これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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遅くなってごめんね。


第二十七話 アムニール防衛戦線⑤東北東、一つの決着。

 自由の身となった【餓鬼王 グレイロード】が懐に手を入れ、巨大な水晶を取り出し背後の白衣のゴブリンに投げ渡す。

 

「使エ」

 

「グゥ、オウモ……」

 

「俺ハマダスルベキ事ガアル、先ニ行ケ」

 

「デモ――」

 

「何ノ為ニ今日コノ日ヲ迎エタト思ッテイル! ココデ貴様ラガ死ネバ全テ水ノ泡ダ!」

 

 そう【餓鬼王 グレイロード】が言い放つと同時に、間髪入れずにゴブリンの群れに数十もの攻撃魔法が殺到する。

 それらを【餓鬼王 グレイロード】が全て叩き切りながら話し続ける。……ん、今魔法切った?

 

「俺ノ望ミハ既ニ伝エタ、王ノ望ミダ、従エ」

 

「……ワカッタ、オウ、カッテ」

 

 白衣のゴブリンは未だ恐怖に囚われている全てのゴブリンを集めて水晶を砕く。

 砕かれた水晶から眩い光が溢れ出し、ゴブリンの姿が完全に覆い隠される。その現象はアクシデントサークルと呼ばれる物と寸分違わぬ効果を発揮し、光が治まった頃には白衣のゴブリンを含む全てのゴブリンがその姿を消していた。

 【魔竜王 ドラグマギア】が翼を畳み呟く。

 

「……嗅ぎ慣れた匂いだ。まさかたったの七日で封魔のクリスタルを作るとは思わなかった」

 

「アノ時殺サナカッタ事ヲ後悔シテイルカ?」

 

「まさか、まさか。私と会ってから沢山の事を考えたんだろうね、私を相手取らずに済む方法や逃走手段の確保、そして私の殺し方。恐怖と焦燥に苛まれながら武器を取る事を君は選んだ。あぁ、そのあり方もまた美しい」

 

 やはり子鬼とは言え王は王か、と言う【魔竜王 ドラグマギア】に【餓鬼王 グレイロード】は目を細める。

 

「……コノ期ニ及ンデ尚俺ヲ下ニ見ルノカ」

 

 【餓鬼王 グレイロード】が倒れ込む程の前傾姿勢から跳躍、鈍色の大剣を振り払い、一拍遅れて回避行動に移った【魔竜王 ドラグマギア】の持つ角の一本を斬り飛ばす。

 

「――ダカラコンナ目ニ会ウ、己ノ強サヲ自覚スルカラ学バナイ、ダカラ侮ッタ相手ニ傷ヲ付ケラレル」

 

「心外だなぁ」

 

 【魔竜王 ドラグマギア】が己の尻尾に紫電を纏わせその場で旋回する。後方に飛び退る【餓鬼王 グレイロード】にレーザービームで追撃するが容易く大剣で切り伏せられた。

 やはり見間違いではない、明らかに魔法を切って無力化している。

 

「学習は君の本質だ、君はあらゆる物から学んで今日この日まで生きてきたんだろう。だから己がしてきた事をしない者というのは滑稽に見えるのだろうね」

 

 でもお前はここで死ぬ。ケラケラと【魔竜王 ドラグマギア】が嗤う。

 

「ここで役目を終える君達に対し学ぶ事は一つでもあるのかい? 二度と戦う事は無いというのにこれほど無駄な事があるか?」

 

 それに、と【魔竜王 ドラグマギア】の紫水晶の瞳が赤みを帯びる。

 

「久しぶりに言いようの無い苛立ちを覚えたよ、君は私に学習しないと言ったのか? どれだけ私が敵から死に物狂いで戦う力を学んだと思っている? あぁ何も言わなくていい、お前達には何も分からないだろうし最早問答は無意味だ無価値だ。早急にその命を散らせ」

 

「――っ! ネビロス!」

 

 怒りに満ちたその言葉が終わると共に悪寒が背筋を駆け巡り、どう戦うかに思考を巡らせていた俺にペルシアが警笛を鳴らす。

 脊髄反射と言って差し支えない程の速度で回避行動に移り、それでも【魔竜王 ドラグマギア】の攻撃を全て避け切る余裕は無かった。

 

 数十に及ぶ蒼い炎が【餓鬼王 グレイロード】に殺到し、それら全てが弾け夥しい量の火の粉が飛散する。火の粉の一部が義手に降りかかりほんの少しだけとは言え融解し貫通した時点でその威力は推して知るべしである。

 

「【餓鬼王 グレイロード】が思ったよりやる気だったから静観してたが当初の予定より数段やべぇんじゃないかこれは。どうするネビロス」

 

 後方で待機していたペルシアの元まで退避した俺にエンティアが話しかける。まぁやらかした感は否めないがこれは踏むべくして踏まれた逆鱗だ。相手の力量やら何やらを上方修正しつつ戦わねばならない。

 冷静を装ってはいるが実際これはかなり厳しい状況だ、一点物ではないが結構な硬度を持つ筈の義手を飛散した火の粉が融かし進めて貫通した。まだ動作に支障をきたしてはいないが生身で受ければ致命傷は必須。即死級の魔法を全て回避するために今からでもペルシアの必殺スキルに頼りたい気分だ。

 

(こうして考える余裕も本格的に無くなって来たしな)

 

 余波、というには殺意の篭もった魔法が時たまこちらに飛んでくる。【餓鬼王 グレイロード】の発言に怒りを覚えているとは言え先程まで戦っていたこちらの事も頭に残っているらしい。

 

「ペルシア、あの二体の【UBM】どちらが勝つと思う」

 

「【魔竜王 ドラグマギア】だ」

 

 ペルシアは即答した。

 

「忘れてるかもしれんがあれは本体じゃなくてただの分身だ、死んだ所で【魔竜王 ドラグマギア】には何の痛痒も与えられない。ただでさえ分身体相手に旗色が悪いんだ、仮に【餓鬼王 グレイロード】が分身を突破したとしても本体にたどり着くまでにどれだけの壁を越える必要がある? 加えて俺の所感だが【餓鬼王 グレイロード】は恐らく逸話級、対する【魔竜王 ドラグマギア】は古代伝説級だ、断定は出来ないがそれだけ力の差が開いてる。このままじゃ【餓鬼王 グレイロード】は無駄死にだ」

 

「その逸話級とかって何」

 

「後にしろ!」

 

 ごめん。

 

「……短期決戦だ、作戦を繰り上げる」

 

「勝ち目は?」

 

「あるよ。こんな所で躓いてらんない」

 

 エンティアの疑問に口早に答えるとペルシアが自身のエンブリオである【万象良好 オールグリーン】を掲げた。

 

「なら俺の全て、お前に預けよう。ベストを尽くせ」

 

「あぁ」

 

 ペルシアが至る所に自身のエンブリオを向けている間にエンティアが【教会騎士】と【付与術師】のバフスキルを限界まで俺に掛ける。そしてエンティアのアメノマヒトツが何かを吐き出してグラシャラボラスに渡す。あれは……骨付き肉?

 

「あぁ騎獣専用のバフアイテムだな、アメノマヒトツの非常食代わりにしてた。さぁバフは全部積んだぞ」

 

「やり残したことは無いな? ネビロス」

 

 その言葉に無言で頷き、ペルシアが必殺スキルの使用に踏み切る。ペルシアの持つエンブリオを自身の心臓付近に向け、鍵を開けるように回す。

 

「――《完全固定権限》」

 

 その宣言と同時に己の中の何かがロックされた感覚に陥る。

 

「適当にそこらの空間ロックしたから足場に使え」

 

「了解」

 

 感謝だけ告げて【餓鬼王 グレイロード】と相対する【魔竜王 ドラグマギア】の元へ駆け抜けた。

 

 

◆――◆――◆

 

 

 闇に閉ざされた視界を切り捨て、風を読む魔法を己に掛ける。

 結局この体は分身体なのだから怒りに身を任せて徹底的に痛打を与えても良いのだが、少しばかり勿体無い。

 

 子鬼の王が振るう大剣が風を切る。

 元より私は鼻が良いのだから目が潰れても攻撃は避けられるのだが念には念を入れて自己強化の魔法を重ねる。まだ隠している何かがあるのかもしれないのだから。

 

(おや)

 

 鋭敏な嗅覚が離れた所からかなりの速度でこちらに突っ込んでくる何者かの匂いを嗅ぎ取る。

 

(どっちかな、かなり速いしノコギリを持ってた方だろうか? 確かめるか)

 

「見えてないとでも思ったのかい? 相棒はどうしたね?」

 

 そう言って砂の槍を創って射出する。が、何かに当たる気配も無く砂の槍は地面に落ちた。

 ……匂いが移動した。これは槍のマスターのスキル――

 

「――ドコヲ見テイル」

 

 動作を切り取ったかのように唐突に自身の懐に【餓鬼王 グレイロード】が潜り込み大剣を振るう。またこの動きだ。

 いつもの癖で障壁魔法を張り、そしてそれが容易く破られ浅くない傷を受けた私はどちらを優先して攻撃するか考える。

 

 先程からかの王が妙な動きをしているのが気に掛かる。恐らくスキルではなく単なる技術だろうとは思うが、誰から学んだのだろうか。

 いや、そんな些事を考えている場合ではないな。目の前の子鬼の王を優先しよう。

 恐らくマスターの方の切り札は当てれば勝てるような物ではなく単純に自身のステータスを底上げするものと見て間違いないだろう。

 

 であるならばマスターの狙いはこちらを撹乱し集中力や思考能力を削ぐ事に、つまりは先程通りという事になる。マスターの攻撃が致命的でないのなら無視しても構うまい。

 

「故にお前だけはここで死んで行け」

 

 紫電を纏わせた尻尾で周囲を薙ぎ払う。【餓鬼王 グレイロード】が己の大剣で防ぎ、紫電が大剣を伝い子鬼の王の腕を灼いた。

 

「グゥッ……」

 

 ……? 思っていたよりもダメージが少ない。いや待て、私は今何を殴った? 確かに鉄の固い感触はしたがそれは本当に――

 

 ――思考から除外していた匂いがする。あのマスターだ。何らかの方法で小鬼の王との間に転移してきたのだ。マスターが何の痛痒も感じていないのは、切り札がそういうものだから。

 であれば相手にとってこれは絶好の好機、であれば相手は何の躊躇いも無く武器を振るうだろう、であれば、何処に?

 

 優秀な嗅覚が、風を読む魔法が、マスターの、ネビロスの挙動を事細かに伝えてくれる。【餓鬼王 グレイロード】の大剣を足場としてこちらに飛び掛り、首筋に張り付いて手に持っていた槍を私の喉元へ――

 

 

◇――◇――◇

 

 

「アアアアアアアァァァァァァ――――――――!!!!」

 

 【魔竜王 ドラグマギア】の痛みと殺意に溢れた叫びに呼応するように周囲に百を超える魔法陣が展開される。多くは【餓鬼王 グレイロード】によって破壊されるが、破壊し切れなかった魔法陣から虚ろな目をしたモンスターが濁流のように現れ俺の体を押し流した。

 

 こうなるに至った経緯だが特筆すべき事はあまり無い。

 目を潰したので堂々と相手に近づいたら普通に攻撃してきた為《ショート・トリップ》で回避しながら【魔竜王 ドラグマギア】の傷口を抉っていると無視しても問題ないと判断されたのか【餓鬼王 グレイロード】との戦闘に専念し始め、雷の魔法を纏わせたと思しき尻尾での攻撃で痛手を与えようとしたのを《ショート・トリップ》で【餓鬼王 グレイロード】を庇いダメージの殆どを無力化。

 首筋に飛びつき、俺はある物の有無を確認した。逆鱗だ。

 

 どこかで聞いた事は無いだろうか? 竜の顎の下には一枚だけ逆さに生える鱗があると。まぁ有体に言ってしまえば分かりやすい弱点な訳だが、【魔竜王 ドラグマギア】にもその逆鱗が存在するのかは分からなかった。

 DINから一度聞いたのだがドラゴンの【UBM】の中には逆鱗を持つものもいるにはいるが逆鱗がある条件は分からない上にそもそも【UBM】にもなると一貫性なんて物からかけ離れているようで。

 

 だから勝算は薄くとも逆鱗がある事に賭けて攻撃を行ったのだが、どうやら賭けには勝ったらしい。

 

(しかし妙だな……)

 

 今までの感じからして相手は故意に痛覚を遮断している節が感じられたのだが、逆鱗を貫いた際の苦悶は偽りの無い物だった。逆鱗付近は痛覚を遮断できない? これがもしも本体と共通する弱点であれば何とかして伝えたいのだが。

 しかし逆鱗が順当な弱点な辺り、どうも物語のドラゴンの様な印象を覚える、【UBM】の特性だろうか?

 

(おっと)

 

 HPが固定されダメージを受けなくとも衝撃は普通に受ける。大量の魔物に群がられれば身動きも取れなくなる。

 ので紋章からグラシャラボラスを出す。

 

「グラシャラボラス、《茜色の群火》」

 

 上空から《茜色の群火》で俺ごとモンスターの群れを焼いて自由を確保する。次いでインベントリから火炎瓶を取り出し自爆気味に着火する。

 ダメージを受けないからこそ出来る事だが、少し楽しいな。と思っていると数十本の光線が俺を狙って貫いた。

 

「嗚呼、本当に煩わしい。何故お前がこれを知っている? ネビロス。この鱗は、この傷痕は彼の物だと言うのに。嗚呼、アァ、何もかも忌々しい」

 

 【魔竜王 ドラグマギア】が憎々しげに目を細めて俺の名を呼ぶ。それは俺の事を消し去るべき怨敵と判断したという事に他ならず。

 

「悉く、塵へと帰れ」

 

 【魔竜王 ドラグマギア】が後ろの脚で立ち上がり、口を大きく広げる。木々がざわめき、周囲が仄暗くなっていく。直感が最大級の警笛を鳴らすが、【魔竜王 ドラグマギア】の周りで逆巻く暴風に当てられ、動くことは許されなかった。

 数秒と掛からぬ内に【魔竜王 ドラグマギア】の口腔が溶鉱炉の様に目を灼く紫色の光で満ち――

 

 ――音が止んだ。

 

 形式だけ見ればドラゴンブレスや竜の息吹と称されるそれなのだろうが、【魔竜王 ドラグマギア】による高純度の魔力で構成されたそれはある種広域殲滅魔法の極地とも言えるだろう。

 溢れんばかりの暴虐を湛えたそれはこの場に似つかわしくない静寂と共に重力に従って落下し、

 

「《災禍の涙》」

 

 全てを塵に帰す紅蓮の業火と蒼白の熱波が顕現した。

 

 

 

 

 

 正直に言ってしまえば。俺は俺自身もそれ以外も全部使い潰してでも勝つつもりではあったが、グラシャラボラスだけは、俺の唯一無二のエンブリオだけは使い潰したくは無かった。ペルシアの《完全固定権限》の存在もそれに拍車をかけていただろう。

 だがグラシャラボラスからこう言われた。

 

「『俺を使う事で勝てるのならば遠慮だけはしないでくれ、マスターの身を守る盾となり勝利へ導くのがガードナーの役目なのだから』」

 

 こう、言わせてしまった。グラシャラボラスの覚悟はとっくの昔に決まっていて、決まりきっていなかったのは俺だけだった。

 

 だから、だから、だから。

 

 

 

 

 

 お前と一緒に、

 

「勝つぞ」

 

「『あぁ』」

 

 【餓鬼王 グレイロード】が大剣を振り払い、暴虐の嵐の破壊力を大きく殺ぐが削り切れなかった暴風が俺達に叩きつけられる。

 待っていたと言わんばかりにグラシャラボラスに騎乗し、暴風に乗って上空へと飛ぶ。

 

「『ぐっ』」

 

 ビリビリと空気が揺れる。グラシャラボラスにとってはかなり堪えるだろうが、グラシャラボラスは耐える事を選んだ。

 エンティアの最後の置き土産だろう、持っていた槍に聖光が付与される。恐らく最後で最大のチャンスだ。

 グラシャラボラスに《茜色の群火》を指示する。

 

「グルルウウアアアアァァァァ!!!!」

 

 咆哮と共に幾つもの業火が降り注ぐ。間髪入れずに急降下し、槍を【魔竜王 ドラグマギア】の体に深く突き刺す。グラシャラボラスの影を《アンノウン・シャドウ》でアンカーの様に姿を変えて【魔竜王 ドラグマギア】の背に突き刺して固定し、槍を何度も突き刺す。

 憎々しげな声と共に【魔竜王 ドラグマギア】が大きく身を捩る。

 

「何故消えない、何故死なない! 何故灰にならないッ!! 消えろォ! 何もかもッ!!」

 

 その怨嗟に満ちた声と共に不可視の衝撃波が俺達を襲う。それを受けて左腕の義手は破壊され、全身に幾多もの裂傷を受ける。

 傷を負った事でペルシアの命が尽きた事を悟る。

 

 衝撃波は連続して襲い掛かり、槍が破壊され、グラシャラボラスの翼が使い物にならなくなり、俺自身も左足が捥げ、そして髪が解けた。

 

(……あれ)

 

 視界に写るのは、鬼灯の飾りが付いた簪。

 

(……ははは)

 

 今の今まで忘れていた、依頼達成報酬としてカロから貰った簪型アイテムボックス。俺は確かこのアイテムボックスの中に――。

 

 かろうじて動く右手で簪を手に取り、あえて《即席合成》で耐久度を最低にする。そして再度衝撃波が襲い来ると同時に簪がパキリと割れた。

 中から大質量の液体が溢れ出る。その液体の正体は何の変哲も無いただの油だ。

 

 だがその量は【魔竜王 ドラグマギア】の全身を油で覆って尚有り余るほど、さぁ最後の命令だ。

 

 グラシャラボラス。

 

「《茜色の群火》」

 

 息も絶え絶えのグラシャラボラスは力を振り絞り複数の火球を吐き出す。その火球が油に触れ、瞬く間に【魔竜王 ドラグマギア】の体を灼熱が覆った。

 轟々と立ち上る業火が俺達の体すら焼きかねない程の熱量を放ち、それでも尚【魔竜王 ドラグマギア】は動きを止めない。

 

 だがここまで大きな隙を晒したのだ、こんな隙を共闘者が黙って見過ごす筈が無い。

 

「ココデ朽チ果テロ」

 

 【餓鬼王 グレイロード】が大剣を振り被り、【魔竜王 ドラグマギア】の頸を断ち切った。

 

「は、はは……負け、か。……だが、お前も無事では、済まなかったらしい、な……クハッ」

 

 そう言って、【魔竜王 ドラグマギア】、その分身体は成すべき事を成した者の眼をして霞の様に消え去った。

 

 受け身を取る事すら侭ならず、グラシャラボラス共々地面に投げ出される。周りを見ると、《災禍の涙》によってあたり一面が消し炭になっており、既にエンティアとペルシアの姿は無かった。

 分かってはいた事だが事実を再確認するとよくも勝てたものだなと思ってしまう。

 

「……オイ」

 

 ざらついた、【餓鬼王 グレイロード】の声。

 見ると体の至る所が炭化しており、最早永くないだろう事が窺えた。

 

「マダ終ワッテイナイ、今倒シタノハタダノ分身体ダ。ダガ俺ハモウ動ク事スラ侭ナラン」

 

 あぁそうだ、今倒したのは単なる分身体、首魁を倒した訳じゃなければスタンピードが終わった訳でもない。

 だが、俺達の役目はもう――

 

「イイヤマダダ。ネビロスト言ッタカ、貴様ニ俺ノ力ヲクレテヤル」

 

 なんだって。

 

「俺ハ知ッテイル、俺達ノヨウナ【UBM】ヲ殺シタ人間ハ特別ナ武具ヲ手ニ入レルノダロウ?」

 

「だが、群れがいるんじゃないのか」

 

「ドウセモウ俺ハ死ヌ、ナラバ少シデモ【魔竜王 ドラグマギア】ニ一矢報イル可能性ヲ信ジヨウ」

 

 考え、考え、考えて。

 【餓鬼王 グレイロード】の言葉に従う事にした。

 

「すまんな、相棒」

 

「『構わんよ』」

 

 《アンノウン・シャドウ》でグラシャラボラスの影を槍の形に変えて、【餓鬼王 グレイロード】の心臓へ突き出す。

 

「頼ンダ」

 

 血を吐きながらそう言った【餓鬼王 グレイロード】の顔は王と呼ばれるに相応しいものだった。

 

 死ぬならば、犬死でなく、王として。

 

 

 【【餓鬼王 グレイロード】が討伐されました】

 【MVPを選出します】

 【【ネビロス】がMVPに選出されました】

 【【ネビロス】にMVP特典【餓王剣槍 グレイロード】を贈与します】

 

 

 直前まで【餓鬼王 グレイロード】がいた場所に一本の槍が地面に突き刺さっていた。その槍は両刃のグレートソードの柄を延ばした様な形をした物で、細部の装飾に【餓鬼王 グレイロード】をモチーフとしたものが散りばめられていた。

 手にとって性能や装備スキルを確認する。粗方確認し終えた辺りで何者かの気配がしたので上空を見上げると見覚えのある蒼い鳥がいた。

 

「『どういう事態だ? ネビロス』」

 

 当然の疑問をぶつけて来たフィロソフィア――今はプラタイアか――に今までの出来事を掻い摘んで説明する。

 

「で、そっちは? 【魔竜王 ドラグマギア】の分身体と戦ってたんじゃないの?」

 

「『それはもう倒したがまさか分身体だとは思ってなくてな、情報に不備があったのかと各地に向かわせたのだが何やら情報が錯綜して本体がどれか掴めんのだ』」

 

「おやタイムリー、確かプラタイアとのパーティーってまだ継続状態だよね?」

 

「『む? あぁ、そうだな』」

 

「分かるよ、【魔竜王 ドラグマギア】の本体の居場所」

 

 正直俺の方も後追いで死にそうなので説明を手短に済ませるが、装備スキルの中に【餓鬼王 グレイロード】の例のスキルがあった。

 《王の眼》、パーティーメンバーにダメージを与えた相手の現在地を把握するスキルだ。

 

「プラタイア、フィロソフィアの一体に適当に【魔竜王 ドラグマギア】の攻撃を受けさせてくれるか」

 

「『うむ』」

 

 《王の眼》の恐ろしい所は例え攻撃した者が分身や従魔であろうと位置を把握するのはそれらを操る者、詰まる所本体に収束すると言う点だ。

 些か都合がいい気もするが、それだけ【餓鬼王 グレイロード】の怒りが凄まじかったのだと思っておこう。

 

 一分も待たぬ内に敵と断言できる何者かの気配を知覚する。これが【魔竜王 ドラグマギア】の本体だろう。場所は――。

 

「霊都より南西、妖精女王と戦っている分身体から離れ戦場に築かれた一際大きな死体の山に姿を隠している」

 

 その情報を聞き、プラタイアは遥か彼方、恐らくテルモピュライがいるであろう場所へ向けて飛び去った。

 

 あぁ、疲れた。俺の役目は、正真正銘これで終わりだ。後は頼んだぜ、テルモピュライ。

 互いに風前の灯のまま、俺はグラシャラボラスに寄り添って眼を閉じた。

 

 




とんでもねぇ難産だったぜ、そろそろ手早く畳もう。
あ、描写は無いけどホブゴブリン・ウィザード君は気絶してるだけで生きてるしパトリアークが担いで一緒に転移してるよ。

鬼灯の簪
・十七話でエルフの職人から貰っている。

《災禍の涙》
・息抜きでプレイしてたMHWで戦ってたムフェトジーヴァの「王の雫」を参考にして描写。
・自身の持つ魔力と周囲の自然魔力を殆ど注ぎ込んで放つ奥の手なので魔力で構成されてる分身体がこれをやるととんでもなく弱体化する。まぁそんだけキレてたって事でもある。
・紅い炎と青い熱で紫色に輝いており、分身体を展開せず万全の状態の本体が使用すれば小都市一つ位は灰燼に帰す事が可能であろう。

【餓王剣槍 グレイロード】
・【餓鬼王 グレイロード】の持っていた大剣とその他諸々がネビロスにアジャストした特典武具。
・《王の眼》仲間傷付ける奴絶対逃がさないアイ、良かったな、お前の死は無駄じゃなかったぞ。
・詳しい事は防衛戦線後に回すが装備スキルはあと二つある。

ようやく主人公に特典武具持たせる事が出来たぜやったね。主人公の出番今章もう無いけどな!
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