これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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ご褒美貰うよ。


第五話 クエスト達成報酬を頂こう。

 気絶してから放り込まれた謎の空間で俺は何をするでもなく寝転がっていた。

 グラシャラボラスは大丈夫だろうか、エイラはあの後地下水脈を越えられたのだろうか、様々な思いが浮かんでは消えていく。

 

 意識が現実の方に投げ出されていない以上、まだ俺はデスペナルティを受けていないだろうがそれもエイラとグラシャラボラスの頑張り次第になってくる。

 

(……つくづくあいつらには迷惑掛けちまったな)

 

 今回の依頼を通して気付いたのは、圧倒的に俺自身の力が足りない事。

 戦闘はエンブリオやテイムしたモンスターに任せる? 大いに結構、元よりその様に運用するのがセオリーだからな。であれば敵はどう動く? 決まっている、本体を叩くだろう。どれだけ厄介で強大で悪辣な仲間を揃え物量で押し潰すとて、俺が死ねばそれは最早意味を成さなくなる。

 テルモピュライがああも戦闘職を取ることを進めてきた理由がやっと分かった。

 

(出来る事が、手数と手段が必要だ)

 

 真の意味で護身術程度で甘んじていればいずれ必ず限界が訪れる。グラシャラボラスと共に戦闘に参加できる力が必要だ。

 

(どこかのタイミングでテルモピュライに会いに行く必要があるな。その前にエイラとグラシャラボラスがどうなっているかを確認するのが先だが……おん?)

 

 頭に霞が掛かったかのように思考が鈍り、この世界から抜け出す様な感覚を覚える。

 表の俺が目覚めようとしているのだろう、この空間に来たのは初めてだが己の思考を整理するには中々にいい場所であった。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 コトコトと湯を沸かす音で目が覚める。視界に入った見慣れぬ天井と、近くの机の上に置かれている装備品の類、そして俺の体を覆うフカフカの布団でレジェンダリアまで無事に帰って来れた事を悟る。

 それが分かればわざわざ飛び起きる事も無いだろう、もう少しこのベッドに身を預けていたい。

 

「ヴァフ?」

 

「あー、グラシャラボラス、無事だったようだな。良かった良かった、……エイラは?」

 

「ここにおりますよ、ネビロス。快適な目覚めかと思われますが体の具合は如何でしょう」

 

 エイラの声を聞きゆっくりと体を起こす。ベッドの上によじ登って爪で布団を傷つけかねないグラシャラボラスをそっと降ろし、体の調子を確かめる。

 首を動かし、腰を動かし、指、肩、腕と来た所で右の二の腕に違和感。袖を捲って確認するとそこだけ執拗に包帯を巻かれていた。

 

「どうしました?」

 

「いや厳重過ぎない? 何があったの?」

 

 エイラが沸かした湯をティーカップに入れながら何事か聞いてきたので右腕を指差して逆に何事かと聞くも「ネビロスが気絶している間にうっかり引っ掛けてしまいました」と作業を続けるエイラ。まぁ大した事無いなら良いか、と律儀にベッドの下で俺を見るグラシャラボラスを撫でてやる。

 

「お前も頑張ってくれたよ、ありがとな。……ところで依頼についてなんだが」

 

「何でしょう」

 

 エイラが淹れてくれた紅茶と思しき飲み物を受け取り、礼を言う。ここら辺は流石本職と言うべきかかなり手馴れており、何となくメイドスキーな友人殿の気持ちがが伝わってきたのだった。茶がうめぇ……。

 

 それはともかく。机の上にある俺のアイテムボックスに手を伸ばし中身を確認する。大量の木の枝に埋もれるようにして少量のモンスターの素材、そしてそこそこ採ったアンブロシアの実が目に入る。結構乱雑だがアイテムボックス内部はそれぞれのアイテムに保護機能が働いているので木の枝でアンブロシアの実が傷つく事は無い。

 そんな木の枝倉庫と化した俺のアイテムボックスから一つアンブロシアの実を取り出してエイラへ差し出した。

 

「これで達成かな?」

 

「――えぇ、私の依頼を達成して下さりありがとうございます」

 

 俺の手からアンブロシアを受け取ったエイラは深々と頭を下げた。これでエイラに頼んだお嬢様とやらが喜んでくれれば幸いなのだが、と考えた所で一つ思い出す。

 

「そういや俺が食った奴は? 流石に齧りかけは拙かったか?」

 

「あ、いえ、必要なのはアンブロシアの内包する自然魔力ですので別に食べかけだろうと問題は無かったのですが……」

 

 少し言いにくそうにしていたエイラの口から語られたのは俺が気絶してからの事の顛末。

 運が良かったのか帰りの地下水脈は大人しく、すぐに元の入口までやってきたのだがそこで待ち構えていたのはこのレジェンダリアではそこそこに有名な【UBM】である【餓鬼王 グレイロード】、何らかの手段で俺達がゴブリンの群れを殺したのを察知してきたらしい。即戦闘には至らず交渉によって何とか衝突せずに済んだらしいがその時に【餓鬼王 グレイロード】に俺が一口食ったアンブロシアを取られたらしい。

 【餓鬼王 グレイロード】が死した仲間の為に形振り構わず敵を殺すような奴だったら、交渉の材料としてアンブロシアが見える位置に無かったらかなり危なかったという。

 

 俺としては初【UBM】を見逃した事に驚愕を隠せないのだが、その場で俺が起きていても多分要らん事しただろうし結果オーライか……。

 喜ぶべきなのかなと微妙な表情をしている俺に聞こえるように咳払いをしたエイラは手に持ったアンブロシアを布で包んで懐に仕舞うと、エイラの背後にある銀のトレイを俺の前まで運んできてくれた。

 

「手作りのアップルパイです、あーんは必要ですか?」

 

「こっ恥ずかしいにも程があるでしょ、自分で食えるよ」

 

 俺は惰性で掛けていた布団から這い出しベッドの縁に座る。

 エイラが切り分けてくれたアップルパイを受け取り、アップルパイの破片を零さないように口に運ぶ。

 

「……うめぇ」

 

 当然だが現実の方でのコンビニの物の数倍美味い。生地を必要以上に多くせずリンゴの方をメインに作られてるのもポイントが高い。

 紅茶のおかわりを注いでくれたエイラに凄く美味かったと伝えると「頑張って作った甲斐がありました」と微笑んだ。

 

 

 

 

 

 そんなこんなで弛緩しきった空気の中、扉を開けて一人の人物が入ってきた。

 

「やぁやぁ、ご機嫌如何かな? ネビロス君」

 

 銀の長髪を流しモノクルを掛けている好青年といった風貌の彼は貴族が着る様な煌びやかな服を着こなし、朗らかな笑みを浮かべこちらに歩み寄ってくる。

 貴族が着るような、とは言ったが恐らく彼は貴族そのものだ。モノクルを付けているが執事には到底見えないのでエイラの言っていた吸血鬼氏族の当主の一人なのだろう。

 なのだろうがそんな人物はここまでフランクに接してこないのではという疑問が脳裏を駆け巡る。

 

「一応動ける程度には回復しましたが……えと、貴方は?」

 

「ん、言ってないのかいエイラ。まぁいい、私はガルシア・ヘキサ・アインドラ。姓はアインドラで名はガルシア、氏族の第六当主であると同時にそこのエイラの父親だ。ガルシアさんなりガルシア殿とでも呼んでくれ給え」

 

「随分なお偉いさんなのにそんな軽くて良いのか……」

 

 というか、今何と?

 

「エイラの父親? でも、当主で娘って事は……あー? そういう事?」

 

「概ね君の思っている事に間違いはない筈だ、エイラ・アインドラがこの子の本名であり所謂お嬢様だ。ついでに言うとエイラに側仕えは一人もいない」

 

 つまる所、エイラは身分を偽っていたのだ。最初に出会ったときからずっと。

 ただ、それを聞いても俺はあまり驚きはしなかった。いや、お嬢様が何で街中普通に歩いてたのとかお嬢様が【奔走輸血】とか言うデメリットありのアイテム持ってて良いのかとか、思い返してみると予想外にアクティブだった所が幾つかあって驚いてはいるが。普通に騒ぐほどの事でもなかったと言うべきか。

 

 エイラがお嬢様だった、この事を知って心中に沸き上がるのはやはり何故エイラがアンブロシアを求めていたのかという事。

 最初にエイラに聞いた時は「詳しいことは言えません」と言われたが、これに関してはガルシアが答えてくれた。

 

「まず、エイラがアンブロシアの実を手に入れるためにマスターに協力を依頼しようとした事。これに関しては完全にエイラの独断だ。が、私が対立している他の吸血鬼氏族との争いで有効打を与えられるのがアンブロシアの実という事をエイラは知っていた。だから他の氏族に先んじてアンブロシアの実を採りに行ったんだろうが……正直無茶が過ぎるね。アンブロシアが長い間蓄えられた自然魔力の塊とは聞いたかい?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「上位の薬剤師や錬金術師の手を借りる事になるが正しく加工することでアンブロシアの実からは高純度の魔力の結晶体と【ネクタル】と呼ばれる代物を作ることが出来る。これが向こうの氏族に対する脅しと交渉の材料になり得るんだ」

 

 ネクタル、ネクタールとも呼ばれるそれは多くの場合、神が飲む生命の酒または不老不死の霊薬を指す。普通に作れる以上神しか飲めないという制約は無いだろうがそれを用いて脅し?

 

「ここから先はレジェンダリアの恥部を晒すようで頂けないのだがね、私が対立している吸血鬼氏族は<マスター>排斥派なんだ。【妖精女王】の意に大いに反するから何とか過激なことはするなと言ったのだが向こうがこちらを蛇蝎の如く嫌っていてね……最近ではなにやら怪しい宗教団体に投資しているという噂も聞く。私個人としてはマナーのなってない一部のマスターはどうなろうと知ったこっちゃ無いが国として考えると話は別だ。このままでは奴は国の成長を阻害しかねない」

 

 本当に侭ならないものだよ、とガルシアは苦虫を噛み潰したような顔を浮かべ、そんなガルシアからエイラが言葉を引き継ぐ。

 

「そこで今度の有力な貴族が一堂に会するとある会合で相手方の手足を縛って転がしておこう――もちろん物理的にではありませんよ?――という結論に至ったのですがどうしても手札が足りないと言う父の言葉を聞いてアンブロシアを採りに行こうと思い至ったのです」

 

「発想の飛躍が過ぎるよねぇ。で、ここからが本題なんだが」

 

 エイラの突拍子も無い行動にガルシアは疲れを滲ませた溜息を吐いていたがすぐに顔を引き締めこちらを見やる。

 

「本来はエイラが受け取ったアンブロシア一つで依頼は達成されたと思うんだ。だからこれはエイラの依頼とは全く関係ない提案なんだけど、ネビロスの持つアンブロシアの実を全て貰いたい」

 

 ほう、なるほど?

 確かに先程エイラにアンブロシアの実を渡した時点で依頼が達成されたのは俺のレベルが大幅に上がっている事から確認済みだ。そこに関与する術は無いからあくまで交渉で残りも欲しいと、そういう事か。

 

「勿論タダでとは言わない、それ相応の金なりアイテムなりを渡そう」

 

「……幾つか条件を約束してくれるのなら」

 

「聞こうか」

 

「まず俺はまだエイラの依頼達成による報酬を貰っていません、アンブロシアと交換する物はエイラの依頼の報酬とは別でお願いします」

 

「もちろん、そちらも有耶無耶になどしないさ。先にエイラが世話になった報酬を渡してから交換にしよう」

 

「次に、アンブロシアを全て渡す際アンブロシアから作成可能な魔力の結晶体か【ネクタル】を一つ頂きたい」

 

「いいだろう。約束する。ただ製作過程の都合上渡すのは一週間後になってしまうが構わないかな?」

 

「はい。それを約束してくれるのであればアンブロシアを全て渡します」

 

 アンブロシアが手に入るのなら安いものさ、とガルシアが部屋に備え付けられているベルを鳴らすのを見てもっと強請れたか? と一瞬考えたが首を振ってその思考を追いやる。

 話を聞いていた限り相手はレジェンダリア有数の大貴族だ。欲を掻けば待つのは死、相手の気が変わらぬよう謙虚に行かねばなるまい。

 

 とは言え俺の最大の不安点である「依頼報酬? さっき交換した時渡したしええやろ」は免れたので個人的には勝利である。

 そうこうしている内にきっちりとメイド服を着込んだ数人の女性がこの部屋に入ってきた。恐らくこっちは本物。

 

「まずはネビロス君がエイラの無茶に付き合ってくれて更にアンブロシアの実を持ち帰ってきてくれた謝礼としてこれを渡そう」

 

 ガルシアが軽く手を挙げるとメイドの一人がアタッシュケースの様な硬質なカバンを持ってくる。「お確かめ下さい」と俺の前に差し出されたそれを開くと中身は多種多様な宝石と相当数の各種ポーションが入っていた。

 

「その宝石類は売れば20万リルはくだらないだろう、出所を聞かれたら『神造ダンジョンで見つけた』と言えば納得する筈だ。そっちのポーションも有用に使ってくれ給え。そして……」

 

 宝石類とポーションをありがたく俺のアイテムボックスの方に移し変えているともう一度ガルシアが手を軽く挙げる。

 二人目のメイドが手提げカバンを俺に渡し、宝石類が入っていた空のカバンを回収する。

 

「それはうちで箪笥の肥やしとなっていた防具一式だ。エイラの話を聞いてネビロス君には鉄はなるべく少ない方がいいだろうと判断し、革と布をメインに機能性を重視した軽装備にした。多分武器よりかは防具の方がいいだろうと判断したのだが、どうだろうか?」

 

 立ち上がり初心者装備からその軽装備――【追い風】一式を試着する。

 新緑を彷彿とさせる色合いのそれらは結構な割合で革が使われているにも拘らず、関節の稼動域を全く阻害する事無く軽やかに動くことが出来た。

 

「どうも何も、凄いですよこれ。そこらの店で売ってるものよりも断然使いやすい、タンスに封印されてた物とは思えない」

 

「それは良かった、何か無いかと探した甲斐があったというものだよ。それじゃあ残りのアンブロシアについての話し合いをしようか。単刀直入に聞こう、何が欲しいかな? 金か宝か防具か武器か、望む物はなんだろう。私は何でも授けよう」

 

 演劇の舞台に立ったかのように高らかに宣言し、こちらを見やるガルシア。その笑みは何を言うのか楽しみにしているのか、はたまた俺が何を言うのか予測しているのか。

 ガルシアが述べた金、宝、防具、武器、どれも簡単に取り揃えられるものであるのは理解している。向こうもある程度の無茶は聞き入れてくれる様子だし色々なものを要求するのもありだろう。

 

 だがすまない、先程目が覚めてエイラから何があったのか聞いたとき、一番欲しいものは決めていたんだ。

 

「――情報を」

 

 俺は真正面にガルシアを見据え答える。

 

「俺の求める限りの情報を貰いたい」

 

「何の?」

 

「この近辺に存在する全ての【UBM】について」

 

「……なるほど、いいだろう」

 

 ガルシアは愉快な物を見たとでも言うように、口元に貼り付けていた笑みを深めたのだった。

 

 




吸血鬼のオリ要素強い気がするけど二次創作だし是非も無いよね。

高純度の自然魔力の結晶体
・ぶっちゃけると【清浄のクリスタル】。幾つか作り方はあるが材料によって質が変わる。
・アンブロシアの、害にすらなり得るほどの莫大な魔力を圧縮して形成するという脳筋的レシピが必要。副産物で固め切れなかった液体が抽出される。
・【ネクタル】とは味噌と醤油の様な関係。

【ネクタル】
・実質【快癒万能霊薬】みたいなとこある。アンブロシアの悪い所は全てクリスタルの方が魔力と共に掻っ攫っていったので完全に無害な回復アイテムとなった。
・状態異常を即時回復し、一定時間割合で最大MPを上昇させ、MPの自然治癒力も向上する。
・特定の種族に致命的なダメージを与えるらしい。
・【清浄のクリスタル】とは豆腐と豆乳の様な関係。
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