これまでの旅路を記録に残しますか?   作:サンドピット

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詳細聞くよ。


第七話 おつかいを受けよう。

 ゲームのクエスト、と聞くとNPCの悩みを解決したりギルドのクエストボードから好きなものを選んだり、とまぁシステムが予め決めた物をこなすというイメージが強い。

 だがデンドロではプレイヤー、<マスター>同士でのやり取りでもクエストというものは発生する、とは言えシステムが拵えた物に比べれば幾分簡略化されているが。

 

 依頼人が報酬を用意し、それを求めて人が依頼をこなす。酷くシンプルで原始的な構造だ。分かりやすい。

 まぁ何が言いたいのかといえば、テルモピュライの提示する報酬は俺の腰を上げるには十分に過ぎるという事だった。

 

「それが渡す物?」

 

「あぁ、中に希少なアイテムが入ってる」

 

 テルモピュライが取り出したのは酷く頑丈そうな肩提げカバン、俺の持つ初心者用のそれとは遥かに耐久力が高く見えるアイテムボックスをテルモピュライは俺に渡してきた。

 カバンの中身を覗こうとし――やめる。今する事ではないし印象も悪いだろう。代わりにテルモピュライにこの依頼の詳細を聞く事にした。

 

「期限は?」

 

「なるべく早い方がありがたいが、ネビロスの都合で構わない。遅くてもこっちで一ヶ月以内でお願いしたいけどね」

 

「これはどこに持っていけばいいんだ? 流石に国外となると時間が掛かるんだが」

 

「あー少し近いな。カルディア国境付近の山脈に住んでる奴に届けて欲しい。無理そうなら受けなくても構わないが……」

 

 テルモピュライが気遣うように俺を見る。が、まぁ俺の中で既に答えは決まってる。わざわざ俺に頼んだという事はよほど手が離せない用事があるのだろう、それも凄く重要な。であれば俺は、俺に預けてくれるテルモピュライの頼みを聞くべきだろう。

 あとは、俺以外にも任せられる奴はいる筈だがその中でも俺に依頼してきたというのが嬉しかったりするのも、乗り気な理由の一つだ。自意識過剰かも知れんがね。

 

「いいよ、受けよう」

 

「助かるよネビロス、依頼が終わったらそのカバンあげるからうまく使ってくれ。行商人なら必要だろ?」

 

「……先行ってる」

 

 俺が依頼を承諾した事にテルモピュライが安堵していると、後ろでペルシアがギルドの奥へ歩いていった。その様子にプラタイアは眉を顰め、サラミスはどうしようかとテルモピュライを見ている。

 当のテルモピュライはしょうがない奴だと言わんばかりに溜息を吐く。

 

「つまらなかったのかね?」

 

「いや、そんな事でばらける奴じゃないんだが……すまんなネビロス、後であいつにはきつく――」

 

「いいよそんな事、テルモ達は何か用事があってここに来たんだろ? 依頼の方は早めに済ませておくから」

 

 嫌な流れになってきた辺りでテルモピュライとの会話を切り上げ、グラシャラボラスを引き連れてギルドから出る。テルモピュライは俺の焦燥に気付いただろうか? 急に話を切った事に腹を立ててなければいいのだが。

 ペルシアは俺の事が苦手なのか、はたまたテルモピュライが俺と話している事に腹を立てたのかは知らないが、気に障る事があったのならば次の機会にでも教えてくれたら嬉しいのだがなぁ。

 

 今考える事ではないかと思考を入れ替える。

 

 とりあえずは優先して【槍士】、そして出来れば【旅人】と【行商人】のレベルを上げて、総合レベルが80に届くくらいには強くなっておきたい。どのルートを通ろうが森を抜ける必要がある為だ。

 何故ここまで森を警戒するのか、答えはとても簡単だ。全方位の森の深部に徘徊型の【UBM】が複数存在するからだ。逃げるだけなら【餓鬼王 グレイロード】は問題ないだろう、どちらかと言えば群の力に重きを置いているからグラシャラボラスに乗って形振り構わず逃走すれば逃げ切れはするだろうが……今の俺のステータスでは確実に逃げ切れない【UBM】がいる。

 

 【静界蜂針 サイレンサー】、俺が貰ったガルシアの記憶の中で討伐を諦めた【UBM】の一体である。

 

「……やっぱ情報って正義だよなぁ」

 

 そうしみじみと零す。一先ず今日は、夜になるまでは適当に森の浅い所や草原にでも行ってグラシャラボラスと狩りでもしようかと考えていると俺の目の前に警告文が出る。

 提示されたのは現実世界の俺の尿意、空腹の感知というもの。

 

「忘れてたや。すまんなグラシャラボラス、ちょっと行ってくる」

 

「ガウ」

 

 グラシャラボラスに軽く謝りをいれ、俺はログアウトした。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 夜。

 

 昼間ほどの活気は無いが、それでも多くの<マスター>とティアンが闊歩する霊都は淡い光を放つ光球によって照らされていた。

 晩飯を食いに行ったり疲れを癒すためにいい宿を探す彼らと異なり、俺はグラシャラボラスと共にガルシア・ヘキサ・アインドラの邸宅へと足を運んでいた。

 

「……証を提示願いたい」

 

「これで大丈夫か?」

 

「……確かに。どうぞお通りを」

 

 邸宅の門前で佇む明らかに暗殺者な格好をした門番――彼の眼も紅かった――に三日月と六芒星を象ったタリスマンを見せると、幾分柔らかくなった声音で門を静かに開けてくれた。

 彼に礼を一つ言って俺達は歩みを進める。

 

「……綺麗だな」

 

「ヴゥ?」

 

 現実世界の物よりも幾分大きい月の光に照らされる庭園に心奪われながら歩いているとグラシャラボラスが不思議そうに鼻を鳴らしているのに気付いた。どうかしたのかと首を傾げ――肩を叩かれる。

 体を硬直させた俺に、そいつはふふと笑い「驚きましたか?」などと言ってきた。

 

「……あんまびっくりさせないでくれ、エイラ。何事かと思っただろ」

 

「そちらのグラシャラボラスには気付かれかけたのが少し悔しいですが……仕方ありませんね。半日ぶりの来訪、心より歓迎します」

 

 そう言って俺の視界に入るように目の前に移動してきたエイラは白のシャツに蒼を基調としたゆったりとしたズボンと随分ラフな格好をしていた。令嬢が人目に触れる場所でそんな格好していていいのかと思わないでも無かったが俺が言う事でもないだろうと口を噤む。

 先を歩くエイラの後を付いていき邸宅内にお邪魔させて貰う。数人の使用人とすれ違うもエイラと一緒にいるためか奇異な視線を向けられるだけで何も言われなかった。グラシャラボラスと一緒にいる事に眉を顰める様子も無かったのは気になったが既に昼間グラシャっラボラスを連れて寝室にまで入ってる事を思い出し今更かと疑問を捨てた。

 

「ガルシアさんは書類仕事?」

 

「さて、夜間はずっと執務室に篭もってらっしゃいますので何をしているかまでは私には分かりかねますが。一応貴方の来訪は伝わっておりますのでご安心を」

 

 暫く歩き黒塗りの木の扉の前にてエイラは足を止めた。

 

「こちらが我が家の書斎になります。本の貸し出しは出来ませんが内容によっては写本も可能ですのでその際は書斎内の担当者に申し付け下さい」

 

 そう言ってエイラはぺこりと頭を下げて立ち去っていった。俺も俺で黒い扉を開け――広がる光景に瞑目する。

 見渡す限りの本、本、本。所狭しと配置された巨大な本棚に隙間無くそれらが置かれている様はもはや書斎と言うより図書館と呼ばれるべき規模のそれだった。というか間取りおかしくねぇかこれ、何か異様に天井が高いような……。

 

「……まぁいいか」

 

 とっとと探してしまおう。

 

 

 

 

 

「目当ての物は見つかったかね?」

 

「びっくりしたぁ……」

 

 ぱらぱらと本を捲っていると後ろからガルシアに話しかけられた。この家の人は後ろを取らないと喋れないのか。そんな事を考えつつガルシアに肯定の意を示す。

 求めていた情報は思いのほか早く見つかった。目的地までの道のりで何があるのかはある程度頭に叩き込んだ。これなら明日にはテルモピュライの依頼をこなせるだろう。

 

「随分と助かりました。これで依頼も上手くいきそうです」

 

「それは重畳、ここを貸し出した甲斐があったというものだよ。ところで依頼とは? あぁ今答えなくても結構、ここで話していると書斎の管理人に叱られてしまう。場所を変えようか」

 

 書斎の奥から殺気が漏れ出ているのを察知してかグラシャラボラスが早くここを出ようと俺の袖を引っ張るのでガルシアの言う通りに書斎から出る。

 勿論本はもとあった場所に戻して。

 

 先を行くガルシアの後を追い、廊下を歩く俺達。

 歩いている途中にガルシアが話しかけてきた。

 

「さて、話を聞いていいかな? さっき後ろから見てたけど国境付近の情報に目を通していたようだけど……護衛依頼?」

 

 声に棘は無く、単純な興味で聞いてきている様だった。

 

「友人から希少なアイテムをそこに持っていってくれって頼まれたんですよ。カルディナ国境付近に住んでるらしいんですがそれ以外全く情報が無く……」

 

「ふむ、……ふむ? 希少なアイテムって何だい?」

 

「いや俺もまだ中身確認してないので分かりませんが……」

 

 俺の言葉に「カルディナ国境付近って言うと、あいつか?」とガルシアが呟いているとはたと思い出したようにこちらに向き直る。

 

「君の友人って<マスター>?」

 

「えぇ、テルモピュライって言うんですけど――」

 

 ガルシアが目を見開き硬直する。それも一瞬であり瞬きの内に普段の好青年染みた風貌に戻っていたが、あの反応は俺の脳裏に焼きついた。

 明らかに反応がおかしい。ただのマスターに対する反応ではないだろう、もしかしてあいつ結構な有名人だったりするのか?

 

「あの、テルモの事知ってるんですか?」

 

「知ってるも何も、彼の名を霊都で知らない人はいないんじゃないかな。【剣聖】テルモピュライ、<マスター>急増の時期から今日までレジェンダリアの危険な【UBM】を狩り続けて来た男さ」

 

 思ってた以上に有名人でびっくりした。

 ガルシアの口振りからして複数の【UBM】を狩ってるらしいが良くそんな見つけたな。【UBM】の情報貰ってる俺が言えた事ではないが。

 そんな事を考えているとガルシアが手を口に当て、何かを考え始める。

 

「……しかしテルモピュライに国境付近の山、やはりあの爺か。ふむ、ネビロス君、ちょっと執務室まで着いて来てくれ給え」

 

 ガルシアの案内で執務室の中に入る。中はソファーとテーブルが備え付けられておりその奥に執務用の机があった。意外にもその机の上には一切紙は積まれていなかった。

 ガルシアが奥の机の引き出しを開け、何かをさらさらと書き上げる。完成した一枚の紙を丁寧に包みに入れて俺に渡してきた。

 

「これを持って行き給え、ネビロス君の目的の人物に渡せば良い事があるだろう」

 

「これは?」

 

「なぁに、知己への近況報告さ。心配しなくとも人違いと言う可能性は無い、テルモピュライ関係であそこに住む者はあの爺くらいなものだからね」

 

 持っていて悪いことにはならないだろうさというガルシアの言葉と共に俺の手に渡ったその手紙を、俺はテルモピュライから貰った方のカバンに仕舞いこんだ。

 貰える物なら貰っておこう程度の軽い考えではあったのだが、何と言うかガルシアから色々な物を貰いすぎな気がする。有り難い限りではあるがこれ将来返せるかどうか分からんぞ?

 これ以上貰うのは良心の呵責に苛まれかねないのでここら辺でお暇させて頂こうと思う旨を俺はガルシアに伝えた。

 

 後ろ髪引かれる思いではあったが流石に貰いすぎな気がしてならなかったのだ。が、そこでガルシアが「ここで晩飯食っていきなよ」と当主にあるまじき軽い飯の誘い。そしてそれに食いつくグラシャラボラス。

 

「え、いやぁ流石に……」

 

「アウッ」

 

「あぁ、っと……じゃあお邪魔させて貰って良いですかね?」

 

「勿論さ!」

 

 マナーとか全く知らず出来る事といえば音を立てずに食うくらい、そんな事情もあって最初は遠慮していたのだがグラシャラボラスの「ご相伴に預かろうぜ」という楽しげな目には勝てなかった。

 飯食う前から胃が痛い。……というか言っちゃあ何だが食卓に大型犬入れても大丈夫なのか?

 

 何て疑問を浮かべた瞬間、俺はグラシャラボラスにどつかれた。

 

 

◇――◇――◇

 

 

 食卓に並び、料理が出るまでの間浮かべていた諸々の疑問は使用人達によって料理が並べられた瞬間霧散した。

 想像していた食卓は無駄に広い長机にオードブルが一品ずつ運ばれてくるというものだったのだが、魚の塩焼きやら牛肉っぽい何かの煮込みやらスープやらなどがいっぺんに運ばれ、こざっぱりとしたオードブルというよりバイキングといった様相を呈していた。

 

「こちらの方が気が楽かと思いまして料理長に頼みました」

 

 とはエイラの弁だ。彼女も彼女でしれっと配膳に混じり食器類を手早く配置していく。

 

「お嬢様なのにこんな事していいのかね……」

 

「椅子の上でふんぞり返って威張り散らすよりこっちの方が性に合ってるんです」

 

 俺はガルシアに目を向けたが当人は肩を竦めるばかり。強要している訳でもなければ使用人たちがうっとおしそうにしている素振りも無いので俺が口を出す事は無いが、常識はずれな令嬢様なことで。

 そうこうしている内に夕食の支度が終わる。ガルシアは上座に、エイラはガルシアに近い横の席に、そして俺は適当に。ついでにグラシャラボラスも俺の隣に、それぞれ座りガルシアの短い挨拶で食事をとり始めた。

 

 手を合わせ頂きますと心の中で呟いた俺は早速肉料理をできるだけ多く皿に寄せグラシャラボラスの前に置く。普通にしていれば食卓の上まで顔を伸ばせる体長を持っているので特に苦労する事無くグラシャラボラスは肉を食べ始める。

 俺は俺で料理を口に運び、現実でも食った事のない美味さに一瞬息が止まったりしている最中ガルシアが口を開く。

 

「食べたままで構わないんだが、ネビロス君に頼みがある。君が受けた依頼にエイラを連れて行ってくれないか?」

 

 ……何故?

 食べたままで構わないとは言われたが真意を聞き質す為に口に入れた物を飲み込み、俺はガルシアに問い掛けた。

 

「理由を聞いても?」

 

「可愛い子には旅をさせよという言葉は君達<マスター>の世界の物らしいね、なぁにただの親心さ。それにエイラも外に出たそうだし」

 

 そう言ってガルシアはエイラに目を向ける。確かにエイラは興味深そうにこちらを見ているが……ただの親心が理由の筈がない。

 何か裏があるのだろうが、しかし人の心理を暴く術を持たない俺にはガルシアが秘密にしている事は分からない。なので、

 

「……エイラが良いのなら」

 

 そう答える事しか俺には出来なかった。第一、真っ向から拒否するほどの事でも無いし結局の所判断はエイラに任せられるのだ。

 その本人は「よろしくお願いします」と即答していたけども。

 

 その後も当初心配していたようなマナー違反を口酸っぱく注意されるという事も無く、急遽開催された三人と一匹の食事会は和気藹々と進んでいった。

 

 




今回の夕食会でグラシャラボラスの好物にスペアリブが追加された。骨付き肉うめぇ。
作中に出てきた七体の【UBM】なんですががっつり設定考えてるの三体だけなんですよね。名前だけでも考えなきゃ。

ちなみにネビロスはまだ《真偽判定》とかの汎用スキルの存在にすら気付いていません。
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