やはり交易都市でもあるからなのか、ライゼニッツに入る際そこそこ厳重に身体検査と誰何を受けた。
エイラがアインドラ家の紋章を出して吸血鬼の特徴も見せた事であまり時間を取られる事無くライゼニッツに入る事が出来たが。やはり身分という物は偉大なのだなぁ。
目的のライゼニッツに入る事が出来たので、パーティーはそのままに一度コバルトと分かれる事にする。一緒の宿屋を取ったので用事があれば宿屋の方に言伝を頼んでも良いだろう。
「んじゃまぁそんな感じで。帰りは何時になるか決まってないんだよな?」
「えぇ、可能な限り早めますが正確に何時依頼が完了するかは分かりません」
「まぁ暫くはここにいるよ、帰りの目処が立ったら教えてくれ。行くか、フライクーゲル」
そう言って蒼のマスケット銃を背負う少年は人混みの多い大通りへと歩いていった。
「では私はフリーデ様の所在地を訪ねてきます」
「俺も付いていった方が良いか?」
俺の言葉にエイラは少し考え、首を振る。
「……いえ、一先ずは私一人で十分でしょう。ネビロスも折角ライゼニッツまで来たのですから市場等を覗いてみては?」
先程とは反対に、今度はそのエイラの言葉に少し頭を悩ませた。エイラを一人で行かせるのは少々心配だが、まだ見ぬベルディア・フリーデも流石に問答無用で殺しに掛かる訳ではあるまい。
チンピラに絡まれても俺なんかよりよっぽど軽々と捌くだろうし、そもそも治安が良いのか見た感じごろつきらしき輩は確認出来ない。ならそこまで過保護になる必要は無いだろう。
(何かエイラに対する心配が過剰になってる様な気がする……)
面倒くさい思考に小さく息を吐き、意識を切り替える。
「分かった。お言葉に甘えてちょっと散策させて貰うよ、何かあったら宿屋で合流しよう」
「えぇ、では後程」
こうして皆バラバラに、各自自由行動する事になった。さてどこに行こうか、消耗品や食料は買い足すとして霊都では見ないようなマジックアイテムを探してみるのも面白いかもしれない。
酒場や商店街での情報収集は楽しいが正直DINだけで事足りるしなぁ、後何か必要な物は……。
「どうしようか」
「『新しく従魔を増やすのはどうだ? 【従魔師】を手に入れてから結局私に対してのバフしか使えてないではないか』」
グラシャラボラスの指摘は尤もだった。【従魔師】を主軸にした戦闘スタイルが固まってないのもあるが、スタンピードに於いても【従魔師】としての強みを引き出せずにいるままで、事実現在所有しているジョブの中で尤もレベルが低いのも【従魔師】だ。
何故かは言うまでもない、肝心の従魔がいないのだ。グラシャラボラスは別枠計算として従魔を手に入れる機会が殆ど無かったものだから、今回はいいチャンスかもしれない。
「にしたってちょっと意外だったな、グラシャラボラスからその提案が来るとは」
「『ネビロスのエンブリオだからか、それともこの名に刻まれた性故かは知らんが。従魔が増える事に歓喜こそすれど嫉妬の様な浅ましい感情は湧いてこんよ、好きに選ぶといい』」
グラシャラボラス、ソロモン72柱にその名を連ねる悪魔であれば配下が増える事は好ましい事なのかもしれない。
従魔を取り扱う店を目指して歩きつつ、求める従魔の姿を思い浮かべる。
とりあえず狼と飛行系モンスターは除外だ、グラシャラボラスと役割が被る。人型モンスターの騎乗生物としてならアリだろうが初っ端から複数運用するつもりは無いし出来る気もしない。
なら候補は単体で戦闘に組み込めるモンスターだが、AGI特化型程ではないにせよ高速戦闘を得手としているのでタンク型の――例えば地竜の様な――モンスターも戦闘速度の差とかを考慮すると扱い辛いと思われる。
となると候補はそれなりの機動力を持つアタッカー、回避盾、またはバッファーやデバッファー辺りに絞られる。……難しいなぁ。
まぁ詳しい事は店員にでも聞くのが一番だろう。そう考えて、人混みが少なくなった路地に居を構える従魔専門店の前で足を止めた。
「おや、見ない顔だね」
店の戸を開けると黒縁眼鏡を掛けた青年が出迎えた。
「その手の紋章……マスターか、一応言っておくけどここはテイムモンスターを取り扱う店だよ。好きなだけ見ていってくれ」
そう言ってその優しげな青年は手元の手帳に目線を戻した。
うっかりグラシャラボラスを出したまま店に入ってしまったが特に何も言われなかったのでグラシャラボラスの意見も参考にしよう。
この店で取り扱われているモンスターは見たところ全てテイム済みであり、色鮮やかなジュエルが所狭しと飾られまるで宝石店の様相を呈していた。
【ブレイズウルフ】や【ファング・ボア】といった廉価の初心者用モンスターに始まり、【亜竜猛虎】や【ドラグワーム】の様な竜クラスの戦力となるモンスターもいる。……凄いな、【グレーターバジリスク】までいるのか。
しかし、良さ気なモンスターはちらほらいるがどれを選んでも後悔しそうな気がする。何と言うかピンと来ないんだよなぁ。
鑑定眼が無いだけな気もするが、グラシャラボラスからの反応も薄い。じっくりと見ていった方がいいな。
「『――む』」
グラシャラボラスが興味の声を漏らす。
「どうした、何かあったか」
「『このモンスターは……』」
グラシャラボラスに近寄り、黒い羽が指すジュエルを見やる。
中に入っているのは両腕に極彩色の翼を、両足に強靭な鉤爪と鳥の脚を持つ女性の身体を持つモンスター。所謂ハーピーと呼ばれるものだ。
そのハーピーがこちらに気付くと、笑顔を浮かべ手を振るように翼を動かす。完全にこちらを認識していた。
「あの、このモンスターって……」
「ん? あぁ、その子は【ハルピュイア】だな。【ハーピー】の上位種で自分の歌声に様々な力を乗せる事が出来る。滅多に人間の前に姿を現さないんだが運良く捕まえて、というか自分から捕まってくれてな」
知能が高いのか知らんが愛想が良いからジェム内の時間は止めないでいるんだよ。と青年は続けた。
ハーピー改め【ハルピュイア】はこちらをニコニコと見つめる。……ふむ。
「この【ハルピュイア】って支援魔法は使えますか?」
「おぉ、良く分かったな。歌声による支援の他にも色々な魔法が使える、勿論今君が言った様な支援系の魔法もね」
「やはり値は張りますかね」
「……あんた、世界中を旅する気はあるか?」
突然何の脈絡もない事を言われ、思わず振り向いた。その先にいた青年の姿は真剣な表情のそれで。
「えぇ、一応【旅人】ですから」
「その子は世界を廻りたがっていた、【ハルピュイア】のお願いを聞いてくれるなら、そうだな……260万リルって所か」
元値を聞くと【ハルピュイア】に掛けられていた値段は360万リルだったという。実に100万もの大幅値引きだが、260万であればギリギリ足りる。
そう考えれば後は迷う必要は無くなった。
「買いましょう」
◇――◇――◇
ライゼニッツの宿屋に戻った俺は右手のジュエルから【ハルピュイア】を出した。
【ハルピュイア】はキョロキョロと辺りを見渡し、俺を見つけると笑顔を浮かべてずいと詰め寄った。
『貴方が私を連れ出してくれるの? 私の言葉は分かる? 何て貴方を呼べばいい? 主? ご主人様? マスター? 私は何をすればいい?』
怒涛の勢いで疑問を投げ掛けてくる【ハルピュイア】に気圧されつつ返事を返す。
「とりあえず言葉は分かるよ、《魔物言語》持ってるから。一先ず君の出来る事を聞いても大丈夫か?」
『えぇ、何でも聞いて? 私に出来る事を教えたら名前を下さいな?』
「ん、名前は持ってないのか?」
『【ハルピュイア】は【ハルピュイア】よ、【クイーンハルピュイア】の血族でもそれは変わらないわ』
「んん?」
聞けば【ハーピー】や【ハルピュイア】というモンスターは女王種の【クイーンハルピュイア】を頭に据え、王国の様なコロニーを形成するらしい。
その中で魔法を扱う事が出来るのは【クイーンハルピュイア】の血脈を継ぐ者だけ。『クイーンが産んだ子は才能が他より遥かに多いってだけだから普通の【ハルピュイア】の中にも魔法を使える子はいるかもね』とは本人の弁だが。
であれば君も【クイーンハルピュイア】だったのかと問うと、
『【クイーンハルピュイア】になれるのは最も強い【ハルピュイア】だけだもの、それが決まるまでは皆【ハルピュイア】よ』
如何に【クイーンハルピュイア】の血筋であろうと群れと世界が認めなければ唯の【ハルピュイア】には変わりなく。
姉妹とも呼べる【ハルピュイア】達の蹴落とし合いに嫌気がさしてコロニーから逃げた様だった。
『だから主が私を選んでくれたのが嬉しいの。私に出来る事なら何だって教えてあげる』
俺に対する呼び名を主に統一したらしい【ハルピュイア】は自分の口から己が何が出来るのかを語る。
このハルピュイアが出来る事は大まかに分けて三つ。飛行と歌、そして魔法だ。
ハーピーやハルピュイアの身体構造の問題故か長距離飛行はほぼ不可能らしい。短距離飛行に特化して戦闘時は上空から奇襲染みた滑空を仕掛けて攻撃を仕掛ける、或いは持ち上げて上空から落とすといった攻撃を得手としている様だ。
歌に様々な効果を乗せられるとの事だが感覚や精神による物が大きく、例えば歌に身体強化の効果を乗せようとしても「若干力が強くなった気がする」程度しか変わらない。
反面、眠らせるだとか混乱させるといった相手の精神に直に作用する効果は歌に乗りやすく効果も高くなるという。あと純粋に歌が上手い。
最後に魔法だが、あの青年が言ったように様々な魔法が使えるのは事実だが得意とする魔法に偏りがある。風を用いた衝撃の緩和や矢避け、移動速度上昇など風属性に高い適性を持っているようだ。
正直思っていたより遥かに支援に特化している。これで味方がいない状態での蹴落としあいをせざるを得なかったというのだから投げ出したくもなるだろう。
『これで全部。私役に立てるかしら?』
「あぁ、お前を選んでよかったって心の底から思うよ。グラシャラボラスも仲良く出来そうか?」
「『心配性だな、別に何もしないさ』」
奇しくも最初に除外した飛行型モンスターになってしまったが後悔は無い。となれば早速名前を付けるべきだが……さて。
目の前の少女と呼んで差し支えない体躯の【ハルピュイア】は、緑を基調とした極彩色の翼と体毛、そして乱雑に切り揃えたセミロングの金髪と紅い猛禽の眼を持っている。
美しさすら覚える特徴的な姿だが、グラシャラボラスの様に一つの色で統一されていないのも困り物だ。
(いや、でもハルピュイアか……)
ふむ。
「なぁ、アエローとオーキュペテー、どっちがいい?」
『私の名前? 私のために考えてくれたのかしら。どっちがいいかな』
【ハルピュイア】は暫く悩んでいたが、やがてどちらにするか決めたのかこちらに笑顔を向けた。
『アエローが良いわ、私は今日からアエローよ!』
こうして一人の【ハルピュイア】――アエローが仲間に加わった。
◇――◇――◇
「……あの、これは?」
「うちの新しい戦力かなぁ」
時は移ろい、宿屋にエイラとコバルトが帰って来た。コバルトは俺達に配慮してか事前に別の部屋を借りていたようだが。
さて、最初から友好関係を築けている様な気がするアエローと更に仲良くなる為に料理を振舞ったのだが、想定よりも興奮した様子で料理を食べてえらく感心していた。アエロー曰く『こんな手の込んだ物作るって凄いなぁ』との事。
そんなこんなで食うだけ食ったアエローは俺のベッドで爆睡していた。料理を食べさせた時に食べられない物はあるか聞いたが、特に食えない物は無さそうだった。人間の口と喉、後多分人間と同じ胃を持っているのであれば確かに問題は無いのだろうけど。
で、だ。話が逸れたがエイラが帰って来たという事は依頼関係が何か進展したという事である。
寝ているアエローをジェムの中に引っ込め、帰って来たエイラをベッドに座らせて話を聞く。
「現在ベルディア・フリーデ様が住んでいる場所に向かって訪問したのですが、そこである人物と出会いまして」
そう言ってエイラは扉に向けて「どうぞ入ってください」と言い放った。
一拍を置いて部屋の扉を開けて中に入ってきたのは赤眼鏡を掛けたエイラと同じくらいの身長の女性だった。
困惑を滲ませる俺とグラシャラボラスにエイラは説明する。
「この人はベルディア・フリーデ様のお弟子さんだそうです」
「弟子?」
女性の正体に納得すると同時に新たな疑問。何故その弟子がこの部屋にやってきたのだろうか。
「貴方がネビロスさんですね、単刀直入に言いましょう」
その答えは弟子自身の口から語られた。
「私の師匠であるベルディア・フリーデが行方不明になりました」
驚愕を抑えきれない情報を、彼女は語った。
設定練って投稿に時間掛かってる間に総合UAが20000を超えました。ありがたい話ですが待たせてしまって申し訳無い……。
【ハーピー】及び【ハルピュイア】
・投稿遅れた理由の八割を占めていると言っても過言。
・最初からネビロスの従魔はハーピー系列にする予定だったが、ふと「ハーピーという種族がレジェンダリアの住民である可能性」に思い至る。
・幸いというべきか、wikiやら原作デンドロやら見たけどハーピーの姿は見えなかったのでオリ設定でハーピーを追加した。
・王国を築いているとは言ったものの、実状はクロアリのそれに近い。巣を作り女王がそれの一番上に君臨するというだけである。
・ギリシャ神話においてアエローとオーキュペテーはハルピュイアの姉妹とされている。アエローは疾風、オーキュペテーは速く飛ぶ女という意味を持つ。
・実はアエロプース(アエロー)とオーキュペテー、そしてケライノーで三姉妹であると解釈される事もあるが、ケライノーの意味が黒い女なのでネビロスは候補に入れなかった。