これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

3 / 36
クエスト進めるよ。


第三話 クエストを達成しよう。

 

 それにしてもやはりティアンだったか、ロールプレイヤーの可能性も捨て切れなかったが依頼を受けて良かったなこれは。何かレアアイテム手に入りそうな単語が見えるし。

 

「じゃあ早速行きますか?」

 

「えぇ、なるべく早い方がいいでしょう。自己紹介が遅れましたが私はエイラと申します、以後お見知りおきを」

 

「あー俺はネビロス、でこっちが<エンブリオ>のグラシャラボラスだ。よろしく」

 

「バウ」

 

 簡易的ながらも自己紹介を済ませ、俺達はエイラの先導で路地裏を抜ける。

 

「いくつか質問があるんだが良いか?」

 

「構いません」

 

 質問を受け付けてくれた事に感謝し、足を止めず目的地へ向かうエイラに一つ目の質問を投げ掛ける。

 

「マスターは依頼を受ければ何を探しているのかが分かるんだが、エイラさんの主はアンブロシアを手に入れて何をしようとしてるんだ?」

 

「エイラ、で構いませんよ。そしてその問いに関しては詳細を語ることは出来ませんが、貴方を犯罪行為に巻き込むわけでは無い事を明言しておきます」

 

 不透明な答えではあったが何も言われず指名手配犯にされるより余程マシである。

 

「じゃあエイラ、次の質問なんだが何故俺よりも明らかにレベルが高い様に見えるあんたが何で低レベルの<マスター>に依頼したんだ?」

 

「それは吸血鬼の弱点が関係しているのです」

 

「それって太陽光を浴びると灰になるとか川を越えられないとか?」

 

「概ねその通りです。特に今回問題なのは流水を渡る事が出来ないというものです」

 

 続けて、【真祖】程の高位の吸血鬼であればある程度弱点は克服出来るが今回動くことは出来ないと言う。

 

「って事はそのアンブロシアがある場所は……」

 

「地下水脈の流れ着く、とある地底湖の最深部でアンブロシアの樹は実を付けます。主より下賜頂いたアイテムを使えば一定時間は弱点を気にせず戦えるのですがそれも短い間だけ、絶えず流水が張り巡らされているアンブロシアの群生地に辿り着くには吸血鬼以外の者の力が必要なのです」

 

「なるほど、いやでもそれなら俺……というか<マスター>でなくても」

 

「……マスターでなくてはいけないのです。より正確に言えばレジェンダリアが注目の目を向けていない者が」

 

 吸血鬼にも派閥があり、アンブロシアの実を取得しているという情報が悟られる事で致命的な事態になる可能性が高く、他種族の優秀なティアンはおろか高レベルのマスターに依頼するだけで相手方に察知され阻止される危険性がある。

 との事だが……、あんたら内乱でもしてるの?

 

「……何と言うか、近い事態には陥ってますね。詳しい事は言えませんが、えぇ」

 

 剣と魔法のファンタジーっぽさが一番強いレジェンダリアをスタート地点にしたがもしかしたら結構な魔境だったのかも知れない。

 グラシャラボラスが俺を乗せて飛べるくらい成長するまでレジェンダリアを出る事は無いが国の諍いに巻き込まんでくれと願うばかりだ。

 

「ではこちらからも質問しても?」

 

「どうぞ」

 

 俺がテルモピュライに教えてもらった狩場とは別ルートから森に入り俺の全速力に合わせて貰いながらもかなりの道のりを進んだ頃エイラからそんな問いが遠慮がちに投げ掛けられた。

 勿論承諾する。俺ばかり教えてもらってばかりなのは気が引けるしどこかのタイミングで俺とグラシャラボラスが出来る事を共有しようとは思っていた、渡りに船である。

 

「貴方に出来る事を教えて頂けますか」

 

「俺が出来るのは精々護身術レベルの戦闘だ、ここぞと言う時の必殺技は無い。後は収納カバンに大量のアイテムを入れられるのと手に持ってるアイテムで粗悪品を作れるくらいだな、そも【旅人】と【行商人】だし……」

 

 とここで俺が狩場にしていた森の木の枝を《即席合成》で使い捨ての槍にするため、相当数をカバンに詰め込んでいた事を思い出す。

 もしかして国有林だったりするだろうか、と若干不安になるもその不安はエイラが解消してくれた。曰く「一応国有林という扱いではあるが生産系のジョブについてる人向けに森の資材は小数であれば罪には問われませんから安心して下さい。……森が大火事になればその限りではありませんが」との事。

 一安心である。

 

「俺が出来るのはこれくらいだがグラシャラボラスは凄いぞ、何と俺達含めて現状三人まで透明化出来る。今パーティーを組んでるのはエイラだけだから全員でスニーキングミッションが出来るな。あとパーティーの総合レベル分の威力の火球を吐けるが……正直地下水脈でどれ程力になれるか」

 

 エイラは「すに……?」と困惑の表情を浮かべていたが概ね理解したといった様子で頷いた。

 うーむ、グラシャラボラスの火球の出番はそうそう来なさそうだな、森の中で使えばどうなるかは目に見えてるし、地底湖でも威力は大幅に下がってしまうだろう。

 俺の考えている事が伝わったのか、自分が思ったより役に立たないのではないかと眉を下げるグラシャラボラスだが接近戦ではお前の方が強いし何なら一番のお荷物は俺まであるから気にするな。

 

 元気をなくしたり急に元気になったりと忙しなく表情の変化するグラシャラボラスを不思議そうな顔で見詰めるエイラだがすぐに顔を引き締める。

 

「目的地はまだ先ですがこの森のモンスターはお構いなしですね。戦闘が始まります、ネビロスはなるべく攻撃を喰らわないように」

 

「先に見つかったのか、しゃあないやるかグラシャラボラス」

 

「ガウッ」

 

 足を止め、戦闘態勢に入る一堂。ネビロスは槍を自分の身を守るように構え、左手に数本の木の枝を持ち、グラシャラボラスは何時でも敵に飛びかかれるように姿勢を低くし、周囲をしきりに睨んでいる。

 茂みの中から姿を現したのは【ホブ・ゴブリン】と【ティールウルフ】の群れ、別種族だがいがみ合う事も無くこちらにのみ敵意を向けてきた。

 

「【ティールウルフ】はゴブリンに使役されています。目の前の敵だけに意識を向けずどこから攻撃を受けても対応出来る様に意識して下さい」

 

「分かった」

 

 最初からグラシャラボラスの《インビジブル・マーチ》を使えば、エイラもいるし初撃でモンスターの群れを壊滅まで追い込めたかもしれないが、あえてしなかった。逃げに徹すれば【ホブ・ゴブリン】相手でも短時間なら立ち回れる事は前回の狩りでの逃走で把握している。エイラというセーフティー頼りだがここで【旅人】と《護身術》のレベルを上げて行こうと思い至ったのだ。

 ……ちょっと不安だから危なそうだなと感じたら《インビジブル・マーチ》使って奇襲仕掛けて貰える?

 

 グラシャラボラスが「ガウ」と了承の意を込めた声を放つと同時に、威嚇と判断したのか【ティールウルフ】が飛びかかる。

 

「ジャンプは対処楽だわな」

 

 持っていた数本の木の枝に《即席合成》を使用、【尖った木の柵】を地面に突き刺し簡易的な槍衾を作る。着地狩りをされた【ティールウルフ】は、粗悪品故にすぐ壊れる柵を巻き込んで少なくないダメージを受けたが立ち上がる前にグラシャラボラスの牙の餌食となった。

 続いて飛び掛ってくる、盾とナイフを持った【ホブ・ゴブリン】に《護身術》込みのカウンターを叩き込むが手に持っていた盾で防がれる。そしてそのまま俺の方にナイフを振り回してきた。

 一度距離を取り槍で刺そうとするも再び盾で防がれる。

 

(やっぱ普通のゴブリンより頭いいな? こいつら)

 

 周りに目を向け、二体目の【ホブ・ゴブリン】がこちらに向かってきているのを確認した俺はカバンから追加で枝を一本取り出す。

 一体目の盾持ちに力を抜いた上からの槍の一撃を当て、防がせる。

 

「どっせい!」

 

 掛け声と共に、《即席合成》で作成した【尖った木の枝】を【ホブ・ゴブリン】のわき腹に突き刺す。「ギャァア!」と叫ぶ盾持ちを放置し二体目に目を向ける。

 持っているのはブロードソード、本来ならこちらの方が射程は長いが今の俺は片手で持っている都合上射程は剣と変わりない。

 

「ギィイ!」

 

「うおっ!」

 

 何の躊躇いも無く大上段からの一撃を仕掛けてくる剣持ちの【ホブ・ゴブリン】をやや大げさに避ける。

 剣を完全に振り切ったのを確認し、槍で【ホブ・ゴブリン】の頭をフルスイングしようとし――寸前で止める。【ホブ・ゴブリン】が持っていた剣を手放しこちらに飛び掛ってきたからだ。追撃を仕掛けるように別方向から【ティールウルフ】が一匹走りよって来ていた。

 

(ゴブリンとオオカミ……ダメージが低そうなのは……)

 

 方向転換し、【ティールウルフ】にカウンターで槍を突き刺し地面に叩きつける。「キャイン!」と悲鳴を上げる【ティールウルフ】から槍を引き抜いたと同時に背中に鈍い衝撃。

 【ホブ・ゴブリン】に背中を殴られたのかと考え、とりあえず【ティールウルフ】を蹴り飛ばし体勢を立て直す。

 

「コラテラルダメージだクソ!」

 

 苛立ちを込めた槍の刺突を、もう一度殴ろうと拳を振りかぶっていた元剣持ちの【ホブ・ゴブリン】にお見舞いする。

 

「ギャッ!?」

 

 相手の肩を貫いた勢いをそのままに、脇腹を抑えて蹲っている盾持ちの【ホブ・ゴブリン】へ向けて蹴り倒す。

 二体の【ホブ・ゴブリン】が消えていくのを見届けてから次の敵に目を向けようとして、既に敵が全滅していることに気付く。

 

「あれ?」

 

「既に終わらせましたよ。ネビロスの戦いを見てましたが卑下する割にはいい判断力でした」

 

 グラシャラボラスも自分に向かってくる奴は透明化を駆使したりして速攻で片付けておりいつでも俺の助けに入れるようスタンバってたらしい。

 レベルとかステータス的に仕方の無い事ではあるが一番戦闘が長引いたのが俺という事に若干の恥ずかしさを覚えた。

 

「恥じ入る事などある物ですか、貴方は強くなれますよ。さて、目的地まであともう少しです、走りますよ」

 

「アウッ!」

 

 嬉しい事を言ってくれるエイラと翼をばさばさと羽ばたかせ俺を慰めようとするグラシャラボラスに元気を貰い、走り出すエイラについて行った。

 

 

 

 

 

「ここが地底湖への入口です」

 

「これが……」

 

 痛む背中を気にしつつ、足を止めたエイラの後ろから地底湖の入口を見る。ダンジョンみたくこれ見よがしな扉がある訳でもなく、そこにはそこそこに大きな滝と、そこから流れた水が向かう綺麗な湖だけである。

 

「まさか湖の中潜るわけじゃないよな?」

 

「それだと私だけでは入手困難どころか入手不可能です。ちゃんとした入口はありますよ」

 

 そういって向かうは大きな滝。エイラが手を向けるとその滝が中央から二つに分かれ、隠されていた洞窟が姿を見せる。

 ここに来て初めて見た魔法らしき現象に目を輝かせる俺を鼻先で突くグラシャラボラス。早く行こうぜという意思を感じたので足を止めて待っていてくれたエイラの方に走り寄る。

 

「すまんすまん、魔法とか見たの初めてだから」

 

「それが自分に向けられた時は足を止めてはいけませんよ。さて、申し訳ありませんがここから先はネビロスに先導を任せても構いませんか?」

 

 そう言ってエイラはフードを被って外気に肌を晒さないようにする。

 

「後ろから道案内はさせて頂きますのでご安心を、この先の地下水脈走る地底湖では何時流水を被ってしまうか分からないので……」

 

「あぁ、そういう事なら先を歩かせて貰いますが」

 

 了承の意を示し、俺は開かれた洞穴へと身を投じる。しかし暗い道だ、おまけに床も水を含んでぬかるんでいる。

 しかしエイラはここから先は何時流水を被ってしまうか分からないといっていたがそんな事があるだろうか?

 

「湿ってはいるが水が流れてる場所は見えないんだが、漏水する所でもあるのか?」

 

 俺の問いに後ろを歩くエイラは首を振る。

 

「<アクシデントサークル>という物をご存知で?」

 

 今度は俺がエイラの問い掛けに首を振った。

 

「レジェンダリアで時折発生する自然現象です、一所に漂う自然魔力が一定の濃度を上回るとランダムな魔法による被害がその近辺を襲います。街や村には自然魔力を吸収、或いは拡散する技術がありますが、我々からそれに関する情報を聞かない<マスター>が往々にして<アクシデントサークル>に巻き込まれてしまうのですよね」

 

 侭ならないものですと、若干脱線していくエイラに苦労してるんだろうなぁと申し訳なくなってくるが、そんな空気をエイラの咳払いが一掃する。

 

「ともあれ、この一見蟻の巣じみた洞窟はそういった<アクシデントサークル>の宝庫なのですが齎される魔法災害はたった一つ――」

 

 その言葉を言い終わるや否や、T字路に差し掛かりどちらに行こうかと思案していた俺をエイラは思い切り引っ張った。

 と同時に目の前の通路を横切るように、大質量の水が通過していった。

 

「――即ち莫大な流水を伴う《転移魔法》です。どうですか? 吸血鬼である私が入手困難と言った意味が理解出来ましたでしょうか」

 

「いやこれ吸血鬼とか関係なく死にますよね!?」

 

 俺の悲痛な叫びは無かったかのように処理された。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 至る所で枝分かれを繰り返しアリの巣の様な構造となっているこの洞窟は通路の一本一本が「魔法で舗装された水路」であり、ランダムなタイミングで様々な通路の始まりと終わりに<アクシデントサークル>が現れ、大質量の水を運び、やがて消えていく。

 毒や落とし穴なんかよりよっぽど悪質な即死トラップがランダム生成されるこの地下水脈を越えた先にある地底湖こそが今回の目的地である。

 

 正直ここまでクソなフィールドがあるとは思ってもみなかった。唯一の救いは水と共に流されるのでモンスターの類は一匹足りとていない事だが、それも気休めにしかならない。

 

「というかこれって立派なダンジョンなのでは……?」

 

「単なる自然現象がたまたま大量発生するだけの土地ですので神造ダンジョンとは言えませんね」

 

「さいですか……、頼むぜグラシャラボラス、いきなりで悪いがお前の鼻が頼りだ」

 

 項垂れる俺の言葉に「ガウッ」と元気よく返事を返すグラシャラボラスを撫でてやりながら、どう攻略するかの構想を練る。

 エイラですら先程のように水流が迫るのを察知できるのはギリギリであり、この場で最も危険の感知能力が高いのはグラシャラボラスなのだ。そのため主にグラシャラボラスに警戒をしてもらい、歩いている通路が危険だと判断したら一咆えしてもらう形で歩を進める。エイラには引き続きこの場での道案内を頼み、最短距離でさっさと採って帰る。

 これが一番だ。

 

「あー、そういえば、さっきアイテムを使えば一定時間流水を気にせずに良くなるってエイラ言ってたよな。あの水流大丈夫になるってどんなアイテムなんだ?」

 

「【奔走輸血】というアイテムで一定時間霧となって移動が出来るアイテムです。霧となっている間は物が持てず効果時間が終わると暫く動けないのであまり使いたくはありませんが……」

 

「なるほど……いざと言う時の脱出手段はある訳だ、でもその後運ゲーになるのはキツいな――」

 

「――ヴァウッ!」

 

 グラシャラボラスの一咆えを認識し、エイラと共に全速力で前に走る。グラシャラボラスが俺を追い越し最も近い分岐路へと先行する。

 ……クソッ、背中が痛む。

 

「あった! 横穴だ!」

 

 グラシャラボラスが先行し見つけた分岐路にエイラと俺は飛び込んだ。数秒後轟音と共に先程まで俺達がいた通路を通過する横流れの大瀑布。

 

「グラシャラボラスの警告に従い全速力で走ってこれか、ずっとこの調子だと身が持たんぞ……」

 

「それでも、貴方のグラシャラボラスのお陰でアイテムを使わずに済みました。この調子で行けば最短でアンブロシアのある地底湖まで行けるでしょうけど、……少し休憩しますか?」

 

 既に息も絶え絶えの俺を気にした様子で休憩の提案をしてくれるが、ここにいる限り安全は無い。休憩してて全滅なんて事になったら洒落にならない。

 

「いや、進むぞ」

 

 故に前進を選択する。まぁ普通に疲労してるだけだからな、ここでエイラに迷惑は掛けられん。

 だからそんな心配そうな目を向けてくれるなよ、グラシャラボラス。

 

(帰ったらポーションをたらふく買い込もう……)

 

 自分の準備不足を呪いながら、俺はエイラとグラシャラボラスと共に歩きだした。

 

 




行商人兼旅人にあるまじき品物不足。

【奔走輸血】
・血を得る事で力を増す種族(大体は吸血鬼)のバフアイテム。飲む事で効果が現れる。
・純粋な力を増強させる物や、己が使えない特殊能力を使えるようにする効果がある。
・モンスターの血が原料なので効果終了後拒絶反応が出る。効果の強い物ほどデメリットも大きい。
・仮に【UBM】から作られた【奔走輸血】があるならば、それが使用者に齎す恩恵は莫大なものとなるだろう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。