これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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遭遇するよ。


第四話 イベントが見れなくなる様な愚行は控えよう。

 

 

「次はどっちに?」

 

「この先の分岐を左に」

 

 その後も大水流から逃れつつ、エイラの指示に従って順調に地下水脈を攻略していった。

 エイラによると全体の七割は踏破したとの事、着々と近づくゴールに安堵の息を漏らしながら天を仰ぐ。水流から逃げ回っている最中、数分ほど間が開いている時に疲労は癒えたが焦燥感は募るばかり。

 

 こんな身に迫る焦りを覚えたのはいつぞやのゲームでテルモピュライがラストダンジョン攻略中に寝落ちしたとき以来か。一瞬でも気を抜けば死ぬという点ではどっこいどっこいかもしれない。

 足早に分岐路を左に行き、直進。先程まで自分達がいた通路を水が満たす音も心身をすり減らす要因の一つだろう。

 

「あともうちょいか、この先は?」

 

「十字路に出るのでそこを直進して――」

 

「――ヴァウ!」

 

「いえ、左に曲がりましょう!」

 

 後ろからの危機を察知したグラシャラボラスの声を聞きエイラが行き先を変え、俺が全力でエイラの指示に従う。

 何度も繰り返してきたこの作業にも幾分慣れてきた。

 

「修正ルートは!」

 

「この先を右に曲がれば後は直進で地底湖に辿り着きます!」

 

 それはつまりこの地下水脈がもうすぐ終わりを告げるという事、グラシャラボラスが沈黙しているのを確認し俺はそのまま洞窟内を駆けていく。

 足元の泥濘に足をとられることも無く走り、T字路に差し掛かった所を右に曲がる。エイラの言った通り分かれ道の無い直線の通路をそのまま走り――

 

 ――グラシャラボラスが咆える。

 

「……うっそだろおい」

 

 ほんの一瞬だけ足を止めてしまった。すぐに足を動かすがその足取りは重い。

 数秒後の未来を鮮明に思い描いてしまった為だ、ここまで来て死にたくは無いが、それも絶望的に思えてきた。

 

「走って!」

 

 エイラが俺の手を握り、今までのスピードとは段違いの速さで洞窟を駆け抜けていくが背後の水流から距離を離す事は出来なかった。

 

(やっぱ俺足引っ張ってたのか……)

 

 ――何やってんだ俺は。

 

 ガチで一番のお荷物じゃねぇか、ここまで来たのに俺が足を止めたせいでまた最初から?

 敗因はエイラが依頼した俺のステータスが低かった事?

 

(……冗談じゃないッ!)

 

 そんなのはごめんだ、情けないにも程がある。

 グラシャラボラスに目を向ける。情けない事ばかりだが、俺が自分の足で走るより、エイラの手を煩わせるよりよっぽどマシだ。

 だから、乗せてくれグラシャラボラス。

 

 返事は是であった。

 

「エイラ! グラシャラボラスに乗せてくれ! 多分そっちの方が早い!」

 

「そん、いえ、分かりました!」

 

 一瞬逡巡するも即座に決断を下したエイラは繋いでいた俺の手を思い切り引っ張り前方に投げ飛ばす。落ちる先にはグラシャラボラス。

 

「ガウ!」

 

「助かったぜ相棒! 先に行けエイラ!」

 

 上手い事グラシャラボラスの背に乗った俺はエイラに、遠慮せず全速力で目的地に向かってくれと言い、彼女はそれに頷いた。

 幾つかのスキルを使ったのか一瞬にして一本道を駆け抜けていったエイラに続くようにグラシャラボラスもスピードを上げる。

 

 視界はまだ代わり映えしない洞窟を写す。エイラの姿は既に無い。滝の様な音がする。後ろは見ない。体を相棒に密着させる。更にスピードを上げる。音が少しずつ近づいてくる。見えてきた。光――

 

 ――抜けた。

 

 背後で展開された終の<アクシデントサークル>に鉄砲水が大挙するのをよそに、俺は目の前に広がる景色に心を奪われていた。

 俺の眼に映るのは宝石の様な美しさの湖。所々に積み重なった砂の足場が点在し、その至る所に根を下ろす、水晶の様な輝きを放つ幾つもの樹を見つけた。

 ここがエイラの目的地か、と考えグラシャラボラスから降りた俺はエイラの姿を探す。

 

「こっちです、ネビロス」

 

「エイラ?」

 

 俺を呼ぶエイラの声に、姿を確認しようと足を進める。

 中央の一際大きな樹に背中を預け、脱力しきった様子のエイラを見つけた俺はどうしたのかと駆け寄った。

 

「先程水流から逃げた際に使用したスキルの副作用です、数分で元に戻るのでお気になさらず」

 

「エイラの自己強化手段って軒並み副作用重くない……?」

 

「人より丈夫でリスクよりリターンを優先するだけですよ。それより少し休みましょう」

 

 ここにはアクシデントサークルは発生しないのかと聞くと、アクシデントサークルが発生するだけの自然魔力が溜まる前にアンブロシアに貯蓄されるので心配要らないとの事。

 この場に来た瞬間に俺の背後でアクシデントサークルが展開されたのもこの空間にアクシデントサークルを作れるだけの自然魔力が無かったが為に、その手前の通路を終着点としてアクシデントサークルが作られたからだという。

 それならば一安心だと零し、俺は座り込んでこの美しい地底湖に《旅の記録》で光の柱を立てる事にした。

 

 

 

 

 

 数分後、グラシャラボラスを撫でている俺に目を向けエイラが立ち上がる。

 

「おん、もう良いのか?」

 

「えぇ、体力は粗方回復しました。ネビロスのカバンにアンブロシアの実を詰め込んで頂けますか? 私の方でも幾つか採りますので」

 

「あいあいさー」

 

 立ち上がり、グラシャラボラスと共に転々と根差すアンブロシアの実を付ける樹に向かう。途中でエイラから「熟している実以外は採ってはいけませんよ、若い果実が無いとアンブロシアの樹は自然魔力を吸収できなくなるので」という注意を頂いた。

 幾つか残さねばこの地底湖も鉄砲水の餌食となってしまう。それは避けねばなと熟していると思しきアンブロシアの実をアイテムボックスに入れていく。

 

 そんなこんなで俺達がこの地底湖を一周する頃にはそこそこの数のアンブロシアの実が手に入った。

 エイラの集めたものをアイテムボックスに放り込み、最後の一個を仕舞う直前にふと疑問に思った事を聞く。

 

「そういやこれって美味いのか?」

 

「えぇ、適切な処理を施せばそこらの果実を容易く凌駕するほどには」

 

 専ら錬金術や快復薬製作に使われますがねと言うエイラの言葉を聞き、手に持っている一つのアンブロシアの実を見る。

 ……回復薬に使われるのなら体力回復の足しにはなるだろうか。

 

「むぐっ」

 

「……ネビロス?」

 

 何を、とエイラが言い切るよりも早く俺はアンブロシアの実を齧り飲み込んだ。

 

「なっ、早く吐き出して下さい!」

 

「すまんすまん、ちょっと回復の足し――に?」

 

 慌てて俺の手からアンブロシアを奪い去るエイラに軽く謝る。直後視界が歪み始めた。

 吐き気と若干の倦怠感が遅れて訪れ、危うく体勢を崩しかけた所をグラシャラボラスが支えてくれた。

 

 グラシャラボラスに寄りかかりながら原因を究明する為に己のステータス画面を開いて――即座に原因を発見した。

 

「……【過剰回復】?」

 

「アンブロシアは言わば自然魔力の塊です、先にガス抜きを行わねば一口食べただけで酷い目に合いますよってもう手遅れですが。もう気絶した方が楽ですよ、後は私が何とかしますので」

 

「すまねぇ……」

 

 正直びっくりするくらい体調が悪い。あぁクソ、食い物系のトラップはテルモピュライとのTRPGで嫌と言うほど食らったんだがなぁ、学習していない。

 何とかグラシャラボラスの背中に乗り込み意識が朦朧としかけてきた頃、「……魔力抜いておいてあげますか」という声と共に二の腕付近に痛みを感じ――

 

 ――そこで俺の意識は途絶えた。

 

 

◆――◆――◆

 

 

「うぷっ、胃もたれしそう」

 

 気絶してしまったネビロスを背負うグラシャラボラスがこちらを見上げてくるが気にするなというジェスチャーを返す。

 あのままだと帰る前にネビロスの身が持たないと判断しての行動ですので後悔はありませんよ、危うく私も【過剰回復】の状態異常を貰い掛けましたが。

 

「アンブロシアの秘める魔力量は恐ろしいものですね……」

 

 そう呟き私の手に収まるネビロスが口にしたアンブロシアを見る。……これは帰ったらちゃんと魔力を処理してネビロスに振舞いましょうか。

 そんな事を考え、グラシャラボラスと共に地底湖を後にする。

 

 帰り道は運が良かったのか、アクシデントサークルによる大水流が来たのも数回だけであり、そのどれもが近くの横穴に余裕を持って回避出来るものだった。

 

「中々に運がいいですね。何事も無く帰れそうです」

 

 想定していたよりもずっと早く地下水脈内部を抜け、入口である滝の裏側へと辿り着く。魔法で土を操り流水を押しのけ、グラシャラボラスが通れるほどの大きさに広げる。

 私は直射日光を避けるためにフードを被り直してこの地下水脈から外へ出る。グラシャラボラスも私の後に続き――周囲を警戒する。

 

「――貴様ラカ? 俺ノ配下ヲ殺シタノハ」

 

 聞き慣れぬ金属を擦り合せた様な声に何者かと振り向く。

 そこにはまるで最初からここにいたとでも言いたげに湖の辺で座る、巨人族ほどの体躯を持つゴブリンの姿があった。そして私達を取り囲む数十匹のゴブリンの群れも。

 

「モウ一度聞クが、貴様ラダナ?」

 

 その巨大なゴブリンの問いは形こそ答えを求めているものだったが、その目は何かを確信しているかのように細められる。

 ここまで来て戦闘の可能性が出てきましたか……。グラシャラボラスに目を向けいざと言う時の準備をさせる。

 

「えぇ、目的を達成するのに邪魔でしたから」

 

「ソウ、カ。ヤハリ……。目的ト言ウノハ、ソレカ?」

 

 はっきりとお前の配下を殺したと口にしてもその表情は変わらずに、巨大なゴブリンの眼は私の持つアンブロシアに向けられる。肯定として頷きを一つ返す。

 周囲のゴブリンが殺気立っていくのを抑え、巨大なゴブリンは思案気に口元に手を当てる。やがて何らかの結論が出たのか口元に当てていた手を私の方に向け、言った。

 

「貴様ラハココカラ無傷デ帰リタイカ?」

 

「……? えぇ」

 

「デ、アレバ、ソノ果実ヲ置イテユケ。ソウスレバ貴様ラガコノ森ヲ出ルマデノ間貴様ラヲ襲ワナイト約束シヨウ」

 

 そいつは私の持つアンブロシアを求めてきた。少し思考する、が……ここで衝突するよりかは遥かにマシだろう。

 

「私達を襲わない旨、本当でしょうね」

 

「アァ」

 

「であればこれはこの場に置いていきます、そのゴブリン達を引かせてください」

 

「イイダロウ」

 

 散レ、という巨大なゴブリンの言葉に、私達を囲んでいたゴブリンの群れは姿を消していった。

 アンブロシアを湖の縁側に置き、その巨大なゴブリンから距離を取って霊都への帰り道に向かう。

 

「……貴方は一体何者なのですか?」

 

「フム、人間共ハ俺ヲ【餓鬼王 グレイロード】ト呼ンデイタナ、デアレバ俺ハソレナノダロウ」

 

 これで満足か? とでも言いたげに目を細めるゴブリン――【グレイロード】に私は「そうですか……」としか返せなかった。

 その後森を抜けるまで、【グレイロード】の言った通り一度もモンスターと相対することは無かった。

 

 どこか薄ら寒いものを覚えながらも、私はネビロスを乗せたグラシャラボラスを連れて霊都へと向かう足を速めた。

 

(あぁ、ネビロスに振舞う分が無くなりましたね。後で家にある物を漁りましょう)

 

 

◆――◆――◆

 

 

『ご当主様、ただいま帰還致しました』

 

『おや、今までどこに行ってたんだい?』

 

『アンブロシアの果実を採りに行ってきました。大量です』

 

『うん?』

 

『あとお客人がお目見えです、歓迎の品を作るので食料保存庫の物を使わせて頂きます』

 

『待ちたまえよ、君自分の立場分かってるかい? というか料理作れるの?』

 

『侍従たる者料理程度作れなくて何としますか、私はご当主様のご息女のメイドですよ』

 

『うーん、私の記憶が正しければ私の娘はエイラという名前の少女が一人だけだった気がするんだが』

 

『もう少女って年じゃないです。止めて下さい』

 

『うーむ、今君の部屋で気絶してるのはマスターだろう? その設定で彼に近づいたんだろう、一応後で挨拶でもしようと思ってたけどその設定私も使った方がいい?』

 

『いえ、結構。起きたら私のほうから話しますよ。で、食料の使用許可は』

 

『せっかくだ、美味しい物を作ってあげなさい。刃物の取り扱いには気をつけ給えよ』

 

 




オリジナル要素。
【過剰回復】
・HP版とMP版の二種類がある。
・基本的には濃縮ポーションをイッキするとかで稀に掛かる。
・HP版【過剰回復】は末端の痺れや筋肉の強張りによる移動速度減少が常時掛かり、MP版【過剰回復】は視界の歪み、酩酊、衰弱が気絶するまで掛かり続ける。
・どちらも状態異常を解くにはそれ用のエンブリオのスキルか【快癒万能霊薬】を服用する、または余剰分のHPもしくはMPを全て消費すればオーケーである。ポーションを飲んでも逆効果なので大人しく魔法ブッパするか自傷を繰り返そう。
・【過剰回復】とは特に関係ないが吸血鬼による【吸血】は対象のHP、MPを任意で吸い取れる。

【餓鬼王 グレイロード】
・かつて<アクシデントサークル>に巻き込まれた挙句【妖精女王】の広域殲滅魔法を盗み見て恐怖心と生存欲を手に入れた流れの【ゴブリン・ジェネラル】。
・その後も幾度か<マスター>や<ティアン>の戦いを盗み見、知識を吸収し技術として配下のゴブリン達に還元するを繰り返しているといつのまにか【UBM】になっていた。ランクは逸話級。
・正直名持ちになった事で自分が死ぬ可能性が爆上がりしたんじゃないかと思っているが王と呼ばれるのも気分が良いので現状維持。
・元々仲間の死には無頓着な方なので死んだゴブリンの群れよりアンブロシアの実を手に入れた事の方が興味を引かれている。

オリジナルエンブリオを考えるのと同じくらいオリジナル【UBM】を考えるのはデンドロ読者の嗜み。
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