これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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第三十三話 短い旅路を満喫しよう。

 森は獣の領域だ。【ティールウルフ】と呼ばれる彼らとてそれは同じ。

 一時期森が荒れたせいで彼らも狩場を変えざるを得なくなったが、獲物が少ないという事は無くむしろ稀に人間を襲える程度には運の良い狩場であった。

 

 いつも通り森をうろつき、自慢の嗅覚が人間の匂いを嗅ぎ取った。同時に獣と人間っぽい生き物の匂いも嗅ぎ取る。久々のご馳走だと判断した彼らは匂いの元へ駆け出した。

 

 草木を掻き分け音を極力出さぬよう走り、獲物がいる開けた大道へ出て――

 

「《クイックリロード》」

 

 ――三発の銃声と共に彼らの命が掻き消された。

 死の間際、その目に求めていた獲物が誰もいない景色を映して。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 何と言うか、グラシャラボラスの強さを漸く実感できた気分だ。強さというか恐ろしさというか……。

 

「ネビロスって凄いな、一方的にバンバン撃てる」

 

 モンスターを撃ち殺したコバルトが感心したようにそう言うが、こっちのセリフである。

 エンブリオであるが故か反動が無いに等しい様に見えるがそれを加味しても何もスキルを使わずに――再装填を早めるスキルこそ使ったが――高速で動く狼に正確に当てられるというのは凄いのではないか?

 狙撃は任せろと自信満々だったのは実力に裏付けされたものだったのだなと感心した。

 

 このような一方的な狩りが何度も繰り返された事で漸く、グラシャラボラスが遠距離攻撃持ちと頗る相性がいいのだと気付いた。

 攻撃の音は聞こえども姿は見えず、敵の位置が分からぬままに淡々と遠距離から攻撃を加えられるというのはきっと相対する者にとって中々の恐怖に違いない。

 

 出来る事ならコバルトを勧誘してみたいが、彼とのパーティはライゼニッツまでの一時的なもの。それが過ぎたら多分勧誘しても断られるだろうし、無理に彼を誘うつもりもまた無い。

 であるならばどうするか、俺が遠距離の攻撃手段を獲得すればいいのだ。

 

(今後の目標が決まったな)

 

 遠距離攻撃が可能なジョブないしは武器を手に入れ、実用レベルまで育て上げる。まぁ今すぐにという訳じゃ無いから霊都に帰ったらエンティア辺りにでも相談しよう。

 

「さて、ここらで休憩にしようか」

 

 短時間で終わらせたとはいえモンスターとの戦闘が何度か行われた事で時刻は既に夕暮れ時に差し迫ろうとしていた。

 地図で確認した限りだと、霊都からライゼニッツまでの道程はトリカブトの隠れ家までの道とあまり変わらないか少し遠い位、ここで夜を過ごせば後は昼間の間に目的地に辿りつくだろう。

 

「コバルトも構わないか?」

 

「あぁ、頼む……ちなみに飯って何作るんだ?」

 

「ん、普通に串焼きとスープでも作ろうかと思ってたけど」

 

 頭の中で雑に献立を組み立てているとコバルトの表情が柔らかくなる。

 

『素直にキノコが入ってないか聞けばよかろうに』

 

「うっせ」

 

 ……ただの嫌いなものの確認だったか。まぁ可愛いもんだ、わざわざゲームで嫌いなものを食べたくは無いだろうしキノコは入れないでいいか。

 乾いた枝を数本取り出し、グラシャラボラスに火を付けさせる。《柳色の幽灯》を使ったせいか焚き火の火は淡い緑色になっていたが火の温度は通常の物とそう変わらない。

 

 以前に買った物と同じ牛肉っぽい肉の塊(何の肉かは結局聞きそびれた)を切り分け、細かく砕いた岩塩と胡椒を振って馴染ませる。

 そういえば基本的にどの国も海に面しているが海塩は貴重だったりするのだろうか? 勝手に塩作るなとか言われないならその内藻塩とか作って貯蓄するのも面白そうだ。商品にもなりそうだし。

 

 野菜と余った肉を細かく刻み、手伝いたそうにしていたエイラに後を任せる。串焼き程度ならともかく鍋物になるとエイラが作る方が圧倒的に美味しいと知っていた為である。

 小鍋を乗せる三脚を焚き火にセットして、切り分けて塩胡椒を塗した肉を串に刺していく。

 

 後は焚き火で調理すれば完成だ。簡易的だが中々美味く仕上がったと思う。

 

 緑色の焚き火を囲んで各々の気の向くままに飯を食う。三人で食うにはやや多い量だがグラシャラボラスが食ってくれるので問題は無い。

 地面に横たわるグラシャラボラスの身体に背を預け、コバルトやエイラの話を聞きながら和やかな夜は過ぎていく。

 その中で――

 

 ――ヴゥゥゥ……

 

 どこかで聞いた事のあるような音がした。

 

 

◇――◇――◇

 

 

「……んあっ」

 

 温かくふかふかしたクッションに手を置き、体に掛けられていた厚手の布を退けて目を覚ます。先ほどまでクッションだと思っていたものはグラシャラボラスだったようだがこの状況に至るまでの記憶が無い。

 周りに目を向けるとコバルトの姿は無く、近くに簡易テントが設置されているのが見えた。恐らくエイラが日光を遮る為に設置したものだろう。

 

(……あぁ、そうか)

 

 ここで漸く状況を悟る。要は寝落ちしてしまったのだ。

 暇を持て余しているせいでログイン時間が異様に長い事は自覚していたがこうして寝落ちる事なんて滅多に無かった。

 特に意味も無くショックを受けているとテントの中からエイラが出てくる。

 

「あ、起きてましたか。おはようございます、ネビロス」

 

「うん、おはようエイラ。……何かごめんね、勝手に寝ちゃって。それにこれエイラのでしょ?」

 

 退けた厚手の布は良く見れば見たことのある物で、俺の記憶が正しければエイラの日除け用の外套だった筈だ。

 

「構いませんよ、グラシャラボラスが見張りを買って出てくれましたから。……ネビロス、ちょっとお願いがあるんですが」

 

「え、何?」

 

 エイラの外套を持ってテントまで歩くと、エイラに腕を引っ張られテントの中に入れられた。

 陰で少々見にくいが、いつもより若干顔色が悪いか?

 

「……ごめんなさい、血を分けてくれませんか。目を瞑ってて貰って構いませんので」

 

 エイラのその言葉で彼女が今貧血とか栄養失調とかそういう類の不調であると気付く。ついでにエイラが吸血鬼であった事も思い出す。

 一瞬悩んだが、俺は血を分ける事にした。別に現実世界には影響無いので俺の血でエイラの体力が回復するならどれだけ吸って貰っても構わないし、とはいえ吸血し過ぎるなんて判断を誤るほど憔悴してる様には見えなかったから本当に抜かれても問題ない量だけ吸うのだろうという信頼もあった。

 ……純粋にエイラが心配だったからというのが大きな理由ではあるが。

 

 エイラに身を委ねるように目を閉じて力を抜くと、恐る恐ると言った様子でゆっくりと体を抱きすくめられる。

 背中に回された手に結構な躊躇いと不安が残っているのが感じられたが、程なくして首筋にちくりとした微かな痛みを感じた。

 

 目を閉じていると首筋に埋め立てられた牙や熱を持った息を否応にも意識せざるを得ず、どうにか意識を逸らそうとしても失敗する。

 簡素なテントの中で、エイラの牙で首筋から何かを吸われ、吸われた何かをエイラが嚥下する音がやけに大きく響いた。

 

「うーっす、おはようございま……」

 

「……あ」

 

 時間が粘度を増してずっと続くとすら思えたエイラとの行為は当たり前のようにテントを開けられた事で終わりを迎える。

 

『ははぁ、どうやらお邪魔してしまったみたいだぞコバルト。十分後に入り直そう、それだけあれば行為も終わってるだろうよ』

 

「あ、あ……」

 

「待て待て誤解だ勘違いだログアウトしようとするな」

 

 顔を真っ赤にしたコバルトがフライクーゲルの言葉を聞いてログアウトしようとするのを必死の思いで防いだ。

 一度話がこじれると誤解を解くのにかなりの時間を要するであろう事は想像に難くなかったから。

 

 

 

 

 

 ログアウトしようとしたコバルトを説得し。

 吸血に満足したエイラが我に返って状況を把握し。

 我関せずを貫いていたグラシャラボラスが睡眠をとろうとし。

 

「結局何で血を欲しがったんだ?」

 

 場を執り成して最初に行き着く問題がそこだった。

 生命活動の維持に必要とかであれば別に俺も拒否する事も無いのだが、エイラは慎重で用意周到な方だと知っている。

 血液パックなり何なりを自前で用意しそうなもんだが、はて。

 

「……ネビロスに同行する事を決めた時に荷物を整理していたのですが予備の血液が底を突いてまして、ベルディア・フリーデ様に会いに行くのであれば彼に頼んで補充すれば良いかと思って……」

 

 そのまま俺達と一緒にいたら思ったより早く渇きが来たらしい。

 ガルシアに頼めば良かったのではと言うと「実家の貯蓄を削って父に面倒を掛けたくなかった」ようで。あの人なら普通に融通してくれたんじゃねぇかなとは思うが。何と言うか、アンブロシアの時といいガルシアに対する善意が空回っている様に思える。

 

 エイラも準備不足を悔いて意気消沈しているようだったので、血液パックの補充の目処が立つまでだが俺の血を飲ませる事にした。

 エイラは遠慮していたが血を渋っていざという時に力が出ないなんて事になってしまったら悔やんでも悔やみきれない。

 

「すみませ……いえ、ありがとうございます」

 

「うん」

 

 ともあれ一件落着である。

 

「……これで付き合ってないってまじで?」

 

『色々とあるんだろうよ、色々と』

 

 困ってる所を助けただけなのに何でそんな邪推されなきゃならんのだ。

 

 そんなこんなで昨晩の野営跡を片付け、再びライゼニッツまで道なりに歩く。

 良い機会なのでずっと後回しにしていた【餓王剣槍 グレイロード】の詳しい性能を調べておいた。

 

 

 【餓王剣槍 グレイロード】形状:大槍

 装備補正:STR+50%・END+50%・HP+50%

 装備スキル《王の眼》《魔法喰らい》《飢餓欲求》

 

 

 剣槍と書いてこそいるが実際の所【餓鬼王 グレイロード】の獲物が俺にアジャストして槍となった様でどちらかというと大槍らしい。

 装備補正は三つのステータスが1.5倍と上昇率は悪くない。補正が全部割合という点もありがたい。

 そして肝心の装備スキル。以前使ったのは《王の眼》で、仲間にダメージを与えた相手の現在地を探知する強力な物だ。この先も幾度と無くお世話になる事だろう。

 

 《魔法喰らい》は呼んで字の如く、魔法を【餓王剣槍 グレイロード】で叩き切る事で構成された魔力を吸収するスキルだ。使用に特に条件も無い事から【餓鬼王 グレイロード】の特殊能力というより単なるスキルだろう、思い返せばそれらしい場面を何度か見た気がする。

 問題は最後のスキル、《飢餓欲求》だ。これは装備者、或いはパーティーメンバーに【飢餓】の状態異常付与と引き換えに「被ダメージの三割即時回復効果」及び「与ダメージの三割即時回復効果」を付与するという物。

 

 餓えて尚、己の流れる血を糧にして、敵の零した命を糧にして、唯ひたすらに勝利に向けて足を止める事無く進む。

 そういった、【餓鬼王 グレイロード】の執念が窺える装備スキルだ。というか装備スキル三つとも執念の塊みたいな物だった。

 

 被ダメージの三割回復という事は自分が100のダメージを受ければその直後に30ポイントHPが回復するという事で間違い無い筈、であれば与ダメージの三割回復も相手に100のダメージを与えれば自分は30ポイントHPが回復するという解釈で合っているだろうか。

 もしそうなら単純に殴り合っても碌に死なない生存特化スキルなのだが、【飢餓】の状態異常付与という一文が俺に二の足を踏ませる。

 

(……字面からしてやばいよな【飢餓】って。見た感じステ変動は無さそうだけど腹が減って動けないとかが本当にあり得るからちょっと使うの怖いな……)

 

 まぁ後で一人で使ってみよう、そう考えて【餓王剣槍 グレイロード】の性能チェックを終える。

 

 そんなこんなでたまにモンスターを狩り尽くしながら道なりに歩いて行く事数時間、予定外のハプニングも無く順調に旅路を進み、遂に目的の街が見えてきた。

 切り立った壮大な山肌を背に、重厚な城壁と堅牢な要塞で都市を覆う活気と熱気に満ちた都市。

 

 交易、防衛、二つの要。城塞都市ライゼニッツがその全貌を現した。

 

 




【飢餓】
・対象者に空腹や喉の渇きの効果を与える制限系状態異常。
・《飢餓欲求》を使用しての【飢餓】発現時のみ、副次的効果として戦闘行為に没頭すると餓えが軽減される。
・【餓鬼王 グレイロード】を形作るパーソナルが装備スキルとして発現した。【餓鬼王】は何処まで行っても餓えた鬼の王だった。

《飢餓欲求》は【餓鬼王 グレイロード】が伝説級クラスまで成長すれば獲得していたスキル。漏れなくラーニング能力持ちで素ステや技量が高く戦術とか使い出すゴブリンの軍団が被ダメ回復与ダメ回復を持つという地獄。それでも【妖精女王】に一掃される気もする。

吸血シーン入れるか迷ったけど後々の為に入れといた。時間かかってる割にいつもより短くてごめんよ。
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