続けているテルモピュライを見るに失敗ではなかったのだろう。

 様々な政策を打ち出しマスターという存在の増加に対する混乱をいち早く治めた最適解を進む一方でアイドル活動という娯楽を提供する事で支持率の増加や統治の協力に一役買っていると、何と言うか、凄いな。

 

「――れで壇上に上がった【妖精女王】様は蝶の様に美しいダンスで俺達を虜にするだけに飽き足らず新曲披露の場としてステージを使い過去最高クラスの歌を熱唱してくれたんだダンスしてる時に聞いてる歌は後付けって説があるが【妖精女王】様のあの歌は完全に録音じゃなかった断言できる気付いてた人も多いが新曲のサビの入りと最後の余韻がデビューシングルのアレンジだって分かって俺は度肝を抜かれたよ【救命のブローチ】が無ければ即死だったあの公演に行けなかった人には申し訳無いがチケット争奪戦に大人気無く乗り込んで良かったと心から思ってるよ争奪戦の余波で壊れた霊都の一角の賠償を何故か俺が払う事になったが【妖精女王】様のぷんすこしてる姿が見れたから俺は喜んで全財産を擲ったよあの時の思ってた金額と違ったみたいな困惑の表情は【妖精女王】ちゃんに全財産注ぎ込んで困らせ隊が現れるのも納得の可愛さだったよ相手国家元首で絶対困ってるの演技だって分かってるのにそれでもお金あげたい可愛さがあった何ならここら辺から金稼ぎの為に大物狩りに移行したまであるって話聞いてるかネビロス」

 

 聞いてない。何なら同じ空間にいるティアンの護衛の人達も一切話を聞いてない。いや、一人だけ優越感というか「分かるわー」みたいな仲間を見つけたという表情を浮かべる人がいたが置いておく。

 何にせよここまでテルモピュライが狂った理由の一端を垣間見たのは良いのだが想像以上にファンしてて反応に困る。というか。

 

「レジェンダリアの女王様相手にかわいいはどうなんだ?」

 

 さっきテルモピュライから聞いた王としての【妖精女王】とアイドルとしての【妖精女王】の乖離がえげつないがそれでも王という立場である以上可愛いという評価はどうなのかと思ったのだが、当のテルモピュライはきょとんとした顔を浮かべていた。

 

「だって【妖精女王】様見た目ロリッ娘だし」

 

「え」

 

「アイドルとして活動してる時はダンスの華々しさとか衣装や声の美しさとか強みは色々あるけど容姿の可愛さ前面に押し出してるから今更というか」

 

 どうやら俺の思っていた以上に【妖精女王】はアイドルを謳歌している様である。しかし見た目がロリとは、もしかして【妖精女王】ってロリバ

 

「合法ロリだ」

 

「ナチュラルに思考を読むな」

 

 やいのやいのと話していると城内の廊下の方からこつり、と足音が聞こえる。まずグラシャラボラスが反応し、それを見たテルモピュライが足音の方に顔を向け、背筋を正す。

 

「――皆さん、今日は護衛の役目を受けて頂き感謝しています」

 

 鈴の音の様な耳触りの良い声だった。純白のドレスを纏い水晶の様な煌きを宿す外套を羽織った少女の事を、テルモピュライだけでなく他の人達も背筋を正して見ていた。

 まず第一に美しいと思った。柔和な表情を浮かべ慈愛と叡智を宿した瞳でこちらを見やる少女の姿は本来庇護されるべき対象であるにも関わらずこちらを守るべき対象として見ているのがありありと分かり、これは心酔する人が大量に出るのも納得だと感じた。

 

 故に次点で恐ろしいと感じた。これはダメだ、これは人ではない、己の果たすべき役目に魂を擲った者の眼だ、レジェンダリアの守護者として命を燃やし、それに何の痛痒も感じていない者の眼差しだ。

 グラシャラボラスが静かに恐怖を訴えている。相手が誰であろうと敵意を絶やさなかったグラシャラボラスが、一種の畏れを抱いている。

 

「おや? 貴方がネビロスですか?」

 

「っ、えぇまぁ自分がネビロスです」

 

 【妖精女王】がこちらを見て目を細める。その様子はまるで獲物を前にした蛇が――

 

 ――頭を振る。何時までびびってるんだ、相手は仮にも護衛対象なんだぞ? 恐怖や敵意は向けるべき相手じゃない。そもそも相手女王様じゃないか、不敬と取られたらどうする。

 浅く息を吸い、思考を切り替える。

 

「今回テルモピュライに呼ばれ、護衛依頼を受けさせて頂きました。こちらはお……私のエンブリオのグラシャラボラスです、まだまだ若輩者では御座いますが今日は宜しくお願いします」

 

 大分怪しい畏まった言葉を吐き頭を下げる。引き篭もりの弊害が思わぬ所で出てしまった。

 だが【妖精女王】は特に気にした様子も無く「宜しくお願いします」と同じ様に頭を下げてきた。安堵する一方で一国の女王が個人に頭を下げる道理は無いだろうと慌てて頭を上げてくれと頼んだ。

 

「陛下、そろそろ時間では」

 

 ティアンの護衛の一人が【妖精女王】に言う。

 

「そうでした、では皆さん宜しくお願いします」

 

「お任せ下さい! 例え神話級UBMが襲来しても我々が命をかけてお守りいたします!」

 

 そう目を輝かせて言うテルモピュライ。多分俺も頭数に入ってるのだろうが戦闘の余波で消し飛ぶんじゃなかろうか。

 何て他愛も無い事を考えつつ、【妖精女王】がテラスから集まった民衆に姿を見せるのと同時に俺はパーティーメンバー全員にグラシャラボラスの《インビジブル・マーチ》を使って貰った。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 霊都中から集まった人々が王城の前でこれから一体何が起こるのかを隣の者と話し合っていた。

 一体何を聞かされるのだろうか、口に出して話し合いはするがこの場にいる全ての者達は大体の内容を察してはいる。

 

 最近名を聞くようになってきたマスターの配達人や冒険者ギルド、果てはDINからですらその話を聞くようになったのだ、余程の世間知らずでなければひっそりとこの霊都に忍び寄る脅威の存在に気付いている。

 

 すなわち、スタンピードである。

 

 今回の【妖精女王】の緊急招集も恐らくそれが原因だろうと当たりはつけていた。

 それを証明するように白亜の城のテラスに【妖精女王】が姿を現す。

 

「皆さんの中には少なからず話を聞いた者もいるでしょう、近い内にモンスターの大侵攻が行われるのではと」

 

 普段の様なアイドルとしての彼女ではなく。

 

「それは正しい」

 

 王の名を預かる者として。

 

「私の信頼する臣下の者がスタンピードの襲来を予見しました」

 

 告げる。

 

「スタンピードの襲来は――明日です」

 

 衝撃的な一言、だがその言葉に民は揺るぎはしない。

 

「正確には明日の正午、【魔竜王 ドラグマギア】が地を埋め尽くすほどのモンスターの大群を率いて、ここ霊都へ向かってきます」

 

 民は恐れもしない。

 

「それがどうした」

 

 民は知っている、我らが女王の力を。

 

「私は立ち向かう、私を信じ、私が信じた者達と共に」

 

 民は知っている、レジェンダリアが誇る戦士達の力を。

 

「必ずや私達が【魔竜王 ドラグマギア】を打ち倒し、降りかかる災いの悉くを消し去ってくれましょう!」

 

 故に民は恐怖に縛られる事無く、拳を天に突き立てる。

 

 ――オオオオオオオオオオオオオォォォ!!!!!

 

 勝利を確信した民の咆哮が霊都中に木霊した。

 

 




何で二話連続怪文書書いてるの俺。
【妖精女王】様は最近容姿がロリな事が分かった位情報が少ないので基本滅私奉公ですが統治に効果的と分かった場合のみ私を出す(アイドル活動)みたいな感じに舵きり。でもアイドルの方も取り繕ってる部分はあるものの素ではあるのでしょっちゅう《真偽判定》に引っかかるなんて事は無い。
改変要素増えてきたなぁ。
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