これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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手記名「祈りの弾丸」
第三十一話 戦の後始末を手伝おう。


 

 

 布団の中に潜り、スマホを覗き込むという不健康極まりない自堕落を俺は続けていた。

 

 あの後、俺はプラタイアに【魔竜王 ドラグマギア】の本体の位置を告げた後特に何事もなく死んだ。

 いやまぁポーションを集るなんて出来なかったしやる事だけやってそのまま死ぬつもりだったからそこは別に構わない。

 

 問題は死亡して現実世界に戻った後だ。

 

 デンドロ内部でかなり濃い経験をしたせいで左腕がある事に若干の違和感を覚えたりしたが、そっちは何とか慣らした。デスペナルティが明けたら五体満足で復活するのだから違和感など感じていられない。

 俺を今悩ませているのはテルモピュライが、レジェンダリアが勝利したかどうか。不安ばかりが蓄積していった。

 

 チャットルームでテルモピュライが来ないか一時間粘ってみたが、一切の音沙汰無し。レジェンダリア関連の掲示板を覗いてみてもデンドロの内部時間がこちらと違うせいで求めている情報は見つからなかった。

 

 そのせいで抱いても意味の無い焦燥を抱えて布団で寝転がってる訳だが。

 

「――ッ!」

 

 掲示板に動きがあった。罵詈雑言や称賛、特に関係ない話題に埋もれる様にして俺が求めていた言葉が一つ。

 

 ――霊都防衛成功、ティアンの被害軽微、首魁の【UBM】撃破。

 

「……良かった」

 

 安堵の溜息を零し、全身の力が抜ける。

 

「俺の、俺らの死は無駄じゃなかった」

 

 あいつは、テルモピュライはやってくれたのだ。喜びに声が漏れるが、それを留めようという気にはなれなかった。

 丸一日はデンドロに入れないんだ、少しばかり勝利の余韻に浸っていても構うまい。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 世界樹の木漏れ日に目を細め、紋章が手の甲に刻まれた左手を目の前に掲げる。深海の蒼を湛えた様な髪は簪を失ったせいで、そのまま背中に流されたまま。

 度重なる激戦で《追い風》装備は限界が近付いている、一度新調せねばならないだろう。一方で武器は素晴らしい物が手に入った、長い刃を持つ剣槍は新しい相棒になるだろう。

 

 俺の死で取り戻した物がある。あの戦いで意味を与えられた物がある。最後まで無茶に付き合ってくれた物がある。力を受け継ぎ成すべき事を成した物がある。

 

 今俺が立つレジェンダリアだってそうだ。様々な物を失って、それでも元通りになろうと努力している。

 こんな所で感慨に耽っている場合ではない、俺も霊都の復興に尽力せねば。

 

 だって俺はマスターの配達屋なのだから。

 

 

 

 

 

 と、早速復興依頼を受けに行こうとギルドに向かったはいいものの、受付嬢に捕まり「暫くお待ち下さい」と応接室に放り込まれた。

 

 特に何かやらかした記憶は無いので何の用事か見当も付かないが……まぁ直に分かるだろう。

 待ち時間を潰す為にグラシャラボラスを呼び出す。

 

「よ、久しぶり」

 

「『あぁ、三日の時を経て漸く復活だ』」

 

 グラシャラボラスのその言葉通り、俺達は傷一つ残っておらずあの激戦が嘘だったかのように元気を取り戻している。あの時は無茶をさせてしまったからありがたい限りである。

 特にグラシャラボラスに至っては傷が無いどころか毛や翼の色艶も良くなり身体も一回り大きくなっている。

 

 ……うん、やっぱお前進化してるよね。

 

「『あれだけの戦いだ、進化もするだろうさ』」

 

「成る程?」

 

 まぁ喜ばしい事なので問題は無い。

 

 

 『保有スキル』

 《インビジブル・マーチ》LV6

 

 《茜色の群火》

 

 《アンノウン・シャドウ》LV4

 

 《柳色の幽灯》:アンデッド種族に特攻を持つ灯火を作る。特定状況下で「亡霊」等の残留思念と意思の疎通を計れる。

 

 

 という訳で俺のグラシャラボラスが第三形態へと進化した。また難儀なスキルを手に入れたようだ。

 試しに新しく手に入れた《柳色の幽灯》を使わせると、やや白味がかった緑色の火の玉がグラシャラボラスの口から吐き出された。

 

 成る程、《茜色の群火》と違って吐き出した後も色々操れるようだ。試しにカバンから不要な紙を取り出し《柳色の幽灯》に近づけると普通の火の様に燃え移り、やがて塵になって散った。

 別にアンデッドだけを焼くという訳では無いらしい。これなら焚き火の火付けとかランタン代わりにして夜の旅路も幾らか楽になるだろう。

 

 残留思念との意思疎通云々は良く分からないが……流石にここで試す事の域を超えている。紙を燃やすのもここで試すべき事ではないが延焼に十分気を付けていたので不問にして欲しい。

 グラシャラボラスに《柳色の幽灯》を解除させると同時に応接室がノックされる。

 

「はい」

 

「いやぁ、待たせてすまないね」

 

 そう疲労を滲ませた声で入ってきたのは冒険者ギルドのギルドオーナー、スタンピード準備時に何度か目にしたお偉いさんであった。

 

「事後処理が忙しくて上から下まで仕事続きだったもんで少々時間がかかってしまった」

 

 そう言ってギルドオーナーは対面のソファに腰をかけた。

 言われてみれば彼の目元に隈が出来ている。別に俺のせいという訳では無いが少しやつれている姿を見ると申し訳無く思えた。

 

「さて、とりあえずは君の疑問を解消しよう」

 

 ギルドオーナーが懐から小さな麻袋を取り出す。

 

「霊都アムニールの防衛に参加してくれて感謝する。これは参加したマスター皆に配っている報酬だ」

 

 少々少ないが許してくれ、と彼は言うが袋の中には決して少なくない量の金貨が入っている。これを参加者全員に配っているのだとしたらとんでもない量になるのではなかろうか。文句など出よう筈もない。

 思わぬ臨時収入に頬を緩めているとギルドオーナーが頭を下げた。

 

「改めて感謝を、君達がいなければ此度のスタンピードを凌ぐ事は不可能だった」

 

「……頭を上げて下さい、俺は結局死んでしまいましたし戦いを収めたのはテルモピュライですから」

 

「そう、それだ」

 

 テルモピュライの力になれ無かった事から口を突いて出た言葉だったが、ギルドオーナーは顔を上げてこちらを見やる。

 

「ここからが本題で、君をここに呼び出した理由だ。君が【餓鬼王 グレイロード】を討伐したというのは本当か?」

 

 聞く所によるとあの【餓鬼王 グレイロード】には懸賞金が掛けられていたらしく、討伐依頼を出しても返り討ちに会うかそもそも見つからないかで成果が振るわず、半ば放置されていたらしい。

 まぁ、あいつのスキルを考えると「だろうな」と思う。大方手下のゴブリンをわざと倒させて敵の姿を盗み見、弱ければ倒し強ければ見つからない様に隠れていたのだろう。

 

「放置しても稀に交易路に出没するので困っていたんだ。もしよければ【餓鬼王 グレイロード】を討伐した証を見せてはくれないだろうか」

 

 そう言われ、俺はインベントリから【餓王剣槍 グレイロード】を取り出した。

 【魔竜王 ドラグマギア】に一矢報いる為に【餓鬼王 グレイロード】が文字通り命と引き換えに俺に預けてくれた剣槍だ。

 

「これが……うむ、確かに【餓鬼王 グレイロード】の特典武具だ。偽装も無く、《真偽判定》にも反応は無い」

 

 そこまで確認するとギルドオーナーは肩の荷が下りたように息を吐き、再び懐の収納カバンから麻袋を取り出した。

 

「スタンピードへの参加と合わせ、重ねて感謝する。これは【餓鬼王 グレイロード】の討伐報酬だ、君達マスターのお陰で霊都の平和は守られた。受け取ってくれ」

 

 ギルドオーナーはそう言って麻袋をテーブルの上に置く。中の金貨はスタンピードの参加報酬とは比べ物にならない量入っていた。

 

「150万リル。これが【餓鬼王 グレイロード】に掛けられた懸賞金であり、今その袋の中に入っている褒賞金の総額だ」

 

「それは、また凄い」

 

 唖然である。

 

「【餓鬼王 グレイロード】自体は特に悪さはしてないんだが問題視されてたのは【餓鬼王 グレイロード】の元で学習能力を得たゴブリン連中だ。これがまぁ厄介なもんで。」

 

 だがこの三日でそういったゴブリンの被害はめっきり聞かなくなった、この大金は王一体でなく王が従えた兵士ごと退けてくれた謝礼でもあるのさ。

 そう言ったギルドオーナーの目は冗談を言っている訳ではなく、純粋な感謝の証がこの大金なのだと教えてくれた。

 

「――さて、堅苦しい話は終わりだ。俺もそろそろ仕事に戻らにゃあならん、来て早々で悪いが資材配達の依頼を受けちゃくれないか?」

 

「はい!」

 

 元よりそのつもりである。

 意気揚々と外を出るギルドオーナーの後を追い、俺とグラシャラボラスは配達屋としての依頼を受ける為、応接室を後にした。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 一回り大きくなりより一層頼もしくなったグラシャラボラスの背に跨り、復興依頼用の資材を収納カバンに大量に詰め込み霊都中を飛び回る。

 《過積載》を使って尚カバンに入りきらなかった分はグラシャラボラスの首から網でぶら下げているのだが、重さでふらつく事も無く飛行が出来ている。

 

「疲れないか?」

 

「『あぁ、進化したお陰でこれ位なら苦も無く飛べる。人間も二人と少しの荷物なら乗せた状態で長距離飛行も可能だろう』」

 

「それは凄いな、助かるよ」

 

 もう少し霊都付近でクエストを受けたりモンスターを倒したりとレベル上げをしたら、その後はグラシャラボラスと一緒に旅をするのもいいだろう。

 まぁそれも当分先だ、今は受けた依頼をこなす事を考えよう。

 

 目的地にたどり着き、慎重にグラシャラボラスの高度を下げる。

 

「ギルドの依頼で資材を届けに来たぞ」

 

「ん、おぉ、助かるぜ。依頼達成の印はどこだったか……」

 

 形式上の依頼主はティアンであったりマスターであったりと様々だが、誰もが依頼書に達成の証を印して届けた資材に手を付けていく。

 霊都への被害自体はかなり防げたものの、【魔竜王 ドラグマギア】が呼び出したモンスターの中には飛行型のものもいた。そういったモンスターに城壁や関所を破壊されたりしたらしい。

 不幸中の幸いというべきか居住区への被害は0だったらしいので破壊された箇所を修復すれば元通りらしいが。

 

 そんなこんなで受けた依頼も後一つ。

 とある貴族からの依頼で石材や木材といった建材よりも治療用の道具を運んで欲しいという依頼だ。これは依頼報酬というよりも依頼を出した貴族を見て依頼を受けた。

 まぁぶっちゃけるとアインドラ家からの依頼だったのだ。スタンピードが終わったら話し合いたいとエイラも言っていたし丁度良かった。

 

「さぁここに来るのも久しぶりだが」

 

 相変わらず豪華な庭園を持つガルシア邸の前に着地。門の近くに備え付けられている待機場に門番が休憩してたのでタリスマンを見せて依頼を受けて来た旨を伝える。

 別に依頼だけならタリスマンを見せる必要は無いのだがね。

 

 順当に滞在許可が得られた為、庭園を抜けて勝手知ったる我が家の様にガルシア邸の戸を叩く。流石にマナーを欠いた行いこそしないものの、それでも肩肘張らなくてもいい位には慣れていた。俺達も、ガルシアに仕える使用人達も。

 

「お待ちしておりました、ネビロス様。用件は門番より聞いております」

 

 貴族の中でも位の高いガルシアに仕える使用人の数は俺が覚えきれない程に多いが、その中でもマスターである俺に特に悪感情無く接してくれる人は何人かいる。漏れなく全員吸血鬼であり、目の前の彼女もその一人だ。

 まぁ悪くない好感度を維持できてるのは俺というよりグラシャラボラスのお陰だろうが。

 

「依頼の品を届けにいらっしゃったようで」

 

「えぇ、あとはまぁエイラとガルシアさんに会いに」

 

「ではそちらのエンブリオの方は、その……」

 

「『うむ、大人しくしている。世話は任せても構わないか?』」

 

「お任せ下さい!」

 

 ガルシア邸で行動する際グラシャラボラスは紋章にしまうかメイドがお世話しているかの二択である。屋敷側がグラシャラボラスを無闇に動かしたくないからという理由が発端ではあったが、実はグラシャラボラスの世話は割と使用人の間では人気だったりする。

 モフモフ好きな犬派が多かったようである。

 

 

◇――◇――◇

 

 

「やぁ、ネビロス君。身体の調子は如何かな?」

 

「悪い所なんて一つもありませんよ、左腕も戻りました」

 

 所変わって執務室。仕事が一段落ついたらしいガルシアに連れられてここに来た。

 

「うちの依頼を受けてくれたんだって? 助かるよ」

 

 カバンから魔法薬の媒介やらその他諸々を取り出してガルシアに渡す。直ぐに依頼達成の証明書を作ってくれたのでここに来た目的の半分は達成した。

 

「うん、お疲れ様。しかし、テルモピュライから聞いたよ? ネビロス君大活躍だったらしいじゃないか」

 

「え、活躍?」

 

 ギルドオーナーもそう言っていたが騒動を終結に導いたのはテルモピュライだ。俺はその手助けをしただけ――

 

「どうやら自分がした事が理解できていない様だ、ならば事細かに伝えよう」

 

 ガルシアが微笑みながらこちらを見やる。

 

「結果論ではあるが、テルモピュライであれば【魔竜王 ドラグマギア】に勝てた。どれだけ時間を浪費しようと、どれだけ我々に被害が出ても、どれだけ悪い状況に陥ろうとも。【魔竜王 ドラグマギア】ではテルモピュライには勝てなかった」

 

 テルモピュライが聞けば買い被りすぎだと言うだろうが、俺もガルシアの考えには同意する。あいつならやりかねない、あいつなら、造作も無くそれをする。

 

「だが【魔竜王 ドラグマギア】の本体を見破る事は彼は出来ない。君の情報が無ければ片っ端から殴るしかなかっただろうね。何せ私でも本体の場所を観測する事は出来なかった、あの戦争で出来たとすればテルモピュライクラスの力量を持つ探知に特化したマスターの力が必要だっただろう。だがそれをするにはマスターは余りに統率が取れなさ過ぎた」

 

 【魔竜王 ドラグマギア】が混乱を不和を齎す事を目的として行動していたとは言え、マスターとティアンの混成軍である南東組は自分達の身を守る事で精一杯だったと聞く。連絡手段が軒並みダウンしていたのもそれに拍車をかけていたのだろう。

 

「もしも君が【餓鬼王 グレイロード】を倒さねば各地で綻びが膨れ上がり戦線が崩壊し、後方支援が主だった中央組すらも動員せねばならなかった。いや、その前に最悪の場合【妖精女王】が死んでいただろうね」

 

 ありえた未来、起こり得た結末をガルシアの口から語られるとそれが決して妄言等ではないという説得力があった。

 

「誇り給えよ、君は最善を尽くし、最高の形でテルモピュライへとバトンを繋いだ。私に言わせれば君の行いがあるから今の霊都があると言っても過言ではないのだよ」

 

「流石に言いすぎですよ……でも、ありがとうございます」

 

 自分が出来る事は全てやって、それでも志半ばで終わってしまったと思い込んでいた。

 だが俺が繋いだ行動でテルモピュライに、霊都に貢献できていたのなら。

 

 ちゃんと意味はあったのだ。

 

 それを自覚して、少しだけほっとした。

 

 




スタンピードは終わり徐々に日常へ。
ちょっとある事を聞きたいので活動報告を新しく書きました。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=237470&uid=279424
軽く目を通して下さるとありがたいです。

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