これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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構成の都合上前半地の文が多くなってます。眼が滑ったらすまない。


第二十六話 アムニール防衛戦線④東北東、決意の衝突。

 

 考えろ、考えろ、考えろ。

 思考を絶やすな、今まで俺はこの世界に来てから生き延びる為に思考を絶やした事など無かった。

 

 勝ち筋を見出すまで思考を絶やさない、それさえ放棄してしまえば俺達に勝ちは無い。

 

(生存者は俺とペルシアの二人、この戦力で打てる手を考えなければ――)

 

「『いいや違うぞ、三人だ』」

 

 思考を遮るグラシャラボラスの声、それは思考の枝葉を広げるものだった。

 焦りを表に出さない様にしつつグラシャラボラスに問い掛ける。

 

「……どういう事だ」

 

「『先程《インビジブル・マーチ》を掛けられる対象が他にいないか確かめてみたのだが、向こうでマスターが一人気絶している』」

 

 そう言ってグラシャラボラスが【UBM】達に気づかれない様に尻尾で遠くの岩場を指し示す。

 【魔竜王 ドラグマギア】の奇襲であそこまで吹き飛ばされたのだろうか、回収に手間取りはするだろうが今この状況では人員の補充こそが先決だ。

 

「『……ぬ? あぁ、誰か分かったぞマスター。生き残っているのはエンティアだ、気絶しているマスターの近くにアメノマヒトツがいる』」

 

「なる、ほど。ペルシア、エンティアの回収を頼んでいいか? あまり意味は無いだろうけど物陰で治療もしてやってくれ」

 

「あぁ」

 

 そう言ってペルシアの姿が空間に溶けるように掻き消える。しかしエンティアが生き残っていたのは不幸中の幸いだろうか。きっとファンネルを盾にして衝撃を緩和したのだろう、もしくはアメノマヒトツの腹の中に切り札でも詰め込んでいたか。

 まぁそれは今は重要ではないだろう。この緊急事態だ、エンティアも手札を出し渋る訳では無いだろうから後で聞くとして。

 

 今俺達が生き残っているのは【魔竜王 ドラグマギア】が俺達の事を脅威と見なしていない事と【餓鬼王 グレイロード】が目の前にいるからだ。

 だからこの時間もそう残ってはいない。まず俺達の事を脅威と見なしていないとは言ったが警戒していない訳じゃ無い、先程だってペルシアがエンティアを回収しに動いた時僅かに羽が反応した。

 そして【魔竜王 ドラグマギア】が放ったMPを吸収するスキルも――こちらに向けられた物ではないとはいえ――俺達の選択肢を狭める。

 

 てんやわんやしていたが【魔竜王 ドラグマギア】が【餓鬼王 グレイロード】に対して《ハーベスト・オブ・スピリッツ》を使用してから一分と経っていない。

 そんな短い時間で【餓鬼王 グレイロード】は息も絶え絶えになり、巻き込まれたと思しき黒衣のゴブリンは既に地に倒れ伏している。MPだけ吸い取られた所で死にはしないが如何せんスキルの名前が《ハーベスト・オブ・スピリッツ》という如何にもな名前だ、放置すれば死すら有り得る。その前に何とかして止めなくては。

 そう、止める。俺はあの【餓鬼王 グレイロード】も戦力に組み込むつもりだ。でなければ勝てない。

 

 思考を更に巡らせる。より深く、より早く、残された時間を無駄にしないように。

 

 そもそも打てる手の確認。俺、というかネビロスとグラシャラボラスが持つ手札はもう殆ど残ってない。まず俺の状態だが両足に怪我は無く、義手の左手も良好に動く。右手と比べてやや重いのは仕方無いのでそれも念頭において行動しよう。

 カバンの中身も心許なく、《即席合成》用に掻き集めた金属のインゴットは全て使い果たし残るはポーション類と少量の火炎瓶、そして何となく詰め込んだ大量の木の枝のみ。正直今回に限っては木の枝が活躍するビジョンが見えない。

 危険性を考慮した上で先程一本だけ《旅の記録》の光柱を【魔竜王 ドラグマギア】の側に立てたのだが、特に反応する様子は無かった。奇襲ルートはこれで確保できたと考えていいだろう。

 

 武器はテルモピュライから貰った槍をそのまま使っているが耐久度はまだ余裕がある。酷使しなければこの戦いで折れる事は無いだろうが酷使しなければ死ぬので遅かれ早かれ壊れる物と考える。

 防具はガルシアから貰った【追い風】一式を使っており、これもまた耐久を磨り減らしている訳では無いので使い物にならないという事は無い。……改めて考えると貰い物ばっかだな。

 

 次にグラシャラボラスの状態だが、【魔竜王 ドラグマギア】の奇襲を受ける間際咄嗟に紋章に仕舞い込んだ為に目立つ外傷は無い。翼も良好に動くので飛行に支障は来たさないだろう。

 《インビジブル・マーチ》は封じられたも同然だが、仮に【餓鬼王 グレイロード】の特殊な視界が意識して見なければ発動しないようなスキルであればまだ意表を突く事に使えるかもしれない。

 《茜色の群火》が実質的なこちらの有する有効打と言える。パーティーメンバーが俺含め三人に減ったので火球の数は頼りないがペルシアもエンティアも現レジェンダリアでの高レベルプレイヤーだ、火球の火力には期待できる。

 《アンノウン・シャドウ》も目くらましとして割り切れば使い道も定まってくる。俺達の状況はこんな所か。

 

 実はペルシアは殆どリソースを消費していない。【餓鬼王 グレイロード】戦に向けて温存に温存を重ねた結果だ。とはいえ彼のエンブリオの性質上どうしたって補助や遊撃に回さざるを得ない。

 ペルシアのエンブリオである【万象良好 オールグリーン】は状態の維持、やや抽象的になるが正しく置き換えるならば「現象に対する施錠及び開錠」を得手とするエンブリオだ。

 

 ペルシアの戦闘スタイルと交えて例を挙げるなら、生物が傷を負うと血が流れ体力が低下、そして実際に【出血】というバッドステータスが付与されるが時間経過に応じて傷口は塞がり【出血】の状態異常も自然に消える。

 ペルシアの【万象良好 オールグリーン】は対象の【出血】という状態異常をロックする事で不治の傷跡を残す事ができる。そして施錠された【出血】はアンロックするまで傷を負う毎に恒常的な出血を加速させ、失血死にまで追い込める。だからこそ、ペルシアの主武装は掠り傷すら致命傷に変えられる両刃鋸の剣なのだ。

 

 そして【万象良好 オールグリーン】のロックは何も生物のバッドステータスにのみ作用する訳では無い。

 空間、というよりかは空間に漂う大気を固定化する事で短時間何も無い所に足場を作ることが出来る。かつてペルシアと戦った時はこれを用いた臨機応変な機動力に翻弄されてボコボコにされたのだ、思い出すに恐ろしい。

 あとこれだけ列挙した後だと若干霞むが魔法的防護の施されていないあらゆる鍵を無条件で開く事も可能である。が、まぁ今回の戦いには直接的に関与しない為おいておく事にする。

 

 ここまで並べればペルシアにメインアタッカーを任せれば良いのではという考えも浮かぶがそれは出来ない。彼が状態異常をばら撒き場を支配し混乱させる事に特化しているからだ。如何に【兇手】と言えど真っ向勝負で【魔竜王 ドラグマギア】の装甲を突破する力は無い。

 

(まぁそれは俺とエンティアも同じなんだが)

 

 それを覆す事が出来るのが【万象良好 オールグリーン】の必殺スキルだ。《完全固定権限(オールグリーン)》、それが【万象良好 オールグリーン】の必殺スキルである。その能力は「対象の全ての状態を固定する」というもの。状態異常や部位欠損、バフで底上げされたステータスやデバフで下げられたステータス、果てはHPやMPなど、必殺スキルを使用した瞬間対象の全てがロックされあらゆる変化を拒絶する。簡単に言おう、ありとあらゆるバフが掛かった状態で《完全固定権限(オールグリーン)》を掛けられた者はバフで底上げされたステータスが時間経過で元に戻らず如何なるバッドステータスも受け付けずどれだけ魔法を使ってもMPが尽きる事は無く、そしてどれ程ダメージを与えようとも決してHPが減少する事は無い。

 ペルシアの口からこんな内容が語られた時は卒倒しかけた。それほどまでにペルシアの存在は戦況を覆しうる。そしてそれだけぶっ飛んだ必殺スキルにデメリットが無い訳がない。

 

 デメリットは《完全固定権限(オールグリーン)》をペルシア自身に使用する事が不可能であるという事。厳密には使えはするが意味が無くペルシアが唯の置物と化してしまう。《完全固定権限(オールグリーン)》を誰かに使用した時点でペルシアはありとあらゆるダメージを受け付けなくなり――その場から動く事が不可能になり一秒に一ポイントずつHPが減少していく。このHPの減少は止められない。つまりはペルシアのHPが《完全固定権限(オールグリーン)》のタイムリミットそのものなのだ。

 これがペルシアをメインアタッカーに据える事が出来ない理由だ。どうしたってペルシア単騎では火力を十全に出し切る事が出来ない。だが俺がいる、エンティアがいる。あぁそうさ、頼れる仲間が二人揃ってる、俺の相棒もここにいる。

 

(なら――十分だ)

 

 作戦は整った、後は成功するも砕けるも俺達次第だ。

 

 

◆――◆――◆

 

 

 【餓鬼王 グレイロード】と呼ばれた子鬼達の王は窮地に立たされていた。

 今回のスタンピードで【魔竜王 ドラグマギア】が矢面に立つという事が分かったので適当に時間稼ぎをして逃げようと思っていた矢先に件の【魔竜王 ドラグマギア】が現れてこう言ったのだ、『お前達の魔力を寄越せ』と。

 

 七日前、交渉決裂となった時点で【魔竜王 ドラグマギア】と協力するつもりなどさらさら無く、なんなら配下達が追い立てた獣を【魔竜王 ドラグマギア】に当てようとすら考えていたのだが、戦力とすら考えていなかったのは向こうも同じだった様だ。

 

 ――くそったれ。

 その言葉すら口を通らない。【魔竜王 ドラグマギア】に掛けられた魔法のせいだ。ウィザードも意識が途絶え、パトリアーク含め連れて来た全ての配下が恐怖に包まれて行動出来なくなっている。

 迂遠な洗脳は捨て、直接的な恐怖を与えて行動させまいとしたのか。まいったな、詰みだ。

 

(セメテ、一瞬デモコノ魔法ガ途切レレバ……)

 

 そう思うも【魔竜王 ドラグマギア】が警戒を解く事はない。折角新天地へと向かう準備が整ったというのに、突然現れたトカゲに全て潰されるのか。

 俺の夢はここで潰えるというのか。

 

(……否)

 

 俺の道を阻むモノは殺す、配下を殺した愚に気付かぬモノもまた殺す。俺と俺の配下の安寧を蝕む障壁は皆殺す。でなければ何故王などと名乗れようか。

 せめて一矢報いんと腕に力を込めた瞬間、事は起きた。

 

「……おや?」

 

 こちらを見下ろしていた【魔竜王 ドラグマギア】の分身体が見当外れの方向に顔を向け――直後に一人のマスターが虚空から現れる。

 奇妙な鍵と両刃鋸の様な武器を構えたそのマスターは【魔竜王 ドラグマギア】を殺さんと刃を振り被る。

 

 だが、俺の感覚があれは違うと囁いてくる。

 

(アレハ本物デハナイ、配下ヲ殺シタ愚者はアレジャナイ)

 

 その感覚を共有している【魔竜王 ドラグマギア】もまた羽一つ動かす事無く佇み、――そのままマスターの形をした幻影が【魔竜王 ドラグマギア】の体をすり抜ける。

 

「反応すらしないか、だが想定内だ」

 

 その声はマスターの幻影が現れた空中から聞こえた。

 

「逃げた所で追うつもりは無かったよ、わざわざ殺されに来たのかい?」

 

「お前を殺しに来たんだよ」

 

 その言葉と共に本物の鋸の剣を持つマスターが現れる。……? 

 

 いや、違う。もう一人いる!

 

 

◇――◇――◇

 

 

 作戦はこうだ。「常に相手に二択を押し付けろ」。一手で全部壊せるような選択肢ではダメだ、時間差でこちらの思惑に気付くように、思考というタイムラグを常に生じさせるように。

 作戦の概要を伝えた後、まずペルシアのスキルで作り出した幻影を【魔竜王 ドラグマギア】に差し向けた。と同時にペルシア本人と共に《ショート・トリップ》で【魔竜王 ドラグマギア】の元へ転移。時間差で攻撃を仕掛けた。

 

 ペルシアの幻影を安全なものだと認識したな? こっちはもうお前を殺す手札を揃えた、その行為は初手打てる行動を溝に捨てる物だ。覚悟しろ。

 

「言ってくれるね、力の差を理解した上で言ってるんだろうけど、君達が集めた有象無象は気まぐれの奇襲で殆ど死んだぞ? たった三人で何が出来ると言うのかな」

 

 エンティアが戦力足り得る事に気付かれている――想定内だ。

 ペルシアが【魔竜王 ドラグマギア】の体に降り立ち、両刃鋸の剣をがら空きの背中に向けて振り下ろす。

 と同時に俺はグラシャラボラスに乗り火炎瓶を撒き散らしながら空高くへと飛んだ。

 

「その小さな刃で私の体が削れると?」

 

 火炎瓶による爆炎や鉄板を削る様に動かされるペルシアの獲物に痛みを表に出す事無くペルシアを振り落とそうと羽を広げ、刹那の逡巡。

 【魔竜王 ドラグマギア】の視界の片隅で七色の水晶を操りこちらに攻撃を加えようとしている単眼のトカゲを連れたマスターの姿が映る。大して痛痒を与えない背中のマスターを置いてあれを先に潰した方が良いのではないかという選択肢が増える。

 

「悩んだな?」

 

 直後に羽の動くを再開しかけるが、その一瞬さえあれば十分だ。

 高く、天高くへと飛んだグラシャラボラスの影は【魔竜王 ドラグマギア】の頭を丸ごと覆い隠すまで大きくなった。

 

「《アンノウン・シャドウ》!」

 

 影が蠢き、【魔竜王 ドラグマギア】の視界を黒で埋め尽くす。真っ黒い布で顔面をぐるぐる巻きにされる心境はどうだ? マスターの排除か視界の確保か、また悩んだだろ。

 

「《セイクリッド・レイ》」

 

 エンティアがスキル名を口にし、七つの光線が過たず【魔竜王 ドラグマギア】の眼を貫いた。

 

「《傷痍開錠》《状態施錠》」

 

 間髪入れずにペルシアが二つのスキルを使用して【魔竜王 ドラグマギア】の光線によって焼き尽くされた眼をその状態に固定する。

 

「……勘弁してくれないかい、こっちには回復魔法は積んでないんだ。いや、この眼の様子だと半端な回復魔法でも意味無かったかもね」

 

 事ここに至っても【魔竜王 ドラグマギア】はその言葉に怒りを込める事は無かった。そらそうだ、これも奇襲で使いきりの奇策。

 相手をこちらと同じ土俵へ引き摺り下ろす為の、ハンデの押し付けに他ならない。

 

 ――だがそれでも、使用中の魔法が途切れる程度には集中を乱してくれたらしい。

 

 鉛色の一閃が【魔竜王 ドラグマギア】の翼膜を切り裂いた。

 

「漸ク、貴様ヲ斬リ殺セル……生カシテ返シハシナイ」

 

 怨嗟に眼を光らせ、【餓鬼王 グレイロード】が自由の身となった。

 さぁ、第二ラウンドを始めよう。

 

 




霊都組が勘違いしてるせいで【餓鬼王 グレイロード】も殺す流れになってるけど今回のスタンピードにおいて【餓鬼王 グレイロード】が関与している所は殆ど無く積極的に殺すメリットは皆無。
だから【餓鬼王 グレイロード】と戦う意味すら無かった訳だけど【餓鬼王 グレイロード】に出会わなければ【魔竜王 ドラグマギア】の分身体と戦闘のステージまで持っていく事は出来なかった。

【万象良好 オールグリーン】
・ペルシアの持つ万能鍵のエンブリオ、タイプはワールド・カリキュレーターで現在第五形態。
・今考えてるオリジナルエンブリオの中で最もチート臭い能力のエンブリオ。TYPE:ワールドが万能なのが悪いよ。
・能力特性は本編で述べた様に「現象に対する施錠、開錠」を得手とする。第ニ形態まではソロに完全特化した性能であったが、第三形態からは周囲に能力が作用しパーティーを活かす性能に変化。同時期にペルシアはテルモピュライと出会っている。
・武器の両刃鋸の剣は特に名前とか考えてない。知り合いのマスターに「エンブリオと相性の良い武器くれ」と言ったら無銘の剣をくれた。
・こんだけ万能でもテルモピュライの【乾坤一擲 ユースティティア】のバ火力には勝てない。どちらかと言うとむしろユースティティアをサポートする用途だからね仕方無いね。
・必殺スキルを使用した段階でペルシアは動けなくなるがこれは「体の硬直」ではなく「空間への固定」なので空中で必殺スキルを使うとペルシアは空中で静止する。
・必殺スキルのペルシアのHP減少は誰にも止められないが0になるだけなので【ブローチ】は意味を成さないが実は【死兵】の《ラスト・コマンド》で必殺スキルの効果時間が延びるのだがペルシアはそれに気付いていない。
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